2016年4月 Archives

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ポワロが犯人に対して仕掛けたトラップにこちらも騙されてしまう。

名探偵ポワロ 完全版 21  黄色いアイリス・なぞの遺言書L.jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 60号.jpg THE YELLOW IRIS POIROT.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.21 [DVD]」(「黄色いアイリス」「なぞの遺言書」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 60号 (黄色いアイリス) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス 01.jpg 2年前、アルゼンチンに滞在しているヘイスティングスに会いに行ったポアロは、ブエノスアイレスのホテルで偶然事件に遭遇する。それから月日は流れ、ある朝、ポアロはヘイスティングスから「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」が付近にオープンすることを聞き、ミス・レモンからは「事務所のポストに挿されていた」と"黄色いアイリス"を手渡される。ポアロにとって思い出したくない2年前の黄色いアイリス.jpg事件―同じ名のレストランの黄色いアイリスが飾られたテーブルにいたアイリスという女性の殺害事件が再び脳裏に蘇る。ポワロが過去に遭遇し未解決に終わっていたその事件が、2年後の今、ロンドンで再び動き出す―。
 
 「名探偵ポワロ」の第36話(第5シーズン第3話)でショート・バージョン。本国放映は1993年1月31日、本邦初放映は1994年2月5日(NHK)。原作は短編で、クリスティー文庫『黄色いアイリス』(「黄色いアイリス」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』(「黄色いアイリス」)などに所収。
黄色いアイリス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス04.jpg 「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」は、2年前の事件の現場名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス06.jpgとなった有名なフランス料理店で、この度ロンドンに進出しオープンしたわけですが、そのオープンの日は、図らずも2年前その事件が起きた―アイリスが突然うっ伏して亡くなった―その日であり、当時、ポアロはまさにその時その場所にいたにも関わらず、クーデターを起こした軍によりスパイ容疑で逮捕されて強制送還され、事件を解決するに至らず、事件はアイリスのポーチにあった青酸カリによる自殺として処理されたというもの。

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス03.jpg 今回黄色いアイリス THE YELLOW IRIS POIROT.jpgは、当時アイリスが青酸カリによって殺害されたテーブルにいた当事者全員が招待されて店に集います。店のテーブルは、米国人実業家のバートン・ラッセルが予約したもので、ラッセルは4年前と同じ状況を作った上でアイリスは他殺であるとの考えを述べ、この中に犯人がいるとしますが、今度はその場でアイリスの妹ポーリンが突然うっ伏してしまう―。

忘れられぬ死(2003年)洋DVD.jpg忘られぬ死 ハヤカワ文庫09.jpg 原作の短編は長編『忘られぬ死』の原型とされる作品で、但し『忘られぬ死』ではポワロは登場せず、姉妹の名前は、姉がローズマリーで妹がアイリスでした。2003年にはグラナダTVによってTVドラマ版が作られています。

 『忘られぬ死』は文芸小説風ミステリでもありましたが(映像化作品は時代を現代に置き換え、原作と若干違って、トミーとタペンスの「おしどり探偵」シリーズの"初老版"みたいな作りになっている)、こちらの映像化作品の「黄色いアイリス」は短編がベースであるためか、純粋にトリックが楽しめます。ポワロが犯人に対して仕掛けたトラップにこちらも騙されてしまいますが、それにしてもポーリン、演技が上手すぎ? いや、それ以前に、犯人の手先が器用すぎ?

The Yellow Iris Hercule Poirot an Hastings.jpg 因みに、ヘイスティングスは今はアルゼンチンからロンドンに戻ってきているわけで、これは、ドラマでは鉄道への投資に失敗したため破産し、イギリスに帰国して再びポアロの助手を務めているという設定になっているためです。原作では、アルゼンチンで牧場を経営し成功を収めたため、イギリスに一時帰国することあっても、途中から彼の本拠地はあちらになっています(そのため、ポワロはミス・レモンを雇うことになった)。

 この作品は、AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」の第2位に選ばれています(第1位は「チョコレートの箱」)。

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス02.jpg「名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ: THE YELLOW IRIS●名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス07.jpg制作国:イギリス●本国放映:1993/01/31●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロビン・マキャフリー(アイリス・ラッセル)/ジェラルディン・サマーヴィル(ポーリーン・ウェザビー)●日本放映:1994/02/05●放映局:NHK(評価:★★★☆)

《読書MEMO》
●AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」(2010年)(話数は放映順。()内数字はオリジナルの放送順)
1位 第34話 「チョコレートの箱」 (39)
2位 第31話 「黄色いアイリス」 (36)
3位 第4話 「24羽の黒つぐみ」 (4)
4位 第19話 「あなたの庭はどんな庭?」 (21)
5位 第1話 「コックを捜せ」 (1)
6位 第6話 「砂に書かれた三角形」 (6)
7位 第29話 「エジプト墳墓のなぞ」 (34)
8位 第22話 「スズメバチの巣」 (24)
9位 第26話 「盗まれたロイヤル・ルビー」 (28)
10位 第27話 「戦勝舞踏会事件」 (29)

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プロットより舞台設定か。「エジプト墳墓のなぞ」(第34話)。

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞdvd3.jpg 名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞdvd100_.jpg 名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ  7.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.20 [DVD]」(「エジプト墳墓のなぞ」「負け犬」所収) 「名探偵ポワロDVDコレクション 58号 (エジプト墳墓のなぞ) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ7.jpg名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ01.jpg エジプトで行われている大掛かりな発掘調査で、遂にメンハーラ王の墳墓が開封される時が訪れるが、封印の扉を開けた直後、発掘隊の考古学者ウィラード卿が倒れ、そのまま亡くなってしまう。死因は心臓発作で自然死と判断されたが、それから次々と調査に関わった人間が不審な死を遂げて行く。そんな折、卿夫人の依頼を受けたポワロは、ヘイスティングスとともにエジプトへ向かう。 人々は「王の墓を暴くものには制裁が下される」と王の呪いを噂するが―。

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞs.jpg 「名探偵ポワロ」の第34話(第5シーズン第1話)でショート・バージョン。本国放映は1993年1月17日、本邦初放映は1993年7月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「エジプト墳墓の謎」)、創元推理文庫『クリスティ短編集1』(「エジプト墓地の冒険」)などに所収。

 ウィラード卿に次ぐ第二の死者は、発掘を財務的に支援していたアメリカ人資産家・ブライブナー氏で死因は急性敗血症、第三の死者はブライブナーの甥で自殺死、第四の死者は、ニューヨーク・メトロポリタン博物館勤務の考古学者シュナイダー博士で、ポワロらの到着とほぼ時を同じくして破傷風のために急死―と、ばたばたばたっと4人続けて病死や自殺を遂げますが、何となく犯人が判らなくもないような展開だったかも。

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ06.png 犯人はやっぱりという感じでした。あとは動機だけでしたが、動機は謎解きされてみないと分からないものでした。シーズンの第1話ということでロケをした割には("王家の谷"のロケ地はエジプトではなくスペインのようだが、大英博物館のラムセス二世の胸像なども出てきて雰囲気を盛り上げている)、プロットは大したことなかったかも。まあ、今回は、砂漠での王家の墓の発掘作業というエキゾチックかつミステリアスな舞台設定に、ポワロがいつも通りのスタイルで(砂漠にもかかわらず皮手袋にエナメル靴で)乗り込んでいくところが見所だったのかもしれません(ポワロは飛行機がダメだから海路で行ったのか)。テレビドラマにしては舞台背景はしっかり撮ってると思われ、その分評価として星半個プラスしました(プロットだけ見ると星3つ。因みに、メンハーラ王はクリスティによる架空の王らしい)。

 ヘイスティングスがミス・レモンのペースに引き込まれて二人で「こっくりさん」のような占いをやっているのがご愛嬌ですTHE UNDERDOG POIROT.jpg(ミス・レモンは原作より親しみやすい人柄として描かれている。原作で彼女が登場するのはヘイスティングスと入れ違いであるため、基本的に2人同時には登場しない)。ミス・レモンは、続く第35話「負け犬」(The Underdog)第35話 負け犬.jpgは、今度はポワロに、きっと仕事に役に立つからと催眠術をかけようとしますが、ポワロは意地っ張りなせいもあってか術にかかりません。しかし、ポワロに言われて殺人事件の関係者に催眠術をかけ、事件解決の大きなヒントを引き出します(本当に仕事に役に立った)。
第35話「負け犬」(The Underdog)

イタリア貴族殺害事件0.jpg また、この「エジプト墳墓のなぞ」の時、ミス・レモンは愛猫を亡くして寂しい気持ちになていますが、そうした彼女を気遣って、ポワロが事件解決の後、ミス・レモンにエジプト王の墓に描かれている猫に模した置物のお土産を渡すと、彼女はかなり癒された風でした。こんなミス・レモンに、第38話「イタリア貴族殺害事件」(The Adventure of the Italian Nobleman)ではボーイフレンドができますが、実はこれがとんでもない男で、そのことをTHE ADVENTURE OF THE ITALIAN NOBLEMAN.jpg突き止めたポワロは、彼女に真実を告げなければというヘイスティングスに対し、それは自分の役目だと言ってミス・レモンに対峙しますが、彼女はすでに男とは別れたとのことで拍子抜けしてしまいます。そして、別れた理由は男が飼い猫が邪魔になって処分しようとしたことに彼女が憤慨したためで、ポワロがふと気づくと、オフィスの中に当の猫が...(ポワロはやや渋い顔に)。
第38話「イタリア貴族殺害事件」(The Adventure of the Italian Nobleman)

The Adventure of the Egyptian Tomb_.jpg「名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ(エジプト墳墓の謎)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ:THE ADVENTURE OF THE EGYPTIAN TOMB●制作国:イギリス●本国放映:1993/01/17●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:クライブ・エクストン●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ピーター・リーヴス(ウィラード卿)/アンナ・クロッパー(レディー・ウィラード)●日本放映:1993/07/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Adventure of the Egyptian Tomb

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凝ったプロットの原作を比較的分かりやすく再現。結末のスッキリ感も維持されていた。

愛国殺人 dvd.jpg 名探偵ポワロ(第33話)/愛国殺人_.jpg ポワロ 愛国殺人50.jpg 愛国殺人 hpm 2.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.17 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 13号 (愛国殺人) [分冊百科] (DVD付)」『愛国殺人 (1955年) (Hayakawa Pocket Mystery 207)

ポワロ 愛国殺人 40.jpg 1925年インド。英国皇太子巡行の際に、女優のメイベル・セインズベリー・シールは同僚のガーダが銀行員アリステア・ブラントと結婚すると知り、その12年後、英国行きの船で一緒だったアンベリオティスに歯科医を紹介したついでにその昔話をする。英国に戻ったセインズベリー・シールは歯科医院の前で偶然ブラントと再会、彼は銀行頭取にまで出世していて、伝道師でもある彼女は寄付を頼む。ポワロは偶々その歯科医モーリィの所に通う。するとモーリィはこれから経済界を牛耳るブラントが来ると。待合室でブラントと擦れ違い歯医者を出るとセインズベリー・シールとぶつかる。待合室にいた彼女は待ち時間が長過ぎると怒って帰ってしまい、ボーイが診察室を覗くとモーリィ医師の拳銃自殺死体が。ジャップ警部からの要請でポワロは捜査に協力することになり、医師の予約簿にはポワロ、ブラント、セインズベリー・シール、アンベリオテ愛国殺人2.jpgィスの順に名が。最後に治療を受けたのがアンベリオティスだと本人からも確認したが、直後にアンベリティオスは麻酔の過剰投与の後作用で死亡する。死ぬ気配がなかったモーリィが自殺したのは投薬ミスに気づいたからだと警察は納得するが、ポワロは納得できず捜査を続行。メイドが証言では、モーリィは秘書ネビルが最近勤怠不良になっているのは失業中の恋人カーターのせいだとして2人の交際に反対していて、事件当時待合室にいた青年はそのカーターだと。話を聞こうと思ったセインズベリー・シールは失踪し、後日、チャップマン夫人の部屋に顔を潰された彼女と思しき遺体が。モーリィ医師が自殺した日に訪れた患者が二人も死んだことを訝しんだポワロは、ブラントにも話を聞くが、アーンホルト財閥の令嬢レベッカの入り婿となって一介の銀行員から経済界の実権を握った彼は、病死したレベッカの知り合いだと言われてもそんな女性に覚えはないと。そんな時、庭師として入り込んでいたカーターが発砲事件を起こし、ブラントの秘書モントレソーに現場を取り押さえられ、濡れ衣を主張するが逮捕される。歯の治療跡から顔の潰されたセインズベリー・シールだと思われた遺体はチャップマン夫人の遺体だったらしい。ではセインズベリー・シールは何処へ行ったのか。ポワロは留置場のカーターから、事件当時モーリィに文句を言いに行ったら死んでいたという証言を得、それによって当初の犯行推定時刻の1時間前、セインズベリー・シールが帰る前に殺人は行われていたと確信する。ポワロが銀行の会議室に関係者を集め、事件の種明かしが行われる―。

愛国殺人 クリスティー文庫.jpg 「名探偵ポワロ」の第33話(第4シーズン第3話(ロング・バージョン))で、本国放映は1992年1月19日、本邦初放映は1992年10月3日(NHK-BS2)。原作はクリスティー文庫『愛国殺人』(加島祥造:訳)など。

 原作のストーリーが複雑であるためか、TVシリーズの長尺版の方でありながら(103分)、それでも原作の主要な登場人物のうち、バーンズ(内務省退職官吏)、レイクス(ブラントの姪の恋人)、ライリー(モーリィの仕事上のパートナー)がカットされています。それによってかなりスッキリしたのは良いけれど、殺人の背景にある政治色が弱まったかも。バーンズを省いたことで、チャップマン夫婦の正体は何者かという、原作でポワロも引っ掛かった謎の種明かしが無くなってしまったのが少し残念です。

 ネタバレになりますが、顔の潰れた死体で発見された女性はやはりセインズベリー・シールでした。ポワロが歯医者から帰ろうとしたときにぶつかりバックル付きの靴が壊れたのを見ていて、その時履いていたストッキングは高級品だったのに、彼女の部屋には安いストッキングしかなかったし、死体の足のサイズも違っていたので、ブラント氏が会ったセインズベリー・シールとポワロが会ったセインズベリー・シールは別人だと言うことです。変装しセインズベリー・シールを演じた共犯者は犯人の秘書のモントレソーであり、彼女こそガーダでした。

ポワロ 愛国殺人640.jpg 原作では殆ど前面に出てこないこの共犯者が、この映像化作品では多分に映像化されており、但し、最初は"セインズベリー・シール"に変装して出ている訳で、では冒頭の本物のメイベル・セインズベリー・シールはまた別の女優が演じたのでしょうか(プロローグのインドでメイベル・セインズベリー・シールとガーダが一緒に出てくることからするとそうなるが、舞台メイクをしているのでよく分からない)。何れにせよ、映像面、演技面で観る側をも引っ掛かけているというのは興味深いです。

 普通ならば医療の知識も技量もないはずの人物に可能な殺人手段かとか、奥さんが死んだならばなぜ本命の女性と再婚しなかったのかとか、原作に起因する突っ込み所は幾つかありますが、事件を解くカギとなる歯科医院での複雑な人の出入りなどは比較的分かり易く再現されており、3人の主要人物をカットしたりはしているものの(その割には、ポワロが休日にジャップ警部の自宅を訪問するという"オマケ"がついていたりもするが)、原作にほぼ忠実に作られているように思いました。

 原作は幾つか突っ込み所がありながらも、プロット面でも(犯人が歯の治療記録を改竄したのは巧妙)、ラストの犯人とポワロの価値観対決という面でもまずまずの傑作。この映像化作品でも、経済界の大物がその独善による殺人を「愛国のため」と言い切る傲慢さを、ポワロが最後に事実を暴露するとともに、その誤った考え(政治観以前の人間価値観とでも言うべきもの)をも粉砕するという、そうしたスッキリ感は維持されていたのではないでしょうか。

ポワロ 愛国殺人64.jpg「名探偵ポワロ(第33話)/愛国殺人(愛国殺人事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅣ:ONE, TWO, BUCKLE MY SHOE●制作国:イギリス●本国放映:1992/01/19●監督:ロス・デベニッシュ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)、フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)、キャロリン・コルキュホーン(メーベル)、ジョアンナ・フィリップ=レーン(ガーダ)、ピーター・ブライス(ブラント)、ジョー・グレコ(アルフレッド・ビッグス)、クリストファー・エクルストン(フランク・カーター)、カレン・グレッドヒル(グラディス・ネビル)、ローレンス・ハリントン(ヘンリー・モーリィ)、セーラ・スチュワート(ジェーン・オリベラ)、ヘレン・ホートン(ジュリア・オリベラ)、ケボーク・マリキャン(アンベリオティス)、トリルビー・ジェームズ(アグネス・フレッチャー)●日本放映:1992/10/03●放映局:NHK-BS2(評価:★★★☆)

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凝ったプロットの2話。「戦勝舞踏会事件」(第29話)と「猟人荘の怪事件」(第30話)。

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件 dvdbook.jpg 戦勝舞踏会事件001.jpg  名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件 dvdbook.jpg 名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 55号 (戦勝舞踊会事件) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 57号 (猟人荘の怪事件) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件03.jpg ポワロは、ヘイスティングスに誘われて戦勝記念舞踏会に出かける。 晩餐の後、女優のココ・コートニーと骨董陶磁器の収集家クロンショー卿が争いながら食堂から出てくる。一方、アメリカ人のマラビー夫人は、ダンスの約束をしたクロンショーを捜していると、食堂でひとつの死体を発見する。それはクロンショーの死体だった。彼のポケットにはCの頭文字のついた小さなケースが入っており、死体発見の直前に彼がメモしていた手帳も見つかる―(第29話「戦勝舞踏会事件」)。

 「名探偵ポワロ」の第29話(第3シーズン第10話)で本国放映は1991年3月3日、本邦初放映は1992年7月29日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「戦勝記念舞踏会事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』などに所収。

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件00.jpg 戦勝記念舞踏会って仮装舞踏会であるわけで、そこへ、自分は自身が有名人であるから仮装はしないと乗り込んでいくポワロの自信家ぶりはスゴイね。そのポワロの居合わせた舞踏会で殺人が起きてしまい、犯人を見逃したとマスコミに叩かれて、名誉回復のため事件解決に躍起になるというのがいかにも彼らしいです。

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件01.jpg 事件の当事者は、骨董陶磁器のコメディア・デラルテ(仮面即興劇)の6体の人物にそれぞれ扮した、クロンショー卿、女優のミス・ココ・コートニー、男優のクリス・デビッドソンとその夫人、ペルテイン子爵、未亡人ミス・マラビーの6人で、その中でクロンショー卿が殺され、普通でいけばクロンショー卿の伯父であり、相続人であるペルテイン子爵が一番怪しいということになりますが、このシリーズの場合、一番怪しい人は真犯人で名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件06.jpgはないというのはほぼ定番となっています。

 仮装ということが1つ鍵となった「入れ替わり&時間トリック」で、そう考えると結構凝ったプロットだったのではないでしょうか。第2の殺人で女優も犠牲になりますが、最後は、その女優が出ていたラジオ番組で(テレビが無い時代だからテレビ女優というのはいないわけだ)、ポワロが関係者に呼びかけて出演させ、その番組内で謎解きをします。この勿体ぶった演出にもポワロの名誉回復への意地が感じられますが、ポワロの面目躍如かと思いきや、リスナーからは意外な反応が...。
 

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件000.jpg 冬、ヘイスティングスの友人ロジャー・ヘイバリングの伯父ハリントン・ペースに招待されたポワロとヘイスティングスは、ライ鳥猟に出かける。猟に興味はなく、ライチョウ料理が楽しみだったポワロは風邪をひき、ホテルで寝込んでしまう。その夜、ロッジでは訪ねてきたひげの男にハリントン・ペースが殺される―(第30話「猟人荘の怪事件」)。

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件X.jpg 「名探偵ポワロ」の第30話(第3シーズン第11話)で本国放映は1991年3月10日、本邦初放映は1992年7月30日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「狩人荘の怪事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「ハンター荘の謎」)などに所収。

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件01.jpg ライチョウ猟をするための別荘というのは贅沢だなあ。しかし、ライチョウ料理ってそんなに美味なのでしょうか。それを楽しみにしていたポワロは風邪で寝込んでしまい、殆ど「安楽椅子探偵」ならぬ「ベッド・ディテクティブ」状態でした。

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件AL_.jpg 殺害されたハリントン・ペースは身内の皆から嫌われていて、ロジャーの従弟のアーチー・ヘイバリングは、ハリントンから教師としての安月給をバカにされている上に、狩場での失態を厳しく咎められ、ペースの腹違いの弟ジャック・スタッダードも、猟場の番人をさせられれている上に、恋仲のメイドとの結婚資金の融通もして貰えない、更に、ロジャー・ヘイヴァリング夫妻も...といった具合。

 事件の夜、別荘を訪ねた髭もじゃの男はどこへ消えたのか、そして、臨時雇いの家政婦までも消えてしまった...。これもなかなか凝ったプロットだったと思います。原作ではロジャー・ヘイヴァリングの奥さんは元女優ということですが、この映像化作品ではそうした説明は無かったなあ。原作では、容疑者を殺人犯として逮捕するには証拠が弱すぎて、ジャップ警部は立件を断念(ポワロも立件不能を認めた)、但し、数ヵ月後、叔父の遺産を相続した犯人らは飛行機事故で亡くなる―という因果応報的な後日譚があるようですが、この映像化作品だと、物的証拠は充分にあることになるのでしょう。

 
The Affair at the Victory Ball_.jpg戦勝舞踏会事件002.jpg「名探偵ポワロ(第29話)/戦勝舞踏会事件(戦勝記念舞踏会事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/03●監督:レニー・ライ●脚本:アンドリュー・マーシャル●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/マーク・クラウディ(クロンショー卿)/ヘイドン・グウィン(ココ・コートニー)●日本放映:1992/07/29●放映局:NHK(評価:★★★★)
THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件Q.jpg「名探偵ポワロ(第30話)/猟人荘の怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MYSTERY OF HUNTER'S LODGE●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/10●監督:レニー・ライ●脚本:T・R・ボウエン/クライブ名探偵ポワロ[完全版]Vol.16.jpg・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ジム・ノートン(ロジャー・ヘイバリング)/デニーズ・アレクサンダー(ミドルトン夫人)●日本放映:1992/07/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.16 [DVD]」(「戦勝舞踏会の事件」「猟人荘の怪事件」所収)

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原作に先んじてポワロが恋に落ちた「二重の手がかり」(第26話)。原作よりエグい殺害方法の「スペイン櫃」(第27話)。

名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD].jpg 第26話/二重の手がかり 05.jpg  スペイン櫃の秘密 dvdbook.jpg 第27話/スペイン櫃の秘密 dvd.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD]」(「マースドン荘の惨劇」「二重の手がかり」所収) 「名探偵ポワロDVDコレクション 53号 (スペイン櫃の秘密) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロ[完全版]Vol.15 [DVD]」(「スペイン櫃(ひつ)の秘密」「盗まれたロイヤル・ルビー」所収)

第26話/二重の手がかり 01.jpg ジャップ警部が浮かない顔でポワロのもとを訪れ、イギリス各地の貴族の邸で発生した3件の宝石強盗事件の解決の糸口が掴めず、自らのクビさえ危ないと言う。待つしかないというポワロの言葉通り、第4の事件が発生。宝石コレクターとしても有名なマーカス・ハードマン氏の邸での野外コンサートに客たちが招かれた際に、邸内の金庫が壊され、カトリーヌ・ド・メディシスのエメラルドのネックレスが盗まれたのだった―(第26話「二重の手がかり」)。

