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阪妻の明暗対照的な二役のキャラクターの使い分けが見所。
「魔像 [DVD]」山田五十鈴(お紘)・阪東妻三郎(茨右近・神尾喬之助(二役))/津島恵子(園絵)
千代田城御蔵番詰所では、新参の旗本・神尾喬之助(阪東妻三郎)が、上司の戸部近江之介(永田光男)から新春早々陰湿なイジメを受けている。神尾が江戸小町といわれる園絵(津島恵子)を妻にしたことを、園絵に横恋慕していた戸部が妬みに思っていることに加え、神尾が御蔵番一味の不正に日頃からあれこれと意見してきたことを快く思っておらず、戸部にへつらって17 人の御蔵番同僚たちも神尾をいたぶっているのだった。我慢の限界に達した神尾は思い余って戸部を斬って出奔する。神尾は浪人となり、自分を罵倒した面々への復習を図るが、そこで神尾そっくりの喧嘩助っ人・茨右近(阪東妻三郎(二役))と妻のお紘(山田五十鈴)に出会う。曲がったことが大嫌いな右近は神尾から事情をきき、彼が残る不正の御蔵番一味17人に天誅を加えることに大賛成、神尾の自宅から園絵を密かに連れて来てやる。神尾は次々と不正役人を倒していく。今や戦々恐々の彼等は、剣豪神保造酒(戸上城太郎)に神尾を討つことを依頼し、神保は園絵と引き換えにそれを承知する。騙されておびき出された園絵だったが、魚心堂(三島雅夫)と名乗る大岡越前守(柳永二郎)の親友に救われる。越前守は、悪役人が大かた退治され、主謀の脇坂山城守(小堀誠)も御役御免になった頃合いを見計らって、世を騒がせた神尾を召取らせ、捕らえたのは神尾ではなく右近の人違いだと断じて、江戸追放だけを申渡す―。
嵐寛寿郎・美空ひばり版「鞍馬天狗 角兵衛獅子」('51年/松竹)の大曾根辰夫監督による1952(昭和27年)公開作品で、原作は「丹下左膳」の林不忘による「大岡政談」もの。無声映画時代から幾たびか映画化されていて、伊藤大輔監督、大河内傳次郎主演の「続大岡政談 魔像篇第一」('30年/松竹)、「続大岡政談 魔像解決篇」('30年/松竹)などがあり、この作品と同じく阪東妻三郎が主演した「魔像」('36年/阪妻プロ)もあります。また、この作品の4年後にも、深田金之助監督、大友柳太朗主演「魔像」('56年/東映)が作られています。
「続大岡政談/魔像解決篇」('31年/日活)
この'52年の阪東妻三郎版では阪妻が神尾喬之助と茨右近の一人二役ですが('36年の阪妻版も'56年の大友柳太朗も一人二役、'30年の大河内傳次郎版は大岡越前守まで大河内が演じる一人三役)、ちょっと歌舞伎調で堅め、しかもやや暗めで悪人たちの前にぬっと現れる神尾喬之助と、明るくて悪人と対峙している時でさえ笑いながら剣を振るう茨右近の、同じ浪人でありながら、片や武家的、片や庶民的な対照的なキャラクターの使い分けが見所でしょうか。それを、映像合成で1つの画面で会話させ、剣戟をさせ、仕舞いには握手させるなどしていて、サービス満点です(因みに'56年の大友柳太朗版はもっぱらスタンドインで撮っている)。この茨右近は後に「喧嘩屋右近」としてTV時代劇のキャラクターにもなりました。
神尾と園絵(津島恵子)、右近とお紘(山田五十鈴)という取り合わせも、片や美しく貞淑な女性、片やちゃきちゃきの女性という感じで、神尾と右近のキャラの違いをより浮き立たせていて良かったです。津島恵子は同じ年に小津安二郎監督の「お茶漬の味」('52年/松竹)で現代っ子キャラを演じてみせますが、この「魔像」では大曾根辰夫監督はそうしたキャラは封印し、津島恵子を美しく撮ることに専心したような感じで、ユーモラスで庶民的な婀娜(あだ)っぽさ部分は全部山田五十鈴の方が"担当"したという印象でしょうか。
山田五十鈴(お紘)・阪東妻三郎(茨右近)
魚心堂の三島雅夫(「晩春」('49年/松竹))や大岡越前守の柳永二郎(「本日休診」('52年/松竹))などの脇役も良かったです。'30年、'31年の大河内傳次郎版では、神尾喬之助、茨右近に加えて大岡越前守まで大河内傳次郎が演じたようですが、まあそこまでやる必要もなかったでしょう(大友柳太朗版でも大友柳太朗は神尾と右近の二役で、大岡越前守は月形龍之介。TVドラマでは、阪東妻三郎の長男・田村高廣が茨右近を、三男・田村正和が神尾喬之助を演じた「魔像・十七の首」('69年/ABC・TBS系[全9回])がある)。
柳永二郎(大岡越前守)・三島雅夫(魚心堂)
このお話でちょっと気になったのが、大岡裁きはいいとして、この裁きでは結局、神尾を「右近」にしてしまったら神尾は捕まっていないことになり、それでいいのかなあと。それは大岡越前守の責任外の問題ということでしょうか。
山田五十鈴(お紘)・津島恵子(園絵)
全体としては、やはり阪妻の二役は、茨右近の方が「王将」('48年/大映)などの系譜が感じられて"らしい"印象を受けました。但し、神尾喬之助のあの「一番首...」「二番首...」と呪文のように唱える暗さもこの映画には不可欠だったのでしょう。
「魔像」●制作年:1952年●監督:大曾根辰夫●脚本:鈴木兵吾●撮影:石本秀雄●音楽:鈴木静一●原作:林不忘●時間:98分●出演:阪東妻三郎/津島恵子/山田五十鈴/柳永二郎/三島雅夫/香川良介/小林重四郎/小堀誠/永田光男/海江田譲二/田中謙三/戸上城太郎●公開:1952/05●配給:松竹(評価:★★★☆)