【2309】 ○ 都築 政昭 『黒澤明と「用心棒」―ドキュメント・風と椿と三十郎』 (2005/11 朝日ソノラマ) ★★★★

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「用心棒」('61年/東宝)を分かり易く立体的に解明。改めて観直した気分になれる。

黒澤明と「用心棒」都築.jpg  黒澤明 用心棒 09.jpg 用心棒D.jpg「用心棒」
黒澤明と『用心棒』―ドキュメント・風と椿と三十郎』(2005/11 朝日ソノラマ)

用心棒 黒澤 三船 ロケ.jpg 都築政昭(1934- )氏の『黒澤明と「七人の侍」』('99年/朝日ソノラマ、'06年/朝日文庫)、『黒沢明と『赤ひげ』―ドキュメント・人間愛の集大成』('00年/朝日ソノラマ)、『黒沢明と『天国と地獄』―ドキュメント・憤怒のサスペンス』('02年/朝日ソノラマ)、『黒沢明と『生きる』―ドキュメント心に響く人間の尊厳』('02年/朝日ソノラマ)に続く黒澤作品"ドキュメント"シリーズの第4弾で、今回は「用心棒」('61年/東宝)を徹底解明しています。

 何が"ドキュメント"なのかと言うと、本書で言えば、ます第1章で、どうして「用心棒」という傑作が生まれ、それはどの部分が革新的であり、そこに至るまでにどのような道を辿ったのかを概観し、更に第2章で、シナリオ、セット、カメラ、殺陣、配役、音楽、効果など各論に分けて、投じられた労力やなされた工夫が詳説されています。

1黒澤明と「用心棒」―.png そして、続く第3章、第4章では、映画の展開に沿って一場面ずつを再現し、それについて解説されていて、写真などもあって、今まさに映画を観ているようにその面白さが反芻されるとともに、その中でまた、使われた効果やとられた工夫などが解説されていて、そうした意味でも"ドキュメント"であると言えます。

黒澤明と「用心棒」16.JPG 写真などが解説に沿ったものを使われており(「逆手不意討ち斬りの秘法」なんて、"分解写真"みたいで分かり易いし楽しい)、また、黒澤監督自身や出演者の声なども織り交ぜられていて、まさに立体的な構成であると言えます。

椿三十郎%20三船 仲代.jpg 最終章を、続編にあたる「椿三十郎」の解説に当てていて、これも最後の"噴血"決闘シーンに纏わる話などは興味深かったです。海外の映画人の間では、「用心棒」の評価が圧倒的に高くてリメイクされたりしているのに対し、「椿三十郎」には全く海外からは触手が動かないそうですが(日本ではリメイクされたけれど)。
「椿三十郎」('61年/東宝)

i黒澤明 用心棒M63.jpg黒澤明と「用心棒」17.JPG 改めて「用心棒」はスケールの大きな作品だったなあという印象を持ちました。舞台となる「馬目(まのめ)の宿(しゅく)」のセットだけで当時で映画2本分の製作費に当たる三千万円を超え(俯瞰ショットがあるため全戸の屋根を葺き、裏側から内側まで全部作った)、それはリアリズムを追求したものではあるが、道幅は時代考証にとらわれず通常の倍以上広くとったとのこと、それにより四つ辻での対抗勢力同士の十三人の刺客%20工藤栄一.jpg迫力ある攻防が可能になったわけで、クソリアリズムに陥らないところが黒澤明の発想の自由度の高さだったのだなあと。確かに言われてみれば、道幅、矢鱈広いような感じがします。工藤栄一監督の「十三人の刺客」('63年/東映)などと比べてみるとそれが分かるのでは(「十三人の刺客」は殆ど"隘路"での斬り合いみたいになっている)。

「十三人の刺客」('63年/東映)

用心棒 三船.jpg また、シナリオについては、最初から三十郎役に三船敏郎を想定して書かれたもので、黒澤は三船のことを、「先ず、とてもスピーディに演技する事、大変ハイカラな演技をするがそれが全く板についている点、日本人には珍しく芝仲代達矢 卯之助.jpg居気が旺盛な事、顔面の表情も身体の表情も日本人離れして豊かな事、等だと思う」(「三船君について」(雑誌「映画ファン」))と当初から絶賛しています。一方の卯之助役の仲代達矢の方は、黒澤は「俺は仲代達矢は嫌いだ」と当初は言っていたのが(仲代達矢は演出家の言うことをきかない俳優だという印象があったらしい)、仲代達矢の作品を観て言っているんですかと助監督に言われ、やがて黒澤の方から「仲代君どうだろう」と言ってきたということです(本書によれば、三十郎と卯之助は「野良犬とヘビだ」と、黒澤はイメージを伝えたという)。

 こうしたエピソードも楽しいし、何よりも第3章、第4章の場面解説がいいです。シリーズの他の本もそうですが、読んだだけで、改めてもう一度作品を観直した気分になれる、加えて新たな発見や薀蓄も得られる一冊です。

「用心棒」●制作年:1961年●監督:黒澤明●製作:田中友幸/菊島隆三●脚本:黒澤明/菊島隆三●撮影:宮川一夫●音楽:佐藤勝●剣道指導:杉野嘉男●時間:110分●出演:三船敏郎(桑畑三十郎)/仲代達矢(新田の卯之助)/東野英治郎(居酒屋の権爺)/河津清三郎(馬目の清兵衛)/山田五十鈴(清兵衛の女房おりん)/太刀川寛(清兵衛の倅与一郎)/志村喬(造酒屋徳右衛門)/藤原釜足(名主左多衛門)/夏木陽介(百姓の小倅)/山茶花究(新田の丑寅)/加東大介(新田の亥之吉)黒澤 明 「用心棒」3.jpg/渡辺篤(桶屋)/土屋嘉男(百姓小平)/司葉子(小平の女房ぬい)/沢村いき雄(番屋の半助)/西村晃(無宿者・熊)/加藤武(無宿・瘤八)/藤田進(用心棒・本間先生)/中谷一郎(斬られる凶状持)/堺左千夫(八州周りの足軽)/谷晃(丑寅の子分・亀)/羅生門綱五郎(丑寅の子分・閂(かんぬき)/ジェリー藤尾(丑寅の子分・賽の目の六)/清水元(清兵衛の子分・孫太郎)/佐田豊(清兵衛の子分・孫吉)/天本英世(清兵衛の子分・弥八)/大木正司(清兵衛の子分・助十)●劇場公開:1961/04●配給:東宝●最初に観た場所:高田馬場パール座(81-03-23)(評価★★★★☆)

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