【2311】 ○ 西牟田 靖 『本で床は抜けるのか (2015/03 本の雑誌社) ★★★☆

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蔵書に埋もれて亡くなった草森紳一。面白かったけれど、最後はやや侘しかった。

本で床は抜けるのか.jpg本で床は抜けるのか』(2015/03 本の雑誌社)

 ノンフィクション作家が表題通り「本で床は抜けるのか」その真相を追ったもので、'12年から'14年にかけてウェッブマガジンに連載されたものの単行本化ですが、なかなか面白かったです。

 やはり抜けることがあるのだなあと。本書に出てくる有名どころでは、井上ひさし(1934-2010)や立花隆氏など。井上ひさしの場合は、自宅の床が本で抜けた時の模様を書いていますが、先妻・西舘好子氏によると、創作も含めてかなり面白おかしく書いてとのこと。でも、床が抜けたのは事実のようです。立花隆氏の場合は、RCコンクリート構造の建物のコンクリート床の上の木の床の部分が抜けたようで、何れも2人がまだ若かった頃の話のようです。

草森紳一2.jpg草森紳一.jpg 一番凄まじいのは草森紳一(1938-2008/享年70)の話で、'08年に逝去した際は、2DKを覆い尽くした約3万冊の本の中で亡くなっているのが見つかったといい、やはり生前に本で床が抜ける経験をしており、その時の模様は自著『随筆 本が崩れる』('05年/文春新書)に書かれているとのことです(この本は、松岡正剛氏も「松岡正剛 千夜一夜」の中で取り上げている)。

森紳一氏の仕事場は文字どおり、本で埋まっていた。(「崩れた本の山の中から 草森紳一蔵書蔵書整理プロジェクト」(2008-12-07)より転載)

 因みに、井上ひさしは、先妻との離婚前後から郷里の山形県川西市に本を寄贈しており、その数は当時で13万冊にのぼったといい、草森紳一は、当面の仕事で使う可能性の少ない3万冊は、北海道の実家に建てた白い書庫「任梟盧」に別に持っており、亡くなった後の自宅の3万冊は帯広大谷短期大学に寄贈され、ボランティアによって整理が進められているとのことです。

 松原隆一郎氏のように本を偏りなくなく床に置けば床は抜けないとしていた人も、ついに書庫専用の建物を早稲田通り沿いに建てることになり、その様子もレポートされていますが、こうなると立花隆氏の「猫ビル」と同じで、もう「抜ける 抜けない」という話ではなくなってしまって、司馬遼太郎や松本清張の膨大な個人書庫同様、一般人からはやや遠い話のような気も。

後半部分は、自炊(本の電子化)による省スペース化の話も、著者の体験も含め出てきますが、これも結構手間がかかるようですし、著作権法上グレーな部分もあるようで、あまり広まらないのではないでしょうか。むしろ最初から電子書籍として刊行される本はこれから増えるかもしれないという気がします。

 でも、愛書家って、要するに「捨てられない」人でもあるのだろうなあと。そういう人って、いつの時代でも一定数いるような気もします。本書には「捨てられない」派から「捨てる」派に転じた人の話も出てきますが、病気とかそういった何かが転機になるみたいです。

 本書は、著者自身の本の引っ越しの話から始まり、最後も著者自身の再度の本の引っ越しの話で終わりますが、大鉈(おおなた)を振るった末に何とかすっきり本の整理ができた模様。但し、皮肉なことに、最後はそれに合わせるかのように奥さんと子どもに去られてしまう―というのがあまりに侘しすぎて、星半分マイナス。やはり、リアルな生活も大事にしなければなあ。

本で床は抜けるのか 2015年4月12日朝日新聞日曜日.jpg2015年4月12日(日)付「朝日新聞」読書欄

【2018年文庫化[中公文庫]】

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