【2389】 ○ 松本 清張 『鬼畜―松本清張短編全集〈7〉』 (1964/06 カッパ・ノベルス) ★★★★

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淡々と書き連ねられているだけに怖い「鬼畜」。個人的な拾い物は「怖妻の棺」。

鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)2.jpg 鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)1.jpg  鬼畜―松本清張短編全集〈7〉光文社文庫.jpg 鬼畜 16.jpg 映画「鬼畜
鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)』(2003年第3版)/(没後10周年記念カバー)/『鬼畜―松本清張短編全集〈07〉 (光文社文庫)』/「鬼畜 [DVD]
松本清張短編全集〈第7〉鬼畜 (1964年) (カッパ・ノベルス)
鬼畜―松本清張短編全集7.jpg鬼畜―松本清張短編全集7.jpg 32歳の竹中宗吉は、とある地方で漸く印刷屋の主になるところまで漕ぎつけた。狐のような顔をした妻・お梅との間に子は無い。商売の順調な頃、宗吉は、料理屋の女中・菊代に惹かれる。何とか菊代を養えそうな気がした宗吉は、彼女と関係を持った。好きな女を囲う身分になれたという充足は出世感に近かった。菊代との間には3人の子供ができた。しかしその後、近代的な印刷会社の進出や火事により宗吉の商売は零落、宗吉から生活費の貰えなくなった菊代が、3人の子を連れて宗吉の家に乗り込んだため、お梅にも事態が露見する。お梅の仕打ちと女房の前に竦んだ宗吉の腑抜けぶりに、菊代は怒って出て行ってしまう。3人の子供が残され、女房の睨む中、子供は一人ずつ「処分」されていく―。(「鬼畜」)

 '57(昭和32)年発表の「鬼畜」をはじめ、松本清張(1909‐1992)が昭和31年から33年にかけて発表した全7編を収録。他6編は、「なぜ「星図」が開いていたか」「反射」「破談変異」「点」「甲府在番」「怖妻の棺」で、この内、「破談変異」「甲府在番」「怖妻の棺」が時代物で、他は現代物です。

 「なぜ「星図」が開いていたか」(昭和31年発表)は、自然死に隠されたトリックですが、このトリック、外形的には殺人に近い"未必の故意"と言えなくもないのではないでしょうか。「反射」(昭和31年発表)は、松本清張版「心理試験」とも言える作品ですが、江戸川乱歩の「心理試験」をもう一捻りした感じです。但し、両作品について、作者自身があとがきで「短編にこうしたものを収めるのは無理なような気がする」と述べているように、トリックだけ見せて終わってしまっている印象もしなくもなかったです。

 「破談変異」(昭和31年発表)は江戸時代の婚姻話を巡るトラブルを描いたもので、最後は遺恨絡みの殺傷沙汰になってしまうのですが、池田亀鑑の「大奥の女中」に材を得たとのこと。仲人って昔の方が大変だったかも。「点」(昭和33年発表)は、警察スパイのなれの果てを描いたもので、九州のある地方にいた警察側の対日共密偵に取材したものだそうですが、当人には会わずに書いたら、当人が発表後にクレームの手紙をよこし、面会を強要してきたとのこと(いかにもそういうことをしそうな感じだなあ)。

 「甲府在藩」(昭和31年発表)は、甲府城に流謫された旗本の話で、甲府流しにされるのはもともと江戸で遊蕩三昧に耽った不良旗本が多かったが、主人公は前任者で行方不明になった兄の消息を探るべく敢えて甲府に赴任、そしてそこには隠し金山の秘密が...。話がだんだんグロテスクになっていくところが何とも言えず、最後は儚さだけが残ったという感じでしょうか。「怖妻の棺」(昭和32年発表)は、家付き娘だった妻に対して頭が上がらない男が、密かに息抜きに通っていた妾宅で倒れ、死んだと思って男の親友である主人公が本妻に全てを打ち明け、跡目相続のために遺体だけ家に戻して普通に自宅で死んだようにみせかける算段をしたところ、件の男が実は医者の見立て違いで蘇生してしまい、もう全てを本妻は知ってしまったわけで、腹でも切るしかないかと追い詰められる話。親友である主人公も、いい策が思いつかなかったが...。

詐者の舟板 (1957年)_.jpg 表題作「鬼畜」は、'57(昭和32)年12月に短編集『詐者の舟板』収録の1作として、筑摩書房から刊行されていますが、'64年のカッパ・ノベルズ版で表題作に"格上げ"されています(因みに、「詐者の舟板」は「カルネアデスの舟板」の改題で、後に当初のタイトルに戻っているが、これも傑作)。「鬼畜」が野村芳太郎監督によって映画化されたのは'78(昭和53)年で、「鬼畜」という作品はこの映画化によってよりよく知られるようになったのではないでしょうか。

詐者の舟板 (1957年)』(筑摩書房)
(捜査圏外の条件、青のある断層、発作、喪失、鬼畜、詐者の舟板(カルネアデスの舟板))

鬼畜3981.jpg鬼畜 緒形 .jpg「鬼畜」 (1978/06 松竹) ★★★★☆

 「鬼畜」は、"東京地検特捜部生みの親"と言われる河井信太郎(1913-1982)の無名時代に、作者が河井本人から聞いた話がベースになっており、モデルとなった男は骨董屋ですが、それを作者が若い頃に携わっていた印刷業界に置き換えているものの、妾に3人の子を産ませていたが商売不振で仕送りができず、妾が子を連れて男の家に来るところから始まり、本妻に子を片付けろと責められる中、殺害・殺害未遂を経て、西伊豆で逮捕されたというのは事実のようです(男は在獄中に発狂死したというから凄まじい)。この作品は、淡々と書き連ねられているだけに怖いです。最後に、石版印刷の石版の欠片から足が付くという推理小説的要素を持たせていますが、子殺しというモチーフと、親子の絆というテーマの方が圧倒的に重かったでしょうか。

 個人的な拾い物は「怖妻の棺」で、やや話が旨すぎるきらいもありますが、作者にしては珍しくほっとさせられる作品でした(「鬼畜」の前にあるから、より、そう感じるのかも)。

【1964年ノベルズ版・2003年第3版[カッパ・ノベルス]/2009年文庫化[光文社文庫]】

     
   





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和田泰明

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