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1979年から2010年までの間に書かれた雑文。それらを通して窺える"雑多な心持ち"。
『村上春樹 雑文集 (新潮文庫)』(2015/10 新潮文庫)
『村上春樹 雑文集』(2011/01 新潮社)挿画:安西水丸/和田誠
著者自身による「前書き」によれば、「作家としてデビューしてから三十年余り、あれこれの目的、あちこちの場所のために書いてきて、これまで単行本としては発表されなかった文章」を集めた一冊であるとのことです。「序文・解説など」「あいさつ・メッセージなど」「音楽について」「『アンダーグランド』をめぐって」「翻訳すること、翻訳されること」「人物について」「目にしたこと。心に思ったこと」「質問とその回答」「短いフィクション―『夜のくもざる』アウトテイク」「小説を書くということ」という風にジャンル分けされていて、最後に、表紙イラストを担当した安西水丸氏と和田誠氏の解説対談が付されています。
村上春樹というと、あまり色々なところに寄稿しているイメージが無い作家だけに、1979年から2010年までの間に書かれたものをこうしてまとめて読むと、今まで見えてこなかったこの作家の傾向が見えてくるような気がして面白く(やはり音楽関係と翻訳関係の寄稿が結構あるなあと)、一方で、「前書き」のサブタイトルが「どこまでも雑多な心持ち」とあるように、この作家の多面性も表れているように感じられ、興味深かったです。
「序文・解説など」では、安西水丸氏の漫画『平成版 普通の人』に寄せた解説があって、これ読むと、『平成版 普通の人』が無性に読みたくなる?「あいさつ・メッセージなど」には、各文学書の受賞の挨拶などもあって興味深く、また、あのエルサレム賞の受賞挨拶「壁と卵」も収められていますが(これ、新聞各社が全文掲載していたなあ)、「壁と卵」の前にあるのが「いいときはとてもいい」という安西水丸氏の娘さんの結婚式での祝辞であり、これもなかなか味がありました(「人物について」のところでも安西水丸氏が出てくるなあ。2014年3月の安西水丸氏の急逝が惜しまれる)。
その安西水丸氏と和田誠氏の解説対談が最後にあるわけですが(2010年11月に青山で行われた対談)、これが二人の初対談だったとは意外でした。但し、この体対の8年前に既に二人で共著『青豆とうふ』('03年/講談社)を刊行しており、このタイトルの名付け親が村上春樹氏ということで、その時の経緯や(中華料理店でたまたま食べていた料理が...)、その「青豆」というのが後の村上春樹氏の長編『1Q84』の女主人公の名前になった時の驚きなどが素直に語られていて面白いです。
超短編集『夜のくもざる』で編纂時に没にした小品なども載せていて、「柄谷行人」なんて、ご隠居と熊さんの会話で、熊さんが「柄谷行人」の名前などを使ってダジャレを言っているというもので、編集者の女性が柄谷行人のファンで「こんなの冗談にもなりません。まったくもう!」と言って却下したそうな。そんなものまで載せているわけですが、本人は意外と気に入っていて、ギャグっぽいのとかも好きなのではないかなあ、とか思ったりしました(これも"雑多な心持ち"の一面か)。
【2015年文庫化[新潮文庫]】