 「名探偵ポワロ」の第26話(第3シーズン第7話)で本国放映は1991年2月10日、本邦初放映は1992年4月1日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。

第26話/二重の手がかり 03.jpg "二重の手がかり"とは、破られた金庫の中に白い手袋が、その近くに"B.P."のイニシャル入りのシガレットケーがあったことを指し、容疑者はネックレスが盗まれた晩に屋敷に出入りした4人の客ということになりますが、ポワロはその容疑者の一人、ロシア人亡命貴族を称するヴェラ・ロサコフ伯爵夫人に一目惚れしたようで、3日以内に事件を解決しないとクビになると総監から言い渡されているジャップ刑事を尻目にロサコフ夫人とデートばかりしていて、事件を投げ出した印象さえあります。そこで、ヘイスティングスとミス・レモンが、それぞれに怪しいところがある他の3人の調査に当たります。

第26話/二重の手がかり 02.jpg このポワロのシリーズにおけるロサコフ夫人は、シャーロック・ホームズの「ボヘミアの醜聞」における、ホームズが恋した唯一の女性アイリーン・アドラーに相当するわけです。ということで宝石盗難犯の見当はおおよそつくわけですが、ポワロは犯人を捕まえる気がないわけで(クライアントの了解済み)、となるとこの事件にどう決着をつ第26話/二重の手がかり 04.jpgけるのかが見所になるわけです。そうした意味では、なかなかユニークな展開でした。

 原作シリーズでは、ポワロはこのエピソードよりむしろ「ビッグ4」で本当に恋に落ち、そして別れ、その20年後、「ヘラクレスの冒険」(ケルベロスの捕獲)でまた再会するようですが、このTVシリーズでは今回で既に恋に落ちてしまって(このことは「ビック4」の改変を余儀なくするのでは)、しかも「ビッグ4」の次の回が「ヘラクレスの冒険」であるため、その辺り、どのような繋がり方になっているのか関心が持たれます。


The Mystery of the Spanish Chest  .jpg第27話/スペイン櫃の秘密 02.jpg オペラ劇場で旧知のレディ・チャタートンに、友人のクレイトン夫人が夫に命を狙われているらしいと言われたポワロは、様子を探りにクレイトン夫妻が出席するパーティに出掛ける。クレイトン夫人と親しくしているリッチ少佐、クレイトン夫人を巡って決闘して敗れたこともあり、今もまお夫人を執拗に追いかけるカーティス大佐らがパーティに出席していたが、クレイトン氏は急な仕事で欠席。翌日、パーティ会場にあったスペイン櫃の底から、大量の血が流れ出してるのをメイドが発見し、蓋を開けると中にクレイトン氏の刺殺体があった―(第27話「スペイン櫃(ひつ)の秘密」)。

The Mystery of the Spanish Chest2.jpg 「名探偵ポワロ」の第27話(第3シーズン第8話)で本国放映は1991年2月17日、本邦初放映は1992年4月2日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、などに所収。

第27話/スペイン櫃の秘密 01.jpg 先ず逮捕されたのは、屋敷のオーナーであるリッチ少佐で、スペイン櫃(エリザベス朝の家具で大きくて蓋がある)の持ち主でもない限り、クレイトンの死体を持ち込むなど不可能と思われたわけですが、クレイトン夫人がポワロのマンションを訪ねて来て、リッチ少佐の無実を証明することを依頼したため、ポワロは動き出します。

第27話/スペイン櫃の秘密   .jpg リッチは逮捕されましたが、第一容疑者は真犯人ではないというのはもうお約束事のようになっており、そうなると、リッチとは別に最初から怪しい人物はいるなあと思われ、それがそのまま結末までいってしまい、 "犯人当て"という面ではヒネリはさほどなかったように思います。

 しかしながら、犯人がクレイトンの嫉妬心を煽って、妻の浮気を確認させるためにスペイン櫃に身を潜まさせるというのはなかなか巧妙(死体を持ち込んだのでなく、自分で櫃に入ってしまったわけだ)。原作では酒に薬を入れて眠らせるのに対し、この映像化作品では、櫃に穴を空けて覗かせたものだから、犯人によってクレイトンは"目刺し"にされてしまったわけだなあ(櫃が柩になってしまった)。

 殺害方法としては、眠って鼾をかかれるよりは確実だという見方と、短剣を刺した時に穴から覗いているかどうか不確実だという両方の見方が成り立つのでは。さすがに死体までは見せなかったけれど、何れにせよ、洒落たタイトルに反してエグい殺害方法になった気がします。

「名探偵ポワロ(第26話)/二重の手がかり」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE DOUBLE CLUE●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/10●監督:アンドリュー・ビディントン●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/キカ・マーカム(ロサコフ伯爵夫人)/デヴィッド・ライアン(マーカス・ハードマン)●日本放映:1992/04/01●放映局:NHK(評価:★★★★)

The Mystery of the Spanish Chest .jpg「名探偵ポワロ(第27話)/スペイン櫃(ひつ)の秘密」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MYSTERY OF THE SPANISH CHEST●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/17●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/アントニア・ペンバートン(レディー・チャタートン)、キャロライン・ラングリッシュ(マーゲリート・クレイトン))●日本放映:1992/04/02●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Mystery of the Spanish Chest

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"起きていない犯罪を解決する"ポワロ。終わり方もいい「スズメバチの巣」(第24話)。

名探偵ポワロ スズメバチの巣 dvd.jpg 名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 dvdbook.jpg  名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD].jpg 名探偵ポワロ 48号 (マースドン荘の惨劇).jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.13 [DVD]」(「プリマス行きの急行列車」「スズメバチの巣」所収)/「名探偵ポワロDVDコレクション 47号 (スズメバチの巣) [分冊百科] (DVD付)」/「名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD]」(「マースドン荘の惨劇」「二重の手がかり」所収)/「名探偵ポワロDVDコレクション 48号 (マースドン荘の惨劇) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣250.gif 夏祭りの席上でポワロは旧友の息子ジョン・ハリスンに出会った。彼は自分の婚約者モリーをポワロに紹介、ポワロは戯れに紅茶占いをするが、彼女のカップには彼女自身の口紅と一緒に別の口紅がついていた。会場にはモリーの元婚約者で今は良き友人というクロードも参加していたが、三人の関係にポワロは暗雲を予測する―(第24話「スズメバチの巣」)。

 「名探偵ポワロ」の第24話(第3シーズン第5話)で本国放映は1991年1月27日、本邦初放映は1992年3月30日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「スズメ蜂の巣」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』(「スズメ蜂の巣」)などに所収。

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 01.jpg ポワロが、まだ起きていない犯罪を防ぐべく捜査を始めるというユニークな展開です。モリーのカップに彼女自身の口紅と一緒に付着していた紅は元婚約者クロードのものであり(彼は夏祭りでピエロに扮していた)、それでポワロは悪い予感に駆られたという訳です。クロードは未だにモリーへの気持ちを捨てられず、またモリーも故意にクルマ事故を起こしてクロードとの時間を過ごすなどしていました。

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 0.jpg 殺人未遂罪は成立していると思われますが、最後、ポワロが犯人に優しいのは、犯人の置かれた境遇に対する思い遣りからでしょうか。まあ、死ぬつもりの人間をわざわざ訴えても仕方がないし、どうせ公判の途中で死んでしまうのならば意味がないという理屈とも呼応している訳ですが(プラグマティックに考えればであるが)。

名探偵ポワロ スズメバチの巣.jpg ポワロ、いつから占い魔になった?とか、ハチの巣駆除のガソリンと単なる水との色や臭いの違いが分からないものかとかいった突っ込み所はありますが(洗濯ソーダと青酸カリの味の違いが分からないのは、今まで生きている間に青酸カリを飲んだことがないのだから仕方がないが)、ポワロの友への友情が感じられる終わり方は良かったです。

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 3.jpg 絶望している相手には"要らぬ同情"として拒絶される可能性もあったのではないかという見方もありますが、犯行を実行していれば、ポワロがいる限り、死後に殺人犯として糾弾されるのは自分であることは避けられなかったため(死後の復讐を考える者は、死後の名誉も考える)、やはり自ずとポワロに感謝することになるのでしょう。

 ヘイスティングスはカメラに夢中で、ミス・レモンはフィットネスジム通いで、ポワロにも運動するよう勧めたのが勧められたポワロにとっては余計なお世話で面白くなく、ジャップ警部は食中毒で動けない(と思ったら盲腸だった)と何となく皆ばらばらですが、それでいて各人がそれぞれ事件の解決に貢献しているという脚本は(殆どドラマのオリジナルで、原作はほぼポアロとジョンの会話だけで成り立っている)上出来と言っていいのではないでしょうか。

名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 1.jpg 自分に高額保険をかけたばかりのマルトラバースが、庭の大木の下で死んでるのを発見される。死因は内出血だが、庭には死者が引きずられたような痕跡が残されていた。美しい未亡人スーザンは、大木にまつわる少女の霊を見た夫がショック死したのではないかと言う。彼女は医師から夫が、ショックで潰瘍が再発した場合に死ぬ可能性もあると聞いていたのだ。本当に幽霊がいるのか?ポワロは灰色の脳細胞を駆使し、事件解決に挑む―(第25話「マースドン荘の惨劇」)。

名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 2.jpg 「名探偵ポワロ」の第25話(第3シーズン第6話)で本国放映は1991年2月3日、本邦初放映は1992年3月31日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(マースドン荘園の悲」)などに所収。

名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 輸入版.jpg 第24話では、事件が無いことに対してポワロが苛立ち、ヘイスティングスが気晴らしと連れて行った夏祭りで、祭り会場で死体でも出れば満足するのかとジャップ警部に陰口を叩かれ、第25話では、ある殺人事件を解決できるのはポワロだけだという手紙を受け、ロンドンから200キロ離れた町に来てみれば、事件は手紙を出した宿の主人の小説の中の話だったという―でも、ポワロの行く処に事件は必ずあります。

Poirot  The Tragedy a  Marsdon Manor.jpg 今回は、犯人は途中で大体判りました。犯行のヒントをどこから得たのか(瞬時に英字新聞を読みとらないと分からない)など細かいことまではともかく、誰が犯人かは何となく目星がついて、何か予想を覆すような展開があるかなと思ったけれど、意外とそれがありませんでした。

 ポワロは最後、一芝居打って犯人を自白に追い込みますが、その "ニセ幽霊"作戦の際に宿の主人の協力を得たのは、彼が推理小説作家になりたがっていることから自然な流れでしょうか(原作では、高額保険に入っていた資産家が急死したために、自殺の疑いはないか調べて欲しいという保険会社からの依頼だった)。

the tragedy at marsdon manor.jpg このラスト、犯人が、自分の手についた血を被害者のものだと思って自白してしまうくだりは、心霊現象を怖れていた態度がすべて芝居だったという事実と矛盾しているという批判もあるようです。でも、嘘だと知っていてやってたら本当に幽霊が出てきたら、やはり怖いだろうね。自分が殺しているだけに。

Sleeping Murder, 1987 001.jpg スーザン役のジェラルディン・アレグザンダーは、この作品より前に、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル(第6話)/スリーピング・マーダー」('87年/英)」でも、幼少時の記憶の幻影に怯えるヒロインの役を演じています。

 事件そのものの展開はたいしたことなかったけれど、最初、遠路はるばる来てみれば小説の中の事件だったということでかんかんに怒っていたポワロが、結局は寝付かれずに宿の主人の小説を全部読んで、最後、本当の事件の方を解決の兆しが見えてきたらご機嫌で、小説の事件の方にも解決のアドバイスを与えるというというのが可笑しいです(これが、事件解決への宿の主の協力と交換条件になったわけだが、宿の主はポワロに協力出来るだけで嬉々としていた)。
Wasps' Nest
Wasps' Nest _.jpg名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 title.jpg「名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣(スズメ蜂の巣)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:WASPS' NEST●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/20●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:デビッド・レンウィック●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マーティン・ターナー(ジョン・ハリスン)/メラニー・ジェサップ(モリー・ディーン)●日本放映:1992/03/30●放映局:NHK(評価:★★★★)

The Tragedy at Marsdon Manor jpg.jpg名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 5.jpg「名探偵ポワロ(第25話)/マースドン荘の惨劇」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE TRAGEDY AT MARSDON MANOR●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/03●監督:レニー・ライ●脚本:デビッド・レンウィック●時間:56分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/イアン・マカロック(ジョナサン・マルトラバース)/ジェラルディン・アレグザンダー(スーザン・マルトラバース)/ニール・ダンカン(ブラック大尉)●日本放映:1992/03/31●放映局:NHK(評価:★★★)
The Tragedy at Marsdon Manor

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わざわざヒントを与えている感じの犯人(第21話)。船旅気分が味わえ楽しい一篇(第22話)。

あなたの庭はどんな庭 dvd.jpg あなたの庭はどんな庭 dvdbook.jpg あなたの庭はどんな庭 dvdimport.jpg  100万ドル債券盗難事件 dvdbook.jpg THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY 1991.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.12 [DVD]」(「あなたの庭はどんな庭?」「100万ドル債権盗難事件」所収)/「名探偵ポワロDVDコレクション 44号 (あなたの庭はどんな庭?) [分冊百科] (DVD付)」/輸入盤DVD/「名探偵ポワロDVDコレクション 45号 (100万ドル債券盗難事件) [分冊百科] (DVD付)

あなたの庭はどんな庭 00.jpg 自分の名がついた新種のバラが発表される園芸展でポワロは、アメリアという車椅子の老婦人に声をかけられ、種袋を差し出される。しかし、何故か中身は空だった。帰宅後に老婦人から助けを求める手紙を受け取ったポワロは、ミス・レモンを連れて彼女の家を訪ねるが、すでに彼女は前夜に猛毒ストリキニーネで殺されていた。いつ、どうやって毒は盛られたのか?(第22話「あなたの庭はどんな庭?」)。

 「名探偵ポワロ」の第21話(第3シーズン第2話)で本国放映は1991年1月6日、本邦初放映は1991年9月14日(NHK)。原作はクリスティー文庫『黄色いアイリス』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。原作では、ポワロの名前がついたバラどころか、園芸展も出てきません。

あなたの庭はどんな庭 01.jpg 老婦人のアメリアは姪のメアリー、その夫ヘンリーの夫婦と暮らし、カトリーナという付添いがいて、彼女はカトリーナを相続人にしていましたが、カトリーナの部屋にストリキニーネの小瓶があり、警察は先ず彼女の身柄を拘束します。彼女はロシア人で、スターリンのせいで財産をなくした貴族階級の出身(メアリー夫婦は彼女を共産主義者と決めつけていたが実際の出自はむしろ逆)。カトリーナがロシア大使館員と密かに会う場面などもあって、ちよっと怪しげではあるものの、このシリーズ、「第一容疑者は真犯人ではない」ということがほぼセオリー化しているため、そのつもりで観ていると、もう、そんなに犯人候補者は残っていないんじゃないかという感じ(カトリーナの出自やキャラクターは原作からかなり改変されているようだ)。

あなたの庭はどんな庭 03.jpg ラストはカトリーナは容疑が晴れて恋人とも結ばれ、これで無事に遺産も入るからメデタシ、メデタシ。一方の犯人は、ええいっ、これまでと毒を飲み干そうとしたら、アル中の夫が妻に内緒で毒をウィスキーに入れ替えていて...。このラストが一番印象に残るくらいだから、プロセスはさほどインパクト無かったかなあ。

 ストリキニーネは生牡蠣に注射されアメリアの口に入ったわけですが、ヨーロッパはヒラガキにレモンをかけ、西洋わさびを乗せてつるっと貝から直接口に流し込むという食べ方がポピュラーなようです。そうした意味では、毒殺方法としては秀逸。但し、牡蠣殻を庭の花壇に使ったのは、自らポワロにヒントを与えたようなものでした。


THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY book.jpg100万ドル債券盗難事件 00.jpg ロンドン・スコティッシュ銀行は100万ドル相当の自由公債をアメリカに移送する計画を立てた。ところが、移送前にショー部長が狙われるなど不穏な雰囲気があり、別の担当者リッジウェイが移送の任を負うことに。また、銀行側はポワロに相談を持ちかけ、ポワロもクイーン・メリー号に乗り込んで移送に同行することに―(第22話「100万ドル債券盗難事件」)。

 「名探偵ポワロ」の第22話(第3シーズン第3話)で本国放映は1991年1月13日、本邦初放映は1991年9月15日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「百万ドル債券盗難事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「百万ドル公債の盗難」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「百万ドル公債の盗難」)などに所収。

Agatha Christie The Million Dollar Bond Robbery.jpg100万ドル債券盗難事件 01.jpg 案の定、100万ドルの債権はポワロたちの船旅の途上で消え、案の定、ギャンブルで負債を抱えているリッジウェイに疑いがかかります。まあ、彼が真犯人でないことは大方予想がつきますが、後の展開は意外性があって面白かったです。最後、リッジウェイの容疑は晴れ、婚約者の部長秘書とポワロのところへ挨拶に。リッジウェイ、大丈夫かな(しっかり者の女性はダメ男にくっつきがちというパターンだなあ)。

 原作を改変して、クイーン・メリー号という実在の船名にし、当時のニュース映像などを交え(1936年3月27日就航)、そこにポワロの乗船の様子などを織り交ぜているのが楽しいです。でも、そうしたニュース映像と繋げて、ポワロ達がいる今の船内の様子をカラーで撮っているわけだから、TV映画でありながらしっかり手をかけているのがこのシリーズの良さでしょう(船旅気分が味わえる?)。

100万ドル債券盗難事件 船内.jpg 豪華客船での船旅を楽しみにしていたヘイスティングスの方が船酔いでダウンし、亡命時の船酔いがトラウマとしてあり、船旅を嫌っていたはずのポワロの方が乗船してからは絶好調で、好物の「牛の脳ミソのソテー」などこってりしたものを食しているのが可笑しいです。ヘイスティングスは船上で美女と知り合い、アタックしようにも体調が...。実はこれ、事件の鍵を握る女性だったのですが、もしヘイスティングスの体調が良ければ、どういう展開になっていたのだろう(まあ、振られてお終いで、結果、あんまり変わらないか)。

How does your garden grow ?.jpg「名探偵ポワロ(第21話)/あなたの庭はどんな庭?」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:HOW DOES YOUR GARDEN GROW?●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/06●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:アンドリュー・マーシャル/クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マージェリー・メイソン(アミリア・バロビー)/アン・ストーリーブラス(メアリ・デラフォンテン)●日本放映:1991/09/14●放映局:NHK(評価:★★★)

The Million Dollar Bond Robbery_.jpg100万ドル債権盗難事件 3.jpg「名探偵ポワロ(第22話)/100万ドル債権盗難事件(百万ドル債券盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/13●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/オリヴァー・パーカー(フィリップ・リッジウェイ)/ナタリー・オーグル(エズミー・ダルリーシュ)●日本放映:1991/09/15●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Million Dollar Bond Robbery

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大味な政治物の典型(第18話)。話が見えにくい部分とミエミエ部分が混在(第19話)。

名探偵ポワロ[完全版]Vol.10.jpgポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣 title.png 名探偵ポワロDVDコレクション 42号 (首相誘拐事件).jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 43号 (西洋の星の盗難事件).jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.10 [DVD]」(「誘拐された総理大臣」「西洋の星の盗難事件」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 42号 (首相誘拐事件) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 43号 (西洋の星の盗難事件) [分冊百科] (DVD付)

ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣 01.png 何者かによる英国首相の襲撃事件があったが、首相は顔にかすり傷を負ったのみで難を逃れ、国際連盟の会議に出席するべく渡仏する。関係者がほっと安堵した矢先に今度は首相誘拐の報が入り、国家機密問題として外務省のサー・バーナードからジャップ警部の推薦を介してポワロに捜査要請が下る。会議までに残された時間は32時間と15分。差し迫った状況にも関わらず、ポワロは渡仏前の首相の英国での襲撃事件ばかりを調べて、一向にフランスへ渡る気配を見せない―(第18話「誘拐された総理大臣」)。

ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣3.png 「名探偵ポワロ」の第18話(第2シーズン第8話)で本国放映は1990年2月25日、本邦初放映は1991年2月26日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「首相誘拐事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「誘拐された総理大臣」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「首相誘拐事件」)などに所収などに所収。

ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣0.png ポワロはフランスで首相と共に襲撃されたというダニエルズ中佐が英国に帰って来ているというので会いに行きます(事件当時の運転手にも会いに行くがこちらは行方不明に)。なかなか渡仏しないポワロに対しサー・バーナードは苛立ちを露わにし(原作と異なり最後まで渡仏しない)、「(ポワロを推薦した)私の年金もパアかも」と嘆くジャップ警部に、ポワロは以前に中佐と派手に離婚争議をやったという元妻イモジャン(ミス・レモン、ここでもゴシップ通を発揮)のことを調べるよう依頼します。

名探偵ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣2967.jpg この辺りから何となく読めてしまう感じもします。ポワロ・シリーズで政治や外交を扱ったものは大味になりがちだという典型例かも(警察だけでなく軍隊まで登場)。分かり易く映像化されていますが、その分、替え玉工作の"無理さ加減"などが露呈した印象も。

 ジョーン・ヒクソン版「ミス・マープル」シリーズのスラック警部役のデヴィット・ホロヴィッチが、ダニエル中佐役で登場していますが、撮影時期は「第11話/魔術の殺人」('91年)の少し前でしょうか。生憎、ダニエル中佐の元妻役のリサ・ハーロウの方がキャラが立っていて(「主任警部モース(第13話)/ラドフォード家の遺産」('90年)にも出ていた)、その存在感はイマイチでしたが。


名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件01.png名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 1.jpg名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 2.jpg ベルギー出身の国際的映画スター、マリー・マーベルのもとに、満月の晩にダイヤ"西洋の星"を盗むという脅迫状が届いた。西洋の星には対になる宝石があり、それはレディー・ヤードリーの持つ"東洋の星"と呼ばれるダイヤだという。そして、ヤードリー家にも脅迫状が届いているらしい。レディー・ヤードリーがポワロとヘイスティングスにその宝石を披露した直後、"東洋の星"は盗まれてしまい、やがて"西洋の星"もマリー・マーベルも元から消えてしまう―(第19話「西洋の星の盗難事件」)。

名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 4.jpg名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 3.jpg 「名探偵ポワロ」の第19話(第2シーズン第9話)で本国放映は1990年3月4日、本邦初放映は1991年6月29日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「〈西洋の星〉盗難事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「西洋の星の事件」)などに所収などに所収。
名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 location.jpg
名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 5.jpg いかにも悪そうな奴らの間に更に仲介人がいて話がややこしくなる一方で、「辮髪の男が...」といったところからして嘘臭く、何となく話が見えにくい一方で、何となくミエミエな面もあるという、観ていて落ち着かない印象でしょうか。

名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 飛行場.png レディー・ヤードリーは最後良かったね、という感じ。もとは言えば、海外で"色男"に靡いてしまったという身から出た錆でもあっただけに、ポワロにどれだけ感謝しても感謝し切れないだろうなあ。一方のマリー・マーベルの方は、ポワロは彼女に悲しい知らせを伝えなければならないと言っていましたが、へイスティングスに対しては、悪党男と切れて良かったと言っています。無理にそう思い込もうとしているのではなく、ポワロ自身の本音でしょうね。全然"いい男"そうでもないし、こんなのが、彼女だけでなく、レディー・ヤードリーまで巻き込んだのが不思議ですが、この部分にケチをつけても仕方がないのでしょう。事件が解決しているのに、"消えたもう一つのダイヤ"はどこにいったのかと案じるへイスティングスは、視聴者に優越感を与えるための存在か?

