【2379】 ○ 松田 定次 「二十一の指紋 (多羅尾伴内 二十一の指紋) (1948/07 大映) ★★★☆

「●松田 定次 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2380】 松田 定次「三十三の足跡
「●片岡 千恵蔵 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

シリーズ第3作。片岡千恵蔵演じる藤村大造(多羅尾伴内)のキャラが完全に確立された。

二十一の指紋vhs.jpg二十一の指紋_dvd.jpg多羅尾伴内 二十一の指紋36.jpg 二十一の指紋-300x214.jpg
                喜多川千鶴/片岡千恵蔵
多羅尾伴内二十一の指紋 FYK-174 [DVD]
二十一の指紋 [VHS]

多羅尾伴内-二十一の指紋e.jpg 運転手の藤村大造(片岡千恵蔵)は、波止場で泣いていた里見珠江(喜多川千鶴)という女をある屋敷に送り届け、その家で五十がらみの男の惨死体を発見、そこには珍しい形の短剣の鞘と様々の所に印された二十一の指紋があっ多羅尾伴内 二十一の指紋k.jpgた。翌日、笠原警部(大友柳太朗)を訪れた皆川弁護士(斎藤達雄)は何か落ち着かぬ様子。藤村は多羅尾伴内と変名して彼を追い、彼が里見珠江を探していることを探り出すと、水野刑事(上代勇吉)と現場に行き、モルヒネの注射液を発見する。今度は「日かげの街」という闇市でモヒを求めて行き倒れになった浮浪者を装い、同情した浮浪児の三吉を通して、ナナ舞踊団の時田ナナ(日高澄子)と知り合う。彼女の一座が飯島(高田稔)の邸に出入することを知った藤村は、飯島家の門前で里見珠江にそっくりの娘を見かけたため、土屋元伯爵と名乗り、飯島に近しい高原(小堀明男)の紹介で飯島邸に乗り込む。例の娘は重松きみ子(喜多川千鶴・二役)と名乗り、南方探検家・重松子爵の孫だったが、彼女は遺産の一部のみ相続したので、名刀タキン・ミヤについては知らないと言う。藤村は計略してきみ子を自らが運転する車に乗せ、「里見珠江は貴女だろう」と責めるが別人だった。その時になって藤村は、ナナ舞踊団の里見まゆみが里見珠江であることに思い当るが、モヒ患者として身を隠していた彼女に会うと、自分が老人殺害犯人だと認める始末だった。裏に麻薬密輸組織があるとみた藤村は、腹話術師に変装し、ナナ達と飯島邸のパーティーに出演、余興を装って人形の顔を飯島、きみ子、緒方、桜井、高原に押して貰い、指紋を警察に送る。皆川弁護士を訪れると妻(沢村貞子)しかおらず、彼は偽電話で誘われて出かけ殺害されており、一度釈放された珠江までが行方不明となる。藤村は、飯島一味との最後の対決に臨む―。

二十一の指紋6.jpg 1948(昭和23)年公開の松田定次(1906-2003/享年96)監督による大映映画で、多羅尾伴内シリーズの第3作にあたります。片岡千恵蔵主演のこのシリーズは、1946(昭和21)年から1948(昭和23)年まで大映で4作品が作られ、1953(昭和28)年から1960(昭和35)年まで東映で7作品が作られ、本作は、「七つの顔」('46年)、「十三の眼」('47年)に続くものであり、この後の「三十三の足跡」('48年)が大映での最後の作品となりました。やがて、片岡千恵蔵と縁の深い松田定次も東映に移籍し、引き続きこのシリーズを監督します(松田定次の異母弟のマキノ光雄が東横映画(東映)製作責任者だったという繋がりもある)。


多羅尾伴内 二十一の指紋 齋藤 - コピー.jpg多羅尾伴内 二十一の指紋82.jpg 片岡千恵蔵演じる藤村大造(多羅尾伴内)のキャラはここにきて完全に確立されているという感じで、クレジットでは片岡千恵蔵のところに、「多羅尾伴内/片眼の運転手/せむしの男/藤村大造/老浮浪者/土屋元伯爵/一楽亭ピカ一」と出ます("一楽亭ピカ一"は腹話術師としての名前)。一人七役で、まさに"七変化"です。

