【2337】 ○ 小藤田 千栄子(編) 『世界の映画作家9 イングマル・ベルイマン (1971/03 キネマ旬報社) ★★★☆

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錚々たる面子が論じる人と作品。但し、本人の自作へのコメントが一番興味深かった。

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世界の映画作家 9 (イングマル・ベルイマン)_.jpg     [野いちご]撮影中のベルイマン.jpg
世界の映画作家 9 (イングマル・ベルイマン)』('71年/キネマ旬報社)/「野いちご」撮影中のベルイマン

 キネマ旬報社による「世界の映画作家」シリーズの1冊で、1971年刊行。編集後記によれば、この時点でイングマール・ベルイマン(1918-2007/享年89)の監督作品は32本あり、そのうち日本で公開されていたのは12本だけだったとのことです(因みにベルイマンの生涯監督作品は63本)。巻末に、「鏡の中にある如く」('61年)、「沈黙」('63年)と併せて所謂「神の沈黙」3部作と呼ばれる「冬の光」('63年)の脚本が付されていますが、この「冬の光」が日本で公開されたのは1975年のことで、本書刊行からもややあってのことでした(既に脚本の翻訳はとっくに出来ていたのに)。ベルイマンは当時すでに確固たる名声を博していたかと思いますが(このシリーズが、ゴダールとパゾリーニ、フェリーニとヴィスコンティ、アントニオーニとアラン・レネがそれぞれ抱き合わせで1冊なのに対し、本書はベルイマンのみをフィーチャーしていることからもそれが窺える)、それでもやはり、ベルイマン作品は難しすぎて日本人にはウケないというイメージが、映画関係者の間でも当時はあったのでしょうか。

 今でいうムックのような構成で、まず映画評論家の岡田晋(1924-1991)が「ベルイマンの形而上学」を説き(やはり、やや難しいか)、佐藤忠雄が「原爆の下の平和」というタイトルで寄稿していますが、このやや唐突にも思えるタイトルの小論は、巻末の「冬の光」の脚本を頭に入れてから読んだ方がいいかも。続いて、映画監督の新藤兼人(1912-2012)が、「〈沈黙〉のベルイマン」と題して「沈黙」に見る"愛の不在"をベルイマンの実生活に重ねて考察し(ベルイマンは5回結婚している)、映画評論家の飯島正(1902-1996)が、ベルイマンが映画以前に関わった演劇と文学について解説、更に、「ベルイマン全自作を語る」を挟んで、映画研究家の山本喜久男が海外におけるベルイマン論を紹介、最後に映画評論家で、ベルイマンの「夏の遊び」('50年)から日本語字幕を担当し、近年ではベルイマン監督のテレビ映画「サラバンド」('03年)の字幕監修などもしている三木宮彦が「ベルイマンと演劇」について語るという、キネマ旬報ならではの本格派ラインアップです。

 自分としては、ベルイマンが「危機」('46年)から「情熱」('69年)まで自らが監督した30本の映画についてそれぞれ簡単にコメントした「ベルイマン全自作を語る」が一番興味深く読めたでしょうか(個人的には見ていない作品の方が多いのだが、一応、内容もそれぞれ簡単に紹介されている)。

ベルイマン 夏の遊び.jpgベルイマン第七の封印.jpg 「夏の遊び」('50年)が、ベルイマンが17歳の時に書いた中編小説がベースになっていたとは知りませんでした。「第七の封印」('57年)は頭で作ったが、この映画は心で作った」とも述べています。その「第七の封印」についはやや長めのコメントが付されていますが、子供の頃に教会で見た中世の宗教画にそのモチーフがあったというのが興味深いです。

ベルイマン 野いちご.jpgベルイマン 冬の光.jpg 一方、「野いちご」('57年)については、主演のヴィクトル・シューストレムを讃えるとともに、老いをテーマにしたこの作品の撮影そのものが「時」に対する闘いであったことを明かし、「冬の光」('63年)については、自分の生活における宗教の存在が完全に消滅した時、人生は恐ろしく生きやすいものとなったとして、映画もそういたものをブチ壊すことによって始めたのですべては穏やかで良かったとし、「これは絶対にいい映画であり、どんな批判にも100%応えられるものである」としています。

 自作品に対するコメントと同時に、ベルイマンに対するインタビューや彼自身が平生語った言葉も併録されており、結構赤裸々に語っていて興味深いです。インタビュー部分ではベルイマン作品をこきおろすインタビュアーと喧嘩になってしまっていますが、これはどうやら、インタビューそのものが実はベルイマンが構成した〈フィクション〉であるとのことのようで、結構ベルイマンという人は茶目っ気もあったようです。

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小藤田 千栄子(ことうだ ちえこ、1939年2月20日 - 2018年9月11日)映画演劇評論家。
2018年9月11日、大動脈解離のため死去。79歳没。
女性映画を中心に、演劇はミュージカルを中心に取材して評論。
2019年3月10日に都内のホテルで「小藤田千栄子さんを偲ぶ会」が開催された。

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This page contains a single entry by wada published on 2015年11月 6日 22:13.

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