2015年7月 Archives

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A級、B級問わず映画を語る楽しくて充実した内容の鼎談。瀬戸川氏への哀悼の意が感じられる。

今日も映画日和 単行本2.jpg今日も映画日和 単行本.jpg  今日も映画日和 文庫.jpg
今日も映画日和』['99年] 『今日も映画日和 (文春文庫)』['02年]

 心から映画を愛する3人が、SF、法廷劇、スポーツものなど、12のテーマに沿って語り尽くした楽しい鼎談集です。「カピタン」1997年7月号から1998年6月号にかけて連載された際にページの都合で割愛された部分も、きちんと再録したロング・バージョンであるとのことで、脚注・写真も充実しています(文庫版は脚注のみ、写真無し)。

 単行本の刊行は、鼎談者の一人・瀬戸川猛資(1948 -1999/享年50)がその年の3月に肝臓がんで亡くなっていて氏の存命中に刊行を間に合わせられなかったのですが、脚注では話中に出てきた映画の情報の他に、川本三郎氏、和田誠氏が自らの発言内容に独自に補足するばかりでなく、瀬戸川氏の発言に関係するコメントを瀬戸川氏の著書の中から引用するなどしており、両人のこの鼎談集への思い入れと、瀬戸川氏への哀悼の意が感じられます。

 和田氏が1936年生まれ、川本氏が1944年生まれ、瀬戸川氏が1948年生まれで、和田氏によれば、川本氏は昭和の庶民を描く日本映画や映画のファッションに強く、瀬戸川氏はミステリに強いというようにお互いの守備範囲があるようですが、一方で、映画を、A級とかB級とか関係なく、分け隔てなく観てきたという点で共通するとのことで、それは本書を読めばよく分かります。

 取り上げているテーマは、まず「映画館」から始まって、SF、夏休み(ボーイズライフ)、サラリー★激しい季節(1959)2.jpgマン、野球、クリスマス、酒場、スポーツ、法廷、良妻・悪妻、あの町この町、大スターと続きますが、それらをモチーフとした映画がぽんぽん出てきて、もう誰が話しているのかあまり区別がつかないくらいです。

おもいでの夏 dvd.bmp 3人が若い頃に観た映画の話がかなりあって、「夏休み(ボーイズライフ)」のところで、川本三郎氏が、「激しい季節」('59年/伊)のエレオノラ・ロッシ・ドラゴがオッパイを見せていたのにショックを受けたとかあったりして、当時のアメリカ映画とイタリア映画の倫理コードの違いもあるのだろうなあ。「おもいでの夏」('71年/米)を瀬戸川氏はともかく和田氏も観ておらず(新しすぎるのか?)、川本氏の講釈を受けるという展開は意外でした。
ガン・ホー [DVD]
ガンホーdvd.jpg 「サラリーマン」の章のところで、瀬戸川氏がアメリカでヒットしたのに日本では未公開だった「ガン・ホー」('86年/米)について取り上げると、川本氏が「日本の企業をバカにしたやつですね」と言ったのに対し、「全然バカにしていないですよ。あの通りなんだから」と応えているのが興味深いです。アメリカ地方都市の日本資本の自動車会社("アッサン自動車"。漢字で「圧惨自動車」と表記する)の工場を舞台に、日米自動車経済摩擦を描いた作品ですが、アメリカ側のキャストに後に「バットマン」に出演することになるマイケル・キートンや、演技達者のジョン・タトゥーロまで出ているけれど、ケディ・ワタナベ演じる日本側主人公も好人物に描かれていて、最後、日系の自動車会社側の重役の山村聡が出てきて貫禄で問題を解決し、日米の企業人のカルチャーギャップを解消しているから、軽いノリの映画ではありますが、日本人をバカにした映画とまでは言えないでしょう。日本の企業経営を皮肉ったシーンガン・ホー1986 03.pngガン・ホー1986 01.jpgがあり、これを日本人をバカにしていると観客がとれば日本では受けないとして配給会社が配給を見送ったようですが、ちょっと世に出るのが早すぎたでしょうか。監督は後に「アポロ13」('95年)や「ダ・ヴィンチ・コード」('06年)を監督することになるロン・ハワードです(観た時の評価は星3つだが、グローバル人材がどうのこうの言われる今日において観直すと面白いかも―という観点から星半分プラス)。

黒い画集 あるサラリーマンの証言[1].jpg サラリーマン映画では、「失楽園」も川本氏しか観てなかったなあ。その川本氏が堀川弘通監督の「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝、原作:松本清張)を傑作としていますが、当時の方が今よりも不倫に対する風当たりは強かったというのが川本氏の見方のようです。確かに小林桂樹、電話で不倫相手の原知佐子に向かって「はい、承りました」ってやっていたけれど。また、瀬戸川氏が、ワイルダーってアメリカ映画の中で異色なくらい会社を舞台にした作品が多いと指摘していますが(和田誠氏でなく瀬戸川氏が指摘しているのが興味深い)、「アパートの鍵貸します」は勿論のこと、「麗しのサブリナ」('54年/米)なども、確かに言われてみればそうだなあと。
「アパートの鍵貸します」パンフレット
「アパートの鍵貸します」パンフ.jpgアパートの鍵貸します2.jpg 「アパートの鍵貸します」('60年/米)は、アカデミー賞の作品賞、監督賞など5部門受賞した作品で、和田誠氏が『お楽しみはこれからだ』シリーズなどで何度も取り上げている作品でもあります。出世の足掛かりにと、上役の情事のためにせっせと自分のアパートを貸している会社員バドことC・C・バクスター(ジャック・レモン)でしたが、人事部長のJ・D・シェルドレイク(アパートの鍵貸します3.jpgフレッド・マクマレイ)が自分の部屋に連れ込んで来たのが、何と自身の意中の人であるエレベーターガールのフラン(シャーリー・マクレーン)だったというよく知られたApâto no kagi kashimasu (1960).jpgストーリーで、宮仕えのサラリーマンの哀愁を描く中で、ラストの急転は実に爽やかでした(こうした急展開は「麗しのサブリナ」などでも見られるが、こちらの方が洒落ている)。テニス・ラケットでパスタをすくったり、マテーニのオリーブを1つずつ時計のように並べたり、小道具をさりげなく使ったシーンにも旨さを感じられ、そもそも役者陣で下手な人は誰も出ていないような演出の見事さ。その中でもやはり、ジャック・レモンの演技が光ったし、シャーリー・マクレーンも良かったです(シャーリー・マクレーンはこの作品でヴェネツィア国際映画祭女優賞を獲得)。
Apâto no kagi kashimasu (1960)

