【2457】 ◎ 今村 昌平 「にっぽん昆虫記 (1963/11 日活) ★★★★☆

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昆虫のような生命力に満ちた一女性の半生。左幸子の畢生の作品。

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NIKKATSU COLLECTION にっぽん昆虫記 [DVD]」左幸子

にっぽん昆虫記s.jpg 松木とめ(左幸子)は、大正7年冬、東北の寒村で父・忠次(北村和夫)と母・えん(佐々木すみ江)の間に生まれた。少々頭の弱い父は、わが子の誕生を喜び周囲に自慢したが、忠次がえんと結婚した時えんは既に妊娠8ヶ月だった。えんは誰とでも寝る女で、とめの本当の父は、えんの情夫・小野川(桑山正一)と思われるが、えんにも分からない。大正13年春、少女とめはえんが小野川と戯れているのを偶然見て、自らの出生に疑問を持つとともに父の忠次を好きになり、戸籍上は父娘だが血縁上は他人の2人の間に、近親相姦的愛情が芽生える。昭和17年春、23歳のとめは製糸工場で女工として働いていた。ある日、実家から電報で父・忠次が危篤であると知らされ急いで帰郷する。しかし、それは母・えんの陰謀で、村の地主であるにっぽん昆虫記06.jpg本田家に足入れ婚をさせるための口実だった。これを知った忠次は怒り狂ってえんを叩きのめし、家族を震え上がらせるが、とめは絶対に相手の男とは寝ないと約束し父を説得、自身も家のためと諦め本田家へ足入れ婚をする。本田家で出征する三男の俊三(露口茂)に無理矢理抱かれるが、彼は女中に手を出していて子供もいた。妊娠したとめは実家に戻り、昭和18年正月に娘の信子を出産、本田家に戻ることはもうなかった。昭和20年夏、とめは再び製糸工場へ戻り女工として働いていた。ラジオで玉音放送が流れた日、とめは女子寮で係長の松波(長門裕之)に無理矢理抱かれるが、終戦で工場は閉鎖。再開した工場で松波の影響から組合活動を行うが、あまりに熱心に活動に入れ込んだ上に、課長代理に昇進した松波にも邪険にされ、工場をクビになる。実家に戻るも、そこは既に弟(小池朝雄)夫婦に占拠され自分の居場所はなかった。昭和24年、とめは7歳にっぽん昆虫記 15.jpgにっぽん昆虫記 ium.jpgになった娘の信子を父・忠次に預け単身上京。基地にある外人専用のカフェでメイドをし、外人兵のオンリー(春川ますみ)の家政婦となるが、彼らの間の混血の娘を不注意から死なせてしまう。失意の中で浸にっぽん昆虫記  1.jpgり始めた新興宗教で知り合った売春宿の女将(北林谷栄)に雇われ、女中として働くようになり、客の一人である問屋主人の唐沢(河津清三郎)と知り合う。彼の妾となりパトロンを得たとめは、女将を警察に売って自らが売春宿を経営するまで上り詰めるが、次第に前の女将のように業突張(ごうつくば)りになっていく。故郷から父・忠次と娘・信子(吉村実子)を呼び寄せたが、上京した忠次が亡くなり、仲間の密告から売春罪で逮捕され、とめは刑務所へ。出所した彼女を迎えるのは、今は唐沢の情婦になっている娘だった-。

にっぽん昆虫記 16.jpg 1963年11月公開の今村昌平(1926-2006)監督作で、東北の農村に生まれ、家族から地主に足入れ婚を強要され、やがて東京へ出て、製紙工場の女工から始まって売春組織の元締めにまでなる一人の女性と、その母娘三代にわたる女たちの、昆虫のような生命力に満ちた半生記をエネルギッシュに描いた今村監督の代表作。今村昌平監督は、以前に売春斡旋業をしていた南千住の旅館女将からその生い立ちを詳しく聴き出して脚色し、また綿密な実地調査をして映画化したとのことで、まるでドキュメンタリーのようにリアリティ溢れる作品となっており、「調査魔」と呼ばれた今村昌平の面目躍如といったところでしょうか。