 大味になりがちな政治物の典型とも言える第18話「誘拐された総理大臣」と、話が見えにくい部分とミエミエ部分が混在する第19話「西洋の星の盗難事件」といったところでしょうか。

The Kidnapped Prime Minister .jpg「名探偵ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE KIDNAPPED PRIME MINISTER●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/26●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロナルド・ハインズ(サー・バーナード・ドッジ)/デイヴィッド・ホロヴィッチ(ダニエルズ中佐)●日本放映:1991/02/26●放映局:NHK(評価:★★★)

The Kidnapped Prime Minister

The Adventure of the Western Star.jpg「名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE ADVENTURE OF THE WESTERN STAR●制作国:イギリス●本国放映:1990/03/04●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロザリンド・ベネット(マリー・マーベル)/キャロライン・グッドール(レディー・ヤードリー)●日本放映:1991/06/29●放映局:NHK(評価:★★★)

The Adventure of the Western Star

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2篇ともプロット的には面白かった。あの"書割り"(第17話)の意味は?

名探偵ポワロ完全版9.jpg Double Sin(22 Jan. 1991).jpg 名探偵ポワロ/二重の罪 dvdc.jpg The Adventure of the Cheap Flat(5 Feb. 1991).jpg 名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 dvdc.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.9 [DVD]」(「二重の罪」「安いマンションの事件」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 40号 (二重の罪) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 41号 (安いマンションの事件) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 03.jpg 暫く面白い事件もなく、ポワロは落ち込んで引退を口走り、へイスティングスを連れて北部の海辺の町ウィットコムに観光に赴く。町にはジャップ警部の講演ポスターが貼られ、本人も姿を見せるが何故かポワロは素っ気無い。ヘイスティングスはポワロ名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 04.pngを、湖の町ウインダミアへのバス旅行に誘う。二人はバスの中でメアリーという娘と知り合った。彼女は、骨董屋を営む叔母から、掘り出し物の画集を得意先に届けるように頼まれていた。ポワロが気に留めたもう一人のバス客は、貧弱な口髭の青年で、これは態度が失礼だったため。観光地でヘイスティングスがメアリーとランチをしている時、メアリーは突然走り出し、自分のスーツケースをその青年が盗ろうとしていると...。しかし、これは間違いで、よく似たスーツケースだったようだ。その夜、ヘイスティングスらと同宿のホテルでメアリーは、画集が盗まれたと言って騒ぎ出す。盗難届を出し、得意先にも行くと、既に絵は何者かによって得意先に売却されていた―(第16話「二重の罪」)。

名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 アンチーク.jpg 「名探偵ポワロ」の第16話(第2シーズン第6話)で本国放映は1990年2月11日、本邦初放映は1991年1月22日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。

名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪02.jpg このプロットには誰でもまんまと引っ掛かるのではないでしょうか。前半部分が映像上の"叙述トリック"になっていないか、もう一度観直してみる必要はある気がしますが、プロット自体は原作にほぼ忠実に作られているようです。ポワロの謎解きが終わった後、共犯者がポワロに毒づき、そのことによって、ああ、共犯者もいたのかと思い出したくらいですから、自分もヘイスティングスと似たようなものか。

 ポワロが引退を仄めかし、ヘイスティングスが中心になって捜査するとというのは、映像版のオリジナルのようで(但し、ヘイスティングスは例によって"空振り"をする)、短編の場合、サイドストーリーを加えて話を膨らますというのはよくあります。ポワロがこの海辺の町を行先に選んだところ、偶然そこでジャップ警部が講演会に呼ばれていたかのように思われましたが、実はそうではなかったことがエピローグで明かされ、更にポワロが最初イラついていた理由まで分かるというのが上手いです。

 「二重の罪」とは、盗難品では原則として所有権は移動しないため、理論上は同じ手口で再犯が可能であることを指していると思われますが、法的には、占有権とのしのぎ合いでグレーゾーンも存するように思えます(英国の裁判所はどう判断するのか)。


名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 02.jpg ポアロは、あるパーティーで、若夫婦のロビンソン夫妻から自分たちが分不相応な高級マンションを格安で借りることが出来たという話を耳にし、この話の背後に何か事件が拘わっていると考え捜査に乗り出す。一方、スコットランドヤードでは、ジャップ警部が、アメリカからやって来たFBI捜査官たちと、国際的なスパイ事件に関する合同捜査を行っていた―(第17話「安いマンションの事件」)。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 レモン.png  「名探偵ポワロ」の第17話(第2シーズン第7話)で本国放映は1990年2月18日、本邦初放映は1991年2月5日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「安アパート事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「(「安アパート事件」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「「安アパートの冒険」)などに所収。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 eiga.jpg 冒頭でポワロ達が観ている映画はジェームス・キャグニー主演の「Gメン」('35年)という作品だそうで、当エピソードも、雰囲気的にはアメリカの犯罪サスペンス映画の雰囲気を取り入れたものと言えるでしょうか。プロット的には面白かったです(アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』所収の「赤毛組合」に着想がやや似た印象も)。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 set.jpg ただ、アメリカで起きた事件の屋外シーンが、見るからにバックが"書割り"風で(高層ビル街などは垂れ布に描いた風)、パリのナイトクラブのシーンが雰囲気があっただけに、ギャップが大きかったように思います(好意的に解釈すれば、パリのナイトクラブは今ポワロ達が見ている光景であるのに対し、アメリカでの事件は、ポワロが謎解きに際して想像したものを映像化したものであるから、わざと作り物風にしているのだと?)。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件3.png FBIの態度のデカい捜査官が、最初はポワロのことを小馬鹿にしていたのが、最後は素直にその能力を認め、感謝と脱帽の意を表しているのが快く、ポワロもさることながら、ジャップ警部も溜飲を下げたのでは。

 2篇とも、プロット的には面白かったです。それと、ミス・レモンが、第16話「二重の罪」では夢の中でポワロの示唆を得て失くした鍵を見つけ出し、第17話「安いマンションの事件」では、ポワロの指示で単独潜入捜査をして成果を得るなど(ポワロも危ないことさせるなあ)、かなり彼女に焦点が当たっているように思いました。

Double Sin  .jpg「名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:DOUBLE SIN●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/11●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/キャロライン・ミルモー(メアリ・ダラント)/エルスペット・グレイ(エリザベス・ペン)/アダム・コッツ(ケイン)●日本放映:1991/01/22●放映局:NHK(評価:★★★☆)

Agatha Christie's Poirot (1989-2013) Double Sin


名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件9.png「名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件(安アパート事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE ADVENTURE OF THE CHEAP FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/18●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン/ラッセル・The Adventure of the Cheap Flat.jpgマレイ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジョン・ミッチー(ジェームス・ロビンソン)/サマンサ・ボンド(ロビンソン夫人)●日本放映:1991/02/05●放映局:NHK(評価:★★★☆)

The Adventure of the Cheap Flat

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ギャング映画っぽさとユーモアが楽しめる(第13話)。最後は警部に手柄を譲った?(第14話)。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑 dvdc.jpg 名探偵ポワロ13/消えた廃坑 01.jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 36号 (コンウォールの毒殺事件).jpg
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名探偵ポワロ13/消えた廃坑6.jpg ポワロは残高の確認のため銀行へ行くが、引き出しオーバーで赤字と言われ激昂する。その深夜、ポワロの元にピアソン頭取が訪ねてきた。謝罪に来たのかと思ったポワロだが、事件の依頼である。銀行はウー・リンという中国人から、鉱山の場所を示す高価な地図を買う事になっていたのだが、約束の重役会にウー・リンは現れず、行方が分からないという。その翌日、ウー・リンの死体が発見されるが、地図は消えていた―(第13話「消えた廃坑」)。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑.jpg 「名探偵ポワロ」の第13話(第2シーズン第3話)で本国放映は1990年1月21日、本邦初放映は1990年7月25日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「消えた鉱山」)などに所収。

 米エドガー賞の1992年 TV エピソード部門賞受賞作。中篇の割には結構凝っていたなあと。冒頭のウー・リンが重役会に現れず、焦る頭取など、若干"叙述トリック"っぽい箇所もありますが、まあ、佳作と言えるのでは。名探偵ポワロ13/消えた廃坑 4.jpg中華街のカジノ(アヘン窟でもある)での捜査など、ギャング映画っぽい雰囲気もあったし、一方で、ロンドン警察の最新システムという、無線連絡に沿って3人の婦警が地図上でミニチュアのパトカーを動かす奇妙な捜査方法などが出てきて、"ハードボイルド風"と"ホントウかいな風"が混在し、最後は、ポワロがウー・リンのパスポートと見せかけて...と、色々楽しめました。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑 モノポリー.jpg 冒頭のポワロが銀行のピアソン頭取が来たのを、謝罪しに来たのと勘違いする場面も可笑しく(原作のピアソンはビルマ鉱業の重役)、さらに可笑しいのが、モノポリーに真剣にハマっているポワロとへースティングス。ポワロは最初劣勢で、「駅にはホテルは建てられないよ」と指摘され、「実際にはあるじゃないか」「でもルールだし...」「じゃあルールが間違ってるんですよ!」とここでも激昂。「スキルなんかは全然関係のないゲームだね」と言っていたのが、ジャップ警部が訪ねてきてもゲームに熱中。事件が解決する頃にはへースティングスに圧勝し、全く逆の発言に...。因みに、残高不足はポワロの入金し忘れが原因でした。

 第10話「夢」、第11話「エンドハウスの怪事件」、第12話「ベールをかけた女」の犯人は、皆ポワロに悩みを打ち明けたり相談を持ちかけたりするふりをしてポワロを騙そうとして、結局墓穴を掘ってしまった...。このエピソードの犯人も同じ轍を踏んだと言えます。


名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件02.png 雨の降る寒い日、ポワロの元に中年の女性が訪ねて来る。コーンワルのポルガーウイズに住む歯科医の妻ペンゲリー夫人である。夫人は胃の痛みを訴え、夫が助手のエドウィナといい仲になり、自分を殺すために毒を盛っているのではないかと話す。翌日、ポワロとヘイスティングスは夫人の住むコーンワルへ赴く。しかし、既に夫人は毒殺されていた―(第14話「コーンワルの毒殺事件」)。

 「名探偵ポワロ」の第14話(第2シーズン第4話)で本国放映は1990年1月28日、本邦初放映は1990年8月1日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「コーンウォールの毒殺事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「コーンウォールの謎」)などに所収。

名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件0.jpg ペンゲリー夫人への訪問を、彼女の方から訪ねて来た日の翌日ではなくその日にしていれば、夫人は殺害されずに済んだのではないかとの自責の念から、ポワロの事件捜査は夫人の弔い合戦の様相を呈し、また、おそらく裁判にかけられるであろう夫のペンゲリーを絞首台送りにしないためにも―と、結構最初から力が入っています。そして、ペンゲリーは実際に捕まり、裁判にかけられます(推理ドラマの"逆転のセオリー"からすれば、まず間違いなく無実だろうとの予測はつくが、その割には、当のペンゲリーは法廷でも無力化していたなあ。妻が亡くなったショックからか。毒殺事件において自らの無実を実証することの困難さというのもあるかも)。

 事件そのものは、犯人は登場した時から何となく犯人っぽかったし、ポワロにとってそう難しくなかったかなあ。最後に犯人に、自白書にサインすること(結局、状況証拠しか無かったから?)とバーターで24時間の逃げる猶予を与えたというのは、最初捜査に力が入っていた割にはあれっという感じでしたが、と思ったらその直後、すたすたと裁判所に行って自白書を見せ、今度はへースティングスの方が、24時間の猶予を与えたことに拘っている?

名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件 last.jpg 最後、公判中のペンゲリーが犯人だと信じきって、のんびり立ち食いなんぞをしているジャップ警部に、ポワロが「勝算のない戦を続けるより、負けを認めるほうが利口です」と言って去っていったところへ、部下からの真犯人は別にいたとの報。ジャップ警部は「ポアロめぇっ!」と怒鳴りますが、ポワロが犯人を逃がす際に「2日以内に捕まる」と予言していることからすると、ジャップ警部に手柄を立てさせるための所為だったともとれます。因みに、それより前の事件直後に、ポワロはヘイスティングスに対し、警察はペンゲリーを逮捕し、彼が裁判にかけられることも予言しており、"ポワロの予言は的中する"ことの伏線になっているという構図が上手いと思いました。

 2篇とも星4つに限りなく近い星3つ半といったところでしょうか。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑splash.jpg「名探偵ポワロ(第13話)/消えた廃坑」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE LOST MINE●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/14●監督:エドワード・ベネット●名探偵ポワロ[完全版]Vol.7.jpg脚本:マイケル・ベイカー/デビッド・レンウィック●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/アンソニー・ベイト(ピアソン頭取)/ジェームズ・サクソン(レジー・ダイアー)●日本放映:1990/07/25●放映局:NHK(評価:★★★☆)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.7 [DVD]」(「ベールをかけた女」「消えた廃坑」所収)

名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件01.jpg「名探偵ポワロ(第14話)/コーンワルの毒殺事件(コーンウォールの毒殺事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE CORNISH MYSTERY●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/28●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エク名探偵ポワロ[完全版]Vol.8.jpgストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジェローム・ウィリス(エドワード・ペンゲリー)/アマンダ・ウォーカー(ペンゲリー夫人)●日本放映:1990/08/01●放映局:NHK(評価:★★★☆)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.8 [DVD]」(「コーンワルの毒殺事件」「ダベンハイム失そう事件」の2話収録)

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まあまあ楽しめた2篇。○○していた犯人(第10話)、今度はポワロが○○?(第12話)。

名探偵ポワロ10夢 dvdc.jpg 名探偵ポワロ10 夢 01.png  名探偵ポワロ12ベールをかけた女 dvdc.png ポワロ ベールをかけた女 ポワロ.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 33号 (夢) [分冊百科] (DVD付)」 「名探偵ポワロDVDコレクション 34号 (ベールをかけた女) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ10 夢 9.jpg 創立50周年の式典を行っているパイ工場。そのパイ工場の経営者ファーリーから一通の手紙を受け取ったポワロは、工場内にある彼の家を訪ねる。毎晩繰り返し、自分が自殺する不可解な夢を見ると彼は言い、誰かが催眠術で自分を殺そうとしているのではと疑っているのだった。ポワロは、その態度や依頼ともつかない彼の話に釈然としないまま工場を後にした。後日ファーリーが、ポワロに話した夢と同じような方法で自殺をする。しかしポワロは、その死に疑問を持ち調査を始める―(第10話「夢」)。

AGATHA CHRISTIE'S POIROT  THE DREAM夢1.jpg 「名探偵ポワロ」の第10話(第1シーズン第10話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年7月11日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。

名探偵ポワロ10夢7.jpg サイコ・ミステリと思わせておいて...というのは、クリスティ作品に結構あるパターンではないでしょうか。今回はポワロはかなり行き詰った様子を見せ、「若い頃の放蕩」が今になって祟ったのではないかと彼らしからぬことまで口にしますが(ヘイスティングスもこのポワロには似つかわしくない言葉にはさすがに唖然とする)、偶々ポワロに時刻を聞かれたミス・レモンが窓を開けて時計台を見て答えた、その何でもないような彼女の行動を見て一気に閃きます。

AGATHA CHRISTIE'S POIROT  THE DREAM夢2.jpg では、その前までは、どこまで判っていたのか。ファーリーに例の手紙を返してくれと言われて最初別の手紙を返したのは単純ミスだったのか。でも、何となくおかしい雰囲気は感じていたようでした(自分も感じたけれど、どこがおかしいかは全然分からなかった)。結局、ポワロは犯人が○○していたのを見破ったわけですが、それは、ミス・レモンの啓示より前か同時か、気になるところです。

 エピローグで、ポワロはミス・レモンに感謝のプレゼント。ミス・レモンは、タイプライターの調子が悪くて新しい物への買換えを以前からポワロに訴えており、今回も直訴したばかり。やっとボスに聞き入れられたかと思ったら、包みの中から出てきたのは...(笑)。ポワロは自分で自分を「従業員に理解がありすぎる(だから件の工場主のような富豪になれない)」と思ってるのが、これまた可笑しいです。


ベールをかけた女 .jpg ポワロたちが、最近起きた宝石泥棒の話をしていると、伯爵令嬢のミリセントがある捜査の依頼をしにやってくる。公爵と結婚することになっている彼女は、ラビントンという男に、昔の恋人に出した手紙をネタにゆすられており、その手紙を取り返してほしいというのだ。ポワロはラビントンと交渉するが、話はポワロ ベールをかけた女 01.jpg決裂する。やむなく、ポワロはヘイスティングスと共にラビントン家に押し入るが―(第12話「ベールをかけた女」)。

 「名探偵ポワロ」の第12話(第2シーズン第2話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年7月11日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「ヴェールをかけた女)」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「ヴェールをかけた貴婦人」)などに所収。

ポワロ ベールをかけた女 錠前屋.jpg 第10話「夢」では犯人が○○していましたが、今回はポワロが錠前屋を装ってラビントン家に単独入り込んで細工を施し、夜にまた、今度はヘイスティングスを伴って侵入、例の手紙は見つかりますが、通いだったはずの家政婦がいて警官に通報され、逃げ遅れたポワロのみ留置場に入れられてしまうという展開(但し、留置場に入れられるのはドラマのオリジナル)。

ポワロ ベールをかけた女 09.jpg 家政婦は最初から怪しいと思っていたということで(ということは「通い」というのがウソだったのか)、変装やアクションがイマイチなのがポワロらしいというか、先ずそれ以前に、スーパーマリオ・ブラザーズみたいな格好の"スイス人"錠前屋に扮したり、黒のニット帽を被って上下黒ずくめの出で立ちで不法侵入の危険を冒すところはポワロらしくないというか。やっぱり、結構ユニークなエピソードと言えるかも。

 結局、最初にあった宝石泥棒の話とリンクしていたわけかあ。まあ、箱を振ったら、中に何か入っているなって分かるだろうなあ。最後、貴婦人然とした美人が忽ちに豹変するところは、第11話「エンドハウスの怪事件」と重なりました。「名探偵ポワロ」の作品中で唯一、クレジットのゲストキャストに役名の表示が無い作品だそうで、まあ、律儀と言えば律儀です。

 2話とも、中篇としてはそこそこに楽しめました。

The Dream.jpg名探偵ポワロ夢11.jpg「名探偵ポワロ(第10話)/夢」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE DREAM●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/アラン・ハワード(ベネディクト・ファーリー)、ジョエリー・リチャードソン(ジョアンナ・ファーリー)●日本放映:1990/07/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Dream

The Veiled Lady.jpg「名探偵ポワロ(第12話)/ベールをかけた女(ヴェールをかけた女)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ: THE VEILED LADY●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/14●監督:エドワード・ベネットポワロ ベールをかけた女09.jpg●脚本:クライブ・エクストン●時間:54分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/フランシス・バーバー(レディー・ミリセント)/キャロル・ヘイマン(ゴッドバー夫人)●日本放映:1990/07/18●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Veiled Lady

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犯人逮捕という場面がない2作。ちょっと凝り過ぎ?(第8話) ややご都合主義?(第9話)。

名探偵ポワロ 完全版4.jpg 名探偵ポワロ 謎の盗難事件 dvdc.jpg   名探偵ポワロ 完全版5.jpg 名探偵ポワロ クラブのキング DVDC.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.4 [DVD]」(「海上の悲劇」「なぞの盗難事件」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 31号 (なぞの盗難事件) [分冊百科] (DVD付)」 「名探偵ポワロ[完全版]Vol.5 [DVD]」(「クラブのキング」「夢」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 32号 (クラブのキング) [分冊百科] (DVD付)」   

なぞの盗難事件.jpgAgatha Christie's Poirot The Incredible Theft.jpg 新型戦闘機の開発設計を手がける夫メイフィールドがドイツのスパイとの噂のあるバンダリン夫人を屋敷に招待していると知ったメイフィールド夫人。悩んだすえ国家の一大事とポワロに依頼し、屋敷に招くことに。その夜、まんまと設計図が紛失し、バンダリン夫人が盗んだと思われたが―(第8話「なぞの盗難事件」)。

Agatha Christie's Poirot The Incredible Theft dvd.bmp 「名探偵ポワロ」の第8話(第1シーズン第8話)で本国放映は1989年2月26日、本邦初放映は1990年3月10日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)などに所収。

ポワロ第8話/なぞの盗難事件1.jpg 意外と凝っていたなあと。ポワロは、バンダリン夫人は犯人ではないと早々と宣言していましたが、ではシロかと言うとそうとも言えないのではないでしょうか。しかし、ドイツのスパイ組織と交渉したにしても、こんな面倒なトリックを使うかなあという気もしました(ポワロに見破られるための契機をわざわざ作ったことになる)。ちょっと凝り過ぎ?

ポワロ第8話/なぞの盗難事件3.jpg 最後、夫婦間の信頼が回復できて「めでたし、めでたし」、ポワロも表向き笑みを隠しながら、実は目を細めニッコリという感じですが、夫がかつて軍事秘密を敵国(日本)に売ったというのは、恐喝ネタになっていたということからすると本当だったということか。まあ、過去のことより、今のことの方が大事?

