【2456】 ◎ 川島 雄三 「幕末太陽傳 (1957/07 日活) ★★★★★

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'痛快コメディ'だが、深い余韻も。奇跡のような出来映え。天才・川島雄三の最高傑作。

幕末太陽傳 ps.jpg幕末太陽傳 dvd.jpg幕末太陽傳 00.jpg幕末太陽傳 デジタル修復版 DVD プレミアム・エディション」南田洋子・フランキー堺・左幸子

幕末太陽傳 _4.jpg 文久2年(1862年)の江戸に隣接する品川宿。お大尽を装って遊郭旅籠の相模屋で豪遊した佐平次(フランキー堺)は、金が無いのを若衆の喜助(岡田真澄)に打ち明けると居残りと称して相模屋に長居を決め込み、宿の主人(金子信雄)と女将(山岡久乃)は働いて宿代を返すとの佐平次の申し出を渋々承諾する。遊幕末太陽傳 05 喧嘩.jpg郭の売れっ子、こはる(南田洋子)、おその(左幸子)は互いに相手を罵り合っていたが、ある日遂に大喧嘩になって廓中を暴れまくり、中庭まで転げ落ちて凄まじいSun in the Last Days of the Shogunate (幕末太陽傳) 1957.jpg女の戦いを繰り広げる。そ幕末太陽傳 b5.jpgうした中、佐平次は下働きから女郎衆や遊郭に出入りする人々のトラブル解決に至るまで八面六臂の活躍をし、果てはこの旅籠に逗留する高杉晋作(石原裕次郎)ら攘夷派の志士たちとも渡り合う。様々な出来事の末に佐平次は体調を悪くするが、それでもなお「首が飛んでも動いてみせまさぁ」と豪語する―。
"Sun in the Last Days of the Shogunate″ (幕末太陽傳) 1957

 1957(昭和32)年公開の川島雄三(1918-1963/享年45)監督作で(川島雄三はこれが最後の日活映画となった)、脚本はチーフ助監督も務めた今村昌平と田中啓一が川島雄三と共同で執筆したもの。ストーリーはオリジナルですが、材として、古典落語「居残り佐平次」から主人公を拝借し、「品川心中」「三枚起請」「お見立て」「「明烏」などの数多くの落語の要素を物語の随所に織り込んでいます。

幕末太陽傳23.jpg 品川宿にある遊郭で佐平次が居残りを決め込むというメインストーリーは「居残り佐平次」をそのまま踏襲していますが、佐平次以前に石原裕次郎演じる高杉晋作や、まだ売出し中の小林旭や二谷英明が演じる攘夷派の侍が相模屋に'居残り'でいるという設定になっているため、話がやや複雑になっています(当時、石原裕次郎→太陽族→反社会的というイメージがあった中で、石原裕次郎に攘夷派を演じさせることに日活の上層部はいい顔しなかったようだが)。

幕末太陽傳 tu_2.jpg 貸本屋の金造(小沢昭一)が「品川心中」の後半のサゲの部分(心中に誘いながら自分を置いて逃げた女郎へのニセ幽霊による仕返し話)まで演じています。遊郭の遊女が、雇用期間が満了すれば客と結婚することを約束する起請文(きしょうもん)を乱発幕末太陽傳 フランキー&裕次郎.jpgする話は、吉原遊郭を舞台にした「三枚起請」から取っており、この落語のサゲは、高杉晋作が品川遊郭の「土蔵相模」で作ったとされる都々逸「三千世界の鴉(からす)を殺しぬしと朝寝がしてみたい」をもじったものになっていますが、それも作品の中で生かされています。他にもまだまだ落語からネタを取っていると言うか、モチーフを得ている要素が多くあるようですが、全部まではちょっと分からないです。

幕末太陽傳 a04.jpg 落語のモチーフを映画に取り込んだ作品としては「唯一成功している」とも言われる作品ですが、唯一かどうかは分からないにしても、大いに成功しているには違いないと思います。これだけ多くの落語から引用して、滑らかに流れるようなストーリー体系を成しているというのは奇跡に近いというか、今村昌平と田中啓一の協力を得た脚本であるにしても、川島雄三という人の才気が尋常ならざるものだというのが、この映画について言えることかと思います。