野良犬 野球場.jpg 「野球」のところで、黒澤明の「野良犬」('49年/東宝)で後楽園球場が出てきて巨人の川上や青田がちゃんとプレーしているのが良かったと和田氏が言った野良犬 ビール.bmpのに対し、あの試合は巨人対南海線で、日本シリーズではなく1リーグ制の時の試合だと川本氏が指摘しているのがマニアックです。志村喬が野球監督を演じた「男ありて」('55年/東宝)を取り上げると、川本氏が「素晴らしい映画」だとすかさずフォローするのが嬉しいです。

「野良犬」の話は、続く「酒場」のところでも出てきて、川本氏が、志村喬が部下の三船敏郎を自分の家に連小津安二郎 秋刀魚の味 トリスバー.jpgれてきて飲ませるビールは"配給"だったとか(そう言えば、今日はたまたまビールが手に入ったようなことを志村喬が言ってたっけ)、一方、小津安二郎はサントリーと提携してい秋刀魚の味 東野2.jpgて、「秋刀魚の味」('62年/松竹)では、恩師の東野英治郎を教え子の笠智衆や中村伸郎たちが招待するシーンで、わざわざサントリー・オールドを映して「おいしいね、小津安二郎 秋刀魚の味 サッポロビール.jpgこのウィスキーは」と言わせているとか、岸田今日子がやっている店がトリスバーだとか。なるほどで。それでいて、冒頭の川崎球場の照明塔のシーンでサッポロビールとあるから、川本氏が言うように両方から金もらっていたのか(因みに、サントリーがビール事業に再進出したのは1963(昭和38)年で、この映画が公開された翌年)。小津映画では酒好きの中村伸郎のために、飲むシーンは実際に酒を飲ませ、肴もウニだったりしたというからスゴイね。笠智衆は下戸だったけれど、東野英治郎は本当に酔っぱらっていたわけかあ。

女競輪王00.jpg A級、B級問わずと言うことで、黒澤や小津といった巨匠ばかりでなく、前田葉子主演の「女競輪王」('56年/新東宝)なんて作品なんかも取り上げているのが何だか嬉しいです。

 鼎談の持ち味が出ていただけに、もう1冊分ぐらいやって欲しかった企画であり、瀬戸川氏の逝去が惜しまれます。

                   
Estate Violenta.jpgヴァレリオ・ズルリーニ★激しい季節(1959).jpg「激しい季節」●原題:ESTATE VIOLENTA●制作年:1959年●制作国:イタリア●監督:ヴァレリオ・ズルリーニ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:ヴァレリオ・ズルリーニ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/ジョルジョ・プロスペリ●撮影:ティノ・サントーニ●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:93分●出演:ジャン・ルイ・トランティニャン/エレオノラ・ロッシ・ドラゴ/ジャクリーヌ・ササール/ラフ・マッティオーリ/フェデリカ・ランキ/リラ・ブリナン●日本公開:1960/04●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(84-11-17)(評価:★★★★)

ガン・ホー1986 04.jpgガン・ホー1986 02.jpg「ガン・ホー」●原題:GUNG HO●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:デボラ・ブラム/トニー・ガンツ●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:トーマス・ニューマン●時間:111分●出演:マイケル・キートン/ゲディ・ワタナベ/ミミ・ロジャースガン・ホー02.jpgガン・ホー01.jpg/山村聰/クリント・ハワード/サブ・シモノ/ロドニー・カゲヤマ/ジョン・タトゥーロ/バスター・ハーシャイザー/リック・オーヴァートン●日本公開:(劇場未公開)VHS日本発売:1987/11●発売元:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(評価:★★★☆)     
証言2.bmp黒い画集 あるサラリーマンの証言.gif証言0.bmp「黒い画集 あるサラリーマンの証言」●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:橋本忍●撮影:中井朝一●原作:松本清張「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/中北千枝子/平山瑛子/依田宣/原佐和子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄/織田政雄/菅井きん/小西瑠美/児玉清/中村伸郎/小栗一也/佐田豊/三津田健/西村晃/、平田昭彦●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)
黒い画集 あるサラリーマンの証言 [DVD]
                    「アパートの鍵貸します [DVD]
アパートの鍵貸します8.jpgアパートの鍵貸しますdvd.jpgアパートの鍵貸します1.bmp 「アパートの鍵貸します」●原題:THE APARTMENT●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:ビリー・ワイルダー●脚本:ビリー・ワイルダー/I・A・Lアパートの鍵貸します4.jpg・ダイアモンド●撮影:ジョセフ・ラシェル●音楽:アドルフ・ドイッチ●時間:120分●出演:ジャック・レモン/シャーリー・マクレーン/フレッド・マクマレイ/レイ・ウォルストン/ジャック・クラスチェン/デイビット・ホワイト/ホープ・ホリデイ/デイビット・ルイス/ジョアン・ショウリイ/エディ・アダムス/ナオミ・スティーブンス●日本公開:1960/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:銀座文化2(86-06-13) (評価:★★★★)
「銀座文化1・銀座文化2」「銀座文化/シネスイッチ銀座」
銀座文化1・2.png銀座文化・シネスイッチ銀座.jpgシネスイッチ銀座.jpg銀座文化2 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」
                       
野良犬 1949  ポスター0.jpg野良犬 1949 0.jpg「野良犬」●制作年:1949年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時間:122分●出演:三船敏郎/志村喬/木村功/清水元/河村黎吉/淡路恵子/三好栄子/千石規子/本間文子/飯田蝶子/東野英治郎/永田靖/松本克平/岸輝子/千秋実/山本礼三郎●公開:1949/10●配給:東宝(評価:★★★★)

秋刀魚の味 チラシ.jpg秋刀魚の味 加東.jpg「秋刀魚の味」●制作年:1962年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:113分●出演:笠智衆/岩下志麻/佐田啓二/岡田茉莉子/中村伸郎/東野英治郎/北竜二/杉村春子/加東大介/吉田輝雄/三宅邦子/高橋とよ/牧紀子/環三千世/岸田今日子/浅茅しのぶ/須賀不二男/菅原通済●公開:1962/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★☆)●併映:「東京物語」(小津安二郎)/「彼岸花」(小津安二郎)

【2002年文庫化[文春文庫]】

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「用心棒」('61年/東宝)を分かり易く立体的に解明。改めて観直した気分になれる。

黒澤明と「用心棒」都築.jpg  黒澤明 用心棒 09.jpg 用心棒D.jpg「用心棒」
黒澤明と『用心棒』―ドキュメント・風と椿と三十郎』(2005/11 朝日ソノラマ)