 ジャップ警部と同室の宿になってその寝言に悩まされウンザリしていたヘイスティングスが、終盤ではバンダリン夫人の車を追いかけるカーチェイスでドライビング技量を発揮して、水を得た魚のように活き活きした感じになっているのが微笑ましかったです。


ポワロ9/クラブのキング 02.jpgポワロ9/クラブのキング dvd.jpg ポワロは、ヘイスティングスの友人が監督をしている撮影現場を見に行く。主演は人気絶頂の美人女優ヴァレリー、夫役はサイレント時代の大スター・ウォルトンだが、彼は酔っており台詞も満足に言えない。そして、現場で我もの顔にふるまっているプロデューサーのリードバーンがいた。ヴァレリーはある国の皇太子ポールと婚約しているが、リードバーンに何やら弱みを握られているらしい。その夜、ポワロの元に一本の電話がかかる。自宅にてリードバーンが殺され、第一発見者ヴァレリーの潔白を証明してほしいという依頼だった―(第9話「クラブのキング」)

ポワロ9/クラブのキング 01.jpg 「名探偵ポワロ」の第9話(第1シーズン第9話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年3月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「クラブのキング」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「クラブのキング」)などに所収。

ポワロ9/クラブのキング4.jpg これも結構凝っていました。原作の興行主とダンサーの関係がプロデューサーと女優に置き換わっていますが、事件当夜ボスの自宅玄関前に三人の男女が次々と現れ慌てて立ち去る姿が見られたというのは原作と同じ。最初、オグランダー家(ここへヴァレリーが逃げ込み匿われる)でその家の家族たちポーカーをしていたその痕跡にポワロがこだわっている意味が不明でしたが、後でナルホドねと。但し、家族として義絶しているのに、隣りなり(プロデューサーの家の隣りだが)近所なりに住んでいるというのはご都合主義的な印象も受けます。

The Adventure of the King of Clubs.jpg それと、やはり最後は「めでたし、めでたし」ですが(丁度嫌な奴もいなくなったことだし?―コレ、制作に口出しするプロデューサーを揶揄してる?)、事件そのものは「傷害致死」が成立しているとも言える状況でありながら、ポワロが意図的に迷宮入りにしてしまったとも言える結末で(これはドラマのオリジナルで、原作ではこの「傷害致死」に該当する部分が無かったのではないか)、この辺りが何となく素直に「めでたし、めでたし」とは言えない印象も。原作では、オグランダー家が家族を一徹なまでに守り切り、ポワロはそれに押されたという感じだったでしょうか(正確には未確認)。少なくともドラマでは、ポワロは積極的にオグランダー家に加担した印象を受けます(ポワロの台詞「家族万歳」!)。

ポワロ9/クラブのキング03.jpg ただ、死んだリードバーンから排斥され関係が険悪だったジプシー(ロマ)の中に犯人はいるのではないかとハナから疑ってかかって、真相からほど遠いところを漁っているジャップ警部からすれば、"ポワロにも解けない事件がある"というのは安心材料なのかも。

 「第4話/24羽の黒つぐみ 」で抽象絵画をバカにしていたかのように見えたヘイスティングスが、今度は前衛芸術を前にキュビズムの講釈をする変わりようですが、それをポワロは殆ど聞き流しているのが可笑しいです。

 共に「犯人逮捕」という場面がない2作。第8話「なぞの盗難事件」はやや凝り過ぎと言うか、こんな手の込んだことをするかという感じで、第9話「クラブのキング」はややご都合主義なのと、やはり「傷害致死」っぽいのが気になりました。

The Incredible Theft_.jpg第8話)/なぞの盗難事件.jpg「名探偵ポワロ(第8話)/なぞの盗難事件(謎の盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE INCREDIBLE THEFT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/26●監督:エドワード・ベネット●脚本:デビッド・リード●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジョン・ストライド(トミー・メイフィールド)/シアラン・マッデン(レディー・メイフィールド)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)

The Incredible Theft

ポワロ9/クラブのキング2.jpg「名探偵ポワロ(第9話)/クラブのキング」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE KING OF CLUBS●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:レニー・ライ●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ニーヴ・キューザック(バレリー・サンクレア)/ジャック・クラフ(ポール皇太子)/Jonathan Coy(バニー・ソーンダース監督)/David Swift(リードバーン)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)

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自宅マンションでの事件(第5話)とアレクサンドリアでの事件(第7話)。何れも"速攻"解決。

4階の部屋 ポワロ DVDブック.jpg 4階の部屋01.jpg 海上の悲劇 dvdbook.jpg 海上の悲劇 03.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 28号 (4階の部屋) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 30号 (海上の悲劇) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ 4階の部屋 1.jpg ポアロが住むホワイトヘイブンマンションの自宅56Bの二階下36B号室に、裕福なグラント夫人が引っ越してくる。 ポアロはこのところ風邪をこじらせて自室に閉じこもったまま元気が無く、見かねたヘイスティングスがポアロを推理劇に誘う。観劇で二人は、ポアロの直ぐ階下46B号室の住人で 若い女性パトリシア・マシューズを見かける。劇が終わり、アパートに戻ったマシューズと友人達は部屋の鍵が無い事に気付き、友人のドノバンとジミーがゴミ用エレベーターから入ろうとするが、間違えて1つ下の36B号室に入ってしまう。そこで二人はグラントの夫人の死体を発見する―(第5話「4階の部屋」)。

ホワイトヘイブン・マンション.jpg 「名探偵ポワロ」の第5話(第1シーズン第5話)で本国放映は1989年2月5日、本邦初放映は1990年2月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』(「四階のフラット」)、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』(「四階の部屋」)などに所収。

 ジャップ警部の言うように、まさにポワロのお膝元で起きた事件で、お蔭でポワロがどんなマンションに住んでいるかが分かりましたが、実はマンションのポワロの部屋の外部の共有部分はいつもと別のマンションを使って撮影されたようです。イギリスでは日本の1階に当たる部分が "the ground floor"で、2階に当たる部分から1階、2階と数え始めますが、この「4階の部屋」というのは、事件があった36B号室があるフロアなのでしょう。原題では"The Third Floor Flat"となっています。

名探偵ポワロ 4階の部屋 0.jpg 原作を多少変えているようですが、引っ越して来たグラント夫人が、1つ上の階のパトリシア・マシューズが友人と音楽とダンスに興じ、下の自分の階に響いてウルサイため、手紙で苦情を伝えようとした―と思わせる所は上手いと思いました。ただ、お手伝いが、部屋に入って来て死体に気づかないまま寝てしまったというのはどうか。何れにせよ、犯人を推理するのは無理な"知られざる背後関係"設定であり、それでもポワロは推理してしまうわけですが(しかも"速攻"で解決!)、意外性は楽しめる作品ではないでしょうか。

 ヘイスティングスに推理劇の犯人当てで10ポンドを賭けて(推理劇ってインターミッションがあるわけか)、その取ってつけたようなオチに憤っていたポワロですが、ちゃんと10ポンドの小切手を切っていたのは律儀。ただ、本編も、見方によっては...。


海上の悲劇 02.jpg海上の悲劇 2.jpg ポワロとヘイスティングスが船で乗り合わせたクラパトン大佐夫妻。夫人は傍若無人な言動をくり返すが、大佐はそんな妻にも献身的だった。それには夫人の古い友人の将軍も憤ったり呆れたりしている。ところが、船がアレクサンドリア港に停泊中、大佐が船に戻ると、鍵のかかった船室で夫人は殺されていた。アレキサンドリアの警察に介入されたくないというと船長の意向でポワロは捜査に乗り出す―(第7話「海上の悲劇」)。

海上の悲劇 00.jpg 「名探偵ポワロ」の第7話(第1シーズン第7話)で本国放映は1989年2月19日、本邦初放映は1990年3月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『黄色いアイリス』(「船上の怪事件」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角』(「海上の悲劇」)などに所収。

海上の悲劇 01.jpg 優雅の地中海クルーズとそれに参加している貴族趣味っぽい乗客たち。どういう訳か、その中におそらく休暇中と思われるポワロとヘイスティングも混ざっています(ジャップ警部とミス・レモンは"お休み")。乗客の中でもとりわけ皆から嫌われているのがクラパトン夫人で、大佐はよくあんな女性の夫でいるものだと陰口を叩かれる始末。殺され海上の悲劇 09.jpgるならこの夫人だろうと思って観ていましたが(そうすれば皆が容疑者になるから)、肝腎の事件はなかなか事件は起こらず、船はアレクサンドリア港に寄港。「地中海殺人事件」ではないですが、観光情緒はそこそこ味わえます。TV版としては結構贅沢な方かも。

 そして、ようやっと中盤で殺人事件が...。別に船長の意向でなくたっても、ポワロは捜査に乗り出したろうなあ―と思ったら、これまた"速攻"で解決(残り時間の関係で?)。皆の前で謎解きをしてみせる場面は小道具や子供まで使って芝居がかっていましたが、それなりの効果はありました。あんなのやられて、犯人は名指しされる前にギブアップでしたね。但し、これも、観ていてトリックを見破るのはほぼ無理("いっこく堂"かあ)。束の間の観光気分が味わえた分だけ、星半分オマケです。

The Third Floor Flat L_.jpg4階の部屋03.jpg「名探偵ポワロ(第5話)/4階の部屋」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE THIRD FLOOR FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/05●監督:エドワード・ベネット●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /スザンヌ・バーデン(パトリシア・マシューズ)/ジョシィ・ローレンス(グラント夫人)●日本放映:1990/02/17●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Third Floor Flat

Problem at Sea
Problem at Sea_.jpgPROBLEM AT SEA.jpgo海上の悲劇70.jpg「名探偵ポワロ(第7話)/海上の悲劇(船上の怪事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: PROBLEM AT SEA●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/19●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /ジョン・ノーミントン(クラパトン大佐)/シェリア・アレン(クラパトン夫人)/ベン・アリス(ファウラー船長)●日本放映:1990/03/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)

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両作品とも犯人自体は雰囲気で判ってしまう。気負わずに気軽に楽しめる作品。

名探偵ポワロ[完全版]Vol.2.jpgジョニー・ウェイバリー誘拐事件 dvdコレクション.jpg ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 00.jpg  二十四羽の黒つぐみ dvd.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション26号 (ジョニー・ウェイバリー誘拐事件) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション27号 (24羽の黒つぐみ) [分冊百科] (DVD付)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.2 [DVD]」(「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」「24羽の黒つぐみ」所収)

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 3.jpg 地方の大地主マーカス・ウェイバリーが、ポワロのところへ相談に訪れる。5万ポンドを支払わないと、翌日息子ジョニーを誘拐するという脅迫状を受け取ったと言うのだ。ヘイスティングスは、ウェイバリーの話を半信半疑で聞いていた。ポワロは、ウェイバリーを連れてジャップ警部を訪ねるが、ジャップ警部もまた事件としては扱ってくれない。事件を未然に防ぐことが重要だと考えるポワロは、ウェイバリー邸に赴き、やがてジャップ警部も部下を引き連れ警戒にあたるが、2人はジョニーを目の前で誘拐されてしまう―(第3話「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」)。

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 2.jpg デヴィッド・スーシェ主演の英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第3話(第1シーズン第3話)で本国放映は1989年1月22日、本邦初放映は1990年1月27日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 syokuji.jpg 振り返ってみれば、この回のポワロは結構犯人に翻弄されて、現場を離れた隙に子供を誘拐されてしまうなど複数のミスしている感じがするのですが(時計が10分進められていたことにポワロもジャップ警部も気ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 屋敷.jpgづかなかったというのはちょとねえ)、その割には「足行水」などして若干のんびりした雰囲気がするのは、事件が誘拐であって殺人事件ではないためか、それとも翻弄されているように見えて実は早い段階でポワロには犯人の目星がついていたためか。

 ポワロならずとも、犯人は観ていて大体見当がつくのでは。後は共犯者と動機がポイントでしょうか。こちらはちょっと推理が難しい?
  「名門」と「お金持ち」の違いは夫婦の間でもあるのか。邸の増改築を巡る夫婦間の意見対立という伏線はありましたが、そんなことより、邸宅と庭園の美しさを楽しむ一作だったかも。


24羽の黒つぐみ3.jpg 友人の歯科医ボニントンとレストランで食事をしたポワロは、そこの常連客であるという老人が最近長年の習慣にないメニューを口にしたという話に興味を惹かれる。数日後、その老人は遺体で発見され、警察は階段からの転落事故死と判断したが、ポワロは老人が死の直前にレトランでとった行動の不自然さから不審を抱き、独自に調査に乗り出す―(第4話「24羽の黒つぐみ」)。

24羽の黒つぐみ0.jpg 英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第4話(第1シーズン第4話)で本国放映は1989年1月29日、本邦初放映は1990年2月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。

24羽の黒つぐみ1.png ミス・マープル物の長編『ポケットにライ麦を』と同じくマザーグースの"6ペンスの歌"がモチーフとして使われていますが、『ポケットにライ麦を』ほどには歌詞がプロットに絡んでいないように思いました。

 原作では亡くなった老人ヘンリー・ガスコインが売れない画家だったのに、この映像化作品では売れっ子画家に変更されていて、その遺作に価値があるとの設定に。そのため容疑者の幅が原作より若干は出ていますが、結局、連続殺人事件で容疑者の1人が亡くなってしまうため、ポワロ自身が言うように、自ずと容疑者が絞られる状態になったように思います。

24羽の黒つぐみ2.jpg ポワロが歯の治療中で肉料理が食べられず、自分で肉料理を作ってヘイスティングスに食べさせ、その味はどうかしきりに気にするという場面が可笑しかったし、抽象絵画を観てそのタイトルが「鳥に石を投げる男」だと聞いてヘイスティングスが「ほぅ。で、どっちが男?」と言ったり、ポワロがクリケットの試合に夢中で気も漫(そぞ)ろのヘイスティングスにイラついたり皮肉を言ったりしつつ、ラストで自ら試合結果を分析してみせヘイスティングスを唖然とさせる場面なども楽しいです。ただ、こうした場面ばかり印象に残って、ポワロの鋭さというのは意外と感じられなかったような気も。

 両作品とも短編がベースであり、犯人探し自体はそう難しくないと言うか、雰囲気で判ってしまうところがあります。でもその分、あまり気負わずに気軽に楽しめる作品ではあります。

The Adventure of Johnnie Waverly_.jpgジョニー・ウェイバリー誘拐事件01.jpg「名探偵ポワロ(第3話)/ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF JOHNNIE WAVERLY●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/22●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ジェフリー・ベイトマン(マーカス・ウェイバリー)/ジュリア・チャンバース/DOMINIC ROUGIER●日本放映:1990/01/27●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Adventure of Johnnie Waverly

Four and Twenty Blackbirds_.jpg24羽の黒つぐみ4.jpg「名探偵ポワロ(第4話)/24羽の黒つぐみ」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:FOUR AND TWENTY BLACKBIRDS●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/29●監督:レニー・ライ●脚本:ラッセル・マレー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /リチャード・ハワード(ジョージ・ロリマー)/トニー・エイトキン(トミー・ピナー)/CHARLES PEMBERTON/GEOFFREY LARDER/DENYS HAWTHORNE/HOLLY DE JONG●日本放映:1990/02/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)
Four and Twenty Blackbirds

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記念すべき本国及び日本放映第1話。シーズンのスタートにしてはやや大人しい感じの滑り出し。

コックを捜せ dvd.jpg コックを捜せ ポワロ へニングス レモン.jpg ミューズ街の殺人 dvd.jpg ミューズ街の殺人1.jpg  
名探偵ポワロDVDコレクション 24号 (コックを捜せ) [分冊百科] (DVD付)」 「名探偵ポワロDVDコレクション 25号 (厩舎街の殺人) [分冊百科] (DVD付)

コックを捜せ 依頼.jpg ヘイスティングスが新聞に載っている面白そうな事件を読み上げてみても、国家的重大事件でなければ引き受けないと言うポワロ。そんな彼のもとへコックが失踪したから探してくれという夫人が現れる。依頼を拒否しようとするポワロだったが、夫人から、熟練したコックがいなくなるのは家宝の宝石を失うに等しい国家的事件だと言われて、これは失礼だったと依頼を受けることに。ポワロが話を聞いた下働きの女性は、彼女は奴隷商人に誘拐されたに違いないと言うが、荷造りしていたために、誘拐ではなく、自分から姿を消したのだとポワロは考える。家に下宿している銀行員にも事情を聞くが、何も知らないと言う。彼の勤める銀行では証券紛失事件があり、不審に思ったポワロだが、そうこうするうちに依頼主の夫人から、コックが勝手に出て行ったなら依頼は取り消しだと1ギニーが送られてきてまう―(第1話「コックを捜せ」)。

熊倉一雄 ポワロ.jpgTHE ADVENTURE OF THE CLAPHAM COOK.jpg デヴィッド・スーシェの主演英国LWT(London Weekend Television)制作「名探偵ポワロ」(ポワロの声の吹き替えは、昨年['15年]10月に88歳で亡くなった熊倉一雄が最終シリーズまで務めた)の第1シーズン第1話で本国放映は1989年1月8日、本邦初放映は1990年1月20日(NHK)(記念すべき第1話だが、日本での放送は第2話の方が1週先だった)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「料理人の失踪」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「料理女を捜せ」)などに所収。

コックを捜せ 銀行家.jpgコックを捜せ 弁護士.jpg 結局、コック失踪事件は銀行の横領事件から殺人事件へと発展していき、プロットの密度は濃いですが、これでほぼ原作通りのようです。失踪したのはコックと言うより家付きの料理女といった感じでしたが、完全に犯人い騙されていたのだなあ。しかし、コックを捜せ 料理人.jpg殺人の犯行において死体を隠すというのは結構たいへんであるにしても、それ用のトランク1つのために、弁護士になりすますなどしてここまでやるかなあというのはあります(それで話が面白くなっているも確かだが)。ただ、同居人ということで、彼女がそういう話に乗ってくるタイプだということは読んでいたのでしょう(高齢者を狙った詐欺だね。金を奪うわけではないけれど)。

 ポワロが最初はコック捜しといった些細な仕事をしていることをジャップ警部に悟られまいとしているのが可笑しく、それが何か背後に怪しいものがあるとと思い始めたところへ夫人から依頼の取り消し連絡があって1ギニーが送られてきたことに珍しく激昂、タダでも捜査を続けると言い、さらにその後の事態の思わぬ展開に、最後はどんな依頼も軽んずべからずとして、1ギニーを額に入れて壁に飾る―という展開は巧み。因みに1ギニーは21シリング、1930年代半ばの貨幣価値で25,000円くらいだそうです(ホームズの時代とそう変わらない?)。


ミューズ街の殺人 現場.jpg ガイ・フォークス・デイの夜、こんな晩なら銃声が花火の音にまぎれてしまうので殺人にはもってこいだとヘイスティングスは言うが、その翌日、女性が自宅で射殺体で発見される。被害者は、若き美貌の未亡人バーバラ・アレンで、当初自殺と思われたが、状況に不審な点があり、警察はミューズ街の殺人 0.jpg他殺と断定する。第一発見者は、ルームシェアをしていた女性写真家のジェーン・ブレンダーリースで、彼女にはアリバイがあり、他に容疑者として、被害者のバーバラと婚約していた下院議員ミューズ街の殺人 gate.jpgチャールズ・レイバトン・ウェスと、ジェーンとバーバラの部屋をしばしば訪れていたユースタス少佐が浮上する。さらに、少佐は被害者との過去の愛人関係を理由にして、恐喝していたようだった―(第2話「ミューズ街の殺人」)。

MURDER IN THE MEWS.jpg 英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第2話(第1シーズン第2話)で本国放映は1989年1月15日、本邦初放映は1990年1月13日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)などに所収。"ミューズ"は"Muse"ではなく"Mews(厩舎)"で、転じて厩から通りまでの「路地」を言います。

ガイ・フォークス・デイ.jpg ガイ・フォークス・デイ(11月5日)は、1605年の「火薬陰謀事件」で国会爆破をもくろんだ実行犯のガイ・フォークスが捕らえられたガイ・フォークス お面.jpg記念日で、祭りでは篝火で人形を燃やします(但し、ガイ・フォークスは火刑ではなく絞首刑に処せられた)。英語で「男、奴」を意味する"Guy"は彼の名に由来し、また、ガイ・フォークス・デイに人々が着けるお面は、アノニマス、ウィキリークスのジュリア・アサンジが"抵抗と匿名"のシンボルとして用いています。

ミューズ街の殺人 2.jpg 話の方は、自殺だと思ったら他殺...と思ったら...と二転三転する展開に引き込まれますが、"犯人"はちゃんといましたね。"犯人"と言っていいのかどうか分かりませんが、ポワミューズ街の殺人 nazotoki.jpgロははっきり「殺人未遂」と言ってます。この辺りの厳格さはポワロらしいという気がします。それでも"犯人"の気持ちが分からないでもないですが。

 時代背景の割には、シェアしている部屋や下院議員が使っているスポーツクラブのプールなどがモダンで、その分、結構垢抜けて見える一篇でした。但し、第1話についても言えることですが、元が短編で時間も正味55分であることもありますが、シーズンのスタートにしてはやや大人しい感じの滑り出しであった印象を受けます。

「名探偵ポアロ」.jpg名探偵ポワロ.jpg2名探偵ポワロ.jpg「名探偵ポアロ」 Agatha Christie: Poirot (英国グラナダ(ITV)1989~) ○日本での放映チャネル:NHK→NHK-BS2→NHK-BSプレミアム(1990~)/ミステリチャンネル→AXNミステリー

Agatha Christies Poirot The Adventure Of The.jpg「名探偵ポワロ(第1話)/コックを捜せ(炊事婦の失踪)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF THE CLAPHAM COOK●制コックを捜せG.jpg作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/08●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ブリジット・フォーサイスコックを捜せ dvd1.jpg(トッド夫人)/ダーモット・クロウリー(アーサー・シンプソン)/FREDA DOWIE/ANTONY CARRICK●日本放映:1990/01/20●放映局:NHK(評価:★★★☆)

名探偵ポワロ[完全版]Vol.1 [DVD]」(「コックを捜せ」「ミューズ街の殺人」所収)

「名探偵ポワロ(第2話)/ミューズ街の殺人(厩舎(ミューズ)街の殺人)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:MURDER IN THE MEWS●制作年:1988年●制作ミューズ街の殺人 ゴルフ.jpg国:イギリス●本国放映:1989/01/15●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・Murder in the Mews.jpgレモン) /ジュリエット・モール(ジェーン・プレンダーリース)/デイヴィッド・イェランド(チャールズ・レイバトン・ウェスト)/JAMES FAULKNER/GABRIELLE BLUNT●日本放映:1990/01/13●放映局:NHK(評価:★★★☆)

Agatha Christie's Poirot: Season 1, Episode 2 Murder in the Mews

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細部では色々指摘があるが、プロットの巧みさ、謎が解けた時のスッキリ感の方が勝る。

愛国殺人 hpm c.jpg愛国殺人 hpm 2_.jpg 愛国殺人 ハヤカワミステリ文庫.jpg 愛国殺人 クリスティー文庫.jpg 愛国殺人  .jpg
愛国殺人 (1955年) (Hayakawa Pocket Mystery 207)』『愛国殺人 (1975年) (世界ミステリシリーズ)』『愛国殺人 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『愛国殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』"One, Two, Buckle My Shoe (The Christie Collection)"(ハーパーコリンズ版1996)

愛国殺人 (1955年) (Hayakawa Pocket Mystery 207).jpg ポアロが歯科検診のため歯科医ヘンリイ・モーリイの所に行って自宅に帰ると、ジャップ警部からモーリイが死んでいるのが見つかったとの連絡がある。ポアロがさっきまでいた歯科医院に駆けつけると、診療室の床にモーリイの死体があり、こめかみをピストルで撃ち、足元のピストルからはモーリイの指紋のみが検出される。ポアロの診察は11時で、診察名簿によればポアロの後に治療を受けたのは、11時半に英国の経済を一人で動かしているともいわれる銀行家のアリステア・ブラント、その後に元女優ミス・セインズバリイ・シールが続いた。セインズバリイ・シールは痛みが我慢できないとの電話をかけてきてこの時間にモーリイが割り込ませた急患だった。そして12時にはサヴォイ・ホテル滞在の新患アムバライオティス氏、12時半にミス・ガービイの順だった。ジャップ警部がサヴォイ・ホテルに電話したところ、アムバライオティス氏は12時25分に診療を終え、その時には歯科医は元気だったという。アムバライオティス氏の診療が終わったが、モーリイが次の患者を診療室に入れるように合図するブザーがいつまでも鳴らず、ミス・ガービイは待ちくたびれて怒って帰ってしまっていた。その後で、患者を案内するボーイが診療室を覗いてみてモーリイの死体を発見したのだった。 検死の結果、死亡推定時刻は1時より前であることは間違いなく、歯科医の死はアムバライオティス氏の診療が終わった12時25分から1時の間に起きたと考えられた。ジャップは自殺を主張したが、ポアロは納得しない。自殺か殺人か決めかねるポアロとジャップは、最後の患者アムバライオティス氏をサヴォイ・ホテルに訪ねると、氏は30分ほど前に死亡していた。死因は歯科医が局部麻酔として歯肉に注射するアドレナリンとプロカインの過剰投与で、氏の診療の際に薬の分量を間違え、後でそれに気づいたモーレイが過失を苦に自殺したとジャップは自説を述べる。ポアロPOIROT One, Two, Buckle My Shoe  .jpgはあくまで殺人を主張し捜査を始めるが、今度はミス・セインズバリイ・シールがホテルを出たままどこかに消えてしまう。セインズバリー・シールの行方不明から1カ月経過し、捜査が完全に停滞してしまった頃に、彼女の死体が発見される。チャップマン夫人と名乗る女性のマンションの部屋のなかの、毛皮保管用の衣装箱に死体は詰め込まれていた。死後約1カ月で顔は故意に潰されていた。腐敗も激しく死体の身元の確認はできなかったが、服装や管理人の証言からセインズバリイ・シールと思われた。ところが、モーリイの診療所にあったカルテで歯型を確認すると、死体はセインズバリー・シールではなくチャップマン夫人であることが判明、夫人もモーリイの患者だった。では、ミス・セインズバリー・シールはどこに消えたのか? モーリイ、アムバライオティスの死は他殺なのか?