幕末太陽傳9-s.jpg フランキー堺の活き活きした演技もいいです。川島雄三は役者にあまり細かい指示は出さない監督だったそうですが、この映画におけるフランキー堺の演技には何度もダメ出しをしたそうです。一方、当時人気絶頂の石原裕次郎が高杉晋作役ですが、完全にフランキー堺の脇に回っていて、これも日活の上層部は不満だったようです。そうしたこともあって川島雄三はフランキー堺の演技に発破をかけたのかもしれませんが、結果この作品はフランキー堺の最高傑作となり、一方では石原裕次郎の大根役者ぶりが浮き彫りになったような印象です(見方によっては、カッコいい'大根'なのだが)。これは、たまたま結果的にそうなったのではなく、そこまで川島雄三は織り込み済みだったとの説もあるようで、そうだとしたら、もうスゴイとしか言いようがないです。

 そのフランキー堺演じる主人公の佐平次は、時折結核を思わせる咳をしており(歴史上で結核で亡くなるのは高杉晋作の方なのだが、こちらは至って健康そう?)、そのことを人に指摘された時だけ、いつも明るい佐平次がちょっと暗い表情になります。こうした設定は明らかに、筋萎縮症を患っていた川島雄三自身の自己投影であると思われます。

幕末太陽傳 ラスト.jpg ラスト、すっかり相模屋の中で必要欠くべからざる人材となった佐平次ですが、夜明け前にこっそり荷物を纏めて旅に立ちます。彼の将来の夢が自然と口から洩れますが、それは自らの病を自覚している佐平次には残された時間が少ないということともに、米国渡航に賭けてまでも生きることへの希望を捨てないという決意が感じられるものでもありました。

幕末太陽傳 ed.jpg 川島雄三自身は、映画の冒頭シーンにあった'現代'の品川(と言っても、この映画が撮られた頃の「さがみホテル」付近はまだ赤線街だった)を佐平次が駆け抜けるラストを構想していたようですが、現場のスタッフ、キャストからも幕末太陽傳 1.jpgあまりに斬新すぎると反対の声が出て、結局現場の声に従わざるを得なかったとのことです。川島雄三が折れて撮った墓場シーンのラストは陰鬱な風景であり、佐平次がそこから逃避するという点では、川島雄三の「サヨナラだけが人生だ」という言葉に見られる人生観を反映したものになっているとも言われています(このラストシーンの解釈は諸説ある)。

昭和30年代の「さがみホテル」付近

 何れにせよ、黒澤明の「七人の侍」('54年/東宝)に見られるような武士のヒーロー像とは真逆の、町人乃至専門職としてのヒーロー像がフランキー堺演じる佐平次によって体現され、その生きざまに、病気のため45歳で没することになる、常に死を意識していた川島雄三自身が投影され、また色々なものが託されているには違いなく、そのことが、'痛快コメディ'であるこの作品に、 単にそれだけで終わらない深い余韻を与えているように思います。奇跡のような出来映え。天才・川島雄三のたった1本の傑作と言っていいかと思います。

小沢昭一(貸本屋金造)/フランキー堺(佐平次)/南田洋子(女郎こはる)/山岡久乃(伝兵衛女房お辰)/岡田眞澄(若衆喜助)/石原裕次郎(高杉晋作)
幕末太陽傳4.jpg幕末太陽傳a.jpg幕末太陽傳51.jpg
殿山泰司(仏壇屋倉造)/菅井きん(やり手婆おくま)/左幸子(女郎おそめ)/芦川いずみ(女中おひさ)/小林旭(久坂玄瑞)/二谷英明(志道聞多)

幕末太陽傳/1957年封切2.jpg幕末太陽傳 e.jpg「幕末太陽傳」●制作年:1957年●監督:川島雄三●製作:山本武●脚本:今村昌平/田中啓一/川島雄三●撮影:高村倉太郎●音楽:黛敏郎●時間:110分●出演:フランキー堺/左幸子/南田洋子/石原裕次郎/芦川いづみ/市村俊幸/金子信雄/山岡久乃/梅野泰靖/織田政雄/岡田真澄/高原駿雄/青木富夫/峰三平/菅幕末太陽傳 左幸子.jpg井きん/小沢昭一/植村謙二郎/河野秋武/西村晃/熊倉一雄/三島謙/殿山泰司/加藤博司/二谷英明/小林旭/関弘美/武藤章生/徳高渓介/秋津礼二/宮部昭夫/河上信夫/山田禅二/井上昭文/榎木兵衛/井東柳晴幕末太陽傳 岡田真澄.jpg幕末太陽傳 小林旭.jpeg/小泉郁之助/福田トヨ/新井麗子/竹内洋子/芝あをみ/清水千代子/高山千草/ナレーター:加藤武(クレジットなし)●公開:1957/07●配給:日活●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(16-05-17)(評価:★★★★★
南田洋子/左幸子/岡田真澄/小林旭

     
     



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和田泰明 

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This page contains a single entry by wada published on 2016年9月18日 00:06.

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