用心棒 黒澤 三船 ロケ.jpg 都築政昭(1934- )氏の『黒澤明と「七人の侍」』('99年/朝日ソノラマ、'06年/朝日文庫)、『黒沢明と『赤ひげ』―ドキュメント・人間愛の集大成』('00年/朝日ソノラマ)、『黒沢明と『天国と地獄』―ドキュメント・憤怒のサスペンス』('02年/朝日ソノラマ)、『黒沢明と『生きる』―ドキュメント心に響く人間の尊厳』('02年/朝日ソノラマ)に続く黒澤作品"ドキュメント"シリーズの第4弾で、今回は「用心棒」('61年/東宝)を徹底解明しています。

 何が"ドキュメント"なのかと言うと、本書で言えば、ます第1章で、どうして「用心棒」という傑作が生まれ、それはどの部分が革新的であり、そこに至るまでにどのような道を辿ったのかを概観し、更に第2章で、シナリオ、セット、カメラ、殺陣、配役、音楽、効果など各論に分けて、投じられた労力やなされた工夫が詳説されています。

1黒澤明と「用心棒」―.png そして、続く第3章、第4章では、映画の展開に沿って一場面ずつを再現し、それについて解説されていて、写真などもあって、今まさに映画を観ているようにその面白さが反芻されるとともに、その中でまた、使われた効果やとられた工夫などが解説されていて、そうした意味でも"ドキュメント"であると言えます。

黒澤明と「用心棒」16.JPG 写真などが解説に沿ったものを使われており(「逆手不意討ち斬りの秘法」なんて、"分解写真"みたいで分かり易いし楽しい)、また、黒澤監督自身や出演者の声なども織り交ぜられていて、まさに立体的な構成であると言えます。

椿三十郎%20三船 仲代.jpg 最終章を、続編にあたる「椿三十郎」の解説に当てていて、これも最後の"噴血"決闘シーンに纏わる話などは興味深かったです。海外の映画人の間では、「用心棒」の評価が圧倒的に高くてリメイクされたりしているのに対し、「椿三十郎」には全く海外からは触手が動かないそうですが(日本ではリメイクされたけれど)。
「椿三十郎」('61年/東宝)

i黒澤明 用心棒M63.jpg黒澤明と「用心棒」17.JPG 改めて「用心棒」はスケールの大きな作品だったなあという印象を持ちました。舞台となる「馬目(まのめ)の宿(しゅく)」のセットだけで当時で映画2本分の製作費に当たる三千万円を超え(俯瞰ショットがあるため全戸の屋根を葺き、裏側から内側まで全部作った)、それはリアリズムを追求したものではあるが、道幅は時代考証にとらわれず通常の倍以上広くとったとのこと、それにより四つ辻での対抗勢力同士の十三人の刺客%20工藤栄一.jpg迫力ある攻防が可能になったわけで、クソリアリズムに陥らないところが黒澤明の発想の自由度の高さだったのだなあと。確かに言われてみれば、道幅、矢鱈広いような感じがします。工藤栄一監督の「十三人の刺客」('63年/東映)などと比べてみるとそれが分かるのでは(「十三人の刺客」は殆ど"隘路"での斬り合いみたいになっている)。

「十三人の刺客」('63年/東映)

用心棒 三船.jpg また、シナリオについては、最初から三十郎役に三船敏郎を想定して書かれたもので、黒澤は三船のことを、「先ず、とてもスピーディに演技する事、大変ハイカラな演技をするがそれが全く板についている点、日本人には珍しく芝仲代達矢 卯之助.jpg居気が旺盛な事、顔面の表情も身体の表情も日本人離れして豊かな事、等だと思う」(「三船君について」(雑誌「映画ファン」))と当初から絶賛しています。一方の卯之助役の仲代達矢の方は、黒澤は「俺は仲代達矢は嫌いだ」と当初は言っていたのが(仲代達矢は演出家の言うことをきかない俳優だという印象があったらしい)、仲代達矢の作品を観て言っているんですかと助監督に言われ、やがて黒澤の方から「仲代君どうだろう」と言ってきたということです(本書によれば、三十郎と卯之助は「野良犬とヘビだ」と、黒澤はイメージを伝えたという)。

 こうしたエピソードも楽しいし、何よりも第3章、第4章の場面解説がいいです。シリーズの他の本もそうですが、読んだだけで、改めてもう一度作品を観直した気分になれる、加えて新たな発見や薀蓄も得られる一冊です。

「用心棒」●制作年:1961年●監督:黒澤明●製作:田中友幸/菊島隆三●脚本:黒澤明/菊島隆三●撮影:宮川一夫●音楽:佐藤勝●剣道指導:杉野嘉男●時間:110分●出演:三船敏郎(桑畑三十郎)/仲代達矢(新田の卯之助)/東野英治郎(居酒屋の権爺)/河津清三郎(馬目の清兵衛)/山田五十鈴(清兵衛の女房おりん)/太刀川寛(清兵衛の倅与一郎)/志村喬(造酒屋徳右衛門)/藤原釜足(名主左多衛門)/夏木陽介(百姓の小倅)/山茶花究(新田の丑寅)/加東大介(新田の亥之吉)黒澤 明 「用心棒」3.jpg/渡辺篤(桶屋)/土屋嘉男(百姓小平)/司葉子(小平の女房ぬい)/沢村いき雄(番屋の半助)/西村晃(無宿者・熊)/加藤武(無宿・瘤八)/藤田進(用心棒・本間先生)/中谷一郎(斬られる凶状持)/堺左千夫(八州周りの足軽)/谷晃(丑寅の子分・亀)/羅生門綱五郎(丑寅の子分・閂(かんぬき)/ジェリー藤尾(丑寅の子分・賽の目の六)/清水元(清兵衛の子分・孫太郎)/佐田豊(清兵衛の子分・孫吉)/天本英世(清兵衛の子分・弥八)/大木正司(清兵衛の子分・助十)●劇場公開:1961/04●配給:東宝●最初に観た場所:高田馬場パール座(81-03-23)(評価★★★★☆)

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"比較"映画監督論。双葉十三郎の日本映画「風物病」論が興味深かった。小津作品が見飽きない理由は...。

小津安二郎と映画術.jpg小津安二郎と映画術26.jpg
小津安二郎と映画術』(2001/08 平凡社)

 貴田 庄(きだ しょう、1947- )氏の『小津安二郎のまなざし』('99年/晶文社)、『小津安二郎の食卓』('00年/芳賀書店、'03年/ちくま文庫)に続く3冊目の小津安二郎に関する本であり、著者はその後も小津安二郎に絡めた本を何冊か著していますが、「映画術」とタイトルにあるように、本格的な映画評論(映画監督論、更に言えば"比較"映画監督論)になっているように思います。と言って、肩肘張って読むような硬いものでもなく読み易いです。

