【2341】 ○ 寺尾 紗穂 『原発労働者 (2015/06 講談社現代新書) ★★★★

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かつての原発労働者を追ったインタビュー。安全教育や被曝対策は前からいい加減だった。

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原発労働者 (講談社現代新書)』['15年]    寺尾 紗穂 氏(シンガーソングライター)

闇に消される原発被曝者_.jpg シンガーソングライターでエッセイストでもある著者(自らの修士論文が『評伝川島芳子―男装のエトランゼ』('08年/文春新書)として刊行されていたりもする)が、報道写真家の樋口健二氏による、1980年くらいまでの原発労働者を追って彼らに重い口を開いてもらい書かれたルポ『闇に消される原発被曝者』('81年/三一書房)に触発され、自らも、原発労働に従事していた人たちを訪ねて労働現場の模様を聞き取ったルポです(原発労働の現場を自らが原発労働者として各地の発電所で働いて取材した、堀江邦夫氏の『原発ジプシー』('79年/現代書館)からも示唆を受けている)。

闇に消される原発被曝者』['11年/八月書院(増補新版)]

 原発労働者というと福島原発事故の後処理に携わる人を思い浮かべがちですが、本書での聴き取りの対象は福島事故以前から原発労働に従事していた人が殆どで(つまり'平時'に働いていた人)、福島原発に限らず、柏崎狩羽原発や浜岡原発で働いていた人たちも含まれていますが、全6章から成るうちの第1章から第4章にかけてそれぞれ実名で登場する4人の話が(凄まじい話もあったりして)とりわけ印象に残りました。日常的な定期検査やトラブル処理をこなしてきた人たちの話ですが、当時から安全教育や被曝対策がいかにいい加減であったかということ、そうした危険な状況下での過酷な原発労働の実態が浮き彫りにされています。

 著者のインタビューを受けた人のうちの何人かは、そうした経験を経て原発労働の孕む危険性を社会に知らせる活動に携わるようになったり、また、そうした活動と併せて自らの生き方を見直したりもしているわけで、インタビューを受けた人の生き様も伝わってきました。但し、こうした人たちも最初は仕事が無く生活のために、過酷だが給金のいい原発労働に携わるようになった人もいて、実際、彼らの話から、多くのそうした生活困窮者に近い人が原発労働に"流れ着く"といった実態も窺えました(このことに最初にフォーカスしたのが堀江邦夫氏の『原発ジプシー』だと思うが)。

 従って、原発に基本的には反対し、将来は原発に依存しない社会をつくるべきだとしながらも、現状において雇用を下支えしている面もあることから、すぐに全てを廃止するのは難しいとの見方をする人もいて、複雑な現場の事情を反映しているように思えました。

 一方では、外国人労働者が「一回200とか300ミリ被曝する燃料プール内作業」をやっていて、「一回200万円とか300万円もらえるらしい」といった話もあり、これはインタビューされた人の実体験ではなく、彼らの伝聞情報ではありますが、プール潜水のみならず、原子炉内での労働にも「黒人」が駆り出されているというのは元東電社員の証言にもあるとのことで、この辺りをもう少し掘り下げて欲しかった気もします。

 日本で働く労働者である限り労働基準法や安全衛生法の適用対象となるわけですが、おそらく、そうした「黒人」たちは請負労働であり(しかも、法律で禁じられている多重請負である公算が高い)「労働者」扱いにはなっていないのではないでしょうか。それ以前に、そうした説明を充分受けることもなく、また、彼ら自身が、将来の健康上の不安などよりも目先の給金に惹かれてそうした労働に従事しているのではないかと思われます。原発内部の低技術労働者は釜ヶ崎や山谷から借り出されてくるという話もあり、充分な安全教育・安全対策が講じられないまま、ただ今を生きていくためだけに働いている原発労働者が多くいるとなれば、日本人とて流れとしては同じでしょう。

 こうしたことは『原発ジプシー』でも指摘されていたことであり、今すぐに原発を全面廃止した場合、現在働いている人の仕事は一体どうするのかという問題もさることながら、一方で、原発の危険性がある程度認知された今日においては、格差社会が産み出す生活困窮者との相補関係の上に原発労働が成り立っているとの見方も成り立ち、こんなことを続けていていいのかという思いがしました。基本的には、やはり1つずつ廃炉にしていくべきでしょう。それだけでも相当の労働力の投入が必要なわけで、充分に雇用の場を提供することになるのではないでしょうか。原発で潤ってきた地方自治体などは、その間に、完全廃炉以降の財政的自立策を講じていくべきでしょう。

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