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○レトロゲーム(ドラゴンクエスト(初代))
「旅」は何かの手段ではなく「人生」そのものの象徴か。味わいある佳作。ドラクエを想起した。
『旅のラゴス』('86年/徳間書店)カバー絵:野原幸夫/『旅のラゴス (新潮文庫)』カバー絵:影山 徹
『旅のラゴス (徳間文庫)』
北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。(新潮文庫ブックカバーより)
「SFアドベンチャー」(徳間書店)1984年4月号から1986年6月号にかけて発表された連作短篇で、1986年9月に徳間書店より単行本刊行され、その歳に、最後まで読んでも、単行本の表紙のイラストの人物が誰なのかわからないというのが話題になったそうです。
徳間文庫で文庫化された後、新潮文庫で再文庫され、息の長いロングセラーとして読まれ続けてきた作品ですが、「新潮文庫メールアーカイブス」によれば、毎年3,000~4,000冊ぐらい売れていたのが、2014年の初めごろ、活字を大きくしたタイミングで売れ行きが加速し始め、1年余りで10万部を超える大増刷となったそうです。過去に活字を大きくしただけでこれほどまでに売れるようになった例は無く、テレビで有名人が紹介したわけでも、新聞に大きな書評が掲載されたわけでも無いため、版元でも売れている理由が分からないそうです(やはり、口コミのせいなのか)。
実際、Amazon.comのレビューなどを見ても、「年に一度は手にとって読みたくなるような1冊」「長年愛読しています」といったコメントが結構多くありました。主人公が旅を通していろんなことを学びながら成長していくある種ビルドゥングスロマン(教養小説)であるため、読む年齢ごとに読んだ印象が違ったりもし、また長さ的にもそう長くないため、読み返すのに丁度いいのかもしれません。但し、そうした読み返しに堪えるには、それなりの内容の充実も必要であり、少なくとも経年劣化しているようなものではダメであって、その点、SFというスタイルは非常に効果的であったように思いました。
「ドラゴンクエスト(初代)」 (スクウェア・エニックス:旧エニックス、1986年)
個人的には何十年ぶりかの再読ですが、読んでいてRPGの「ドラゴンクエスト」を想起しました。初読の際にそんなことを考えた記憶はあまり無く、調べてみたら「ドラゴンクエスト」の第1作の発売は1986年5月でした。「ドラゴンクエスト」も、ある意味ビルドゥングスロマン(教養小説)的ではないかと思います。先に書いたように、作者がこの作品を連載していたのが「SFアドベンチャー」の1984年4月号から1986年6月号にかけてであり、その直後に「ドラゴンクエスト」が爆発的ヒットを遂げたことを考えると、やはり作者・筒井康隆は、時代を読む慧眼の持ち主だったということでしょうか(但し、当時の筒井康隆の作品群の中では、それほど目立った印象は無かったように思う)。
この物語の主人公のラゴスは、行く先々で集団転移や壁抜けの体験をし、奴隷として囚われたり指導者として扱われたりするなど様々な境遇を味わいますが、終盤で念願の書物に辿り着き、やっとのことで故郷に戻ります。そして、これがラゴスにとっては数十年ぶり(50年以上ぶり)の帰還であったにも関わらず、最後、(実はここは今回読み返してみて改めて思い出したことなのだが)また次なる旅に出ることが暗示されており、そのことは「旅」が何かの手段であると言うよりは、「旅」そのものが「目的」であり、また「人生」(生きているということ)の象徴であることを示唆しているように思いました。味わいのある佳作だと思います。
【1989年文庫化[徳間文庫]/1994年再文庫化[新潮文庫]】
《読書MEMO》
●一部抜粋
かくも厖大な歴史の時間に比べればおれの一生の時間など焦ろうが怠けようがどうせ微々たるものに過ぎないことが、おれにはわかってきたからである。人間はただその一生のうち、自分に最も適していて最もやりたいと思うことに可能な限りの時間を充てさえすればそれでいい筈だ。