【2336】 ◎ 大河内 直彦 『地球の履歴書 (2015/09 新潮選書) ★★★★☆

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「地球上の珍奇な場所や驚くべき出来事について、科学の視点を交えながら紹介する8つのストーリー」

地球の履歴書.jpg 大河内直彦 .jpg 大河内 直彦 氏(海洋研究開発機構) チェンジング・ブルー.jpg 『チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る
地球の履歴書 (新潮選書)

 著者は海洋研究開発機構・生物地球化学部門のリーダーであり、この分野では日本を代表する科学者の一人です。気候変動の謎に迫った『チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る』('08年/岩波書店、'15年/岩波現代文庫)で2009年・第25回「講談社科学出版賞」を受賞しています。

 本書『地球の履歴書は、雑誌「考える人」の季刊誌の方に2013年から2015年にかけて連載したものがベースになっており、裏表紙には、「熱球から始まったこの星はどうやって冷え、いかにして生物が生まれたのか?」とあって、続いて「科学の発達とともに、私たちは少しずつ地球の生い立ちを解明してきた。戦争や探検、数学の進歩や技術革新などのおかげで、未知の自然現象の謎は氷解してきたのだ。海面や海底、地層、地下、南極、塩などを通して、地球46億年の歴史を8つのストーリーで描く」とあります。

 まず、第1章で、地球創世の歴史を説き起こし、更にエラトステネスの地球の大きさの計測の仕方を紹介、その話が、第2章から第4章にかけての、海底深度の測定や海底火山や海嶺に関する話、或いは、プレート移動と海底堆積物の分析、更には火山活動との関係の話に繋がっていくといった具合に、各章のストーリーが緩やかに繋がっているのが読み易くていいです。

 そうした中に科学史の話や、南極点到達の歴史(ノルウェーのアムンゼンとイギリスのスコットの話)など科学史以外の歴史的なエピソードも織り込み(アムンゼンとスコットの話は、ビジネス書であるジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー4』('12年/日経BP社)にも出てくるので、読み比べてみると面白い)、その上で、南極大陸の氷床について解説するなど、密度の濃い科学的解説が織り込まれているにも関わらず、繋がりが自然で、エッセイとして楽しみながら読み進むことができました。

ニオス湖.jpg まさに、著者がまえがきで述べているように、「地球上の珍奇な場所や驚くべき出来事について、科学の視点を交えながら紹介する8つのストーリー」であり、興味深い話が盛り沢山でした。話のスケールが大き過ぎたり不思議すぎたりして、ついつい現実感が無くなりそうにもなりますが(1986年、カメルーン・ニオス湖で「湖水爆発」により1700人余りが二酸化炭素中毒または酸欠で死亡したという話は知らなかった。悲劇が再発しないよう、日本の政府開発援助で二酸化炭素を強制排出するポンプが設置され、ガス抜きをしているとのこと)、一方で、随所でより身近な話を旨く織り込んで、現実に引き寄せているといった印象です。
カメルーン・ニオス湖

有馬温泉.jpg 例えば、東京の下町と山の手は地質学上どうやって出来たかとか、有馬温泉は泉温が90度を超える非常に高温な温泉で、しかも周囲には火山がないのは希有なことであるとかいった話は、東京のその地質学上の山の手の下町の境界近くに住み、実家がその有馬温泉に近い神戸である自分にとっては、とりわけ興味深く読めました。
有馬温泉

 著者はまえがきで、一般書や科学セッセイを書いても、科学者の業績査定には一向にプラスにはならないとし(ボヤキ?)、限られた時間の中でこうしたエッセイを書くことを気が引けるとしながらも、一方で、現代社会を形作ってきた原動力を浮かび上がらせることを気に入っているとし、更に、寺田寅彦の「科学は科学者だけのものではない」との考えに後押しされて、こうしたエッセイを書いたとのことです。

 先にも述べた通り、エッセイと言えども、書かれている内容の知識密度は濃かったように思われ、加えて、内容の幅も広かったように思います(博覧強記と言っていいが、高踏的であったり、知識を振りかざすといったものではない)。それに加えて、飽きさせないで最後まで一気に読ませる文章は、なかなかの筆力ではないかと思います。知識的なことはすべて頭には入らなかったような気もし、時間を置いてまた読み直してもよいかなと思わせる内容の本でした。

《読書MEMO》
●目次
第1章 How Deep is the Ocean?
第2章 謎を解く鍵は海底に落ちていた
第3章 海底が見える時代
第4章 秋吉台、ミケランジェロ、石油
第5章 南極の不思議
第6章 海が陸と出会う場所
第7章 塩の惑星
第8章 地下からの手紙

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This page contains a single entry by wada published on 2015年11月 1日 18:04.

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