 最初に出てくるのが衣笠貞之助の話で、衣笠貞之助が俳優(女形)から映画監督になったことを紹介しており、更に、黒澤明や溝口健二が画家を目指していて映画監督に転じたことを紹介、それに対して小津安二郎や木下恵介は写真から映画に入っていったことを紹介しています。

 以下、章ごとにそれぞれ、溝口健二、エルンスト・ルビッチ、五所平之助、清水宏、成瀬巳喜男、島津保次郎、木下恵介、アラン・レネ、加藤泰、黒澤明といった映画監督を一定の角度から取り上げながら、最終的にはそれに絡めて小津安二郎に触れるという形をとっています。その章の最初から小津安二郎について語られることもあれば、後の方になって、では小津安二郎の場合はどうか、といったような現れ方をすることもありますが、10人強の映画監督との対比で小津安二郎の映画術を探るというのは、なかなか面白い試みであったように思います。

 他の映画監督、評論家の書いたものを参照するだけでなく、小津安二郎の対談や小津映画に出た俳優の証言(例えば笠智衆の『大船日記』など)も数多く参照しており、エピソード的な話も多くあります。また、そうした話を通して、小津安二郎の映画に対する考え方も窺えます。

黒澤明22.jpg エピソード的な話では、「黒澤明」について書いた最終章が面白かったです。戦時中、監督第一作を撮った新人監督は内務省の試験を受ける必要があって、検閲官に映画監督が立ち会って口頭諮問のようなものが行われたようですが、黒澤明の「姿三四郎」の時の立会映画監督3人の内の一人が小津安二郎で(黒澤明の師匠・山本嘉次郎もその1人だったが敢えて立ち会わなかった)、検閲官が棘のある言葉で諮問し、黒澤明のイライラが最高潮に達する中、小津安二郎が、「百点満点として"姿三四郎"は、百二十点だ!黒澤君、おめでとう!」と言ってOKになったとのことです(黒澤明が「赤ひげ」('65年/東宝)のラストで小津安二郎へのリスペクトを込めて笠智衆を登場させた理由が解った気がする。既にその2年前に小津安二郎は亡くなっていたが)。

 その他にも、笠智衆の思い出で、成瀬巳喜男の「浮雲」を小津に誘われて小田原で二人で観た時、映画館を出た後に口数が少なく黙りがちだった小津安二郎が、ポツリ、「今年のベストワン、これで決まりだな」と言ったとか(笠智衆『俳優になろうか―私の履歴書』)、様々な興味深いエピソードが紹介されています。

清水宏 監督.jpg 「映画術」的観点からすると、一番興味深かったのは「清水宏」の章でしょうか。著者によれば、監督一人につき同じ分量の紙数を割く予定が、この章だけ長くなってしまったとのこと。清水宏という監督は時に小津安二郎と似たようなテーマを扱ったり同じような俳優を使ったりしていたりもしますが、著者は清水宏こそが小津安二郎のライバルだったとしています(と言っても2人は盟友関係にもあり、小津安二郎が最後に入院した際には、清水宏は病院近くのホテルに滞在しながら、辛くて見舞いに行けなかったようだ)。

 著者は、清水宏はもっと評価されるべきだとしたうえで、「小津のコンティニュイティ」について解説した前章を受けて(小津安二郎はコンテをきっちり作り、カメラ位置を細かく指示するやり方)、清水宏がいかにそうした撮り方の対極にある映画術を駆使したかを解説、セット撮影で力を発揮する小津安二郎に対して、とりわけ、ロケで力を発揮する清水宏の本質を分かり易く解説しています(小津安二郎の場合、路地や家並みはもとより、ロケで山などの風景を撮ってもセットみたいな感じになる)。

小原庄助さん 2.jpg また、この章で双葉十三郎の日本映画の「風物病」論を取り上げていて、双葉十三郎は小津安二郎の「晩春」や清水宏の「小原庄助さん」をそれなりに優れた作品であるとしながらも、日本映画につきものの風物ショットが多く、映画そのものは内容に乏しいと主張しているとのことです(双葉十三郎がこのように、小津作品と清水作品を1つずつ取り上げて同じように「風物病」に陥っていると批判していることが、この章の導入部になっている)。
「小原庄助さん」(監督:清水宏、主演:大河内傳次郎)

 著者はこの双葉十三郎の見方を否定しておらず、むしろ鋭い指摘だとみている向きがありますが、個人的にも、そう思いました。小津安二郎が「彼岸花」で山を映すショットをカーテンショットとして用いている例を挙げていますが(そう、山さえセットみたいな感じになる)、風物を映せばストーリーは弱くても映画になってしまうというのは、日本映画の特徴かもしれないとしています。

 小津作品で言えば、観客は、嫁になかなか行かない娘とそれを心配する親や世話を焼く同僚といった、そうしたストーリーの展開を観ているのではなく、それはもう小津作品で何度も繰り返される展開であって、むしろストーリーよりも、その背景にある日本的な風景、風土を観ているのだろうなあと思いました。今日において小津作品を観るということは、「平成」から「昭和」の風俗を垣間見るようなものであり、また小津作品は、あたかもそれに応えることを当時から予想していたかのように、当時のごく普通の生活に見られる風俗をきっちり描いており、だから、何度見ても飽きがこないのだろうなあという気がしました。

「●筋トレ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2306】 増田 晶文 『50歳を過ぎても身体が10歳若返る筋トレ

分かり易く基本を押さえているが、「筋トレ」の本と言うより「ストレッチ」の本みたい。

20歳若返る筋トレ.jpg 『20歳若返る筋トレ (小学館新書)』 やってはいけない筋トレ.jpgやってはいけない筋トレ (青春新書インテリジェンス)

 著者の前著『やってはいけない筋トレ』(2012年/青春新書INTELLIGENCE)同様、分かり易く基本を押さえて書かれています。入門書としては悪くないと思いますが、ある程度、この分野の読書経験がある人にはややもの足りないでしょうか。特に、前著『やってはいけない筋トレ』を読んでしまった人には...。

 「毎日の筋トレは百害あって一利なし」とか「10回3セットで必要十分」とか言い切っているのも分かり易さの1要因でしょうが、求めるレベルやケースによってはそうと言い切れない面もあるのでは。但し、「有酸素運動は筋トレの後に」とか「下半身→上半身→体幹の順で」とかは、基本と言えば基本でしょう。「就寝前のトレーニングはNG」というのも正しいと思います。

 トレーニングをする時間帯は、1日の中で最も体温が高いのは16時前後と言われているが、一般的なビジネスパーソンにとって適切なのは、夕食を食べてからしばらくした後の21時から22時くらいが現実的とあり、但し、社会人がスポーツジムなどに通う場合は、17時くらいにおにぎりやパンを食べて血糖値を上げておき、会社帰りの19時から20時前後に運動し、帰宅して先に摂った炭水化物を除いた夕食を摂るのがベストとあります。時間帯はともかく、会社で5時になったらおにぎりを食べるというのもちょっとねえ。でも、今の塾通いの子どもなどは、これに似たようなサイクルだったりもするかも(勉強もエネルギーを使うからなあ)。

