【2471】 △ 冬島 泰三 (原作:長谷川 伸) 「刺青判官(ほりものはんがん)」 (1933/06 松竹シネマ京都) ★★★

「●は行の日本映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1509】 堀川 弘通 「黒い画集 あるサラリーマンの証言
「●長谷川 一夫 出演作品」の インデックッスへ「●松田 春翠 活弁ビデオ」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●遠山金四郎(遠山の金さん)」の インデックッスへ 「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(長谷川 伸)

林長二郎(長谷川一夫)の一人二役が楽しめる。三枚目の方を主として演じている珍品。

刺青判官31.jpg刺青判官 ほりものはんがん 3.jpg VHS 刺青判官 vs1933.jpg
DVD「銀幕を知る男『毒蝮三太夫』が選ぶ発掘!昭和の大スター映画 「刺青判官 総集編」
長谷川一夫(百姓・百之助と金さん(遠山金四郎)の1人2役)

刺青判官63.jpg 百姓・百之助(林長二郎)は、村相撲で大関を張ったこともある力自慢だが、頭の血の巡りは人よりやや劣る。蝦夷松前から江戸まで、五万二千石松前の殿様に騙されて死んだ叔母と父の仇を討ちに行く途中、女相撲の旅芸人一行と知り合い、座長のお千代(飯塚敏子)はの金さん(林長二郎、二役)に助太刀を頼んでくれる。百之助が初めて会った金さんは町の兄貴分だったが、二度目に会った際はは旗本遠山金四郎だったので、武士が嫌いな百之助は、二本棒への仇討ちに二本棒の助太刀は要らないと失望する。過去の不祥事を隠蔽しようとする松前藩は金四郎の買収が難しいとみて、百之助を亡き者にすることにし、与力や目明し、果ては賞金稼ぎの殺し屋まで差し向ける。一方の百之助も、それらから逃れながら、単独で松前の殿様への仇討ちを果たさんとする―。

刺青判官 ほりものはんがん1.jpg 1933(昭和8)年6月に前篇公開の冬島泰三(19010-1981)監督による松竹京都(下賀茂撮影所)作品で、原作は「一本刀土俵入」の原作者でもある長谷川伸(1884-1963)が1933年の2月から8月にかけて東京・大朝日新聞(夕刊)に連載した小説。「刺青判官」とは、桜吹雪の刺青でお馴染みの「遠山の金さん」こと遠山金四郎景元(1793-1855)のことであり、「長谷川一夫」(本名)を名乗る前の林長二郎が、美男の遠山の金さん(左スチール・右)と、ずんぐりむっくりでやや呆け顔の百之助(同・左)の二役を演じていますが、後者の方は美男「長谷川一夫」の定番イメージからほど遠く、しかも、百之助としての出番の方が兄貴分"遠山の金さん"や旗本"遠山金四郎"より長いため、長谷川一夫作品の中ではかなり異色の、遊び心に満ちたものになっています(百之助と遠山金四郎の会話シーンなど、二人が同時に出てくるシーンも多い)。

松田春翠.pngw刺青判官 vhs.jpg この作品は活弁トーキー版としてビデオ化されており、弁士は小津安二郎の初期の無声映画作品の活弁などで知られる松田春翠(1925‐1987/62歳没)です。元の作品が前篇・中篇・後編の全3篇のところを、前後編の86分に纏めていますが、そのためかテンポいい作品でありながらも筋やト書きが飛ぶところがあって、それを巧みな活弁で上手く補っています。その後2014年に中日映画社より「『毒蝮三太夫』が選ぶ昭和の大スター映画DVDシリーズ第2弾・義理と人情 股旅時代劇編」として大河内傳次郎主澤登翠2.jpg演「沓掛時次郎」('29年)、片岡千恵蔵主演「番場の忠太郎 瞼の母」('31年)と共にDVD化されています(DVD版の弁士は松田春翠の弟子にあたる澤登翠(さわとみどり)氏)。

刺青判官 ほりものはんがん2.jpg刺青判官 林長二郎と飯島敏子.jpg この作品は、遠山金四郎のお裁きのシーンがないのがややもの足りないでしょうか。結局、長谷川一夫は、"遠山の金さん"の時も旗本"遠山金四郎"の時も諸肌を脱いだりはしないので、ややタイトルと齟齬があるような...。但し、長谷川一夫が諸肌を脱いだポスターや上半身裸のスチールがあって、そこでは刺青もあるようなので、そうしたシーンはオリジナルを編集した時にカットされたのかもしれません(DVD版の本編の長さは93分と若干長くなっているが、刺青を見せる場面が少しだけあるらしい)。

 松竹作品の中では現在ほとんどが散逸して残っているものが少ないという京都・下賀茂撮影所で作られた作品であるという点では貴重な作品。加えて、長谷川一夫が三枚目の方を主として演じているという意味でも貴重なのかもしれませんが、むしろ"珍品"という印象の方が強いでしょうか。同じくコメディタッチのもので、片岡千恵蔵が一人二役を演じた「赤西蠣太」('36年/日活)なども想起されますが、役者の一般的なイメージと演じている役とのギャップの大きさという意味では、もしかしたらそれより上かもしれません。

刺青判官01.jpg姿三四郎 池.jpg 百之助が池に落ちたシーン、黒澤明の「姿三四郎」('43年/東宝)で姿三四郎(藤田進)が池に飛び込んだシーンを思い出してしまったのは、共に浸かった池が「蓮池」だったからか。
 


飯塚敏子/林長二郎(長谷川一夫) in「刺青判官」(1933)(スチール写真)
飯塚敏子4.jpg刺青判官 スチール.jpg「刺青判官(ほりものはんがん)」●制作年:1933年●監督:冬島泰三●脚本:木村富士夫●撮影:片岡清●原作:長谷川伸「刺青判官(ほりものはんがん)」●時間:86分(VHS)・93分(DVD)●出演:林長二郎(長谷川一夫)/飯塚敏子/井上久栄/新妻四郎/小泉嘉輔/山路義人/広田昻/中村吉松/高松錦之助/永井柳太郎/坪井哲/中村政太郎/関操/沢井三郎/小笠原章二郎/絹川京子/遠山修子/二条照子/尾上栄五郎●公開:1933/06●配給:松竹シネマ京都(評価:★★★)

飯塚敏子/阪東妻三郎 in「国定忠治」(1946)(スチール写真)
国定忠治_.jpg

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2016年10月27日 22:53.

【2470】 ○ 伊藤 大輔 (原作:北条秀司) 「王将」 (1948/10 大映) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【2472】 ○ 萩原 遼 「おもかげの街」 (1942/11 東宝映画) ★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1