【2314】 △ 黒澤 和子 『回想 黒澤明 (2004/08 中公新書) ★★★ (○ 黒澤 明 「」(90年/日・米) (1990/05 ワーナー・ブラザーズ) ★★★☆)

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「心配性で淋しがり、心やさしい泣き虫」だった黒澤。「家庭ではいいパパだった」的トーンか。

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回想 黒澤明 (中公新書)』北海道で「夢」の撮影中の黒澤明と黒澤和子(映画衣装デザイナー)「夢 [DVD]

黒澤明2.jpg 黒澤明(1910-1998/享年88)の長女である著者が、『黒澤明の食卓』('01年/小学館文庫)、『パパ、黒澤明』('00年/文藝春秋、'04年/文春文庫)に続いて、父の没後6年目を経て刊行した3冊目の"黒澤本"で、「選択する」「反抗する」「感じる」「食べる」「着る」「倒れる」など24の動詞を枕として父・黒澤明に纏わる思い出がエッセイ風に綴られています。

 本書によれば、外では「黒澤天皇」として恐れられていた父であるけれども、実はそういう呼ばれ方をするのを本人は最も嫌っていて、気難しい面もあるけれど、「人間くさくて一直線、心配性で淋しがり、心やさしい泣き虫」だったとのこと。孫と接するとなると大甘のおじいちゃんで、相好を崩して幸せそうだったとか、実の娘によるものであるということもあって、「家庭ではいいパパだった」的なトーンで貫かれている印象も受けなくもありません。微笑ましくはありますが、まあ、男親ってそんなものかなとも(著者が意図しているかどうかはともかく、読む側としてはそれほど意外性を感じない)。

 でも、宮崎駿監督の「魔女の宅急便」('89年/東映)を夜中に観て、翌日、目を腫らして、「すごく泣いちゃったんだ。身につまされたよ」と、ポツリと言っていたとかいう話などは、娘ならではエピソードかもしれません。晩年、小津安二郎監督の作品をビデオで繰り返し見ていたとのことで、肉体的な労力を減らして、良い作品を撮ろうと勉強していたのではないかとのことです。

 著者自身、「夢」('90年/黒澤プロ)以降、衣装(デザイナー)として黒澤作品や小泉堯史、山田洋次、北野武、是枝和裕などそれ以外の監督の作品の仕事をしていて、黒澤の晩年の作品に限られますが、家庭内だけでなく、撮影の現場や仕事仲間の間での娘の目から見た黒澤監督のことも描かれており、役者やスタッフを怒鳴り散らしてばかりいるようなイメージがあるけれども、実は結構気を使っていたのだなあと(役者の躰に触れてまでの演技指導をすることはなかったという。役者のプライドを尊重していた)。ただ、これも、著者の父に対する世間の「天皇」的イメージを払拭したいとの思いも半ば込められているのかも。

黒澤 明 「夢」2.jpg黒澤 明 「夢」3.jpg 著者が最初にアシスタントとして衣装に関わった「夢」は(衣装の主担当はワダエミ)、黒澤明80歳の時の作品で、「影武者」('80年)、「乱」('85年)とタイプ的にはがらっと変わった作品で比較するのは難しいですが、初めて観た時はそうでもなかったけれど、今観るとそれらよりは面白いように思います。80歳の黒澤明が少年時代からそれまでに自分の見た夢を、見た順に、「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨黒澤 夢 01.jpg士」「鬼哭」「水車のある村」の8つのエピソードとして描いたオムニバス形式で、オムニバス映画というのは個々のエピソードが時間と共に弱い印象となる弱点も孕んでいる一方で(「赤ひげ」('65年)などもオムニバスの類だが)、観直して観るとまた最初に観た時と違った印黒澤 明 「夢」水車2.jpg象が残るエピソードがあったりするのが面白いです(小説で言うアンソロジーのようなものか)。個人的には、前半の少年期の夢が良かったように思われ、後になるほどメッセージ性が見え隠れし、やや後半に教訓めいた話が多かったように思われました。全体として絵画的であるとともに、幾つかのエピソードに非常に土俗的なものを感じましたが、最初の"狐の嫁入り"をモチーフとした「日照り雨」は、これを見た時に丁度『聊齋志異』を読んだところで、「狐に騙される」というのは日本だけの話ではないんだよなあみたいな印象が、観ながらどこかにあったのを記憶しています。

 黒澤明はその後、「八月の狂詩曲」('91年)「まあだだよ」('93年)を撮りますが、85歳の時に転倒してから3年半は寝たきりで、結局そのまま逝ってしまったとのこと(老人に転倒は禁物だなあ)。黒澤作品って、「どですかでん」('70年)以降あまり面白くなくなったと言われますが(そうした評価に対する、自分は自分の年齢に相応しいものを撮っていうのだという黒澤自身の考えも本書に出てくる)、晩年に作風の変化が見られただけに、もう何本か撮って欲しかった気もします。

第1話「日照り雨」(倍賞美津子(私の母))/第2話「トンネル」
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黒澤 明 「夢」水車.jpg第5話「鴉」(マーティン・スコセッシ(ゴッホ))/第8話「水車のある村」笠智衆(老人)
「夢」●制作年:1990年●制作国:日黒澤明 夢 0.jpgマーティン・スコセッシ 「夢」11.jpg本・アメリカ●監督・脚本:黒澤明●製作総指揮:スティ夢 倍賞y1.pngーヴン・スピルバーグ●製作:黒澤久雄/井上芳男●製作会社:黒澤プロ●撮影:斎藤孝雄/上田正治●音楽:池辺晋一郎●時間:119分●出演:寺尾聰/中野聡彦/倍賞美津子/伊崎充則/建みさと/鈴木美恵/原田美枝子/油井昌由樹/頭師佳孝/山下哲生黒澤明 夢 dvd.jpgマーティン・スコセッシ井川比佐志/根岸季衣黒澤明「夢」1.jpgいかりや長介笠智衆/常田富士男/木田三千雄/本間文子/東郷晴子/七尾伶子/外野村晋/東静子/夏木順平/加藤茂雄/門脇三郎/川口節子/音羽久米子/牧よし子/堺左千夫●公開:1990/05●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)
 
第7話「鬼哭」いかりや長介(鬼)/寺尾聰(私)「夢 [DVD]

第4話「雪あらし」原田美枝子(雪女)
原田美枝子 夢 雪女4.jpg原田美枝子 夢 雪女1.jpg
    
第6話「赤富士」井川比佐志(発電所の男)・寺尾聰(私)
黒澤 夢 011Z.jpg「夢」井川.gif 

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