 第1章がこうしたトレーニングに関する"常識"編で、第2章で「自重トレ」について、第3章で身近な道具を使った筋トレについて、それぞれ写真入りで解説しており、入門者向けと言えば入門者向けですが、「自重トレ」などは結構コツがあって、効かせようと思うとジムマシンを使った筋トレより難しかったりもするのではないでしょうか。

 第4章では有酸素運動について解説し、第5章ではトレーニング後のストレッチについて解説していますが、写真入りで解説しているストレッチの方が詳しく解説されていたでしょうか。第6章では、食事や睡眠を考えて若さを保つ方法が説かれていて、ここでもストレッチが出てきます。「筋トレ」の本と言うより、何だか「ストレッチ」の本みたいでした。

 乃至は、自重筋トレの本か? 前著『やってはいけない筋トレ』でも自重筋トレが写真入りで解説されていたのに対し、ジムトレーニングについては写真が無く、マシントレーニングの経験が無い全くの初心者にはやや厳しいかと思われたのですが、今度はマシントレーニングの解説そのものを割愛してしまっています。タイトルの「筋トレ」とややイメージが一致しない気もしますが、「20歳若返る」とあることから、中高齢者向けの日常生活の中で出来るトレーニングの本、といった感じになるのかと思います。

「●筋トレ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2860】 森谷 敏夫 『定年筋トレ

ミドル、シニアエイジ向けの筋トレ入門書・啓発書として良い。

50歳を過ぎても身体が10歳若返る筋トレ.jpg50歳を過ぎても身体が10歳若返る筋トレ (SB新書)』 腹が凹む!体脂肪が減る!40歳からのジム・トレーニング.jpg 井上健二 『腹が凹む!体脂肪が減る!40歳からのジム・トレーニング (ソフトバンク新書)

 井上健二氏の『腹が凹む!体脂肪が減る!40歳からのジム・トレーニング』('11年/ソフトバンク新書)に続く(?)、ミドル、シニアエイジ向けの筋トレ入門書です。この本も、ターゲットが絞れていて良いと思いました(筋トレ本は数多いが、シニア向けに複数出している新書はSB新書(旧ソフトバンク新書)だけか?)。

フィットネスクラブ会員年齢構成1.jpg 今回の著者は、ボディビルダーたちを主人公にした著書『果てなき渇望』で「文藝春秋Numberスポーツノンフィクション新人賞」を受賞した作家であり、1960年生まれの著者自身、1968年から本格的に筋トレを始め、20代、30代の若い頃にボディビルの大会に出場していたとのこと。しかし、34歳で会社を辞めて文筆の世界に入ってから運動不足になり、2000年40歳の時に奮起して筋トレを再開、現在('14年2月)体重60㎏、体脂肪率5.9%だそうです。そうした"筋トレ歴"を持つ著者らしい入門書になっているように思いました。

 本書によれば、近年、中高年のフィットネス参加率はめざましくアップしており(この点は経産省の統計からも窺える)、但し、"筋トレフィフティーズ"は意外と少ないとのこと、筋肉量のピークは20代で、その後、徐々に減っていき、40歳くらいからは年に0.5%ずつ減少、65歳以降に減少率が急増、80歳だと全盛期の30%から40%にまでに減少し、それを阻止するには筋トレを継続するのが得策で、50代ミドル以降は筋肉への投資がシルバーエイジを左右するとのことです。

 第1章・第2章で、ウェイトトレーニングのメリットを説き、50代で鍛えないと筋肉は減り続けるため、アラフィフこそトレーニングすべきだとして、筋トレが効果を発揮する理由からスポーツクラブの選び方まで、自身の体験や利用者の体験談を交え解説しています(スポーツクラブにおいて人間関係で消耗することは避けたいとか、結構リアルだなあ)。

 第3章は約100ページほど費やして筋トレでの工夫やメソッドを説き、ベンチプレスから始まって、全身、胸、背中、のトレーニング、肩こり対策、腰痛防止のトレーニング、足、肩、腕、腹のトレーニングを、マシントレーニングだけでなくストレッチやアイソメトリックスを含め種目別に解説しています(各写真入りで、著者もモデルを務める)。この部分は"実用マニュアル"といった感じでしょうか。

 第4章で再び啓発的解説に戻って、ミドルとシニアに最適なのは無理しないダイエットであることを説いていますが、この中では、著者自身が「炭水化物ダイエット」、段階的な「脂質オフダイエット」を経験してみて最後に「筋トレダイエット」にたどり着いた経緯が興味深かったです。"筋トレダイエット"といのは、ダイエットが本来は食事制限に近い意味であることからすると言葉の矛盾のようにも思われますが、「お腹が減るまで食べない」「本当に食べたいものだけ食べる」ということのようです。

 第5章は更に啓蒙的で、ウェイトトレーニングとは己の肉体、更には精神との対話であるとしています。この中で個人的に関心を持ったのは、著者がトレーニングするときは、レップ数(何回やったか)を原則カウントせず、「もう効いている」か「まだ効いていないか」で判断しているということと、セット間の休憩は40秒程度としていることでした。ベンチプレスの例で、ベンチ1種目で7セットやっています(但し、レップ数は何れも10回を下回る)。

 最終第6章では、"筋トレフィフティーズが気を付けることについて書かれていて、効果が出る人とでない人の違いや筋肉痛への対処法、パーソナルトレーナーの選び方などを述べています。また、プロテインは普通のミドルやシニアには必要ないとしています。

あなたもこんなマッチョボディになれる!.jpegシニアでもマッチョでいたい。.jpg 本書は基本的に、50歳を過ぎても細マッチョやスレンダー体系の理想に近づけるということを説いた本であることを冒頭に謳っていますが、最後に、50代ミドル、60代シニアが筋トレをするのは、人生の道のり半ばにあって体力や筋力の衰えを自覚するところからスタートし、衰えた分を取り返し、プラスに転じていけるから中年のトレーニングは面白しい、味わい深いと。老いと正面衝突したり、老いから逃げ回るのではなく、さらりといなすのが50代、60代の筋トレの極意であるという本書の結語は、なかなか奥深いように思いました。

出典:kin-100.com
出典:plaza.rakuten.co.jp

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手軽に自宅でできるトレーニング。写真が豊富で分かり易い。

人生を変える筋トレ.jpg人生を変える筋トレ (新書y)』['12年] もっと人生を変える筋トレ (新書y).jpgもっと人生を変える筋トレ (新書y)』['14年]

