【2335】 ○ 岡田 尊司 『回避性愛着障害―絆が稀薄な人たち』 (2013/12 光文社新書) ★★★☆

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ケーススタディに実在の人物を持ち出すことの良し悪しはあるが、興味深く読めたのは事実。

回避性愛着障害 絆が稀薄な人たち.jpg回避性愛着障害 絆が稀薄な人たち (光文社新書)』['13年] 愛着障害  子ども時代を引きずる人々0.jpg愛着障害 子ども時代を引きずる人々 (光文社新書)』['11年]

 「愛着障害」とは、乳幼児期に長期にわたって虐待やネグレクト(放置)を受けたことにより、保護者との安定した愛着(愛着を深める行動)が絶たれたことで引き起こされる障害です。著者は前著『愛着障害―子ども時代を引きずる人々』('11年/光文社新書)において、乳幼児は生後6カ月から大体3歳くらいまでにある特定の人物(通常は母親)と「愛着関係」を築き、その信頼関係を結んだ相手を「安全基地」として少しずつ自分の世界を広げていくが、それが旨くいかなかった場合、他人を信頼することや他人と上手くやっていくことなど、人間関係において適切な関係を築くことができにくくなるとしていました(但し、それを克服した例として、夏目漱石やヘルマン・ヘッセ、ミヒャエル・エンデなど多くの作家や有名人の例が紹介されている)。

 著者の分類によれば、愛着障害は安定型と不安定型に分類され、更に不安定型は不安型(とらわれ型。子どもでは両価型と呼ぶ)と回避型(愛着軽視型)に分けられるとし、不安型と回避型の両方が重なった、恐れ・回避型(子どもでは混乱型)や、愛着の傷を生々しく引きずる未解決型と呼ばれるタイプもあるとしています(ややこしい!)。本書は、その中でも回避型を、とりわけ、健常レベルの「回避型」が社会適応に支障をきたすレベルとなった「回避性」の愛着障害を扱っていることになります。

 前著『愛着障害』より対象が絞られて、分かりよくなっている印象も受けますが、一方で、例えばパーソナリティ障害のタイプごとに、回避性愛着障害の現れ方が次のように多岐に及んでくるとのことで、これだけでもかなりの人が当て嵌まってしまうのではないかという気がします。
 ①回避性パーソナリティ・タイプ ... 嫌われるという不安が強い
 ②依存性パーソナリティ・タイプ ... 顔色に敏感で、ノーが言えない
 ③強迫性パーソナリティ・タイプ ... 勤勉で、責任感の強すぎる努力家
 ④自己愛性パーソナリティ・タイプ ... 自分しか愛せない唯我独尊の人
 ⑤反社会性パーソナリティ・タイプ ... 冷酷に他人を搾取する

 但し、健常レベルの「回避型」と社会適応に支障をきたすレベルとなった「回避性」の愛着障害の違いは、元々は程度の差の問題であり、また、パーソナリティのタイプが何であれ、愛着スタイルが安定すれば、生きづらさや社会に対する不適応はやわらげられるとのことですので、自分がそれに該当するかもしれないと思い込むのは別に構わないと思いますが、そもことによってあまり深刻になったり悲観したりはしない方が良いかと思います。

エリック・ホッファー.jpg種田山頭火7.jpg 著者の解説のいつもながらの特徴ですが、該当する作家や有名人の事例が出てきて、回避型愛着障害と養育要因の関係について述べた第2章では、エリック・ホッファーや種田山頭火、ヘルマン・ヘッセが、回避型の愛情と性生活について述べた第4章では、同じく山頭火やキルケゴールが、回避型の職業生活と人生について述べた第5章では、同じくエリック・ホッファーや『ハリー・ポッター』シリーズの作者J・K・ローリング、児童分析家エリク・エリクソン、井上靖らが、回避性の克服や愛着の修復について述べた第6章・第7章では、カール・ユング、書道家の武田双雲、『指輪物語』のジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン、養老孟司、マリー・キューリーなどが取り上げられています。

 実際に著者自身が直接診断したわけでもないのに憶測でこんなに取り上げてしまっていいのかという批判もあるかと思いますが、こうした実在の人物を「ケーススタディ」的に取り上げることで「愛着障害」というものが多少とも分かり易く感じられるのは事実かもしれません。それと、取り上げ方が上手であると言うか、それぞれの人に纏わる話をよく抽出してテーマと関連づけるものだと感心してしまいます。ある種"作家的"とでも言うべきか。そこがまた、批判の対象にならないこともないのですが。

 一方、回避性愛着障害の克服方法については、「自分の人生から逃げない」など、やや抽象的だったでしょうか。登場した実在の人物の歩んだ克服の道のりの話の方がよほど説得力があります。とれわけ、エリック・ホッファーと種田山頭火のエピソードは大変興味深く読めました。

