【2328】 ○ 木曾 克裕 『二つの顔をもつ魚 サクラマス―川に残る´山女魚'か海に降る'鱒'か。その謎にせまる!(ベルソーブックス)』 (2014/06 成山堂書店) ★★★☆

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興味深いヤマメVSサクラマスの"逆転"の生態。但し本書は、擬人化を排した「専門書」的内容。

二つの顔をもつ魚 サクラマス.jpg ヤマメとサクラマス.jpg   やまめとさくらます 絵本.jpg
二つの顔をもつ魚 サクラマスー川に残る`山女魚'か海に降る`鱒'か。その謎にせまる! (ベルソーブックス043)
NHK「ダーウィンが来た!生きもの新伝説~どっちが得?ヤマメVSサクラマス」より 『やまめとさくらます

ヤマメとサクラマス1.jpg 渓流の女王"と呼ばれる「ヤマメ」と全長60センチにもなる「サクラマス」は姿も名前も異なりますが、実は全く同じ種類の魚であり、生まれた川で一生を送るものが「ヤマメ」となり、川から海に出て大きくなって、再び川に戻ってくるものが「サクラマス」になります。釣り人、特にトラウトファンならばそうした知識はあるのではないかと思いますが、そうした知識の有無に関わらず、昨年['14年]10月、NHKの「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」で「どっちが得?ヤマメVSサクラマス」としてその生態が紹介されたのを興味深く観た人は多かったのではないでしょうか。

やまめとさくらます 絵本1.jpg 本書は、そのサクラマスの生態を、より科学的・実証的な調査・研究から明らかにしたものです。これによると、一定の時期までに一定の大きさまでに育ったものがヤマメとなり、逆に降海型のスモルト(サクラマス)になるには、成長が大きすぎないことが条件になるようで、この辺りは大体「ダーウィンが来た!」での解説と同じでしょうか。但し、本書では成長が早かったか遅かったかで川に留まるか海に降りるかが決まるというようになっているのに対し、「ダーウィンが来た!」では、餌の獲得競争に勝った幼魚が川に留まり、劣勢だったものが海に降りるというような説明になっていました(ほぼ同じことか)。

 ここからの"逆転劇"はよく知られているところで、海に降りたものはやがて巨大なサクラマスとなって川を遡上し、雄が雌を獲得する繁殖でも圧倒的優位を得るわけですが、この逆転劇は、おくやまふみや(著)/あさりまゆみ(絵)の『やまめとさくらます』('09年/ポトス出版)という絵本にもなっていて、こちらは、「川にいたヤマメの中でいじめられた"弱虫"が海に下って大きくなって帰って来て、かつて川で自分をいじめたヤマメに再会するのだが仕返しはしない」という教訓的な「オチ」と言うか「流れ」になっているようです。

ヤマメ.jpg 一方で、「ダーウィンが来た!」では、サクラマスの繁殖行為に横から小さな体で割り込んで自分の子孫を残そうとするヤマメの"戦略"が映像で捉えられていたのが興味深かったです。〈適者生存〉の原理から言えば、ヤマメになったものとサクラマスになったものとでは、もともとヤマメになったものの方がより"適者"であったと言えなくもなく、この辺りは上手く出来ているのでしょう。

NHK「ダーウィンが来た!生きもの新伝説~どっちが得?ヤマメVSサクラマス」より

 「ベルソーブックス」は、日本水産学会の事業として刊行されたシリーズで、高校生や大学生、一般向けに分かり易く書かれているとは言え、ベースになっているのは専門的な学術研究の成果であり、本書も、サクラマスの亜種も含め、詳細な研究データが織り込まれており、個人的には、「専門書」に近い内容と言うか、思った以上に敷居が高かった印象も受けました。

 調査データは多岐に及んでいるのに対し、恣意的な解釈は排されており、これを読むと、「ダーウィンが来た!」でのサクラマスの生態の紹介のされ方は、絵本『やまめとさくらます』と本書の中間にあるような、やはり一般の関心を引くよう適度に"擬人化"されていた印象を、改めて受けなくもありません。何れにせよ、ヤマメとサクラマス、たいへん興味深い生態であると言えるかと思います。

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This page contains a single entry by wada published on 2015年10月 8日 22:14.

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