One, Two, Buckle My Shoe.pngThe Patriotic Murders.jpg 1940年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(『杉の柩』の次)で、原題はマザーグースに由来する"One, Two, Buckle My Shoe"ですが(各章ごと、マザーグースの歌詞に沿って話が展開する)、邦An Overdose of Death5.jpgAn Overdose of Death.jpg訳タイトルは、米国版タイトルの"The Patriotic Murders" に拠っています(その後、米国版は"An Overdose of Death"に改題)。「愛国殺人」の方が、内容にしっくりくるタイトルでしょうか(何故「愛国殺人」というタイトルなのかを詳しく言ってしまうと、イコール犯人は誰かを言ってしまうことになってしまうとも言えるのだが)。

One, Two, Buckle My Shoe (Hercule Poirot).jpg 江戸川乱歩がこの作品を絶賛したとされるように、巧みなプロット構成でした。ここから若干ネタばれになりますが、犯行の偽装工作で、死体の方をとり変えないで(実は元々とり変えようがなかったのだが)カルテの方を改竄したというのは実に巧妙だったと思います。

"One, Two, Buckle My Shoe (Hercule Poirot Mysteries)"

 アムバライオティス氏がモーリイ歯科医の新患だったというのはご都合主義でないかとか、犯人は歯科医での受診の順番をどう調整したのかとか、細部については色々指摘がありますが、セインズバリイ・シールが英国行きの船で一緒だったアンベリオティスに歯医者を紹介して、ついでに余計な昔話までしてしまったという経緯があり、そもそも、最初から全てが犯人によって仕組まれたわけではなく、偶然そうしたことに気づいた犯人が(身の破滅の危機が迫っているということもあって)急遽犯行を思い立ったということでしょう。

 ある殺人を図るために別に殺人を犯すのは危険すぎるのではないのかとかという犯行動機の面でも弱さがあるかもしれませんが、犯人は2人殺そうと3人殺そうと絶対に自分の犯行はバレないという自信家であるとともに、「モーリイの他にも歯医者はいる」という犯人の言葉にみられるように、自分の信念(と言うよりプライド)のためなら他人の命は何とも思わないという、ポワロとは全く相容れない考えの持ち主であることを、それだけ如実に物語っているということなのでしょう。

 他にも、犯人が用いた殺人手段の一つは専門家でないと使えないはずのものだとの指摘もありますが、全体として、序盤はちょっとイライラさせられるような複雑な構成であるものの、終盤に謎が明らかになるとそれらが全て繋がったと解って大いにとスッキリした気分になるという、そのカタルシス感が大きくて、個人的には〈細部の問題〉はあまり気にならなかったように思います。

ポワロ 愛国殺人40.jpgポワロ 愛国殺人50.jpg「名探偵ポワロ(第33話)/愛国殺人(愛国殺人事件)」 (92年/英)★★★☆


【1955年新書化・1975年改訂[ハヤカワ・ミステリ]/1977年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]/2004年再文庫化[クリスティー文庫]】

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ウェルズの万能ぶりが発揮されたフィルム・ノワールの傑作(逸失部分があるのが残念)。

黒い罠 blueray.jpg 黒い罠 dvd.jpg 黒い罠    .jpg
黒い罠 完全修復版 [Blu-ray]」「黒い罠 [DVD]」オーソン・ウェルズ/チャールトン・ヘストン

黒い罠Q1.jpg黒い罠 O.jpg 米国とメキシコの国境で、町の有力者が車に仕掛けられた爆弾によって爆死する。新婚旅行で町に来ていたメキシコ人麻薬捜査官のバルガス(チャールトン・ヘストン)は米国側の刑事クインラン(オーソン・ウェルズ)やその相棒のメンジス(ジョゼフ・キャレイア)らと協力して捜査にあたる。クインランはメキシコ人の容疑者黒い罠H.jpgを逮捕するが、証拠の品はクインランが捏造したものだった。それに気付いたバルガスはクインランの扱った過去の事件を調査すると、過去にも同様にクインラン黒い罠 ジャネット・リー.jpgによって証拠が捏造されたと思われる事件があった。バルガスは警察上層部にクインランを告発するが逆に反論され、警察もクインランに味方する。バルガスの告発に危機を抱いたクイ黒い罠3P.jpgンランは、バルガスに敵対するギャングのグランディ(エイキム・タミロフ)にバルガスの妻スーザン(ジャネット・リー)を誘拐させ、ホテルの一室に連れ込ませる。クインランはその部屋 黒い罠h-7.jpgでグランディを絞殺し、スーザンに殺人の罪を着せようとす黒い罠 9.jpgる。しかしクインランが現場に置き忘れた杖をメンジスが発見し、彼はバルガスに協力することを決意する。メンジスは無線機を身に付けてクインランとの会話を録音し、証拠をつかもうとする。しかしそれを見破ったクインランはメンジスを射殺、後を付黒い罠 オーソン・ウェルズ.jpg黒い罠-44.jpgけていたバルガスをも撃とうとする。が、メンジスが最期にクインランを撃ち、録音された証拠のテープを聞きながらクインランは息絶える。しかしその頃、クインランが捏造した証拠で逮捕されたメキシコ人は、爆弾事件の犯人であることを自白していた―。

Touch of Evil1S.jpg 1958年に作られたこの映画は、当初オーソン・ウェルズは俳優としてのみの起用で、監督は別人に依頼する予定だったのが、ユニヴァーサルがチャールトン・ヘストンと出演交渉を行った際に、ウェルズの出演を知ったチャールトン・ヘストンが、ウェルズが監督も兼ねることを会社に強く要望したためにウェルズの監督が実現したとのことです。

 当時ハリウッドでは、完璧癖のあるウェルズは映画製作に金と時間をかけ過ぎる扱いにくい監督だとされており、ウェルズはそうした風評を払拭するため、ほぼ映画会社が設定した予算と期間内で映画を撮影しましたが(約90万ドルの制作費と僅か39日の撮影期間)、ストーリーが難解すぎるとの理由で映画会社がウェルズに無断で映画の脚本変更と追加撮影、再編集を行ったとのことです(「試写会版」109分)。ウェルズは映画会社の独断専行に激怒し、58ページに及ぶ意見書を映画会社に提出しますが無視され、逆に映画会社は、試写会で出た俗悪だとの一部の苦情に応えて一部をカットして劇場公開したとのことです(「劇場公開版」96分)。

黒い罠h-21.jpg 映画は2本立ての添え物の方の一本として公開され、興行的には惨憺たる失敗で、米国内の批評家からも黙殺され、結果的にウェルズにとって本作品がアメリカにおける最後の監督作品となりますが、同年のブリュッセル万国博覧会で上映された際には審査員のジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーたちから絶賛され、万博での最高賞を与えられています。

 ウェルズ他界後13年を経た1998年に、彼の残したメモに忠実に再構成されたディレクターズ・カット版が上映され(「修復版」111分。既にウェルズは亡くなっているので正確にはディレクターズ・カットとは言えない)、今度は好評を博しますが、これまでDVDなどで観ることができたのは96分の「劇場公開Touch of Evil (1958).jpg版」でした。それが、'14年に111分の「修復版」(Blu-ray)がリリースされたとのことですが個人的には未見です。'15年にNHK-BSプレミアムで放映されたものも96分の「劇場公開版」でした(最初にカットされた部分が逸失しており、「劇場公開版」の方がオリジナルに近い方だとの見方も成り立つ。ゴダールやトリュフォーが観て絶賛したのもこの「劇場公開版」と思われる。何れにせよ、この作品の真の意味での完全版は存在しないことになる)。
Touch of Evil (1958)
 原作は1956年に出版されたホイット・マスターソンの探偵小説『黒い罠』(原題:Badge of Evil)で、原作ではクインランが「従」でメンジスが「主」と映画と逆の立場であったのを、シナリオではオーソン・ウェルズ演じる上司クインランを「主」、部下メンジスを「従」とにし、更には、爆弾事件の犯人をラストで変えています。この変更は大きいですが、単にプロットに捻りを加えるだけでなく、社会的背景と相俟って、クインランのキャラクターに深みを持たせることにもなったと思います。

Touch of EvilB.jpg黒い罠AZ.jpg 更に、オーソン・ウェルズが監督することになった段階で、原作ではメキシコ人の妻を持つアメリカ人地方検事補佐が主人公だったのを、夫婦の国籍を逆にし(つまり、チャールトン・ヘストンがメキシコ人で、ジャネット・リーがアメリカ人の妻ということにした)、物語の舞台をカリフォルニア州からアメリカとメキシコの国境地帯にするなどの様々な設定の変更をウェルズは行っています。

黒い罠0GDN.jpg黒い罠7A.jpg また更にウェルズは、実際の映画化(撮影)段階で、映画が始まってすぐの爆弾のクローズアップから爆発までの3分18秒をワンショットで見せることにし、その他にもこの作品には5分を超える長回しが複数回ありますが、とりわけ冒頭のこの長回しシーンは、作品自体の再評価を経て、今や映画史に残ると言ってもいいシークエンスとされています。

黒い罠A.jpg黒い罠 デートリッヒ.jpg それらに加えてウェルズは、当初予定していなかった2人の俳優、モーテルの夜勤係のデニス・ウィーバー(スティーヴン・スピルバーグ監督のTV映画「激突!」('71年)、TVシリーズ「警部マクロード」('70年~'77年))とジプシーで酒場の女主人のターニャを演じたマレーネ・ディートリッヒのためにシナリオを変更するなどしています。つまり、この作品には、原作、オリジナル脚本、ウェルズが改変した脚本、実際に全ての配役が決まった映画化(撮影)段階での最終シナリオという、基本的な流れを汲みながらも比較的明確な違いもある4つの段階があることになります。

 ゴダールやトリュフォーがこの作品を絶賛したのは、彼らが信奉する、芸術作品にそれぞれ「美術作家」「作曲家」「小説家」という個人作業の表現主体が存在するように、映画を、映画監督(作家)による個人の表現手段、表現物と見なすべきだとする「作家主義」の考えに合致する典型例としてこの作品を捉えたからだとされていますが、実際この作品にはこうした背景があったわけです。

黒い罠h-9.jpg 但し、作品として成功していなければ、どうにも評価のしようがないでしょう。この作品は、細部を見れば、足の悪いクインランが現場に杖を置き忘れるか?といった穴が無くもないし、作品そのものが部分的にカットされてしまったことで、ラストでの、メンジスに撃たれたクインランの死の間際の「これはおまえのために受けた2発目の銃弾だ」という言葉の意味が分かりにくくなっているということもあるかと思いますが、それでもやはり、ウェルズの万能ぶりが発揮されたフィルム・ノワール史上に残る傑作であると思います(逸失部分があるのが残念)。

黒い罠h-43.jpg黒い罠hP.jpg マレーネ・ディートリッヒは、ウェルズとの友情からノークレジット、ノーギャラでOKという事で出演を快諾したそうですが、2日間だけの撮影参加ながら、自前の衣装を着てウェルズが彼女を想定して書き加えたジプシー女ターニャを魅力たっぷりに好演(ラッシュ・フィルムを観て大物imagesXH2OY7TG.jpg女優の出演を初めて知った黒い罠LF7E.jpgスタジオの重役たちは、ディートリッヒの名前をクレジットに出すために彼女に出演料を支払った)、最後の方のセリフで、クインラインを愛していたのは私ではなく、彼を殺した部下の男メンジスだったと言うのは、この作品のテーマの1つ(クインラインとそれを支えた部下との愛憎)を端的に言い当てているように思いました。ディートリッヒ自身は後にこの場面を、自身の女優としてのキャリアの中で最高の演技だったと述べています。
Orson Welles and Marlene Dietrich
Orson Welles and Marlene Dietrich.jpg「黒い罠」●原題:TOUCH OF EVIL●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督・脚本:オーソン・ウェルズ●製作:アルバート・ザグスミス/リック・シュミドリン(修復版)●撮影:ラッセル・メ黒い罠 ポスター.jpgティ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:ホイット・マスターソン「黒い罠」●96分(劇場公開版)/109分(試写会版)/111分(修復版)●出演:オーソン・ウェルズ/チャールトン・ヘストン/ジャネット・リー/ジョセフ・カレイア/エイキム・タミロフ/マレーネ・ディートリッヒ/デニス・ウィーヴァー/ヴァレンティン・デ・ヴァルガス/モート・ミルズ/ヴィクター・ミリアン/ジョアンナ・ムーア/ザ・ザ・ガボール/ジョセフ・コットン(ノンクレジット)●日本公開:1958/07●配給:ユニヴァーサル・ピクチャーズ(評価:★★★★)

《読書MEMO》
●アントン・コービン監督(オランダ)の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●勝手にしやがれ(ジャン=リュック・ゴダール)
 ●ケス(ケン・ローチ)
 ●ぼくの伯父さん(ジャック・タチ)
 ●ウエスタン(セルジオ・レオーネ)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●裏窓(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●七人の侍(黒澤明)
 ●ストーカー(アンドレイ・タルコフスキー)
 ●道(フェデリコ・フェリーニ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)

●ポン・ジュノ監督(韓国)の選んだオールタイムベスト10[同上]
 ●悲情城市(ホウ・シャオシェン)
 ●CURE キュア(黒沢清)
 ●ファーゴ(ジョエル & イーサン・コーエン)
 ●下女(キム・ギヨン)
 ●サイコ(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)
 ●復讐するは我にあり(今村昌平)
 ●恐怖の報酬(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)
 ●ゾディアック(ディヴィッド・フィンチャー)

●チャールトン・ヘストン 1958年出演作
Charlton Heston 1958 Touch of Evil poster .jpgCharlton Heston 1958  the big country.jpgCharlton Heston in 1958 "Touch of Evil" (「黒い罠」)& "The Big Country "(「大いなる西部」)

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オリジナルに大きく及ばない。人間ドラマを期待すると肩すかしを喰う。

ポセイドン 2006 dvd.jpgポセイドン [DVD]」 ポセイドン (06年/米).jpg

ポセイドン 2006 090.png 大晦日、豪華客船ポセイドン号は北大西洋を航海していた。客室にいたクリスチャン(マイク・ヴォーゲル)と恋人ジェニファー(エミー・ロッサム)は、彼女の父ラムジー(カート・ラッセル)が来たため慌てて離れる。賭博師ディラン(ジョシュ・ルーカス)は、エレナ(ミア・マエストロ)という女性とぶつかるが、実はエレナは、ウエイターのヴァレンタイン(フレディ・ロドリゲス)の手引きでの密航だった。乗客はダンスホールに集まり、船長(アンドレ・ブラウアー)の挨拶でパーテポセイドン 2006        .jpgィーが始まる。歌手グロリア(ファーギー)がステージに登場し、バンドの演奏で歌い始めた。ラムジーやディラン、ラッキー・ラリー(ケヴィン・ディロン)といった面々は、カジノでカードに興じている。ジェニファーはクリスチャンとディスコに向かい、ディランは、シングルマザーのマギー(ジャシンダ・バレット)と息子のコナー(ジミー・ベネット)に出会う。建築家のネルソン(リチャード・ドレイファス)は仲間たちに、妻から別れ話を切り出されポセイドン 2006 81.pngたことを打ち明ける。新年が訪れ、ダンスホールで乗客たちが盛り上がる中、ブリッジでは一等航海士が異変を感じ取っていた。異常波浪に気付いた彼は慌ポセイドン 2006 a3.pngてて面舵を切らせるが、ポセイドン号は激しい揺れに見舞われ転覆、ディスコでは火災が発生して照明が消え、船は逆さまになり、大勢の犠牲者が出る。衝撃が収まると、船長は「ここに留まって助けを待っていれば安全だ」と告げるが、ディランは船長のポセイドン 2006 ac2d.png言葉に従わず、船底から外に出るつもりだと言い、ラムジーも娘を捜すため同行を決める。ネルソンは建築家の見地から、船長の安全宣言に懐疑的だった。ラムジーはディランに、共に協力し合おうと持ち掛けるが、彼は断わる。ラムジーはヴァレンティンに乗務員出口に案内してくれたら報酬を払うと持ちかけ、ディランにも改めて協力を持ちかけるとディランは承諾し、マギー母子、ネルソンも彼らに付いていくことに。一方、ディスコではクリスチャンが瓦礫に足を挟まれて動けなくなっており、ジェニファーとエレナが救出を試みていた―。

ポセイドン・アドベンチャー パンフr.jpgポセイドン・アドベンチャー01.jpg 「ポセイドン・アドベンチャー」('72年)のリメイクであり、監督は「アウトブレイク」('95年)などのウォルフガング・ペーターゼン。期待された見所は、スペクタクルシーンを最新のCGなどを使ってどのように撮るかという点と、オリジナルの人間ドラマの部分をどのように再構成するかという点だったと思われますが、アカデミー賞視覚効果賞にノミネートされたスペクタクルシーンの方はまあまあだったものの、人間ドラマの方は、批評家からは、「ポセイドン・アドベンチャーで描かれていた人間ドラマ的な面は大きく省かれたという評価を受け、ゴールデンラズベリー賞の最低リメイク賞にもノミネートされることになってしまいました。

ポセイドン 2006 08.png 話の枠組みだけは「ポセイドン・アドベンチャー」を踏襲しており、皆が留まっているダンスホールから独自に脱出を図るメンバーの数が「10名」であるのも同じです(早い段階でその内2人が犠牲ポセイドンY.jpgになるのも同様)。序盤で彼らの出自が簡単に紹介的に描かれているだけに、それらがどう人間ドラマとして反映されるのかと思いましたが、やはり、結局はあまり深く描かれてなかったという印象でした。期待して観ると肩すかしを喰います(但し、人間ドラマより純粋スペクタクルを好む人にはそう悪くないかも)。

 オリジナルではジーン・ハックマンとアーネスト・ボーグナインの2大キャラのぶつかり合いが大きな見所でしたが、この作品では、カート・ラッセルとジョシュ・ルーカスが、一旦はオリジナルのように反発し合うものの、すぐさま協力体制に入ってしまい、ジーン・ハックマンにおける、脱出行のメンバーの中に自分の考えに反発する者もいる中で(しかもメンバーの一部はそちらに靡きそうになる中で)、皆をどう導いていくかといったリーダーとしての難しい局面も出てきません。

ポセイドン 2006 07.jpg そもそも、カート・ラッセルはジーン・ハックマンのように他の乗客に一緒に脱出しようと強く働きかけることもしないし、脱出行に出たコアメンバ-もオリジナルに比べると何となく結束力が弱い感じ。潜水で犠牲者が出るのはオリジナルと同じですが、オリジナルではジーン・ハックマンを救うためにシェリー・ウィンタース演じる中年女性が犠牲ポセイドン 2006 01.pngになるのだけれど、この作品でエレナ(ミア・マエストロ)の死は殆ど事故のようなもの。カート・ラッセルは最後にヒロイックな犠牲的精神を発露しますが、ジーン・ハックマンのような牧師が"神"に向かって呼びかけるといった重い感じもありません。

エミー・ロッサム/カート・ラッセル

 オリジナルで淀川長治が「その背中に天使の羽根が見えた」と褒め讃えた、船底に"上がる"ために少年が巨大なクリスマスツリーをよじ登っていくシーンなども再現されていなかったなあ。折角、淀川長治がその象徴性を高く評価したほどの場面だったのに...。

ポセイドン 2006 04.jpgポセイドン エミー・ロッサム.jpg 一方で、オリジナルは、3人の女性がアクションシーンで何かと脚線美を披露するなど、B級映画的要素も兼ね備えていたのに、そうした部分はこのリメイクでは(慎み深く?)抑え気味で、歌手のファーギーやブエノスアイレス出身の女優ミア・マエスポセイドン リチャード・ドレイファス.jpgトロ、「オペラ座の怪人」('04年)のエミー・ロッサムなども、ビジュアル面でも演技面でもやや勿体ない使われ方をしていたように思います。リチャード・ドレイファスの役も、誰が演じてもいいようなものでした(まあ、客演のようなものか)。いろいろな見方できますが、総じてオリジナルに大きく及ばなかったと言っていいのではないでしょうか。
      
ファーギー(ステイシー・ファーガソン)/ミア・マエストロ/エミー・ロッサム in「オペラ座の怪人」
ファーギー.jpgミア・マエストロ.pngエミー・ロッサム オペラ座の怪人.png「ポセイドン」●原題:POSEIDON●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:ウォルフガング・ペーターゼン●製作:ウォルフガング・ペーターゼン/アキヴァ・ゴールズマン/ダンカン・ヘンダーポセイドン 2006 メンバー.jpgソン/マイク・フレイス●脚本:マーク・プロトセヴィッチ●撮影:ジョン・シール●音楽:クラウス・バデルト●原作:ポール・ギャリコ●98分●出演:カート・ラッセル/ジョシュ・ルーカス/ジャシンダ・バレット/リチャード・ドレイファス/エミー・ロッサム/ミア・マエストロ/マイク・ヴォーゲル/ジミー・ベネット/アンドレ・ブラウアー/フレディ・ロドリゲス/ケヴィン・ディロン/カーク・B・R・ウォーラー/ファーギー(ステイシー・ファーガソン)/ケリー・マクネア●日本公開:2006/06●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:丸の内ピカデリー1(06-07-01)(評価:★★☆)

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パニック映画ブームの先駆け。CG全盛の今観ると、「実写」の"手作り"的な良さを感じる。

ポセイドン・アドベンチャー パンフ.jpgポセイドン・アドベンチャー dvd.jpg ポセイドン・アドベンチャー01.jpg
映画パンフレット 「ポセイドンアドベンチャー」 監督 ロナルド・ニーム 出演 ジーン・ハックマン アーネスト・ボーグーナイン」「ポセイドン・アドベンチャー [DVD]

ポセイドン・アドベンチャー 12.jpg 81,000トンの豪華客船「ポセイドン号」は1,400名の乗客を乗せてニューヨークを出港、ギリシャ行の航海に出たが、船長(レスリー・ニールセン)は、船の重心が高くバラスト(底荷)をしていないため、大波に襲われて転覆することを恐れていた。ポセイドン・アドベンチャー t.jpg船内ホールでは大晦日の年越しパーティーが開かれていたが、折しもクレタ島沖で海底地震が発生して高さ32mの巨大津波が船を襲い、船体に問題があった船はあっという間に転覆、ホールの船客らは、それまでのポセイドン・アドベンチャー H5.jpg上部が足下に、足下が上部にひっくり返って、躰ごと投げ出されて落下、壁に叩き落されるなどし、船内は阿鼻叫喚の地獄図となる。180度横転したホールには、この時点ではまだ相当数が生存しており、その内の1人のパーサーは、この場に留まることが最善で、救援隊が来るまでここで待機しようと訴える。しかし牧師のフランク・スコット(ジーン・ハックポセイドン・アドベンチャー7.jpgマン)は、留まっていれば海面下に置かれているホールはやがて浸水して全員死ぬので、ひとまず上に上がって「船底」の竜骨付近に行ってそこで救援隊を待つ方がよいと主張、ホールに居た船客も意見が分かれるが、牧師に従って上に登る決意をしたのは僅か8名だった。スコット牧師らは、大きなクリスマスツリーをよじ登って、上にいたボーイのエイカーズ(ロディ・マクドウォール)と合流、その時、大爆発がし鉄砲水が残りの大勢の船客を押し流すが、牧師にはどうすることも出来ない。牧師にポセイドン・アドベンチャーes.jpg従ったのは、ニューヨークの刑事マイク・ロゴ(アーネスト・ボーグナイン)と リンダ・ロゴ(ステラ・スティーヴンス)の夫婦、気ままな旅をしていたマニー・ローゼン(ジャック・アルバートソン)とベル・ローゼン(シェリー・ウィンタース)の中年夫婦、雑貨商ジェームズ・マーティン(レッド・バトンズ)、ホールで演奏していた楽団メンバーを全て失った歌手ノニー・パリー(キャロル・リンレー)、欧州へ遊びに行く予定だったスーザン・シェルビー(パメラ・スー・マーティン)とロビン・シェルビー(エリック・シーア)の姉弟の8人であり、スコット牧師、エイカーズと合わせて10人でエンジンルームを目指す―。

