【2352】 ○ 米澤 穂信 『満願 (2014/03 新潮社) ★★★★

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粒揃いの短編集。「夜警」と「満願」がいい。"粒揃い"だが、飛び抜けたものは見出しにくい?

米澤 穂信 『満願』2.jpg満願1.jpg満願2.jpg  米澤穂信s.jpg 米澤 穂信 氏
満願』(2014/03 新潮社)

 2014(平成26)年・第27回「山本周五郎賞」受賞作。2014年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2015 (平成27) 年「このミステリーがすごい!」(国内編)第1位、2015年「ミステリが読みたい!」(早川書房主催)第1位(因みに、「週刊文春ミステリー ベスト10」「このミステリーがすごい」「ミステリが読みたい!」の3冠は2008年に「ミステリが読みたい!」がスタートして初)。2015(平成27)年・第12回「本屋大賞」第7位。

 交番勤務の警察官が主人公。交番に訪れたありふれたDV被害者。包丁を持って暴れる彼女の夫と対峙し、発砲するも殉職した同僚の警察官。その事実の裏に潜む心の闇とは?(「夜警」)。美しい母、二人の美しい娘、女たらしの父親。離婚協議が進むなか、娘二人のとった驚きの行動。美しく残酷な性(さが)が導いた結末とは(「柘榴」)。 殺人の罪を認め服役を終えた下宿屋の内儀。人柄を知る元下宿人の弁護士は内儀の行動に疑問を抱く。下された判決に抗おうとせず刑期を勤め上げた女の本当の願いとは(「満願」)。他「死人宿」「万灯」「関守」の3編を収録。

 賞を総嘗めしただけあって粒揃いという感じでしょうか。どれも面白く、個人的には最初の「夜警」と最後の「満願」が特に良かったかなあ。ただ、どちらにも言えることですが、トリックの面白さであって、犯行の動機という点からすると、こんな動機のために(しかも相当の不確実性が伴うという前提で)ここまでやるかという疑問は少しありました。「死人宿」と「関守」も旅館と喫茶店の違いはありますが、ちょっと雰囲気似ていたかなあ。「関守」は途中でオチが解ってしまいましたが、それでも面白く読めました。ということで、"粒揃い"ではあるが、飛び抜けたものは見出しにくいという感じも若干ありました。

 敢えて一番を絞れば、表題作の「満願」でしょうか。直木賞の選評で選考委員の宮部みゆき氏が、「ハイレベルな短編の連打に魅せられました」とし、「表題作の『満願』には、松本清張の傑作『一年半待て』を思い出しました」としているのにはほぼ納得(この作品自体、何となく昭和の雰囲気がある)。しかし、直木賞の選考で積極的にこの短編集を推したのは宮部みゆき氏のみで、「既に他の文学賞も受賞している作品ですが、意外に厳しい評が集まり、事実関係の記述のミスも指摘されて、私は大変驚きました」としています。

 "事実関係の記述のミス"とは幾つかあったようですが、東野圭吾氏が「最も致命的なのは『万灯』で、コレラについて完全に間違えている。(中略)この小説のケースでも感染はありえない」というもので、確かに"致命的"であったかも。更には、「『満願』の妻には借金の返済義務はない。(中略)殺人の動機も成立しない」としていて、これも痛いか。

 結局、浅田次郎氏の「稀有の資質を具えた作家が、同一作品で文学賞を連覇することはさほど幸福な結果とは思えぬ」という流れに選考委員の多くが乗って、直木賞は逃したという感じでしょうか。まあ、いずれは直木賞を獲るであろうと思われるその力量を認めた上での配慮(?)。自分自身の評価も星5つではなく星4つとしましたが、作者の今後に期待したいと思います。

 かつて横山秀夫氏が『半落ち』('02年/講談社)で直木賞候補になったものの、直木賞選考員会で作中の「事実誤認」を指摘されて直木賞に「絶縁」宣言をし、伊坂幸太郎氏が「執筆活動に専念したい」という理由で、山本周五郎賞受賞の自作『ゴールデンスランバー』('07年/新潮社)が直木賞候補になることを辞退したことがありました(伊坂幸太郎氏の場合は初めて直木賞候補になった『重力ピエロ』が選考員会で一部の委員に酷評されたという経緯があった)。まあ、この作者の場合は、そんな事態にはならないとは思いますが...。

【2017年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
「満願」(第1夜「万灯」西島秀俊主演・第2夜「夜警」安田顕主演・最終夜「満願」高良健吾主演)
NHKドラマ『満願』.jpgNHKドラマ『満願』2.jpgNHKドラマ『満願』s.jpg●2018年ドラマ化 【感想】 「万灯」「夜警」「満願」をチョイスしてドラマ化したのは、妥当な選択か。この順番で放映されたが、後になるほど面白かった。つまり「満願」が一番良かったことになるが、これは原作を読んだ時と同じだった。「満願」は「万灯」同様、東野圭吾氏が指摘する瑕疵はあるが、プロットの出来としてはこれが頭一つ抜けていて、さらに脚本と演出が同じ人によるものであるため(熊切和嘉監督)、演出が木目細かったように思った。市川実日子がやや若すぎる気がしたが(しかも10年経ってもまったく老けない)、その演技は効いていたし、スイカやダルマといった小道具も原作通りではあるがそれぞれに効果的だった(旧二葉屋酒造で本格ロケをしたことも良かったのではないか)。

最終夜「満願」市川実日子/高良健吾

「満願」(第1夜「万灯」・第2夜「夜警」・最終夜「満願」)●演出:(第1夜)萩生田宏治/(第2夜)榊英雄/(最終夜)熊切和嘉●プロデューサー:益岡正志●脚本:(第1夜・第2夜)大石哲也/(最終夜)熊切和嘉●原作:米澤穂信●出演:(第1夜)西島秀俊/近藤公園/窪塚俊介・(第2夜)安田顕/馬場徹/吉沢悠・(最終夜)高良健吾/市川実日子/寺島進●放映:2018/08(全3回)●放送局:NHK
市川実日子 in「満願」('18年/NHK)/「シン・ゴジラ」('16年/東宝)
市川実日子 満願.jpg市川実日子 シン ゴジラ.jpg

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