《読書MEMO》
愛着障害 子ども時代を引きずる人々 (光文社新書)』より
愛着障害  .jpg●愛着パターンには安定型(60%、正常)、回避型(15-20%、安全基地を持たないのでストレスを感じても愛着行動を起こさない、児童養護施設育ちの子どもに多い、親の世話不足や放任、成長すると反抗や攻撃性の問題を起こしやすい)、両価型(10%、安全基地の機能不全により愛着行動が過剰に引き起こされている、親の関心と無関心の差が大きい場合、神経質で過干渉、厳格すぎる一方、思い道理にならないと突き放す。子どもを無条件に受け止めると言うより、良い子を求める。成長すると不安障害なりやすい。いじめられっ子)、混乱型(10%、回避型と両価型の混合、虐待被害者や精神が不安定な親の子どもに多い、将来境界型人格異常)がある(『愛着障害』37p)
●不安定型(回避型、両価型、混乱型)の場合、特有の方法によって周囲をコントロールしようとする。攻撃や罰、よい子に振る舞う、親を慰めるなどをして親をコントロールしようとする。不安定な愛着状態による心理的な不足感を補うために行われる(『愛着障害』38p)
●大人の愛着パターンには安定型、不安型(子どもの両価型に対応する)、回避型(愛着軽視型)がある。不安型と回避型を合わせて不安定型という(『愛着障害』45p)
●アメリカの診断基準では反応性愛着障害として、抑制性(誰にも愛着しない警戒心の強いタイプ、幼いときに養育放棄や虐待を受けたケースに多い)、脱抑制性(誰に対しても、見境無く愛着行動が見られる。不安定な養育者からの気まぐれな虐待や、養育者の交代によって、愛着不安が強まった状態)の2つがある(『愛着障害』46p)。
●比較的マイルドな愛着問題では、自立の圧力が高まる青春期以降に様々なトラブルとなって現れる。回避型では淡泊な対人関係を望む「草食系男子」や結婚に踏み切れない人の増加である。不安型では境界型人格障害や依存症や過食症にとなる(52p)
●愛着障害の7-8割は養育環境が原因。遺伝は2-3割である(53p)
●愛着障害の人は誰に対しても信頼も尊敬も出来ず、斜に構えた態度を取る一方で、相手の顔色に敏感であると言った矛盾した感情を持っている。それは小さいときに尊敬できない相手でも、それにすがらずに生きていけないからである(67p)
●親の愛着パターンが子どもに影響する。不安型の親からは不安型の子どもが育つ(81p)
●不安定型の愛着パターンを生む重要な要因の一つに、親から否定的な扱いや評価を受けて育つことである。たとえ子どもが人並みよりぬきんでた能力や長所を持っていても、親は否定的に育てることである(97p)
●愛着障害とは特定の人との愛着が形成されない状態であるので、誰にも全く愛着を持たないか、誰に対しても親しくなれることである。誰にでも愛着を持つと言うことは誰にも愛着を持たないことと同じである。実際問題でも、対人関係が移ろいやすい。恋愛感情でも誰に対しても同じ親しさで接すればトラブルの元になる。特定の人との信頼関係や愛情が長く維持されにくい(117p)
●回避型ではいつになっても対人関係が親密にならない。不安型では、距離を取るべき関係においても、すぐに親しくなり、恋愛感情や肉体関係になる。混合型では、最初はよそよそしいが、ちょっとしたことで急速に恋愛関係に陥る(120p)
●愛するパートナーを助けるために、自分の命を危険にさらせるのが、愛着が安定している人で、自分の価値観や信念のためなら死んでも良いと思っているのが愛着の不安定な人である(193p)
●不安定型の人は家族との関係が不安定で、支えられるどころか足を引っ張られることが多い(194p)
●回避型の人は、仕事上の問題よりも、同僚との軋轢が多く、孤立を招きやすい。これは、同僚に対して関心が乏しかったり、協調性に欠けたりするためである(195p)
●不安型の人の関心は対人関係であり、人からの承認や安心を得ることが極めて重要と考えている。回避型の人は対人関係よりも勉強や仕事や趣味に重きを置く。対人関係の煩わしさを避けるために、仕事や勉強に逃げ場を求めている。世間に向けて体裁を整えたり、社会的非難や家族からの要求を回避したりするために利用している。仕事と社交、レジャーとのバランスを取るのが苦手で、仕事に偏りがちである(196p)。
●回避型の人をパートナーに持つことは、いざというとき頼りにならないどころか、回避型の人にとって頼られることは面倒事であり、他人から面倒事を持ち込まれることは怒りを生むのである(225p)

                 



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和田泰明

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