Poseidon Adobenchâ (1972).jpgポセイドン・アドベンチャーs.jpg 1969年に発表されたポール・ギャリコの小説を原作として1972年に映画化された作品で監督はロナルド・ニーム(1911-2010/享年99)、製作は後に同じパニック映画「タワーリングインフェルノ」('74年)を製作するアーウィン・アレンです。'72年公開作では「ゴッドファーザー」('72年)に次ぐ全米興行収入を上げ、日本でも、'73年の興行収入第1位となり、パニック映画ブームの先駆けとなった作品とされていますが、個人的にはテレビで観たと思います(記録を調べると、1976年10月11日TBS「月曜ロードショー」で放送されている)。
Poseidon Adobenchâ (1972)

ポセイドン・アドベンチャー8.jpg まず、豪華客船が転覆して、全てが上下ひっくり返るというのが、原作通りではあるものの、映像にしてみるとなかなか面白く、「パニック映画、こうあるべし」みたいな感じで、それでいて、1回使ったらもうよそでは使えないみたいなユニークさがあったのではないでしょうか(結局、続編を含め「ポセイドン」というタイトルをそのまま使用して、この後3度映画化された)。当時の製作費1,200万ドルは船のセット、転覆場面の撮影、1,135万リットルの水に大半が費されたとのことですが、大量の海水が勢いよく、或いはじわじわと浸水してくるシーンなども含め、CGなどが無い時代のことで全て実写でやっているわけです。公開当時は大規模なセットが話題になったかと思われますが、CG全盛の今日この映画を観ると、むしろ"手作り"的な良さが感じられます。

ポセイドン・アドベンチャー00.jpg パニック映画ではありますが、ヒューマンドラマ的な部分もしっかりしていました。とりあえず、船内ホールにいた100人ぐらいの船客以ポセイドン・アドベンチャーK.jpg外は"絶望"として生存者を絞り込んで、更に「船底」に退避するかその場に留まるかで、結局、留まった人々は全滅、退避した10名だけに早々に絞り込まれます。そのことによって、以降、演劇的な、丹念な人物像の描き方となっていたように思います。そして、その10人の中から更に犠牲者が1人、2人と出続ける―。

ポセイドン・アドベンチャー09.jpg 序盤の船内ホールには、居残り組にも牧師がいて、こちらはただ祈るのみ。一方のジーン・ハックマン演じる牧師は、とにかく生きるために前へ進もうとする、この対比のさせ方はかなり明確です。そして、その牧師が最後にとった自己犠牲的な行動―。やや典型的なヒロイズムになってしまった印象もあるし、その際に、牧師が"神"に向かって「邪魔しないでくれ」と言いますが、牧師がそんなこと言うかなあというものちょっと引っ掛かったけれど、ジーン・ハックマンはまずまずの好演。
   
ポセイドン・アドベンチャー03.jpg 他の俳優陣では、牧師と意見の衝突を繰り返す刑事役のアーネスト・ボーグナイン(1917-2012/享年95)の、ジーン・ハックマンとの演技合戦が見所でしょうか。ジーンポセイドン・アドベンチャー20s.jpg・ハックマンは英国アカデミー賞の主演男優賞を受賞しましたが、アーネスト・ボーグナインの濃い演技もパニック映画向きで良かったように思います(元水泳選手ポセイドン・アドベンチャー 001.jpgPicture of The Poseidon Adventure.jpgで牧師を救うも自らは斃れる中年婦人ベル・ローゼンを演じたシェリー・ウィンタースがゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞している)。最近観直してみて、船長役が「裸の銃を持つ男」('88年)などコメディに転ずる前のレスリー・ニールセン、ボーイ役が「猿の惑星」シリーズのロディ・マクドウォールだったことに改めて気づきました。 

「ポセイドン・アドベンチャー」●原ポセイドン・アドベンチャー _b.jpg題:THE POSEIDON ADVENTURE●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ロナルド・ニーム●製作:アーウィン・アレン●脚本:スターリング・シリファント/ウェンデル・メイズ●撮影:ハロルド・E・スタイン●音楽:ジョン・ウィリアムズ/アル・カシャ/ジョエル・ハーシュホーン●原作:ポール・ギャリコ「ポセイドン・アドベンチャー」●時間:117分●出演:ジーン・ハックマン/アーネスト・ボーグナイン/レッド・バトンズ/キャロル・リンレー/ロディ・マクドウォール/ステラ・スティーヴンス/シェリー・ウィンタース/ジャック・アルバートソン/パメラ・スー・マーティン/エリック・シーア/レスリー・ニールセン/アーサー・オコンネル●日本公開:1973/03●配給:20世紀フォックス(評価:★★★☆)

リンダ・ロゴ(ステラ・スティーヴンス)、スーザン・シェルビー(パメラ・スー・マーティン)、ノニー・パリー(キャロル・リンレー)の各フィギア
ポセイドン・アドベンチャー 53.jpgポセイドン・アドベンチャー 50.jpgポセイドン・アドベンチャー b5.jpg

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近藤勇の人生の「空しい」部分をしっかり捉えるとともに、それに対する作者の共感が感じられる。

星をつかみそこねる男 2016 .jpg星をつかみそこねる男 6.jpg 星をつかみそこねる男 s.jpg
 『星をつかみそこねる男 (水木しげる漫画大全集)

水木しげる7.jpg 昨年['15年]11月に満93歳で亡くなった水木しげる(1922-2015)が、「月刊漫画ガロ」(青林堂)の1970年10月号から1972年10月号に連載した作者初の伝記漫画で、'13年6月より順次刊行中の『水木しげる漫画大全集』(全108巻(103巻+別巻5巻)の予定)の第2期配本の1つ(№065)。作者あとがきによれば、近藤勇の一生を描くことになったのは、1968(昭和43)年頃から京王線の調布に住むことになり、付近を散歩していて偶然近藤勇の墓に"面会"したのがきっかけだそうです。

巷説近藤勇20.jpg星をつかみそこねる男 _T.jpg 巻末資料にもある通り、もともと「星をつかみそこねる男」というタイトルで連載されたにも関わらず、最初に1972年に虫プロ商事の「COMコミックス」別冊として1冊にまとめられ(「なぜか(「ガロ」の青林堂ではなく虫プロから刊行)」と文中にあるが、連載中、作者に原稿料すら払えなかったほど当時の青林堂の経営が悪化していたことが原因と思われる)、その際のタイトルは「巷説近藤勇」(左)で「星をつかみそこねる男」はサブタイトル新撰組風雲録 水木しげる.jpg的に表紙にあったのみでした(背表紙や奥付星をつかみそこねる男 1・2.jpgにはない)。1978年に新人物往来社からハードカバー単行本として出された際のタイトルは「新選組風雲録」(右)でサブタイトルなしです。1986年に講談社KCデラックスより2分冊で刊行された際のタイトルは「新選組夜話 近藤勇」(左)に改題されており、1989年刊行の筑摩書房・ちくま文庫版では「劇画近藤勇」(左下)となっています。表紙にのみサブタイトル的に「星をつかみそこねる男」とありますが、正式な書名とはなっていません(総扉がないので正式タイトルかどうか星をつかみそこねる男 ちくま文庫.jpg不明)。2004年に世界文化社からアリババコミックとして軽装版が出た際は「新近藤勇 世界文化社.jpg選組近藤勇」(右)がタイトルで、「星をつかみそこねる男」はやはりキャッチコピー扱いと、今回の全集刊行まで一度も正式タイトルの扱いで刊行されたことがなかったとのことです(厳密に言うと、キャッチコピー的に使用されたことはあっても"サブタイトル"として使用されたことすらもなかったことになる)。

劇画近藤勇―星をつかみそこねる男 (ちくま文庫)


 全集版のこの回の解説を(解説は毎回執筆者が変わる)自らも『新選組』('00年/PHP文庫)などの作品がある黒鉄ヒロシ氏が担当していますが、この作品の特徴を「徹底して突き放した俯瞰の笑い」としていて、自分も黒鉄氏と同じように感じました。新選組物にありがちな陰惨さを過剰には描かず、むしろ、それを虚無の笑いに転換させているとでも言うか...(黒鉄ヒロシ氏はこの作品について、省略の大胆さもスゴイともしているが、個人的には、よく資料を調べた上でそれを行っているように思えた)。

 新選組において、それまで人気の高かった近藤勇と、そうでもなかった土方歳三の評価が逆転したのは、司馬遼太郎の『燃えよ剣』('64年/文藝春秋)によるところが大きいとされていますが、司馬遼太郎は、主人公の土方歳三を「義に生きた男」の典型として描いているのに対し、近藤勇の方は、最後はただ大名になりたかっただけの「勘違い人間」のように描いています。一方、水木しげるも、「星をつかみそこねる男」というタイトルから窺えるように、近藤勇の人生の「空しい」部分をしっかり捉えていますが、その上で、そうした人物を物語の「主人公」としている点に、司馬遼太郎との違いがあるように思います。

 これについて、全集版付録の「茂鐵新報」によると作者は、自分の体験した戦争ではいいことが一つもなく、多くの人が空しく死んでいき、そうしたことから、空しい内容の話を描くときには熱が入り、成功者の話などは自分は書きたくないとインタビューで語ったそうです(「えすとりあ」季刊3号「水木しげる特集」インタビュー)。つまり、あと一歩のところで成功することが出来なかった近藤勇の空しい人生そのものに、作者は共感を覚えたということです(従って、「俯瞰の笑い」ではあるが「冷笑」ではない)。まさにこの作品のテーマを表す「星をつかみそこねる男」というタイトルがこれまで使われてこなかったのが不思議です。

 因みに、巻末に「幕末の親父」という短編作品が付されていますが(初出は旺文社『中二時代』'72年1月号)、この新選組隊士・吉村貫一郎を主人公とする話は、浅田次郎氏が『壬生義士伝』('00年/文藝春秋)で描き、滝田洋二郎監督によって「壬生義士伝」(03年/松竹)として映画化されてもいて、浅田次郎氏同様、子母澤寛の『新選組物語』(「隊士絶命記」)を参照していると思われます(実際には吉村貫一郎は鳥羽伏見の戦いで行方不明となり、その後どうなったか判っていない)。

【1972年コミックス化[虫プロ商事(COMコミックス『巷説近藤勇』)]/1978年単行本化[新人物往来社(『新選組風雲録』)]/再コミックス化[講談社(KCデラックス『新選組夜話 近藤勇(上・下)』)]/1989年文庫化[筑摩書房・ちくま文庫(『劇画近藤勇』)]/2004年軽装版[世界文化社(アリババコミック『新選組近藤勇』)]/2016年全集版[講談社(『星をつかみそこねる男―水木しげる漫画大全集065』)]】

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表題作だけでなく、それぞれに楽しめた短編集。直木賞受賞はまずまず妥当か。

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つまをめとらば』(2015/07 文藝春秋)

2015(平成27)年下半期・第154回「直木賞」受賞作。「ひともうらやむ」「ついかせぎ」「乳付(ちつけ)」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」の6編を収録。

 「ひともうらやむ」は、縁戚関係にある長倉克巳・庄平の親友関係を描きながら、男にとって身近だが実はその実態が見えにくい妻という存在のミステリアスな面を描き出しています。克巳は本家の総領であって眉目秀麗で目録の腕前を持つ秀才、庄平は分家の総領で釣り師としては一流だが...。克巳は医者の娘で"ひともうらやむ"美人の世津を妻にするが、結局どうなったか(美人妻というのは怖い)。一方の庄平の妻はごく平凡な女でしたが、平凡なように見えて実は結構したたかでした。これはこれでちょっと怖いとも感じられ、結局女はみんな怖い?

 「つゆかせぎ」は、妻の朋を急な心臓の病で失ったばかりの主人公の男が、妻が自分の知らないところで女だてらに怪しげな戯作を書いていたことを知り、自らも俳諧の道を究めようとして中途半端に終わった自分に妻が飽き足らなかったのではないかと。そんな折、地方廻りの行きずりに抱いた女・銀は、2人の子がいて食い詰めているために身を売っているくせに、更に子を得たいがために男に抱かれるという女だった。この世には自分が想っていたよりも遥かに怪しく、ふくよかな世界があるのだと思い知らされる男―。

 「乳付」は、神尾信明に嫁ぎ一家の跡取り・新次郎を産んだ民恵が、産後の肥立ちが悪く我が子にすぐに自分の乳を与えさせてもらえず、瀬紀という遠縁の妻女に乳付をしてもらうことになったことに不安を募らせる。瀬紀は民恵と同じ年だったが、女でも魅入られてしまうほどに輝いていたため、民恵は危うく悋気を起こしそうになるが、最後にそれが義母の優しさであったことが分かる―。

 「ひと夏」は、部屋済みである高林啓吾が、石山道場奥山念流目録の腕前を持ちながら、誰もが赴任しても2年ともたないという藩の飛び地に赴任を命じられ(いわば左遷なのだが)、現地に赴任すると百姓たちは藩の役人をあからさまに見下す中で彼らと少しずつ交わっていき、そうした中やがてある事件が起きる―。この話も全く女気の無い話ではなく、前任者に手出しすれば一揆が起きると釘を刺されたタネという女と主人公との交わりが出てきます。

 「逢対」は、無役の旗本だが、お役につきたいと望むこともなく、算学の面白さに惹かれている竹内泰郎が、よく行く煮売屋の女主・里と男女の仲になる。里を嫁に貰おうと思いつつも踏ん切りがつかない泰郎は、先に今まで向き合ってこなかった武家というものをきちんと知ろうと思い立ち、幼馴染の北島義人と共に、無益の者が出仕を求めて権力者に日参する「逢対」に同行する。すると、長年「逢対」に通っている義人ではなく自分が呼び出されることになる―。ベースは友情物語だけれど、やはり男と女の考え方の違いのようなものが描かれています。

 「つまをめとらば」は、女運がなさすぎる省吾が、たまたま十年以上も顔を合わせていなかった幼馴染の貞次郎と再会し、貞次郎は省吾の家の庭にある貸家が空いていると聞き、そこに住まわせてくれるよう頼み込んでくる。中年男2人が離れで同居生活を始めるようになって、それぞれに男暮らしの楽さに浸るが、貞次郎は借りるときに話していた結婚相手を一向に家作に迎えようとしない―。これって、読んでいて、何となく最後はこうなるなあという予感はあったかも。

 作者について個人的には、「松本清張賞」を獲った『白樫の樹の下で』('11年/文藝春秋)で"今後が期待できる作家"との印象を受け、その後『鬼はもとより』('14年/徳間書店)で「大藪春彦賞」、そしてこの作品で「直木賞」と順調にきた感じでしょうか。但し、67歳での直木賞受賞は、1990年に68歳で受賞した故・星川清司に次ぐ2番目の高齢受賞だそうです。

 作者によれば、「所収の『ひと夏』は一番最初に書いた短篇でした。それから『乳付』『つゆかせぎ』と3本書いたところで、短編集をまとめる話が出ました。その3本が巧まずして女性のことを書いていたので、それなら"女性の底知れなさ"というようなテーマで書いていこうと、あとの3本はそれを意図して書きました。作品の配列は編集者の主導でしたが、さすがだと思いました」とのことで、"作品の配列"とかも編集者がやるのだなあと。
 
 表題作だけでなくそれぞれに楽しめましたが、どれがベストかは人によって分かれるでしょう。『鬼はもとより』が直木賞候補になった際に、話が上手くまとまり過ぎているというような評価があったように思いますが(今回も評価は割れたみたい)、カタルシス効果と予定調和が相関関係にあって、個人的にはなかなかベストが決めにくいです。登場人物が爽やかすぎるとか、サラリーマン小説みたいだと言われるフシもあるようですが、藤沢周平の作品だって「たそがれ清兵衛」ではないですが、容易に現代のサラリーマンに置き換えられるものがあります。作者も最近は「平成の藤沢周平」などと言われているようですが、サラリーマン小説風に言えば佐高信氏が言うところの「向日派」というか(佐高信氏は高杉良、城山三郎を「向日派」とし、清水一行を「暗部派」としている)、藤沢周平よりも更に明るいかも。これは、『白樫の樹の下で』以来のこの人の持ち味であり、個人的には、星4つの評価。星5つまでいかないけれど、「直木賞受賞」はまずまず妥当ではないかと思います。

【2018年文庫化[文春文庫]】

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時代小説版「V字回復の経営」みたいで面白いが、その分「ビジネス小説」っぽい。

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鬼はもとより (文芸書)』(2014/09 徳間書店)

2014(平成26)年・第17回「大藪春彦賞」受賞作。2014年下半期・第152回「直木賞」候補作。

 どの藩の経済も傾いてきた寛延三年、奥脇抄一郎は藩札掛となり藩札の仕組みに開眼。しかし藩札の神様といわれた上司亡き後、飢饉が襲う。上層部の実体金に合わない多額の藩札刷り増し要求を拒否し、藩札(はんさつ)の原版を抱え脱藩する。江戸で、表向きは万年青売りの浪人、実はフリーの藩札コンサルタントとなった。教えを乞う各藩との仲介は三百石の旗本・深井藤兵衛。次第に藩経済そのものを、藩札により立て直す方策を考え始めた矢先、最貧小藩の島村藩からの依頼が―。

 時代小説家として既に手練れの域に入っている作者ですが、この作品では、主人公の奥脇抄一郎が最貧小藩の藩札コンサルタントとして島村藩のリーダーである家老・梶原清明と共に藩政改悪に当たるということで、経済小説的な要素も含んでいるし、企業小説的な読み方も出来るように思いました(特にコンサルタントにとっては)。

 作者は、経済関係の出版社に18年勤務した後、1992年、「俺たちの水晶宮」で第18回中央公論新人賞を受賞(影山雄作名義)、その後、一旦創作活動を休止し、約10年ほどで小説執筆から離れ経済関係のライターをしていたようですが、そうした経験や知識が生かされている著者らしい作品です。

 そのうえ、作者らしい信頼し合う男同士の話や変遷する男女の話などがあって、盛りだくさん。でも、やはり、中心となるのは、藩政改革のために「鬼」となる梶原清明とそれを補佐する奥脇抄一郎の関係でしょう。ラストで清明の覚悟の凄まじさを改めて思い知らされました。

 ただ、直木賞の選考で宮城谷昌光氏が、「いわば時代経済小説といってよい体裁になっている。着眼点が常識の外にあるとなれば、既存の時代小説とは一線を画している。あとは作者の知識と情熱が小説的高みで開花すればよいのであるが、残念ながら私の目には、その花が映らなかった」と述べているように、「藩札」という題材が先行してしまった印象もあります。

 よく調べたなあとも思いますが、実際に藩札を発行したことがある藩は少なくないものの、それが成功した事例は高松藩、姫路藩など数は少なく、作品で描かれる藩札政策は、実際にあった数少ない成功例の一つをモデルにしているとのことです。前半では失敗例なども挙げ(まあ、赤字国債みたいなものだからなあ)誤って使った場合の危うさを示唆していますが、ただ、終盤の当の島村範の財政立て直しの部分はややダイジェスト気味で、こんなに上手くいくものかなあという印象も...(成功例を参照しているのだろうけれども)。

 『白樫の樹の下で』(2011年/文藝春秋)もそうでしたが、この作家の小説の主人公は共感し易い魅力を備えているように思います。女性の描き方も秀逸。加えて、今回は、「時代経済小説」と言うより「時代企業小説」のような感じで読めましたが(殆ど『Ⅴ字回復の経営』みたいな)、その分、ちょっと「今日」に引き付けて書かれ過ぎているようにも思いました(会議などは殆ど今の企業の重役会と変わらなかったりする)。

 直木賞の選考では、宮部みゆき氏が主人公の抄一郎のどこか悟ったようなすっとぼけた魅力が、彼が江戸の経営コンサルタントとして直面する課題の苛烈さと絶妙なバランスを保っていたとして推薦しましたが、一方で、浅田次郎氏が、「江戸時代と現代とを強引に重ね合わせたとしか私には思えなかった」とするなどして、結局受賞は"持ち越し"になりました。個人的も、普通に読む分には面白いけれど(勉強にもなった?)、直木賞となるとちょっと物足りない感じでしょうか。「ビジネス小説」っぽいというのも、受賞の邪魔になったのでは。

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ここまで三島の作品と人生を再現していれば立派なもの。

Mishima dvd.jpgMishima dvd  .jpg Mishimages.jpg 三島由紀夫と一九七〇年.jpg
MISHIMA : LIFE IN FOUR CHAPTERS」/緒形 拳/『三島由紀夫と一九七〇年
Mishima - A Life in Four Chapters

MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS .jpg  三島由紀夫の生涯を四つの章に分け、3つの章でその作品等を通して三島文学を描き、第4章で自決に至るまでを描くことで、三島の文学や生き方、そして死に方を探った作品で、監督と脚本は「ザ・ヤクザ」('74年/米)、「タクシードライバー」('76年/米)の脚本、「キャット・ピープル」('82年/米)の監督のポール・シュレイダー(「晩春」など小津安二郎監督作品の読み解きでも知られる)、製作総指揮はフランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカス、公開に至らなかった日本版はロイ・シャイダーによる英語ナレーション付き、米国版は緒形拳による日本語ナレーション付きです(1985年度の第38回カンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞受賞作)。

Mishima 01 Ken Ogata Yukio Mishima.gif 「今現在」を「1970年11月25日」に置いて、三島(緒形拳)が自決した当日の起床からの経過を現在進行形でカラー・ドキュメンタリー風に描き、その「今現在」の時の流れをベースに、三島の幼少期から「楯の会」結成までの半生をモノクロームで描いた「フラッシュバック(回想)」シーンを交える一方、第1章「美(beauty)」で『金閣寺』、第2章「芸術(art)」で『鏡子の家(Kyoko's House)』、第3章「行動(action)」で『奔馬(Runaway Horses)』(『豊饒の海』第2部)の各作品をダMISHIMA1-1.jpgイジェストで映像化しており、最後の第4章「文武両道(harmony of pen and sword)」で、三石岡瑛子 mishima.jpg島が市ヶ谷駐屯地に到着した場面から自決に至るまでを描いています。こうなるとかなり複雑な印象を与石岡瑛子.jpgえますが、回想部分はモノクロで、作品部分は「劇中劇」として極めて演劇的に作られているため(石岡瑛子(1938-2012)が美術担当)、観ていてたいへん分かり易いものとなっています。

