【2483】 ◎ 内田 吐夢 (原作:井上金太郎) 「血槍富士 (1955/02 東映) ★★★★☆

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片岡千恵蔵がいい。メインストーリーもサイドストーリーもしっかりした作品。

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血槍富士 [DVD]」  片岡千恵蔵(槍持ちの権八)

血槍富士20.jpg 槍持ちの権八が(片岡千恵蔵)は、若様酒匂小十郎(島田照夫)に付き従い、仲間の源太(加東大介)と東海道を江戸へ向かっている。同じ道を旅するのは、小間物商人の伝次(加賀邦男)、身売りに行く娘おたね(田代百合子)と老爺の与茂作(横山運平)、按摩の藪の市(小川虎之助)、旅の巡礼(進藤英太郎)、旅芸人のおすみ母子(喜多川千鶴・植木千恵)、挙動血槍富士37.jpg不審の旅人・藤三郎(月形龍之介)、権八の槍に見とれた浮浪児の次郎(植木基晴)等である。折しも街道には大泥棒「風の六右衛門」詮議の触れ書が廻っているが、権八はそれどころではない。気立てが優しいが、酒乱癖のある若様を守って旅を終るのが主命であり、供の源太が酒好きなので気が気ではない。一行が袋井に投宿した際に、藤三郎血槍富士44.jpgが大金を持っているのに目をつけた伝次(実は岡っ引)は、さては大泥棒とつけ廻すが、隣室で藪>の市に肩を揉ませている巡礼こそ大泥棒の六右衛門だった。その夜、権八が外出すると、その隙に小十郎は源太を連れて酒を飲み始めて乱れるが、駈けつけた権八が制して事無血槍富士59.jpgきを得る。また旅が始まったが、大井川付近で馬鹿殿ら(渡辺篤・坊屋三郎・杉狂児)が野立てを始めたため通行止めに。隙を狙って六右衛門は馬鹿血槍富士64.jpg殿の路銀を盗むが、その時に顔を見られた次郎に宿で再び出くわし、騒ぎになって抵抗するも、来合わせた権八の槍を前にお縄となる。与茂作が女衒久兵衛(吉田義夫)におたねを渡して帰ろうとすると藤三郎に引留められる。5年前預けた娘を引取るため金山で刻苦精励し貯めた金を持って来たのだが、娘は既に亡くなっていて、その金をおたねを引き取るために使ってくれと言う。小十郎は、素朴な人々を見て武士の世界に嫌気がさし、再び源太と居酒屋に入る。しかし、酔いどれの武士らと口論から斬り合いになり、権八の駈けつけた時には小十郎と源太は惨殺されていた。権八の怒りが爆発する―。

血槍富士81.jpg 1955(昭和30)年2月公開の内田吐夢監督の戦後第一作で、井上金太郎が原作・脚本・監督作を務め「道中悲記」('27年/マキノプロダクション)の再映画化作品であるとのこと(旧作では槍持ちの権八を月形龍之介、仲間の源太を杉狂児が演じている)。内田吐夢監督中国から復員したのが昭和31年というからかなり遅いです。でも、監督業に復帰してすぐにこれだけの作品を撮るというのはやはりスゴイと思います。

 演出がしっかりしていて、主人公の権八役の片岡千恵蔵はもちろん、若様を演じた島田照夫もお供の源太を演じた加東大介も良く、更には大泥棒や旅芸人、娘を売った男などが繰り広げるサイドストーリーも良く(子役2人は共に植木姓であることから窺えるように片岡千恵蔵の長男と長女)、ロードムービーであるとともに、次第に「グランドホテル」風の群像劇の様相を呈してきます。そして最後にほろりとさせられる話があります。売られていく娘を善意の人(ここでは月形龍之介!)が買い戻すという設定は、清水宏監督の「有りがたうさん」('36年/松竹)(原作:川端康成)でもありました。グランドホテル風のロードムービーである点も似ています。

 但し、これで終わりではなく、最後に小十郎と源太が侍数人に殺害される凄惨な場面と、権八がその侍数人を相手に槍で敵討ちをするという「主人の仇討ち」の物語が控えています。タイトルから何となく何か血生臭いことがありそうだと予測はできますが...。

血槍富士82.jpg ラストの片岡千恵蔵の槍の立ち回りは良かったです。槍持ちは所謂「中間(仲間)」の範疇であって、戦闘員である足軽(一応、士分)と家事労働をする下男の中間の身分であり、士分ではなく単なる従者であるとみていいと思います。それでも、槍持ちの権八が主人の死に対して命を賭けて闘うというのが、それまでのストーリーのディテール(例えば、権八が足にまめができて歩けなくなり、心配した主人が高価な膏薬を渡して遅れて来ればよいと言う場面など)から、主人が情け深い人間であることが窺えるため、それに恩義を感じている権八の忠義心の発露として自然に繋がっていきます。しかも、普段は"非戦闘員"であることからくる、テクニックも何も無く、ただ憤りのみで槍を振り回しては突く、泥にまみれた素人っぽい槍遣いの立ち回りを敢えて見せていて、これが所謂"剣戟スター"と言われる人の典型的かつ華麗な殺陣とはまた違っていて、リアルな迫力がありました(それを"剣戟スター"である片岡千恵蔵がやっているのがいい)。

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Chiyari Fuji (1955).jpgJûsan-nin no shikaku (1963).jpg 権八が槍持ちに憧れる少年に、最後は、「お前、槍持ちなんかになるんじゃないぞ」と言って聞かせるのも、同じ内田吐夢監督の「酒と女と槍」('60年/東映)で、主人公の富田蔵人高定(大友柳太朗)が武家社会の虚しさを感じながらも自ら戦場に飛び込んで散っていくのよりも、メッセージ性として一本筋が通っているように思いました。片岡千恵蔵主演作では工藤栄一監督の「十三人の刺客」('63年/東映)をベストワンに推す人が多いですが、群像劇でありながら片岡千恵蔵の活き活きとした演技が印象に残るという点で、こちらの方が上ではないでしょうか。メインストーリーもサイドストーリーもしっかりした作品と言えると思います。

血槍富士 加東5.jpg血槍富士 0.jpg「酒と女と槍」●制作年:1955年●監督:内田吐夢●製作:大川博●脚本:三村伸太郎●撮影:吉田貞次●音楽:小杉太一郎●●時間:94分●出演:片岡千恵蔵/島田照夫/加東大介/喜多川千鶴/植木千恵/加賀邦男/小川虎之助/横山運平/田代百合子/月形龍之介/進藤英太郎/渡辺篤/坊屋三郎/杉狂児/吉田義夫/高松錦之助●公開:1955/02●配給:東映●最初に観た場所(再見):シネマヴェーラ渋谷(16-05-26)(評価:★★★★☆)●併映:「十一人の侍」(工藤栄一)

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This page contains a single entry by wada published on 2016年12月 7日 00:39.

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