【2377】 △ 久松 静児 (原作:木々高太郎) 「三面鏡の恐怖 (1948/06 大映) ★★★

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観客に判断を任せた結末。"状況的"には解るが"動機的"によく解らない...。

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「三面鏡の恐怖[VHS]」 上原謙/木暮実千代 三面鏡の恐怖 (KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ)』['18年]
san「三面鏡の恐怖」.jpg 建設会社秘書課長・真山十吉(上原謙)は、水力発電ダム工事に賭ける情熱を恋人・尾崎嘉代子(木暮実千代)に熱く語る。しかし後日、社長から娘への縁談を持ちかけられた十吉は、嘉代子を裏切って社長令嬢と結婚してしまう。傷心の嘉代子は、親切ごかしに近付いてきた真山の同僚・平原(水原浩一)と結婚する。数年が過ぎ、十吉は建設会社の社長になっていた。妻は病気ですでに他界しており、妻の妹・辰美(新宮信子)が義兄にほのかな恋心を抱いていた。そんな真山の邸にある日一人の女性が訪れ、真山は驚愕する。かつて別れた嘉代子だったからだ。しかし、その女性は、自分は嘉代子ではなく、妹の伊都子(木暮実千代・二役)であり、姉は心臓病で他界したと言う。驚きながらも、いつしか真山は伊都子を恋するようになり、二人は結婚して真山邸に住むようになるが、真山家の母親と辰美にはそれが面白くない。やがて、平原が新妻の伊都子と出会うが、伊都子は平原を忌み嫌う。一方の平原は、伊都子が実は自分の元妻・嘉代子であると疑う。そして辰美も伊都子の正体を疑い始める。そんな中、平原が謎の死を遂げ、担当の落合刑事(船越英二)は伊都子に嫌疑をかける―。

 1948(昭和23)年公開の、高岩肇脚本、久松静児監督のコンビによる「夜光る顔」('46年/原作:菊田一夫)、「パレットナイフの殺人」('46年/原作:江戸川乱歩)、「盗まれかけた音楽祭」('46年)、「蝶々失踪事件」('47年/原作:江戸川乱歩)に続く作品で、原作は木々高太郎(林髞)の第2回('49年)日本推理作家協会賞(長編部門)候補作「三面鏡の恐怖」(結局、この回の受賞者は「不連続殺人事件」の坂口安吾、但し、木々高太郎は第1回の短編部門での受賞者でもあった)。

木々高太郎「三面鏡の恐怖」.jpg 物語は、最初の方は矢鱈テンポがよくて、十吉が嘉代子と別れて"逆玉婚"したと思ったら妻が亡くなり、それでも社長の地位にいて、義妹の辰美からは慕われているものの彼の方はつれない―そこへ嘉代子そっくりの、その妹・伊都子を名乗る女性が現れる、という状況まであっという間にきてしまいます。

 嘉代子が使っていたのと同じ三面鏡の前で、十吉の心中を見透かすように笑う小暮実千代の"伊都子"は怖いです。そこで、これこそタイトル通りの「ホラー映画」かと思ったら、十吉が今度は伊都子に熱を上げてしまい、"伊都子"の本当の正体は嘉代子なのかが問題となる「サスペンス映画」でした。

 但し、そうした謎に明確な答えを与えないまま終わらせる、所謂リドル・ストーリーになっていて、伊都子の正体は嘉代子なのか、それとも伊都子はやはり嘉代子の妹なのか、また、平原は伊都子によって殺されたのか(その場合は正当防衛の可能性が高いと船越英二(二枚目!)演じる刑事は考える)、或いは平原本人の過失死なのか、何れも観客に判断を任せる形になっているのが面白いと思いました。

『長編推理小説 三面鏡の恐怖』(1948年/高志書房)

木々高太郎「三面鏡の恐怖」2.jpg ただ、話の流れとしては、"状況的"には伊都子の正体は嘉代子なのだろなあと。しかし、そうなると、何故わざわざ嘉代子は"伊都子"に化けなければならなかったのか"動機的"によく解らない...。ただ十吉を怖がらせるだけのためか。

 ところが、話の終わり方としては、十吉にとってはもうそんなことはどうでもよくなっていて、彼の願いは妻を伊都子と信じてひたむきに愛情を捧げることだけ、みたいなラブストーリー仕様になっていて、え~っという感じも(最初は伊都子に嘉代子の影を見て、あれほど怯えていたのに)。別の穿った見方をすれば、伊都子=嘉代子は実はとんでもないファム・ファタールになっていて(平山の影響?)、これから十吉に対する彼女の復讐劇が始まるととれなくもないのではないかなあ(考えすぎか)。

三面鏡の恐怖 (1955年) (探偵双書)』(1955年/春陽堂書店)

 因みに木暮実千代は、この作品と同じ年に黒澤明監督の「醉いどれ天使」('48年/東宝)と松田定次監督の「三十三の足跡 (多羅尾伴内 三十三の足跡)」('48年/大映)にも出ています。

木暮実千代2.jpg醉いどれ天使  20.jpg「三面鏡の恐怖」●制作年:1948年●監督:久松静児●●脚本:高岩肇/久松静児●撮影:高橋通夫●音楽:齋藤一郎●原作:木々高太郎「三面鏡の恐怖」●時間:82分●出演:木暮実千代/上原謙/新宮上原謙.jpg信子/瀧花久子/水原洋一/宮崎準之助/船越英二/千明みゆき/上代勇吉●公開:1948/06●配給:大映(評価:★★★) 木暮実千代 in「酔いどれ天使」('48年4月公開)with 三船敏郎
木暮実千代(1952年頃)(1918-1990/享年72)/上原謙(1909-1991/享年82)

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