Mishima 02 Naoko Otani.gif 冒頭で、三島が母(大谷直子)や祖母(加藤治子)との特異な幼少期を経て、思春期から同性愛的指向を自覚したことなどを紹介、第1章では簡略化された『金閣寺』が劇中劇として描かれ、ドモリでコンプレックスのMishima01 金閣寺.jpg塊のような学生(ある意味、三島のペルソナである)で金閣寺の住職になることを目指して修行する溝口(五代目 坂東八十助=十代目 坂東三津五郎)が、障害者でありながらをそれを逆手にとって高い階級の女を籠絡している柏木(佐藤浩市)と出会い、そのMishima 11 Yasosuke Bando Mizoguchi.gifMishima 12 Koichi Sato.gifMishima01 金閣寺s.jpg手ほどきで女性に接するも臆して何もできなかった後(ここでフラッシュバックで青年期の三島(利重剛)が病弱だったために戦争の徴兵を逃れ得たことなどが描かれる)、今度は老師(笠智衆)から施されたMISHIMA  ryu.jpg金で遊郭で遊女(萬田久子)を抱き、女に「どでかいことをする」と言うが、それは金閣寺を燃やすことだった―といMishima 13 Hisako Manda Mariko.gifうもの(ここで三島が自邸を出て「盾の会」のメンバーと市ヶ谷駐屯地へ向かうため車に乗り込む"現在"のシーンに切り替わり、更に今度は、モノクロで『潮騒』などの作品で作家として高い評価を得た頃の三島を描く)。

Mishima 21 Kenji Sawada Osamu.gifMishima 22 Setsuko Karasuma.gif 第2章では『鏡子の家』を演劇化しており、原作では鏡子というある種"巫女"的な女性を軸に、恵まれた結婚をし将来が嘱望されるエリート会社員「清一郎」、拳闘家でボクシングで王座を獲る「俊MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS sachiko hidari.jpg吉」、美貌の無名俳優でボディビルで鋼の肉体を得る「収」、天分豊かな童貞の日本画家で画壇での名声を博す「夏雄」の4人が登場しますが(それぞれが三島のペルソナと言える)、ここでは俳優の「収」(沢田研二)にフォーカスして、母親(左幸子)や恋人(烏丸せつこ)との関係を描いています(ここでまたモノクロのフラッシュバックになり、男とダMISHIMA:4X1.jpgンスし―ダンス相手のモデルは美輪明宏か―同性愛者として美醜にこだわり、ボディビルMISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS kurata.jpgMishima 23 Tadanori Yokoo Natsuo.gifによって肉体改造に励む三島の姿が描かれる)。次に、ラーメン屋台のような所に収、俊吉(倉田保昭)、夏雄(横尾忠則)がいて芸術談義をしていると思ったら、収は清美(李麗仙)という女社長に会って母親の負債を相殺するためのある種"奴隷契約"Mishima kyoko no ie2.jpgMishima kyoko no ie.jpgを結ばされ(その間、三島のセミヌード写真の撮影模様や出演した映画のポスターなどがフラッシュバックで入る)、母親にはいい役がついたと報告し、最後はピンク色の部屋でその清美に自分の肉体をマゾヒスティックに傷つけられている―(ここで市ヶ谷に向かう車中の三島と「盾の会」のメンバーのシーンに切り替わる)。

Mishima 31 Toshiyuki Nagashima Isao.gif 第3章は、『奔馬』の主人公・飯沼勲(永島敏行)を描いた劇中劇で、剣道3段の飯島青年が政界Mishima honmaU.jpgの黒幕を倒すべく陸軍中尉(勝野洋)や同志らとクーデターを謀るという二・二六事件をモチーフにした原作通りMISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS17.jpgの展開で(フラッシュバックで日本刀を振るって剣術に精進する三島が描かれる)、彼が首謀者となって同じ学生仲間らと決行を誓い合いますが(そこでまたフラッシュバックで「盾の会」の結成やその閲兵式の模様が描かれ、更に、'69年の東大全共闘との討論会の様子が描かれる)、事を起こす前に飯島らは逮捕され、飯島は聴取にあたった尋問官(池部良)に拷問してくれとミシマ ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ2.jpgMishima 32 Ryô Ikebe.gif頼むが叶わない。その後、飯島は脱獄に成功し、政界の黒幕・蔵原(根上淳)を暗殺Mishima honma.jpgすると、海を見渡す断崖へと直行し、暁の太陽を背に割腹自殺を図る―(ここでいきなり、映画「憂国」の切腹シーンを撮影中の三島のモノクロ・フラッシュバックになる。そして、映画「憂国」の完成記者会見の模様が入る)。

MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS.jpg 第4章は、これまで「今現在」として描かれてきた「1970年11月25日」の部分の続きで、三島らが市ヶ谷駐屯地に到着してから自決に至るまでが描かれており(間にフラッシュバックで「盾の会」の自衛隊体験入隊の模様が描かれる)、自決前のバルコニーでの演説をはじめ、「三Mishima4.jpg島事件」を克明に描いています(更に間に、ロッキードF104戦闘機に試乗した際の模様が描かれる)。最後に三島が切腹して雄叫びする場面に続いて、第1部から第3部の小説のラストMishimaR.jpgシーンがワンカットずつ描かれ、『奔馬』の最後の一行のナレーションと共に、冒頭のタイトルバックにあった太陽が正面に昇っている風景でエンドロールとなります。なお、「フラッシュバック」で描かれる半生の挿話やナレーションには、自伝的小説『仮面の告白』や随筆『太陽と鉄』などからの引用が使用されています。

 ポール・シュレイダーの実兄の故レナード・シュレーダー(同じく脚本家で、同志社大学と京都大学で英文学の講師をしていた)が生前の三島由紀夫と親交があり、10年間の構想を経て弟と共に脚本を書き始めたのが契機のようですが、よく出来ていると思いました(ハリウッドの知性派女ジョディ・フォスターs.jpg優として知られ、2013年のゴールデングローブ賞授賞式において、自身が同性愛者であることをほぼ公表したジョディ・フォスターが絶賛している)。主人公の三島の役は、最初は高倉健にオファー高倉健G.jpgされていたらしいのですが(高倉健はポール・シュレイダー脚本、シドニー・ポラック監督の「ザ・ヤクザ」('74年/米)に出演している)、右翼などの妨害や誹謗が危惧されて、一度は受けたものの降りてしまい、緒形拳になったったとか。撮影直前までの脚本では、第4章に『天人五衰』(『豊饒の海』第4部)が含まれていたのが、構成が複雑になりすぎるとの理由で割愛されたそうです。更に、ポール・シュレイダー監督は第2章で『禁色』を使うことを希望していたのが、三島の遺族側の承諾が得られず、『鏡子の家』になったとのこと。結局、全体4章の内、作品を再現したのは第1~第3章であり、また、『鏡子の家』で4人の登場人物の内1人のみにフォーカスするという形にはなったMishima irie.jpgものの、ここまで三島の作品と人生を再現していれば立派なものだと思います(それが理解できるかどうかはまた別の問題として)。細かい点で事実と異なるとの指摘もあるようですが(第2章のフラッシュバックに写真集『薔薇刑』の撮影模様があるが、三島はこの映画のように撮影の際に自らカメラのアングルを指示するようなことはなく、完全に「被写体」に徹していたという当のカメラマン細江英公氏の指摘など)、そうした細かい指摘がされるというのは、逆に言えばドキュメンタリーとしても一定の水準を満たしているからであるように思います(ジョディ・フォスターは「作品部分の凝った構成と、生涯の部分のドキュメンタリー・タッチの対比が絶妙」だと評価している)。

三島由紀夫と一九七〇年  .jpg 結局、上映自体が遺族側の了解が得られず、作品は日本では劇場公開されなかったわけで、惜しいことです(同性愛を示唆する場面は結構あったが、それ以外に政治的な理由があったともされている)。長年ビデオ・DVD化されない「幻の作品」であっため、自分自身も、中身がよく分からないのでやや"色物"的な作品ではないかとの先入観が以前はありましたが、近年しばしばネットで見かけ、更に"ゲリラ・リリース"された『三島由紀夫と一九七〇年』('10年/鹿砦社)付録の米国版DVDを観直して観ると、映像も綺麗だし、演技陣も錚々たるメンバーであり、また、よく演出したものだと思いました。作家とその作品の関係性を描くという意味でも非常に大胆な試みであり、それは100%成功しているわけではないですが、分かり易いというだけでも評価できるのではないでしょうか。

Chishu Ryu, Paul Schrader, and Yasosuke Bando on the set of Mishima: A Life in Four Chapters. MISHIMA_500.jpg
「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」●制作年:1985年●制作国:アメリカ・日本●監督:ポール・シュレイダー●製作:山本又一朗/トム・ラディ●脚本:ポール・シュレイダー/レナード・シュレイダー/チエコ・シュレイダー●撮影:ジョン・ベイリー/栗田豊通●音楽:フィリップ・グラス●美術:石岡瑛子●原作:三島由紀夫●120分●出演:●[フラッシュバック(回想)]緒形拳/利重剛/大谷直子/加藤治子/小林久三/北詰友樹/新井康弘/細川俊夫/水野洋介/福原秀雄 [1970年11月25日]緒形拳/塩野谷正幸/三上博史/立原繁人(徳井優)/織本順吉/江角英明/穂高Mishima A Life in Four Chapters (1985).jpg坂東三津五郎.jpg稔 [第1章・金閣寺]坂東八十助/佐藤浩市/萬田久子/沖直美/高倉美貴/辻伊万里/笠智衆(米国版のみ) [第2章・鏡子の家]沢田研二/左幸子/烏丸せつこ/倉田保昭/横尾忠則/李麗仙/平田満 [第3章・奔馬]永島敏行/池部良/誠直也/勝野洋/根上淳/井田弘樹●米国公開:1985/10●DVD発売:2010/11●発売元:鹿砦社(『三島由紀夫と一九七〇年』附録)(評価:★★★★)
十代目 坂東三津五郎(五代目 坂東八十助)(1956-2015.2.21/享年59)
Mishima: A Life in Four Chapters (1985)

「●今村 昌平 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2459】 今村 昌平 「うなぎ
「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ「●三國 連太郎 出演作品」の インデックッスへ 「●池辺 晋一郎 音楽作品」の インデックッスへ「●緒形 拳 出演作品」の インデックッスへ 「●加藤 嘉 出演作品」の インデックッスへ「●殿山 泰司 出演作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

稀代の犯罪者の多面的キャラクターを描くとともに、崩壊する家族・親子関係を描いた作品。

復讐するは我にあり13.jpg
復讐するは我にあり dvd7.jpg
復讐するは我にあり dvd.jpg 復讐するは我にあり 文春文庫5.jpg 文春文庫
あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 復讐するは我にあり [Blu-ray]」「あの頃映画 「復讐するは我にあり」 [DVD]」/『復讐するは我にあり (文春文庫)』['09年(改訂新版文庫化)]

復讐するは我にあり  04 .jpg 榎津巌(緒形拳)は、専売公社の集金係2名(殿山泰司ほか)を殺害し、詐欺を繰り返しながら逃走を続ける。実家は病身の母・かよ(ミヤコ蝶々)と敬虔なクリスチャンの父・鎮雄(三國連太郎)が経営する旅館で、榎津の妻・加津子(倍賞美津子)や子も一緒に暮らしているが、榎津は妻・加津子と父・鎮雄の関係を疑っている。警察が榎津を全国指名手配にする中、榎津は裁判復讐するは我にあり  C7.jpg所で被告人の母親(菅井きん)に近づき、弁護士を装って保釈金詐欺を働き、更に、仕事の依頼と称して老弁護士(加藤嘉)に近づいて殺害し、金品を奪って逃げ続ける。浜松の旅館「貸席あさの」に京都帝大教授を装っ復讐するは我にあり  05 小川.jpgて投宿し、宿の女将ハル(小川真由美)と懇ろになる。ある日、ハルは映画館のニュースで榎津の正体を知るが、榎津を匿い続ける。しかし、榎津はハルとハルの母親・ひさ乃(清川虹子)を殺害し、質屋(河原崎長一郎)を旅館に呼んで2人の所持品を売り払う。榎津を以前客に取ったことのあるステッキガール(根岸とし江)が、榎津が指名手配の犯人であることに気づき、警察に通報する。榎津は逮捕され、死刑を宣告される。面会に来た父親の鎮雄は、榎津が教会から破門されたこと、自らも責任を取って脱会したことを伝える。処刑後、榎津の遺骨を抱いた妻の加津子と鎮雄は、山頂から空に向かって散骨する―。

復讐するは我にありG.jpg 昨年['15年]10月に78歳で亡くなった佐木隆三(1937-2015)の直木賞受賞作を今村昌平(1926-2006)監督が映画化した1979年公開作で、復讐するは我にあり61.jpgその年のキネマ旬報ベスト・テン第1位作品。「第3回日本アカデミー賞」の最優秀作品賞を受賞し、演技面では、体当たり演技の小川真由美が日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞。小川真由美は「第4回報知映画賞」やキネマ旬報の賞も受賞し、三國連太郎も報知映画賞や「第22回ブルーリボン賞」など3つの賞を受賞。同じく体当たり演技の倍賞美津子復讐するは我にありNU.jpgブルーリボン賞を受賞しているのに、主役の緒形拳(1937-2008)が何も受賞していないというのがやや不思議な気がします。主人公の多面的なキャラクターを巧みに演じ分けていたのは流石だと思ったのですが、緒形拳は前年の「鬼畜」('78年/松竹)で既に「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞の"3冠"を達成していたというのも影響したのかもしれません。

 作品全体の印象としては、「神々の深き欲望」('68年/日活)以来約10年ぶりにメガホンを手にした今村昌平の「色」がかなり濃い感じでしょうか。原作者の佐木隆三は、モデルとなった「西口彰事件」について、「調べれば調べるほど内面が覗けなくなった」と秋山駿(1930-2013)との対談で述べていますが、この映復讐するは我にあり7K.jpg画では、敬虔なクリスチャンで通っている父親との確執を、榎津との幼少期のエピソードなども交えながら描き、更には、榎津の妻・加津子と父・鎮雄の関係を前面に押し出すことで、犯行の背後に父親との関係に起因する何かを示唆しているように思われました。それは、終盤の榎津と父親との拘置所復讐するは我にあり8 .jpgでの対面シーンにも表れており、ここでも両者は和解し切れず、結局、父親が息子と内面的に和解したのは、ラストの散骨のシーンであったように思います。榎津の父親への感情は、ファーザー・コンプレックスと言えなくもないですが、加津子の方がむしろ義父・鎮雄をファザコンに近い感情で崇めていて、一方の榎津の父親に対する反発は、父親のその偽善性に対するものではなかったかと思われます(幼児期のエピソードに父親に裏切られたと取れるものがある)。何れにせよ、父・鎮雄と妻・加津子の関係も含め、この辺りは全て"今村昌平オリジナル"です。

復讐するは我にあり_9.png 同じくこの作品で原作以上に大きなウェイトを占めるハルの家族の描き方も、ハルの情夫で旅館のオーナーでもある男(北村和夫)とのどろどろした関係が前面に出ていて、それを苦々しく思う母親と、そこに榎津も絡んできて、もうぐちゃぐちゃという感じ。この辺りも全て映画のオリジナルで、ハルの母親が殺人事件で15年服役し、出所してそう年月も経っておらず、今は競艇に明け暮れる日々を送っているという設定もオリジナルです。更に原作との大きな違いは、榎津とハル復讐するは我にあり  NB.jpgが映画を観に映画館へ入ったところ(映画は「ヨーロッパの解放」第三部「大包囲撃滅作戦」('71年/松竹配給)。その前に)映像ニュースで榎津の指名手配が流れてハルが榎津の正体を知ってしまうことで、榎津に惚れていたハルは榎津を匿い続けますが、原作では母娘は榎津の正体を知らないまま殺害されてしまい、従って、ハルの母親が榎津を競艇に誘って、当てた金を榎津に渡して自分たちの前から消えてくれるよう頼むといった場面も、榎津が畦道かどこかを歩きながらハルの背後からマフラーで絞殺しようして彼女に気づかれ、いったんは諌められてしまうのも映画のオリジナルです。

 原作も映画も稀代の犯罪者を描いたある種ピカレスク・ロマン的な作品ですが、今村昌平の手によって、映画の半分は、崩壊している2組の家族と親子関係を描いたものとなっているように思いました(ハルの家族の方がより悲惨か。パトロン男が母親の目の前で娘であるハルを凌辱するのを目の当たりにした榎津が包丁を取り出そうとするのを、ハルの母親が押しとどめるという場面さえある)。原作に付加されているものが多くて、こうした作品の作りは個人的にあまり好きになれないことが多いのですが、この映画については、付加された部分もドラマとしてよく出来ていて良かったように思います(今村昌平は、個人的には、原作を改変してそれでも作品の質を落とさない数少ない監督の一人)。

 実際の事件では浜松の旅館の小学校5年生(10歳)の女の子が弁護士を装った榎津が指名手配中の連続続殺人犯であることを見破りますが(原作もその通り)、映画では、榎津を以前客に取ったことのある〈ステッキガール〉(クレジットにそうある)が見破ります。因みに、ステッキガールとは大宅壮一による造語で、昭和初期の銀座で1時間2円の料金で食事などデートの相手をする"援助交際"の少女のことで、男の腕にぶらさがるステッキみたいだというのが言葉の由来です(龍田静枝、川崎弘子らが出演の「ステッキガール」('29年/松竹蒲田)という映画がある)。戦後そうした"流行"が復活した浜松では、当時70のステッキガール組織があり、それぞれ20人ほどの女性を置いていて、浜松は"ステッキガール発祥の地"と言われています(戦後のステッキガールは観光ガイドなどの看板で売春をしていた)。作品の舞台は昭和46年頃と、原作より8年ぐらい後ろ倒しにされていますが、そうした組織は、昭和60年代頃まではまだあったと言われています。

復讐するは我にあり_7.jpg 原作者の佐木隆三が、ハルの宿でクレームをつけて帰ってしまう泊り客としてカメオ出演しています。佐木隆三はこの映画公開の前年['78年]、銀座の路上で交差点に赤信号停止しているタクシーに乗ろうとしたところ、タクシー乗り場から乗るように言われたことに逆上し、タクシーのボンネットに乗り上げて暴れてフロントガラスを破壊して警察に逮捕されていますが、クレーマーっぽい役柄はその事件の自虐パロディだったのかも。

「貸席あさの」のセットでの撮影準備(左から、今村昌平監督、姫田真佐久カメラマン、小川真由美、佐木隆三)

Fukushû suru wa ware ni ari (1979)
Fukushû suru wa ware ni ari (1979) .jpg復讐するは我にありC.jpg「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ蝶々/倍賞美津子/小川真由美小川真由美 復讐するは我にあり2.jpg清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑復讐するは我にあり 弁護士.jpg郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)

緒形拳(榎津巌)/加藤嘉(河島弁護士)
 
観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88
』 (2015/06 鉄人社)
復讐するは我にあり_7880.JPG 復讐するは我にあり_7889 (1).jpg

小川真由美 in 山本薩夫監督「白い巨塔」('66年/大映)/野村芳太郎監督「鬼畜」('78年/松竹)/今村昌平監督「復讐するは我にあり」('79年/松竹) 
白い巨塔 小川真由美 2.jpg 小川真由美 鬼畜 - 2.jpg 小川真由美 復讐するは我にあり.jpg
   
《読書MEMO》
●ポン・ジュノ監督(韓国)の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●悲情城市(ホウ・シャオシェン)
 ●CURE キュア(黒沢清)
 ●ファーゴ(ジョエル & イーサン・コーエン)
 ●下女(キム・ギヨン)
 ●サイコ(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)
 ●復讐するは我にあり(今村昌平)
 ●恐怖の報酬(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)
 ●ゾディアック(ディヴィッド・フィンチャー)

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面白い。素材自体がかなり興味深い。ノンフィクション・ノベルも「ノベル」の内。

復讐するは我にあり 上.jpg  復讐するは我にあり 上 (講談社文庫.jpg 復讐するは我にあり下 (講談社文庫).jpg  復讐するは我にあり 文春文庫5.jpg 文春文庫
復讐するは我にあり 上 (講談社文庫 さ 7-1)』『復讐するは我にあり〈下〉 (1978年) (講談社文庫)』/『復讐するは我にあり (文春文庫)』['09年(改訂新版文庫化)]
復讐するは我にあり (上・下) (1975年)

復讐するは我にあり下.jpg 1975(昭和50)年下半期・第74回「直木賞」受賞作。

 昭和38年、当時の日本の人々はたった一人の男に恐怖していた。榎津巌(えのきづ いわお)。キリスト教カトリック信者で「俺は千一屋だ。千に一つしか本当のことは言わない」と豪語する詐欺師にして、女性や老人を含む5人の人間を殺した連続殺人犯。延べ12万人に及ぶ警察の捜査網をかいくぐり、大学教授・弁護士などに化けて78日間もの間逃亡したが、昭和39年に熊本で逮捕され、43歳で処刑された。稀代の犯罪者の犯行の軌跡を再現する―。

佐木隆三LG.jpg 昨年['15年]10月に78歳で亡くなった佐木隆三(1937-2015)の代表作ですが、作者がこの作品を書いた時には、本書の素材となった「西口彰事件」から既に12年が経っており、よく調べ上げたものだなあと思いました。でも、こんなスゴイ犯罪者が実際にいたとは驚きです。小説での犯人・榎津は、天才的な詐欺の能力を発揮する神出鬼没の詐欺師であり、それでも詐欺よりも殺人の方が効率が良いと考え、またそれを実行する凶悪犯でもあります。

西口彰.jpg 犯人が熊本では弁護士を装って教戒師の家に押し入ったものの、当時10歳(小学5年生)の娘が見抜き、通報することにより逮捕につながったというのは「西口事件」における事実であり、警察の要職を歴任した高松敬治は「全国の警察は、西口逮捕のために懸命な捜査を続けたが、結果的には全国12万人余の警察官の目は幼い一人の少女の目に及ばなかった」と語ったと言います(犯人が自分で自らの逮捕の経緯を「裸の王様」みたいな話だと言ったのも本当らしい)。

西口 彰(1925-1970)1964年1月3日逮捕、1966年8月15日死刑確定、1970年12月11日福岡拘置所で死刑執行(享年44)。

 こうした犯人の詐欺等の犯行で見せる天才性と逮捕のきっかけが小学生に正体を見抜かれたというそのギャップも興味深いし、捕まって死刑が確定してから、死刑囚仲間をカトリック教徒にしようと、本物の神父が教誨師として刑務所に行けない時は代わりを務め、自分の死刑執行の方が早かったために洗礼に立ち会えないことを残念に思いながら刑場の露と消えたというのも興味深いです。元々、敬虔なクリスチャンの父親の下、幼い頃から教会に関わっていたにしても、だったら何故、そのような連続殺人を犯したのか。死刑が確定してから、拘置所内では点字訳の奉仕作業でハイデッガーの『存在と時間』を訳していたそうで、ものすごく正確な点訳だったようです。

復讐するは我にありo.jpg復讐するは我にあり huroku.JPG 作者はトルーマン・カポーティの『冷血』(1965年)を意識して執筆したそうですが、『冷血』が2人の死刑囚への直接取材を通して彼らの内面に入り込むのに対し、作者はこの犯人に対しては「調べれば調べるほど内面が覗けなくなった」と秋山駿(1930-2013)との対談で述べており(単行本付録)、その分だけ、『冷血』と同じノンフィクション・ノベルであっても(改訂新版['07年/弦書房]の帯には"ノンフィクション・ノベルの金字塔"とある)、対象(犯人)と距離を置いている分、純粋ノンフィクションの色が濃くなっている印象は確かにあります。

復讐するは我にあり〈改訂新版〉』['07年/弦書房]