にっぽん昆虫記 01.jpgにっぽん昆虫記 17.jpg 左幸子演じる主人公のとめは、働きに出た東京で製紙工場の女工、組合活動家、新興宗教の信者、売春宿の女中から売春婦、そして売春組織の元締めへと最後は「成り上がって」いきますが、終盤に行けばいくほど、女同士の間で騙したたり騙されたりする頻度は増します(もちろん男も騙す)。そして、そうやって多くの他人を踏み台にして、それらを蹴落として這い上がってきた彼女も、いつか今度は自分の娘に裏切られ、その立場を取って代わられるというのが哀しいです(この性と言うか血筋は、エレクトラ・コンプレックスの系譜ともとれる)。

にっぽん昆虫記 ps1.jpgにっぽん昆虫記  .jpg ラストシーンでとめはうだるような暑さの中、下駄履きで山道をフラフラと歩いていますが、このシーンが映画の冒頭にあった焼けつく砂の上をノロノロと這う昆虫の姿とダブり、映画全体がある女性の半生を(倫理とか道徳とかはすっ飛ばして)ひたすら〈虫瞰図〉的に追ったものであったことに気付かされます。

 それを観ている観客の視点は、「ファーブル昆虫記」におけるファーブルのようだとも言えますが、主人公のとめの或るライフステージの一幕が終わる時、画面がストップ・モーションとなり、とめ作のユーモラスな川柳が彼女自身の東北弁で詠まれ、そこには何か彼女自身の達観したような心境も一面見られるように思いました。

Nippon konchûki (1963)

マーティン・スコセッシ.jpg 1963年のキネマ旬報ベストテン第1位作品で、第2位の黒澤明の「天国と地獄」('63年/東宝)より上に来ているというのもスゴイですが、興行的にも「天国と地獄」とほぼ互角の配給収入だったようです。今観てもリアリティある作品だと思いますが、1963年当時のこの映画の観客の中は、自分の人生と重ねるようにしてこの映画を観たりした人もいたのではないでしょうか。また、「タクシー・ドライーバー」('76年/米)のマーティン・スコセッシ監督は今村昌平を敬愛していることで知られていますが、ニューヨーク大学の映画学部に在籍中にこの「にっぽん昆虫記」を観たことがそのきっかけとなったとのことです。

左幸子001.jpg左幸子2.jpg 左幸子(1930-2001)はこの作品で、'64年のベルリン国際映画祭において日本人初の主演女優賞(銀熊賞の一部門)受賞者となりました(その後['16年迄で]田中絹代('75年)、寺島しのぶ('10年)、黒木華('14年)が同賞を受賞している)。彼女は、2年後の内田吐夢監督の「飢餓海峡」('65年/東映)でも存在感のある演技を見せますが、この「にっぽん昆虫記」は主役であるだけに、彼女に関して言えばこちらの方が印象が強いです。その他にも、父親役を演じた北村和夫の怪演などもなかなかのものであり、長門裕之、春川ますみ、小沢昭一、殿山泰司といった名脇役の演技も光っていましたが、やはり一番輝いているのは左幸子であり、それに尽きる映画(彼女「畢生の作品」)と言っていいと思います。

左幸子「死亡記事」(2001(平成13)年11月7日逝去)

左幸子 in「幕末太陽傳」('57年/日活)/「にっぽん昆虫記」('63年/日活)/「飢餓海峡」('65年/東映)
左幸子 幕末太陽傳.jpg 左幸子 にっぽん昆虫記.jpg 左幸子 飢餓海峡.jpg

The-Insect-Woman-31804_5.jpgにっぽん昆虫記 02.jpg「にっぽん昆虫記」●制作年:1963年●監督:今村昌平●製作:大塚和/友田二郎●脚本:今村昌平/長谷部慶次●撮影:姫田真佐久●音楽:黛敏郎●時間:123分●出演:左幸子/岸輝子/佐々木すみ江/北村和夫/小池朝雄/相沢ケイ子/吉村実子/北林谷栄/桑山正一/露口茂/東恵美子/平田大三郎/長門裕之/春川ますみ/殿山泰司/榎木兵衛/高緒弘志/渡辺節子/川口道江/澄川透/阪井幸一朗/河津清三郎/柴田新三/青木富夫/高品格/久米明●公開:1963/11●配給:日活●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(16-06-14)(評価:★★★★☆)

 



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This page contains a single entry by wada published on 2016年9月18日 22:18.

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