【2367】 ○ 小津 安二郎 「父ありき (1942/01 映画配給社(松竹大船)) ★★★☆

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笠智衆の小津作品初主演作。「孝行したい時に親はなし」。"ほろ苦い"後味を残す作品。

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 金沢の中学教師である堀川周平(笠智衆)は、妻を失い、小学生の一人息子・良平(少父ありき 0.png年期:津田晴彦)をここまで男手ひとつで育ててきた。しかし勤め先の中学の修学旅行先、箱根・芦ノ湖でボート転覆事故があり、教え子が溺死したことに責任を感じた彼は学校を退職する。出身地の信父ありき 4.png州に帰り、豊かな自然の中で新生活を始めた周平だったが、良平が中学に上がる頃になると、「このままでは良平を上の学校に行かせる事が出来ない」と考え、上京して働く旨を良平に伝える。父と共に暮らしたい良平は涙を流すが、そんな良平に周平は「泣いちゃおかしいぞ、男の子が男の子は、泣かんもんだ」と諭す。周平は、中学生になった良平を寄宿舎に預け、東京の工場に勤める。それから月日は流れ、良平(佐野周二)は25歳父ありき 釣り1.png6.jpgになり、仙台の帝大を卒業し秋田の学校で教師となっている。周平と温泉宿で久々に再会し、教師を辞めて一緒に暮らしたいと告げる。しかし周平父ありき 7.pngは「今の仕事を投げ出してはいけない」と息子を諭す。周平は、金沢時代の同僚だった平田(坂本武)の娘ふみ(水戸光子)を貰ってはどうかと良平に聞く。良平は照れながらも任せると言うが、数日後、周平は脳溢血で倒れ、ふみに「良平を頼みます」と言い遺して息を引き取る。その何日か後、秋田へ向かう列車の中に、父の遺骨を抱いた良平とふみの姿があった―。

父ありき v 2.jpg父ありきki.jpg 1942(昭17)年4月公開の小津安二郎監督作で、先に取り上げた「一人息子」('36年)が夫を失った母親と一人息子の繋がりを描いているのに対し、こちらは妻を失った父親と一人息子の繋がりを描いています。「一人息子」での母親(飯田蝶子)と息子(日守新一)の関係が、息子の出世を期待していたのに結局しがない夜学の教師になっているのを見てがっかりする母親と、そのがっかりする母親を見て自らも後ろめたく思う息子という、ほろ苦いと言うかやるせないものであったのに対し、こちらは、両者の関係が、父親の息子に対する教育的信念と、息子の父親への尊敬の念によって安定的に保たれているという印象を受けました。但し、その父親の'信念'のせいもあって、中学以来離れて暮らしてきた父親といつか一緒に暮らしたいという息子の想いが叶えられることないうちに父親が亡くなってしまうという展開はまさに「孝行したい時に親はなし」であり、こちらもある意味"ほろ苦い"後味を残す作品になっているように思いました。

 笠智衆の小津映画での初主演作であり、自伝『大船日記』の中で生涯で一番思い出深い作品にこの「父ありき」を挙げていましたが、長い大部屋俳優時代を経て、小津作品に出演しながらノンクレジット扱いだった時期もあっただけに、感慨ひとしおだったのではないかと思います(因みに、笠智衆自身の初主演作は斎藤寅次郎監督花形選手(1937)20dvd.jpgの「仰げば尊し」('37年))。この「父ありき」の時の笠智衆(1904年生まれ)は37歳で、当時29歳の佐野周二(1912年生まれ)の父親を演じたわけですが、 清水宏監督の「花形選手」('37年)では何と、大学陸上部の花形選手の一人を佐野周二が演じ、もう一人を笠智衆が演じていました。但し、笠智衆は一人息子  笠智衆 - コピー.jpg既に先の「一人息子」('36年)で当時32歳ながら老け役(元教師のトンカツ屋)を演じており、更にこの作品での堀川周平の老け役で好評を得、以降、小津映画の定番俳優となります。戦後の小津作品には全作出演、「東京物語」('53年)では、実年齢の差が1歳しかない杉村春子の父親を演じています。
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父ありき 坂本.jpg父ありき 佐分利 日守.jpg 笠智衆演じる教師・周平の同僚教師・平田をかつての小津映画の定番俳優・坂本武(1899年生まれ)が演じ、後半、かつての2人の教え子たちが2人を招いて同窓謝恩会のような宴を催しますが(こうしたモチーフも後の「秋刀魚の味」('62年)などに見られるが)、その中心となる黒川と内田をそれぞれ佐分利信(1909年生まれ)と日守新一(1907年生まれ)が演じています。1904年生まれの笠智衆はこの2人とも、実年齢であまり違わないことになります。

父ありき 釣り1.png父ありき 釣り2.jpg 周平・良平親子が渓流釣りをする場面が、子供時代と温泉宿での再会の後とにあり、構図を重ねているのが巧み。親子が渓流釣りをする場面は、「浮草物語」('34年)にもあったのを思い出させます。

幾何 一人息子.jpg幾何 父ありき.jpg 周平が中学で幾何の問題を教えていますが、演じる笠智衆の解説ぶりはなかなか流暢。この時取り上げている問題は、「一人息子」(左)で日守新一演じる夜学の教師が教えていた問題と少し似ているような...。一方、佐野周二演じる息子の良平が秋田の学校で教えているのは化学で、舞台となっているのは秋田大学鉱山学部の前身・秋田鉱山専門学校(1910年設立)ではないかと思われます(秋田大学鉱山学部は1998年に工学資源学部に改組、2014年に理工学部に改称された)。
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父ありき 小津 dvd_1.jpg「父ありき」●制作年:1942年●監督:小津安二郎●脚本:池田忠雄/柳井隆雄/小津安二郎●撮影:厚田雄治●音楽:彩木暁一●時間:94分(現存83分)●出演:笠智衆(堀川周平) /佐野周二(堀川良平) /津田晴彦(良平の少年時代) /佐分利信(黒川保太郎) /坂本武(平田真琴) /水戸光子(平田ふみ) /大塚正義(平田清一) /日守新一(内田実) /西村青児(和尚さん) /谷麗光(漢文の先生) /河原侃二(中学の先生) /倉田勇助(中学の先生) /宮島健一(会社員)/文谷千代子(堀川の女中) /奈良真養(医師) /大山健二(卒業生) /三井秀男(卒業生) /如月輝夫(卒業生)/久保田勝巳(卒業生) /毛塚守彦(写真師) /大杉恒雄(北陸の中学生) /葉山正雄(北陸の中学生) /永井達郎(北陸の中学生) /藤井正太郎(北陸の中学生) /小藤田正一(東北の工業生) /緒方喬(東北の工業生) /横山準(東北の工業生) /沖田儀一(東北の工業生) ●公開:1942/01●配給:映画配給社(松竹大船)(評価:★★★☆)

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This page contains a single entry by wada published on 2016年2月 2日 00:15.

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