 新書ですが、読み物としての文章だけでなく、写真や図解も多く取り入れています。「人生を変える」というのはやや大袈裟な気もしますが、「さあ、これから始めよう」という人たちの気持ちには呼応するのかもしれません。

 文章の部分は啓発と理論のバランスはほどよく、写真は豊富で分かり易いです。ただ、コレ見て分かりますが、ストレッチや自重を使った運動、有酸素運動を含め「自宅(でできる)トレーニング」が中心であり、著者自身も本書が刊行された際に自身のブログで、「判型からしても、メインターゲットはビジネスパーソンになるだろうと考え、スキマ時間を活用して自宅で手軽にできる自重トレーニング種目はもちろん、 ストレッチや有酸素効果の高いトレーニングになどもふんだんに紹介しています」と書いています。

 であれば、「自宅トレーニング」とか「自宅でできる」とか、どこかサブタイトルにでもあった方が分かり良い気もしますが、まあ、それは、ぱらぱらとめくって見れば、マシンを使った写真は出てこないので、大体の方向性は分かるだろうということなのでしょう。

 一般論で言えば、著者の言うように手軽に出来るものばかりでハードルはそう高くないけれど、ジムに行って気持ちを切り替えてマシントレーニングなどをする方が向いているという人にとっては、逆に自宅トレーニングの方がハードルが高かったり、継続することが難しかったりすることもあるのではないでしょうか。ただ、別に自宅でなくとも、同じことをジムのマットレスなどでやってもいいわけです(そうした意味も含めて、敢えてタイトルでは「自宅トレーニング」と謳わなかったのか)。

 '14年に続編『もっと人生を変える筋トレ』が出ました。正編が、第6章に "「筋トレ」で人生を変えた男たち"といった読み物があったりしたのに比べると、そうした章は無くなって、紹介しているトレーニングの種類を32種類から42種類に増やしており、より、実践・実用的になったという感じでしょうか(よりマニュアル的)。どちらから読んでも、どちらか一方だけ読んでも別に全く問題ないと思います。

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オーソドックス。一般的な理論の確認にはいいが、経験者、初心者両方にとっての物足りなさも。

やってはいけない筋トレ3.jpgやってはいけない筋トレ.jpgやってはいけない筋トレ (青春新書インテリジェンス)

 タイトルからこれまでの常識を覆すようなことが多く書かれているような印象を受けますが、「やってはいけない」というのはこの新書のタイトルの慣用的キャッチフレーズのようなものであり、著者はNSCA公認ストレングス&コンディショニング・スペシャリストとのことで、本書について言えば、内容的にはオーソドックスでした。

 筋トレは、最初1~2ヵ月の導入期間は週に1~2回のペースで良く、体が慣れてきたら週2~3回の頻度に増やすとか、1セットだけやっても約30%の筋繊維しか収縮しないため意味が無く、2セットで約60%、3セットやって初めて100%効くとか、ジョギングと筋トレを両方行い、双方の効果を最大に引き出したいのであれば 筋トレ → 有酸素運動 の順番でやるとか、基本知識をしっかり伝える一方で、ある程度このジャンルの本を読んで実践している人にとっては、目新しい知見はそれほどなかったかも。

 最近はネットでもいろいろ調べられるし、Amazon.com のレビューでも、「当たり前過ぎてわざわざ読む価値がない」という声もありました。但し、筋トレ理論は"専門家"と言われる人の中にも色んなことを言う人がいて幅があり、読む本によって真逆のことが書いてあったりもするので、基本(マジョリティ)を押さえるうえでは、いろいろ読んでみるのもいいかもしれません。

 一例を挙げれば、最近読んだものに、筋トレをやるのに適した時間帯として、寝る直前がいいというのがありましたが(本書でもそれを1つの"説"として紹介している)、しかし本書では、就寝後に成長ホルモンの分泌が盛んになるというので相乗効果が得られるというのがこの説の根拠であり、確かにそうした見方もあるものの、寝る直前は体温が下がっており、運動には適さないとあり、こっちがオーソドックスと見るべきでしょう。

 人間は16時前後が体温が最も高く、交感神経がよく働いているため、運動するのはその時間帯がベストだが、この時間帯に筋トレをするのは多くの社会人にとっては難しいため、現実的な方法の1つとして、19時頃に夕食を食べて休養した後、21~22時くらいにやる方法を挙げています。でも、これだと結局、寝る時間に結構近い時間帯ということになるのではないかな。本によっては、18時~20時にやることを勧めている本もあるし、詰まるところ、その人の1日の生活リズムによるのでしょう。毎日夕方5時半頃には仕事が終わって、通勤経路から通いの便のいい所に行きつけのフィットネスジムがある人ならば18時~19時でもいいし、ほぼ毎日残業があってそうもいかない人も多くいるでしょうし。フィットネスジムのヨガやティラピスのクラスなどは、平日は20時、21時頃が結構人が多かったりするようにも思います。

 後半、最終章の前の第4章に「部位別筋トレ10種目」というのが写真入りであって実用的である一方で、そこにあるのは全て自宅で出来る"自体重筋トレ"であり、次の最終章で、ジムやパーソナルトレーナーの活用方法が書かれています。新書的・解説的内容でありながら、こちらでも、「全身を鍛える11種目」という実用的項目がありますが、こちらでは、レッグ・エクステンションとかレッグ・カールなどをやる際のポイントについては書かれていますが、写真やイラストは一切無し(マシントレーニングの経験が無い全くの初心者にはやや厳しいか)。

 ジムトレーニングの写真が無いのは、あまりに実用書そのものになってしまい、新書らしくなくなるのを避けたのか、紙数が尽きたのか(全体で200ぺージほどなのだが)、それともホントの初心者に向けた入門書なので、ジムトレーニング系は他の本でということなのか(初心者だからといって、必ずしも自宅トレから始めるとは限らない。その意味では、ジムトレーニングから入りたいと思っている初心者にも物足りないとも言えてしまう)、その辺り、著者の意図がよく分からなかったです。

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ジムに通いを前提とし、体系的、理論的、網羅的(ジムでのマナーも含め)に纏まっている。

腹が凹む!体脂肪が減る!40歳からのジム・トレーニング.jpg『40歳からのジム・トレーニング』.jpg
腹が凹む!体脂肪が減る!40歳からのジム・トレーニング (ソフトバンク新書)

 序章「40歳からのジム・ライフ」で、運動不足だと30代以降、下半身の筋肉は年1%のペースで減り、その結果、太腿の筋肉は70歳になると30歳の半分ほどに減ると書かれています。40歳から始まる所謂"中年太り"のバックグラウンドにあるのは、この筋肉の減少であり、運動することは将来への投資であって、アンチエイジングには運動しかない、運動をしないと骨は強くならないし、有酸素運動でスタミナアップが図れると―。