 読んでいていてともかく面白い。この面白さだったら直木賞の選考でも満票に近かったのではないかと思ったりもしますが、このノンフィクションの色が濃いという辺りが、9名の選考委員の内、過半数の5名(水上勉、源氏鶏太、石坂洋次郎、村上元三、川口松太郎)が◎と圧倒的に支持されながらも、柴田錬三郎が「ノンフィクション・ノベルという奇妙なジャンルがあるらしいが、私には、そんなジャンルを認めることのばかばかしさが先立つ」「丹念に、犯行のありさまと逃亡経過を辿ったところで、それは小説のリアリティとはならない」とするなどし、一部選考委員の票が割れる要因となったかも。同じく選考委員だった司馬遼太郎、松本清張の両大御所も積極的には推しておらず△でした(改訂新版の2年後に出た文庫版['09年/文春文庫]の帯では"ノンフィクション・ノベルの金字塔"ではなく"実録犯罪小説の金字塔"となっている)。

 個人的にも、読んでいてどこまで事実なのか気になった部分もあったし(その場にいないと分からないようなことも書かれている)、秋山駿も作者に、作中に出てくるバーのマダムが刑事に向かって自分が何を喋るにもすぐ"自白する"という言葉を使う場面について、創作なんだなあと(真偽を問われた作者の方は「黙秘します」と言って笑っている)。ルポルタージュという前提で書かれてはいないのですから、全てが事実ではないかもしれない。こうした場合、全てが事実であるように見せるのが上手さであって、やはりそこで作家としての力量が問われるという点で、普通の小説と変わらないのではないかと思いました。人によってこの作品を「新聞記事の世界」という人もいますが、自分としてはそうした見方には与しません。ノンフィクション・ノベルも「ノベル(小説)」の内でしょう。今村昌平監督による映画化作品もいいです(当然のことながら、映画の方がよりドラマタイズされている)。

復讐するは我にあり13.jpg復讐するは我にあり  04 .jpg復讐するは我にあり  C7.jpg「復讐するは我にあり」 (1979/04 松竹) ★★★★☆


【1978年文庫化[講談社文庫(上・下)]/2007年改訂新版[弦書房]/2009年改訂新版文庫化[文春文庫]】

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概ね原作に忠実に作られているように思われた。ラストは「砂の器」より上か。原作も越えた?
鬼畜398.jpg
鬼畜dvd 2015.jpg鬼畜dvd.jpg Kichiku  (1978)  .jpg
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鬼畜 岩下.jpg 川越市で印刷屋を営む竹下宗吉(緒形拳)は、妻・お梅(岩下志麻)に隠れ、鳥料理屋の女中・菊代(小川真由美)を妾として囲い、7年間に3人の隠し子を作鬼畜 小川.jpgった。やがて火事と大印刷店攻勢で宗吉の商売は凋落し、手当を貰えなくなった菊代が、利一(6歳)、良子(4歳)庄二(1歳半)を連れて宗吉の家に怒鳴り込む。菊代はお梅と口論した挙句、3人を宗吉に押しつけて蒸発し、お梅が子供達と宗吉に当り散らす地獄の日々が始まる。末の庄二が栄養失調で衰弱し、医者に行ったある日、寝鬼畜 緒形・岩下.jpgている庄二の顔の上にシートが故意か偶然か被さって庄二は死ぬ。宗吉はお梅の仕業と思いながらも口に出せず、逆に、「あんたも一つ気が楽になったね」と言われる。その夜、夫婦は久しぶりに燃え、共通の罪悪感に昂ぶる。お梅鬼畜k5.jpgは残りの子供も〈処分〉することを宗吉に迫り、宗吉は良子を東京タワーに連れて行って置き去り鬼畜k3 .jpgにし、一人エレベーターを降りる。更に長男・利一を毒殺しようとするものの果たせず、何日か後、新幹線こだま号に利一を乗せ、北陸海岸に連れて行く。能登半島に辿り着き、日本海を臨む岸壁で、宗吉は利一を海に落す。翌朝、沖の船が絶壁の途中に引掛っている利一を発見し、かすり傷程度で鬼畜 09.jpg助け出す。警察の調べに利一は父親と遊びに来て眠っているうちに落ちたと言い張り、名前、住所、親のことや身許の手掛かりになることは一切言わない。しかし警察は、事故ではなく利一は突き落とした誰かを庇っていると判断し、利一の持っていた石版印刷に使用する石材のかけら(利一はこれを石蹴り遊びに使っていた)から宗吉が殺人未遂容疑で警察に拘束される。そして、移送されてきた宗吉が警察で利一と対面する―。

鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)1.jpg 松本清張の短編小説「鬼畜」を野村芳太郎(1919-2005)監督が映画化した1978年公開作で、脚本は「赤ひげ」('65年/東宝)の井出雅人、音楽は「砂の器」('74年/松竹)の芥川也寸志(他に「ゼロの焦点」「黒い十人の女」(共に'61年)など)。主な出演者は、緒形拳(1937-2008)、岩下志麻、小川真由美。野村芳太郎による松本清張原作の映画化作品では「砂の器」の評価が高いようですが、この「鬼畜」も非常に良く出来ていると思います。「砂の器」は原作を超えていませんが、「鬼畜」は一面において原作を超えているようにも思います。
鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)

鬼畜01.jpg まず、前半部分しか出てきませんが、小川真由美の3人の子供を連れての鬼畜k2.jpg押しかけぶりが良く、岩下志麻との競演は見所であり、更に中盤の見せ場は、岩下志麻演じるお梅の児童虐待ぶりの凄まじさでしょうか(子役たちは撮影の休憩時間中も岩下志麻に寄りつかなかったという)。

鬼畜k6.jpg それらに比べると、2人の女の間でおろおろしている宗吉を演じた緒形拳はやや影が薄いようにも見えましたが、これはこれで、あまりやりすぎると喜鬼畜k3.jpg劇になってしまうし、あまり抑え過ぎると面白くないし、意外と加減の難しい役どころだったのではないでしょうか(緒形拳はこの演技で、「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞を"3冠"受賞した)。

鬼畜 蟹江.jpg その他にも、印刷所の工員(原作でもいることになっているが人物造型は描かれていない)を蟹江敬三(1944-2014)が好演していたし、子役の演技も、賛否ありますが、個人的には悪くなかったと思います(子役の演技力というより監督の演出力の成果だろう)。

 原作が発表されたのは'57(昭和32)年ですが、それを映画が作られた'78(昭和53)年に置き換えていて(利一が歌う「科学忍者隊ガッチャマン」は、この映画が公開された'78年10月に続編のアニメ放送が始まっている)、宗吉の営む印刷所は、東京から急行列車で3時間を要する地方にあるS市から埼玉県の川越市に、宗吉が菊代を囲った家は、原作ではS市から1時間ばかり汽車で行く町ということで、埼玉県の男衾(おぶすま)駅付近となっています。

「鬼畜」 9s.jpg鬼畜 6.jpg 宗吉が良子を置き去りにするのは原作では東京タワーではなく銀座のデパートの屋上のミニ動物園、利一を毒殺しようとして上野動物園で食鬼畜 緒形 .pngべさせるのはアンパンではなく最中(もなか)、利一を旅に連れて行ったのは北陸ではなく原作では西伊豆です。映画では西伊豆を北陸に変え(米原まで新幹線で行く)、能登金剛までやって来て、そこで利一を崖から放ってしまう―。能登金剛は「ゼロの焦点」('61年/松竹)のラストシーンの舞台でもあります(こちらは原作通り)。これら細かい改変点はありますが、概ね原作に忠実に作られているように思われ、こうした作り方は個人的には割合と好きな方です。

「鬼畜」 s.jpg 原作と一番異なる点はラストで、原作が、利一が頑なに黙秘を続けるも、持っていた石材で宗吉の犯行の足が付くことを示唆して終わるのに対し、映画では、宗吉が殺人未遂容疑で逮捕され、利一と面会を果たす場面が加えられていることです。そこでも利一は、「坊やのお父さんだね?」 との警官の問いに、「知らないおじさんだよ!」と否定し、宗吉はそんな利一にすがりつき、後悔と罪悪感で号泣する―。利一は何故黙秘を続けたのかという疑問を更に発展させて、利一は宗吉を庇ったのか見捨てたのかという究極の問いを観る者に投げかけている訳で、この持って行き方は悪くないように思いました。答えはそう難しくないと思いますが、観る者にちょっとだけ考えさせるこの終わり方が余韻となっており、「砂の器」の加藤剛が延々とピアノ曲「宿命」を奏でる(やや大仰な)エンディングより上だったかもしれません。一面において原作を超えていると思うのも、この分かりやすい問題提起とでも言うか、まさにこの点にあります(因みに、原作にはモデルとなった実際の事件があって、犯人の男は在獄中に発狂死したという凄まじいエピソードがある)。

鬼畜  岩下志麻.jpg 鬼畜 小川真由美.jpg 岩下志麻/小川真由美
鬼畜 蟹江敬三.jpg 鬼畜 大滝秀治.jpg 蟹江敬三/大滝秀治
鬼畜 鈴木瑞穂、大竹しのぶ.jpg 鈴木瑞穂・大竹しのぶ

鬼畜 パンフ.jpg鬼畜 o.jpg「鬼畜」●制作年:1978年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/ 野村芳樹●脚本:井手雅人●撮影:川又昂●音楽:芥川也寸志●時間:110分●出演:緒形拳/岩下志麻/小川真由美/加藤嘉/蟹江敬三/大滝秀治/大竹しのぶ/田中邦衛/浜村純/鈴木瑞穂/岩瀬浩規/吉沢美幸/穂積隆信/石井旬/山谷初男/三谷昇●公開:1978/10●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-31)(評価:★★★★☆)
映画パンフレット 「鬼畜」 監督 /野村芳太郎 出演 /岩下志麻、緒方拳

小川真由美 in「鬼畜」('78年)/「復讐するは我にあり」('79年) 
小川真由美 鬼畜 - 2.jpg 小川真由美 復讐するは我にあり.jpg


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淡々と書き連ねられているだけに怖い「鬼畜」。個人的な拾い物は「怖妻の棺」。

鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)2.jpg 鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)1.jpg  鬼畜―松本清張短編全集〈7〉光文社文庫.jpg 鬼畜 16.jpg 映画「鬼畜
鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)』(2003年第3版)/(没後10周年記念カバー)/『鬼畜―松本清張短編全集〈07〉 (光文社文庫)』/「鬼畜 [DVD]
松本清張短編全集〈第7〉鬼畜 (1964年) (カッパ・ノベルス)
鬼畜―松本清張短編全集7.jpg鬼畜―松本清張短編全集7.jpg 32歳の竹中宗吉は、とある地方で漸く印刷屋の主になるところまで漕ぎつけた。狐のような顔をした妻・お梅との間に子は無い。商売の順調な頃、宗吉は、料理屋の女中・菊代に惹かれる。何とか菊代を養えそうな気がした宗吉は、彼女と関係を持った。好きな女を囲う身分になれたという充足は出世感に近かった。菊代との間には3人の子供ができた。しかしその後、近代的な印刷会社の進出や火事により宗吉の商売は零落、宗吉から生活費の貰えなくなった菊代が、3人の子を連れて宗吉の家に乗り込んだため、お梅にも事態が露見する。お梅の仕打ちと女房の前に竦んだ宗吉の腑抜けぶりに、菊代は怒って出て行ってしまう。3人の子供が残され、女房の睨む中、子供は一人ずつ「処分」されていく―。(「鬼畜」)

 '57(昭和32)年発表の「鬼畜」をはじめ、松本清張(1909‐1992)が昭和31年から33年にかけて発表した全7編を収録。他6編は、「なぜ「星図」が開いていたか」「反射」「破談変異」「点」「甲府在番」「怖妻の棺」で、この内、「破談変異」「甲府在番」「怖妻の棺」が時代物で、他は現代物です。

 「なぜ「星図」が開いていたか」(昭和31年発表)は、自然死に隠されたトリックですが、このトリック、外形的には殺人に近い"未必の故意"と言えなくもないのではないでしょうか。「反射」(昭和31年発表)は、松本清張版「心理試験」とも言える作品ですが、江戸川乱歩の「心理試験」をもう一捻りした感じです。但し、両作品について、作者自身があとがきで「短編にこうしたものを収めるのは無理なような気がする」と述べているように、トリックだけ見せて終わってしまっている印象もしなくもなかったです。

 「破談変異」(昭和31年発表)は江戸時代の婚姻話を巡るトラブルを描いたもので、最後は遺恨絡みの殺傷沙汰になってしまうのですが、池田亀鑑の「大奥の女中」に材を得たとのこと。仲人って昔の方が大変だったかも。「点」(昭和33年発表)は、警察スパイのなれの果てを描いたもので、九州のある地方にいた警察側の対日共密偵に取材したものだそうですが、当人には会わずに書いたら、当人が発表後にクレームの手紙をよこし、面会を強要してきたとのこと(いかにもそういうことをしそうな感じだなあ)。

 「甲府在藩」(昭和31年発表)は、甲府城に流謫された旗本の話で、甲府流しにされるのはもともと江戸で遊蕩三昧に耽った不良旗本が多かったが、主人公は前任者で行方不明になった兄の消息を探るべく敢えて甲府に赴任、そしてそこには隠し金山の秘密が...。話がだんだんグロテスクになっていくところが何とも言えず、最後は儚さだけが残ったという感じでしょうか。「怖妻の棺」(昭和32年発表)は、家付き娘だった妻に対して頭が上がらない男が、密かに息抜きに通っていた妾宅で倒れ、死んだと思って男の親友である主人公が本妻に全てを打ち明け、跡目相続のために遺体だけ家に戻して普通に自宅で死んだようにみせかける算段をしたところ、件の男が実は医者の見立て違いで蘇生してしまい、もう全てを本妻は知ってしまったわけで、腹でも切るしかないかと追い詰められる話。親友である主人公も、いい策が思いつかなかったが...。

詐者の舟板 (1957年)_.jpg 表題作「鬼畜」は、'57(昭和32)年12月に短編集『詐者の舟板』収録の1作として、筑摩書房から刊行されていますが、'64年のカッパ・ノベルズ版で表題作に"格上げ"されています(因みに、「詐者の舟板」は「カルネアデスの舟板」の改題で、後に当初のタイトルに戻っているが、これも傑作)。「鬼畜」が野村芳太郎監督によって映画化されたのは'78(昭和53)年で、「鬼畜」という作品はこの映画化によってよりよく知られるようになったのではないでしょうか。

詐者の舟板 (1957年)』(筑摩書房)
(捜査圏外の条件、青のある断層、発作、喪失、鬼畜、詐者の舟板(カルネアデスの舟板))

鬼畜3981.jpg鬼畜 緒形 .jpg「鬼畜」 (1978/06 松竹) ★★★★☆

 「鬼畜」は、"東京地検特捜部生みの親"と言われる河井信太郎(1913-1982)の無名時代に、作者が河井本人から聞いた話がベースになっており、モデルとなった男は骨董屋ですが、それを作者が若い頃に携わっていた印刷業界に置き換えているものの、妾に3人の子を産ませていたが商売不振で仕送りができず、妾が子を連れて男の家に来るところから始まり、本妻に子を片付けろと責められる中、殺害・殺害未遂を経て、西伊豆で逮捕されたというのは事実のようです(男は在獄中に発狂死したというから凄まじい)。この作品は、淡々と書き連ねられているだけに怖いです。最後に、石版印刷の石版の欠片から足が付くという推理小説的要素を持たせていますが、子殺しというモチーフと、親子の絆というテーマの方が圧倒的に重かったでしょうか。

 個人的な拾い物は「怖妻の棺」で、やや話が旨すぎるきらいもありますが、作者にしては珍しくほっとさせられる作品でした(「鬼畜」の前にあるから、より、そう感じるのかも)。

【1964年ノベルズ版・2003年第3版[カッパ・ノベルス]/2009年文庫化[光文社文庫]】

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原作者に「原作を超えた」と言わせた作品。ドラマではだんだん原作の雰囲気を伝えにくくなってきている?

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張込み [DVD]」/「『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 張込み』 [Blu-ray]」/大木実・宮口精二/TX系「水曜ミステリー9」松本清張特別企画「張込み」2011年11月2日放映(若村麻由美)/『張込み―松本清張短編全集〈3〉 (カッパ・ノベルス)

張込み 映画 dvd.jpg張込み 3.jpg 警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女・さだ子(高峰秀子)に張込み 高峰.jpg会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった―。

『張込み』(1958)2.jpg 原作は松本清張が「小説新潮」1955年12月号に発表した短編小説。橋本忍脚本、野村芳太郎監督によるこの映画化作品では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が原作の1人に対して2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1人にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、見張る側の私的な状況など原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。しかしながら、この作品の世評は高く、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。

 橋本忍・野村芳太郎のコンビは以降も「ゼロの焦点」('61年)、「影の車」('70年)、「砂の器」('74年)と、この作品以降次々と松本清張作品の映画化を手掛けており、そうした一連の作品の中でもこの作品に対する原作者・松本清張の評価・満足度は高かったそうですが、個人的には、最初にこの映画「張込み」を観た際には、後年の作品ほどの演出のキレが感じられませんでした。ただ、田中小実昌などは「砂の器」よりもこっちの方がずっと傑作だと言っおり、エライ人が出てこないのがいいと。確かにそういう見方もあるかもしれないと思った次第です。

松本清張 .jpg 因みに、松本清張本人が評価していた自作の映画化作品は、この「張込み」と、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)、「砂の器」('78年/松竹)だけであったといい(3作とも脚本は橋本忍)、特に「張込み」と「黒い画集 あるサラリーマンの証言」については、 「映画化で一番いいのは『張込み』『黒い画集 あるサラリーマンの証言』だ。両方とも短編小説の映画化で、映画化っていうのは、短編を提供して、作る側がそこから得た発想で自由にやってくれるといいのができる。この2本は原作を超えてる。あれが映画だよ」と述べたとのことです。(白井佳夫・川又昴対談「松本清張の小説映画化の秘密」(『松本清張研究』第1号(1996年/砂書房)、白井佳夫・堀川弘通・西村雄一郎対談「証言・映画『黒い画集・あるサラリーマンの証言』」(『松本清張研究』第3号(1997年/砂書房))。

 この「張込み」という作品は、時代劇に翻案されたものも含めると、これまでに少なくとも10回はテレビドラマ化されています。
 •1959年「張込み(KR(現TBS))」沢村国太郎・山岡久乃・安井昌二
 •1960年「黒い断層~張込み(KR(現TBS))」宇津井健・三井弘次
 •1962年「張込み(NHK)」沼田曜一・福田公子・小林昭二
 •1963年「張込み(NET(現テレビ朝日))」江原真二郎・織田政雄・高倉みゆき
 •1966年「張込み(KTV(関西テレビ))」中村玉緒・下条正巳・高津住男
張込み 吉永小百合.bmp •1970年「張込み(NTV)」加藤剛・八千草薫・浜田寅彦
 •1978年「松本清張おんなシリーズ1・張込み(TBS)」吉永小百合・荻島真一・佐野浅夫
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・張込み(CX)」大竹しのぶ・田原俊彦・井川比佐志
 •1996年「文吾捕物絵図 張り込み(TX)」中村橋之助・萬屋錦之介・國生さゆり
 •2002年「松本清張没後10年記念・張込み(ANB)」ビートたけし・緒形直人・鶴田真由

張込み 田村高廣/高峰秀子.jpg 女主人公の方は、映画では高峰秀子が演じ、テレビドラマでは八千草薫や吉永小百合などが演じているとなると、女優にとっては演じてみたい役柄なのでしょう。でも、相応かつ相当の演技力が要求される役どころだと思います。

映画「張込み」 田村高廣/高峰秀子

 一方、張り込む側の男優の方は、テレビドラマ版は、見張りの刑事が2人になっているものが多く、その点では映画版を踏襲していますが、だんだんベテラン刑事と若手刑事の取り合わせという風になっていき(但し、吉永小百合版は若手の荻島真一が一人で張り込み)、ベテランがメインになったり若手がメインになったりと色々バリエーションがあるようです(大竹しのぶ版では若手エリート刑事と地元の田舎刑事との取り合わせ、ビートたけし版ではビートたけしと一緒に張り込む緒形直人の方が「年下の上司」ということになっている)。

若村麻由美.bmp そして2011年にまた、TX系の「水曜ミステリー9」で、「松本清張特別企画」として、若村麻由美・小泉孝太郎主演で放送されました(若村麻由美は「無名塾」種出身。90年代にも清張ドラマに何度か出演しており、女優業復帰でこの人も結構長いキャリアになる)。

張込み 水曜ミステリー2.jpg 張り込む刑事は小泉孝太郎1人で、先輩刑事のムダだという意見に抗して張り込むことを主張する熱血漢である一方で、色男でもあり、かつて関与したDV事件の女性被害者に対して、今はストーカーまがいのことをしているという変なヤツ。原作ではラストに1回あるだけの、主人公の女(若村麻由美)との接触場面が矢鱈と多く、逃亡中の犯人(元恋人)と女を引きあわせるお膳立てまでして、結果として女の目の前で犯人は取り押さえられることになり、これって却って残酷ではなかったか。

張込み 水曜ミステリー3 携帯.jpg 原作にはあまり記述の無い女の家庭での妻としての暮らしぶりが描かれることは、これまでのドラマ化作品でもあったかと思いますが、これはやや"描き過ぎ"。しかも、「幸せそうではない」夫婦生活のはずが、一見「幸せそうな」家庭になっていて、夫婦の結婚の経緯から始まって、女の夫が携帯の着信記録から妻の行動に不審を抱き妻を問い詰めると、ストーカーに狙われていると言うので警察に通報するとか、事件解決後に女は家から出奔してしまうとか―何だか余計なものを付け加え過ぎて、原作とはテーマからして別物になった感じ(ベクトル的には原作と真逆。特にラストは)。

張込み 1958.jpg張込み 映画1.jpg ドラマ化されるごとに原作から離れていく感じがしますが、最近のドラマ化作品が原作と別物に見えるのは、野村芳太郎のモノクロ映画の冒頭で10数分間続く夜行列車のシーンに見られるような(その外にも移動シーンで蒸気機関車がふんだんに見られ、S張込み 1958汽車.pngLファン必見作?)、高度成長期初期の熱に浮かされたような活気や雑然とした時代の雰囲気みたいなものが、最近のテレビドラマでは再現されにくいということもあるのかもしれません。まあ、半世紀以上経っているのだから仕方が無いか。 [上写真]「張込み」撮影風景(高峰秀子)

 大方が時代設定を現在に置き換えており、最初から原作を再現するつもりも無いわけですが、1回"原点回帰"したものも観てみたい気がするし、演出が近年の刑事ドラマのパターンをステレオタイプで踏襲しているのにはややウンザリもします(このTX系「水曜ミステリー9」版も、若村麻由美はまあまあなのだが、男優陣の演技は"全滅"に近かったように思う)。

張込み タイトル.jpg 野村芳太郎監督の映画化作品を最初に観た時の個人的評価は星3つでしたが(多分、原作との違いが気にかかったというのもあったと思う)、今観直すと、時代の雰囲気をよく伝えているような印象も。後にこれを超えるものが出てこないため、相対的にこちらの評価が高くなって星半分プラスしたという感じでしょうか。

大木実/宮口精二
大木実/宮口精二 張込み.jpg張込み 映画2.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大木実/宮口精二/高峰秀子/田村張込み 1958汽車2.png高廣/高千穂ひづ張込み vhs.jpgる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)

張込み 水曜ミステリー1.jpg「張込み」●監督:星田良子●製作:TX・BSジャパン●脚本:西岡琢也●原作:松本清張●出演:若村麻由美/小泉孝太郎/忍成修吾/渡辺いっけい/塩見三省/六平直政/田山涼成/上原美佐●放映:2011/11(全1回)●放送局:テレビ東京 

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