【2371】 ○ 吾妻 ひでお 『アル中病棟―失踪日記2』 (2013/10 イースト・プレス) ★★★★

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前作『失踪日記』を超えているか。糠(ぬか)漬けのキュウリは元のキュウリに戻らない...。

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失踪日記2 アル中病棟』(2013/10 イースト・プレス)/『失踪日記』(2005)

 フリースタイル刊行「このマンガを読め!2014」ベストテン第1位作品。

 2013年10月刊行の描き下ろし作品で、サブタイトルは「失踪日記2」。『失踪日記』('05年/イースト・プレス)は、うつ病からくる自身の2回の失踪(1989年と1992年のそれぞれ約4か月間)を描いたものでしたが、もともと作者は1980年代半ばから盛んに飲酒し、「アル中」を自称していたのが、その後'98年には"連続飲酒状態"となり、その年12月26日に妻子に取り押さえられて「アル中病棟」へ放り込まれたとのこと(2回の失踪を挟んだこともあって、一般的なアルコール依存症患者よりも症状の進行が遅かったともとれる)、本篇はそうしたイントロダクションを経て、'99年1月からの「アル中病棟」での生活開始の様子からスタートします。

 前作『失踪日記』は文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞や手塚治虫文化賞マンガ大賞などを受賞した作品ですが、個人的には、作者は自らの経験を漫画として描くことが自己セラピーになっている面もあるのではないかと思ったりもしました。そしたら、本作『アル中病棟』で、しっかりそのことを自覚していた...やっぱり。

 作者一人の失踪と彷徨が描かれている色合いが強い前作『失踪日記』に比べ、本作は、アル中病棟にいる様々な患者や断酒会の参加者らの群像劇の色合いが強く、しかも何れも濃いキャラクターばかりで、その分、作品としてのパワーもアップしているように感じられました。嫌なキャラクターも多く出てきますが、読み終わってみれば何となく皆同じ人間なのだなあという気持ちになれなくもありません(作者自身がどう思っているかはともかく)。

 また、前作は「極貧生活マニュアル」乃至は「お仕事紹介」になっている印象がありましたが、今回は、まさに「アル中リハビリ案内」を兼ねたものとなっており、それでいてギャグも満載、作品としての"昇華度"(完成度)は、前作を超えて高いように思われました。『失踪日記』が出てすぐ本作に取りかかり10年くらいかけて書き溜めたものの集大成であるとのことで、自らの悲惨な体験を作品として昇華するにはやはりそれなりの時間を要するのでしょう。

 ネット情報によれば、作者は'99年春、本作にある3カ月の治療プログラムを終了して退院し、以後、断酒を続けているとのことですが、作中で、アルコール依存症は症状を改善できても完治は不可能であり、それは、糠漬けのキュウリが元のキュウリに戻らないとの同じだとあるのが印象的でした。少しでもアルコールを口にすればまた元に戻るというのは怖いなあと。そういうのを「スリップ」すると言うそうで本書にもさかんに出てきますが、この「スリップ」というのもネットで調べると"Sobriety(酒を飲まない生き方)Loses Its Priority"の略であるとも。単に"滑った"との語呂合わせかもしれないけれど。

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吾妻ひでお(あづま・ひでお、本名日出夫=ひでお)漫画家。2019年10月13日未明、東京都内の病院で死去。69歳。食道がんで闘病していた。自らの失踪経験やアルコール依存症治療体験に基づく『失踪日記』は話題を呼び、同作は日本漫画家協会賞大賞や文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞などを受賞した。

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This page contains a single entry by wada published on 2016年2月 6日 21:50.

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