 そこで、目標を決めてから運動を始めようということで、第1章「ジム・トレを続ける技術」では、「続ける」にはどうしたらよいかということが書かれていて、週3回ジムに通うことを目標とし、結果的に2回いければOKとしています。また、行きたくない日でも敢えて行ってみると、ロッカールームで着替えてウォーミングアップしているうちに、意欲が湧いてくることがあるとしていますが、個人的にはその通りだなあと思います。

 第2章「失敗しないジム・トレの原則」では、「過負荷の原則」「漸進性の原則」「反復性の原則」「意識性の原則」「個別性の原則」など、トレーニング効果を効率よく上げるために知っておくべき原則について解説しています。その上で更に第3章「効果を高める3大トレーニング」で、筋トレ、有酸素運動、ストレッチの3大トレーニングを取り上げ、中でも本書の中核テーマである筋トレの効果アップ術について解説しています。

 更に第4章「実践・ジムの作法」で、「ジムエリア」「カーディオエリア」「スタジオエリア」「プール&アクアエリア」の4大エリアごとのマナーを解説し、例えばジムエリアであれば、マシンゾーン以外のフリーウェイトゾーンやストレッチゾーンにおけるマナーなども解説し、カーディオエリアであれば、トレッドミドルとステーショナリーバイク、或いはステップマシンとエリプティカルトレーナーといった具合に、それぞれにおける使い方のマナーを説明しているのが丁寧です。

 最終第5章「40歳からの悩み解消プログラム」で、運動プログラムを作る際の原則を解説していますが、「40歳から」に限らず幅広い層にとって参考になるものであり、それはこの章に限らず、本書全体に言えることかと思います。まあ、ソフトバンク新書であるということに加え、運動不足が気になり始めるのがその年代だろうということで、「40歳から」としたのでしょう。

 もう一つは、理論解説がしっかりしているというのも、若さの勢いで筋トレをやりがちな(それでいてそれなりに効果が出てしまったりもする)若年層に比べ、論理的な体系を理解し、自分なりに納得したうえで、限られた時間の中で効果を出したいと考える中年層には向いているかもしれません。

 タイトルに「腹が凹む!」とありますが、腹筋のやり方が書いてある本ではありませんし、ベンチプレスやスクワットといった一つ一つの種目のやり方が書いてある本でもありません。但し、ジムに通って、そこのジム(マシンやウェト、ストレッチゾーン)やカーディオ、スタジオエリアやプールなどの施設を使うということを前提とし、その前提に特化して、心構えや続けるコツを説いた本だと思います。体系的、理論的に纏まっていて、ジムでのマナーなどにも触れられていることから。網羅的でもあると思います。

 「実用新書」というより、本来の新書らしい作りになっていると思いました。
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井上 健二(いのうえ・けんじ)
1963年生まれ。九州大学経済学部卒。フィットネスエディター。20年前から雑誌『Tarzan』(マガジンハウス)の編集と執筆に関わる。
これまで医師、運動生理学者、管理栄養士など数百名のフィットネス&健康専門家への取材とインタビューを行う。
『MISS』(世界文化社)、『美的』(小学館)、『ar』(主婦と生活社)、『an・an』(マガジンハウス)など女性誌での健康関連の連載、
香取慎吾、SHIHO、草刈民代ら著名人のトレーニング本の編集にも関わる。

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タイトルは胡散臭いが、"トレーニングのための実践的な知識"を含んだ啓発本としてはまとも。

仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか ph.jpg仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか 紫.jpg
仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか (幻冬舎新書)

 刊行時、このジャンルの本としては珍しく10万部以上を売り上げベストセラーとなったもので、新書で購入しやすいというのもあったかと思いますが、タイトルも効いているのかなあ。自分のように却って胡散臭さを感じて手にするのが遅くなったり結局読むのを避けたりした人もいたのではないかと思いますが...。

 読んでみたら、第1章「筋肉はビジネススキル」とかあって、やっぱりなあという感じも。第2章は「目的は『続けること』」とあり、ずっとこのまま"自己啓発"調でいくのかと思ったら、第3章以降は意外と、「トレーニングの原理原則」「トレーニングの常識・非常識」「トレーニングがうまくいく人、いかない人」...と続いて結構"実践的"な解説になっていて、最終第9章で「筋トレで学ぶ成功法則」とまた"自己啓発"調に戻って締め括るものの、全体としては概ねオーソドックスでした。

 どちらかというと具体的なトレーニング方法よりもトレーニングそのものに対する考え方について述べられていて、トレーニングの手法にまで過度に踏み込まず、また、あるメッソドを強硬に押しつけているわけでもないので、自身のトレーニング環境や現状の身体的条件などに関わらず、幅広い読者にとって参考になるのではないでしょうか。

 その分、知識的にはそれほど高度なレベルでもないのですが、個人的には幾つか参考になる部分がありました。読んでいて、自分のやり方で良かった思われた点は、「時間帯によって効果が異なる」(129p)で、本当は寝る1時間前にトレーニングするのがいいのだが、夜6時から8時の間でもいいだろうと書かれていることで、自分の場合これにぴったり当て嵌ります(但し、寝る直前はダメで、むしろ夕方の方がベストだとする説があり(坂詰真二『やってはいけない筋トレ』(青春新書INTELLIGENCE)33p)、こちらの方が有力説なのではないか)。

 一方、ちょっとヤバいと思ったのは、「カロリーオフだったらどんなに飲んでも大丈夫?」(85p)で、スポーツ飲料などでも100ミリリットルあたり15キロカロリーなどと書いてあり、500ミリリットルで75キロカロリー、これを運動で消費するのはたいへんであり、20キロカロリー未満なら「カロリーオフ」の表示が認められているので気をつけようという話で、う~ん、ウェイトトレーニングもさることながら、走ったりした後は結構"アクエリアス"とか飲んでるなあ(因みに"アクエリアス"は100ミリリットルあたり15キロカロリー。但し、"アクエリアスゼロ"はゼロキロカロリー)。

 もうかなり前に出された本ですが、「ピラティスで腹筋は割れるか?」とか(今流行りの"ライザップ"ではないが)「パーソナルトレーナーの費用対効果」などといった項目もあり、結構先のトレンドを読んでいたなあ。

 "トレーニングのための実践的な知識"を含んだ啓発本としてはまともであり、これからトレーニングを始める人がこの著者の本の中で1冊読むとすれば本書ということになるのかも。

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「著者による木村の魂の介錯の試みは、著者自身の首を自ら介錯する試みでもある」(夢枕獏)。

