【2466】 ○ 森 一生 「おしどり笠 (1948/01 大映) ★★★☆

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股旅ものがぴったり片岡千恵蔵の戦後初の時代劇。予定調和だがプロセスが楽しめる。

おしどり笠おしどり笠 片岡千恵蔵3.jpg おしどり笠 やまね.JPG「おしどり笠」
片岡千恵蔵(つばくろ藤太郎)
おしどり笠 片岡千恵蔵 1948 v2.jpg 夜の江戸藏前、戸倉屋の表にがやがやと人だかり。松平伯耆守のお部屋様に戸倉屋の娘おたか(山根寿子)が腐れ縁に打ち込む新規の楔の祝儀があるのだ。やがて松平家より迎駕が着くが、おたかの祖父彦右衛門(小杉勇)には不本意な婚儀らしい。その時おたかの姿が突然消える。東海道を下って行くおすみ(おたか)、おかつ、おしんの3人連れの鳥追姿、目指すは追速堂島美濃屋。しかしすぐ追手が差し向けられる。一方、つばくろ藤太郎(片岡千恵蔵)は戸倉屋の息子彦作のために身を崩した妹お雪を探しての道中を続けるが、飛脚の口から戸倉屋の事件を聞く。藤太郎は立場茶屋で草間の金助(杉狂児)、おたか一行と知り合う。金助はお雪の行方を知っているが、自らが加担しているだけに藤太郎の男振りについ言い出せない。金助、おたか一行は藤太郎の後へ続くが、藤太郎は一人旅の方が好きらしい。金助の一味だった小平と彌吉がおすみの素性がおたかと知って、おすみに懸った賞金を得るために邪魔な藤太郎を闇討ちするが、おたかの機転により果たせない。やがて悔い改めた金助が涙で白状し、藤太郎は妹お雪(折原啓子)の所在を知るが、もはや臨終の床。居合わせたおたかが藤太郎に事情を打明けて兄の罪を詫びる。おたかを追う一行が小平、彌吉を先頭にやってくる。藤太郎の情けによって兄の彦作は改心し、妹おたかを思って松平家の家来達に破談を申し入れるが、家来達は聞く耳持たず、おたかを連れ去る。金助の急報で事態を知った藤太郎はおたか救出に向かう―。

 1948(昭和23)年1月公開作。片岡千恵蔵(1903-1983/享年80)にとっては、森の石松を演じた戦中末期の「東海水滸伝」('45年)(清水次郎長役は阪東妻三郎)以来3年ぶりの股旅山根貞男.jpgもの時代劇で、敗戦直後にGHQによってチャンバラ映画が廃止され、時代劇スターがもっぱら明治ものや現代ものに出演していた状況がまだ続いていた時期にしては、早めに復活した時代劇作品と言えるかも。戦前の時代劇と言えば股旅ものが人気で、映画評論家の山根貞男氏によれば、やくざが妹を探して流浪すること、その旅の過程が歌まじりに描かれること、再会した妹が落ちぶれて病に臥せっていることなど、これら皆、戦前から続く股旅ものの定石だそうです。

 股旅ものがぴったり片岡千恵蔵、ラストの大立ち回りでのアクションはなかなか見応えがあり、剣を使うなとの彦右衛門(小杉勇)の忠告に沿って棒で相手を次々なぎ倒しますが、これもチャンバラ映画の禁制がまだ解かれていないためか(十数人いる相手方は皆刀を抜いているのだが...)。

 片岡千恵蔵はこの作品の2年前に多羅尾伴内シリーズの第1作、松田定次監督の「七つの顔」('46年)に出演し、翌年第2作「十三の眼」('47年)に出演、この後も第3作「二十一の指紋」('48年)、第4作「三十三の足跡」('48年)と大映で撮り、現代劇でも大活躍で、まさに大映のドル箱スターでしたが、大映社長・永田雅一の「多羅尾伴内ものなど幕間のつなぎであって、わが社は今後、もっと芸術性の高いものを製作してゆく所存である」との発言に、「わしは何も好き好んで、こんな荒唐無稽の映画に出ているのではない。幸い興行的に当たっているので、大映の経営上のプラスになると思ってやっているのに社長の地位にあるものが幕間のつなぎの映画とは何事だ」と怒って、この映画の脚本家である比佐芳武らとともに、1949(昭和24)年に東横映画(東映の前身)へ移籍しています。

弥次喜多道中記_2.jpg この映画で小悪党だが根はいい男の草間の金助を軽妙に演じて見せた杉狂児(1903-1975/享年72)は、戦前は日活所属で、資料によると1947(昭和22)7月に東横映画に入社とあるから、この映画の時点で片岡千恵蔵より先に移籍していたのでしょうか。戦前はマキノ正博(後のマキノ雅弘)監督の「弥次喜多道中記」('38年/日活)で片岡千恵蔵と共演しているし、戦中は稲垣浩監督の「無法松の一生」('43年/大映)に出演しているし(稲垣浩監督は杉狂児を非常に高く評価している)、戦後は先に挙げた多羅尾伴内シリーズ第4作「三十三の足跡」などにも出ています。

片岡千恵蔵&杉狂児 in「弥次喜多道中記」('38年/日活)

折原啓子.jpg ヒロインのおたか役の山根寿子(1921-1990/享年69)も悪くは無かったと思いますが、その色香も含めやや古風すぎるか。この作品以降、目立った主演作というものが無く、むしろ、藤太郎の妹お雪を演じた当時デビュー間もない折原啓子(1926-1985/享年59)の方が、後に映画やテレビで活躍するようになります。この映画での出番は臨終の場面しか無く、布団に伏して首から上しか映っていませんが、病人にしてはキャメラが随分と艶やかに撮っていたような...。

折原啓子

 映画全体としては予定調和であり、片岡千恵蔵が演じる藤太郎が絶対的に強いのが分かっていて、見所は、山根寿子演じるおたかと反目しながら、最後は惹かれ合っていくプロセスでしょうか。「おしどり笠」というタイトルは結末以降であって、映画の間中、二人が並んで旅するようなことは無いのですが、タイトルそのものが先に結末を言ってしまっているわけで、そのことからしても予定調和であり、(テーマ曲の中にも「口でけなして心で惚れて」とあるが)プロセスを楽しむ映画でしょう。

 因みに、この片岡千恵蔵が演じた'つばくろ藤太郎'は、マキノ監督「鴛鴦道中」('38年/日活)で既に片岡千恵蔵自身が演じており、また、このキャラクターは、後の松田定次監督「血煙り笠」('62年/東映)で大川橋蔵にも引き継がれています。

おしどり笠(昭和23年)
 作詩 高橋掬太郎 作曲 大村能章
 1 かえる燕か また来る雁か
   男なりゃこそ 一本刀
   追うてくれるな 気まぐれ旅を
   浮名散らしの 風が吹く
おしどり笠テーマ.jpg 2 一夜(ひとよ)二夜と 袖すり合えば
   いつかからむよ 思いの糸も
   口でけなして 心で惚れて
   道中合羽の 裏表
 3 京に出ようか 浪花へ行こか
   人も振り向く おしどり笠よ
   明日の塒(ねぐら)を 草鞋に問えば
   あいと答える 眼が可愛い 

「おしどり笠」●制作年:1948年●監督:森一生●脚本:比佐芳武●撮影:比佐芳武●音楽:西梧郎●時間:82分●出演:片岡千恵蔵/杉狂児/小杉勇/香川良介/市川小文治/山根寿子/豆千代/月宮乙女/折原啓子●公開:1948/01●配給:大映・京都(評価:★★★☆)

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