多羅尾伴内 二十一の指紋 喜多川千鶴.jpg 喜多川千鶴は「七つの顔」「十三の眼」からの共演で、この作品では里見珠江、重松きみ子の他に里見まゆみも演じているとすると、一人三役とも言えます。また、「淑女は何を忘れたか」('37年/松竹蒲田)など小津安二郎作品でもお馴染みの斎藤達雄多羅尾伴内 二十一の指紋 齋藤.jpg「十三の眼」からの共演、「大学は出たけれど」('29年/松竹蒲田)、「燃ゆる大空」('40年/東宝東京)、「加藤隼戦闘隊」('44年/映画配給社(東宝))の高田稔や、まだ売出し中の笠原警部役の大友柳太郎(渋い)、小堀明男、沢村貞子など、改めて観るといろんな人が出ていたなあという印象です。

 推理ありアクションあり、最後はカーチェイスあり撃ち合いありで楽しませてくれ、藤村大造には弾は絶対当たらないのがお約束事であり、最後に彼が変装をかなぐり捨てて颯爽と藤村大造としての正体を現し、二挺拳銃を構えて犯罪一味と銃撃戦になり、警察が駆けつけたころには、藤村大造が単独勝利を収めているというのもお約束事です(警察なのに犯人の車に追いつかない)。

 ウィキペディアによれば、このシリーズは興行的には大成功しつつも、映画批評家の間では散々な悪評であったそうで、その理由は、
 ・ストーリーは、幼稚なたわいない話が多く、荒唐無稽である。
 ・千恵蔵が七変化をするのが映画のポイントだが、どんなに化けても観客には千恵蔵本人であることが一目瞭然であり化ける意味が薄く、また事件の推理・捜査と大して関連してもいない。
といったところにあるらしく、ついに永田雅一・大映社長は「多羅尾伴内ものなど幕間のつなぎであって、わが社は今後、もっと芸術性の高いものを製作してゆく所存である」と言明、これに対して激怒した片岡千恵蔵が「わしは何も好き好んでこんな荒唐無稽の映画に出ているのではない。幸い興行的に当たっているので、大映の経営上のプラスになると思ってやっているのに社長の地位にあるものが幕間のつなぎの映画とは何事だ。大映との契約が切れたら再契約しない」と断言したため、途中で大映から東映に製作会社が移ったようです。

 内容的にはお気楽な予定調和と言えばそうかもしれませんが、特に大映での4作品は、戦後の復興期の期待感を反映した面もあるように思います。この作品でも、浮浪児や闇市が出てきたり(闇市を支配する若いヤクザを三船敏郎が演じた黒澤明の「醉いどれ天使」('48年/東宝)が同年4月に公開されている)、豪華なオープンカーによるカーチェイスの背景が瓦礫の原だったりするのが、再見して個人的には印象に残りました。昭和23年かあ。

多羅尾伴内 二十一の指紋  .jpg「二十一の指紋(多羅尾伴内 二十一の指紋)」●制作年:1948年●監督:松田定次●●脚本:比佐芳武●撮影:石本秀雄●音楽:白木義信●時間:84分●出演:片岡千恵蔵/喜多川千鶴/高田稔/斎藤達雄/大友柳太郎/日高澄子/見明凡太郎/小堀明男/沢村貞子/上代勇吉/近衛敏明/水野浩/清水明/伊達三郎●公開:1948/07●配給:大映(評価:★★★☆)
片岡千恵蔵(in「獄門島」(1949年)as 金田一耕助)

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2016年3月 1日 22:56.

【2378】 ○ 小津 安二郎 「お茶漬の味」 (1952/10 松竹) ★★★☆ was the previous entry in this blog.

【2380】 △ 松田 定次 「三十三の足跡 (多羅尾伴内 三十三の足跡)」 (1948/12 大映) ★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1