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主演・船越英二を喰った岸恵子と山本富士子の"競演"。森山加代子も出ていたなあと。
「黒い十人の女 [DVD]」船越英二/岸恵子/山本富士子/宮城まり子/中村玉緒/岸田今日子
「黒い十人の女」ポスター
テレビプロデューサーの風松吉(船越英二)は、美しい妻・双葉(山本富士子)がいながら、多くの女と浮気していた。双葉と愛人たちはお互いの存在をそれとなく知っており、"風"が浮気者であるという事も重々承知しているものの、何故か"風"から離れられないでいる。そこで双葉と舞台女優で愛人の市子(岸恵子)との間で"風"を殺す計画が持ち上がる。それは計画を立てることで"風"への鬱憤を晴らすための架空の計画であったが、気の小さい"風"は、愛人たちが自分を殺そうとしていると思い込んで双葉に相談する。双葉はあっさり計画を認めた上で、愛人たちを一掃するために、愛人9人を集めて"風"を糾弾する会を開き、その席上ピストルで"風"を殺したように見せかける狂言殺人を行うことを提案する。計画は成功し、愛人たちは双葉に罪を着せたつもりで逃げ出し、愛人の一人・三輪子(宮城まり子)は後追い自殺までする。"風"を死んだことにするため双葉は"風"を隠すが、やがてその存在を疎ましく思うようになり、狂言殺人であることを明かして愛人たちから糾弾される。双葉は"風"と離婚し、市子が女優を辞めて"風"を引き受けることになる―。
和田夏十(本名:市川由美子、1920-1983)のオリジナル脚本、市川崑(1915-2008)監督の1961年公開作品。和田夏十は市川昆のパートナーとして「鍵」('59年)や「野火」('59年)などの文芸物や、「太平洋ひとりぼっち」('63年)、「東京オリンピック」('65年)といったドキュメンタリー乃至はセミドキュメンタリーの脚本を手掛けていて、物語自体がオリジナル脚本というのは殆ど無いのですが(「私は二歳」('62年/大映)は松田道雄原作となっているが、実質オリジナル脚本と言えるか)、この人は全くのオリジナル脚本の方が面白いかも(「鍵」は別の意味で面白かったが)。愛人たちが死んだと思った"風"が生きていることを知って双葉を糾弾するシーンを冒頭に持ってきていて、これがなかなかの緊迫感を醸していますが、一方で、終盤で何となく"不全感"もありました。
船越英二/岸 恵子
主演は「野火」の船越英二(1923-2007)で、生き馬の目を抜くようなテレビ業界に身を置き多忙を極めながらも、一方で多くの女性と節操の無い関係を続け、では人生充実しているかというと、いつも何となく浮かない顔しているというそうした男を好演、"風"という名前に、仕事も恋愛も何となく"虚"であって"実"の見えてこない様が込められているように思いました。
「十人の女」の内、"風"の愛人で女優の石ノ下市子(岸恵子)、妻の風双葉(山本富士子)以下、愛人の三輪子(宮城まり子)、四村塩(中村玉緒)、後藤五夜子(岸田今日子)までが有名女優が演じていました。そして、9人目の愛人(本妻を含め「十人目の女」)十糸子まで名前に数字が入っていますが、その順番で言うと本妻の双葉(二葉)の前に愛人の市子(一子)が来ているというのがやや捻っていて面白いです。
演技面でも5人とも見せますが(中村玉緒が若い(!)。ついでに伊丹十三も)、中でもやはり岸恵子と山本富士子の"競演"が見所で、この2人の演技は主人公の"風"を演じた(しかもそう悪くない演技をしている)船越英二を喰っているように思いました。岸恵子と山本富士子でどちらが上かというと、この作品では、スタイルの和洋の違いはありますが("ナンバー1"である)市子を演じた岸恵子の方が勝っていたでしょうか。終盤、市子によって"風"は飼い殺し状態になり、会社にも行けない状態になって生きる目的を失ったようになっていますが、これって市子にとってはどういうメリットがあったのでしょうか。単に復讐なのか、その辺りが個人的にはややもやっとした謎が残りました。
危うく"風"の10人目の愛人、11人目の女となりかかる女性を、前年イタリアの歌手ミーナの曲のカバー曲「月影のナポリ」でデビューして大ヒットし、「NHK紅白歌合戦」初出場を果たした森山加代子が演じていて(この曲はザ・ピーナッツもカバーした。「紅白」では同年ヒットした、これもまたザ・ピーナッツとの競作カバー曲「月影のキューバ」を歌った)、彼女の役柄は新人タレントの「百瀬桃子」。テレビ局の屋上でうっとりと森山加代子演じる桃子が「月」を見ているシーンから、彼女が船越英二の"風"と抱き合うまで、ここだけロマンティックなタッチで描かれているのが何故か印象に残りました(音楽は芥川也寸志)。森山加代子はその後本業の歌手としてもいったん低迷状態になりますが、「白い蝶のサンバ」('70年)で再ブレイクしてその年8年ぶりに「紅白」に出場、これは作詞家デビューして3年間鳴かず飛ばずだった阿久悠(1937-2007)にとっての最初のヒット作でもあり、そんなことも思い出したりして"女優"森山加代子にやや感慨を覚えた次第です。
「黒い十人の女」●制作年:1961年●監督:市川崑●製作:永田雅一●脚本:和田夏十●撮影:小林節雄●特撮:築地米三郎●音楽:芥川也寸志●時間:103分●出演:船越英二/岸恵子/山本富士子/宮城まり子/中村玉緒/岸田今日子/宇野良子/村井千恵子/有明マスミ/紺野ユカ/倉田マユミ/永井智雄/伊丹十三/大辻伺郎/浜村純/早川雄三/三角八郎/森山加代子/ハナ肇とクレイジーキャッツ●公開:1961/05●配給:大映(評価:★★★☆)
山本富士子/中村玉緒/岸田今日子
船越英二/岸恵子/宮城まり子
中村玉緒/伊丹十三
市川崑監督、和田夏十脚本、船越英二、山本富士子主演「私は二歳」('62年/大映)
「続次郎長富士」('60年/大映)中村玉緒・勝新太郎/「黒い十人の女」('61年/大映)
山本富士子:小津安二郎監督「彼岸花」(1958)/豊田四郎監督「濹東綺譚」(1960)/市川昆監督「黒い十人の女」(1961)/市川昆監督「私は二歳」(1962)
[テレビドラマ(2002年版)]
フジテレビ・ゴールデンシアター特別企画「黒い十人の女」 2002年9月21日(全1回) 監督:市川昆 オリジナル・シナリオ:和田夏十/神山由美子
出演: 小林薫/鈴木京香/浅野ゆう子/小泉今日子/深田恭子/小島聖/木村多江/松尾れい子/冨樫真/唯野未歩子/一戸奈未
[テレビドラマ(2016年版)]
読売テレビ・日本テレビ系 新木曜ドラマ「黒い十人の女」 2016年9月29日~(全10回)演出:渡部亮平/瑠東東一郎/山本大輔/豊島圭介 脚本:バカリズム 原作:和田夏十
出演:船越英一郎/成海璃子/トリンドル玲奈/佐藤仁美/佐野ひなこ/MEGUMI/若村麻由美/水野美紀/平山あや/白羽ゆり/ちすん