「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」 単行本.jpg「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」 単行本2.jpg 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか 文庫 上.png
木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』['11年/新潮社]『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上) (新潮文庫)』『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(下) (新潮文庫)』['14年/新潮文庫]

 2012(平成24)年・第43回「大宅壮一ノンフィクション賞」、第11回「新潮ドキュメント賞」受賞作。

 雑誌「ゴング格闘技」の2008年1月号から2011年7月号にかけて連載されたものがオリジナルで、「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と言われた史上最強の柔道家・木村政彦の評伝ですが、たいへん面白く、単行本2段組み700ページの大作でありながらも一気に読めてしまいました(あまりに大部であるため、文庫になってから読んだのだが)。刊行時から夢枕獏、平野啓一郎、五木寛之といった人々が絶賛したばかりでなく、恩田陸、櫻井よしこら格闘家にあまり関心があるとも思えない(?)女性からも惜しみない賛辞が寄せられているのも頷けます。

木村政彦 vs 力道山2.jpg 前半部分は柔道家列伝という感じで、その中で木村政彦が図抜けた存在になっていく過程が描かれており、後半は力道山との運命を分ける試合へ導かれていく様が、これも丹念に描かれています。そして、木村政彦の運命を変えた力道山との一戦で彼は、柔道における15年不敗、13年連続全日本選手権の覇者としてリングに上がったものの、力道山の繰り出す空手チョップの前にダウンし、キックされて再び立ち上がることが出来なかったわけです。
木村政彦 vs 力道山(1954年12月22日蔵前国技館)

 この試合は実はプロレスがショーであることの例に漏れず、「引き分け」に持ち込むという互いが事前に取り決めた念書(所謂"ブック")があったにも関わらず、力道山が"ブックやぶり"を犯して勝ってしまったもので、力道山がこの"勝利"を足掛かりに自らのプロレスにおける地位を盤石のものとしていったことは、格闘技ファンの間では知られていることですが、一般には、そうした経緯があったことは、本書が出るまでそれほど知られていなかったかもしれません。

木村政彦 vs 力道山.jpg木村政彦vs力道山.jpg 著者はもともと木村政彦の無念を晴らすためにペンを執ったわけで、その木村政彦に対する思い入れと、ノンフィクションとして出来る限り客観的に真実に迫ろうとする姿勢が、随所で綱引きをするように引っ張り合っているのが興味深かったです。取材に18年かかったというのは伊達ではないでしょう。それだけの時間を費やすだけの木村政彦への強い想いが感じられる一方、主観に捉われず出来るだけ多くの人に取材し、資料に当たり、事の真相を探ろうとするにもそれだけの時間がかかったのだなあと思わされました。

木村政彦 vs エリオ グレイシー.jpg 本書が話題になった時、ブラジルで1951年10月23日行われた木村政彦vs.エリオ・グレイシー戦の動画も観たし、「昭和の巌流島」と言われ、木村政彦の名声の失墜の原因となった、1954年12月22日の木村政彦vs.力道山戦の動画も観ました。但し、それとは別に、かつて10年以上も前にテレビ東京で「君は木村政彦を知っているか」という90分のTV特番があって、その中に生前の木村政彦へのインタヴューが収録されているのを最近知りました(著者のブログによると、著者自身も人から聞いて知ったらしく、「これを観ると、私がいま雑誌上で連載している『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の全体の流れを概観できると思う」と言っている)。

 木村政彦はそのインタビューの中で、あの"因縁の"力道山戦を実に淡々とした感じで振り返っており、自分のキックがたまたま金的蹴りに近いものとなり、それに激昂した力道山が繰り出した空手チョップが偶然自分の頸動脈に入って自分は気を失ってしまったように話していました。予め力道山戦の動画を観ていた自分もそうだな、事故だったのだなあ、木村政彦も随分枯れたというか達観した感じだなあと思ったのですが、本書を読むと、力道山の空手チョップが頸動脈に入ったというのは記者か誰かの誤記を木村が事実と取り違えて自分でそれで自分を納得させてしまったものらしく(実際には力道山のチョップは顔面=テンプルに入っている)、こうしたことからも、木村が力道山戦を自分の心の中で整理するのに大変苦心したことが窺えるように思いました。 「君は木村政彦を知っているか」 (テレビ東京2000年8月27日放映)

 先にも述べたように、本書はもともと木村政彦の無念を晴らすために書かれたもので、本書に対する評価の中には「ペンで仇をとった」といったようなものもあり、確かにそうした側面はあるでしょう。しかし、一方で本書は、プロレスラー力道山は真剣勝負で試合に臨んだが、一方の木村政彦は、事前に力道山に渡した念書どおりのプロレスのつもりでリングに上がり、試合に対し呑気に構え、トレーニングもせず、前夜も大酒を食らっていた―その違いが木村の顔面に決まった力道山の一発に表れ、一方のそれを喰らった木村は立てなかったという捉え方もしています。

 そして最終的に著者は、「あれはただのブックやぶりでしかない。だから勝ち負けを論ずるのは間違っている」としながらも、「だが、木村の魂はさまよい続け、介錯を待っているのだ。ならばその魂に柔道側から介錯するいしかない」とし、「木村政彦は、あの日、負けたのだ。もう一度書く。木村政彦は負けたのだ」としています。こうして見ると、夢枕獏氏が「週刊文春」に書いた、「木村のさまよえる魂を追いつめてゆき、いよいよ著者は木村の介錯を試みるのだが、これはむしろ著者が著者自身の首を自ら介錯するシーンとして読むべきだろう」という評が、実に穿った見方であるように思いました。

「なぜ木村政彦は力道山を殺さなかったのか」_3.jpg 本書を読んでも最後まで分からないのは、力道山にとって木村政彦との試合は彼を潰すチャンスでもあったのは事実だと思いますが、それではブックやぶりはゴングが鳴る前から力道山の「作戦」にあったのか、それとも木村があたかもインタビューで力道山を"擁護"するかのように語ったような「事故」だったのかということで、これは、力道山が自らをプロモートすることに関して非常に優れた才能を持っていた(また並々ではない執着心を持っていた)ことと、彼が非常に激昂しやすい性格であったことを考えると、どちらの可能性もあるように思います。(今年['15年]⒒月に、力道山の伝記作家とも言える石田順一氏の『力道山対木村政彦戦はなぜ喧嘩試合になったのか』(北國新聞社出版局)が刊行されたので、読み比べてみるのもいいかも。)

 本書は最後、木村政彦の妻をはじめ4人の女性に敬意を表して終わっていますが、その中に力道山の妻も含まれており、本書は、木村政彦へのオマージュであるとともに、(ペンの力で敵討ちするはずだった)力道山へのオマージュにもなっているように思いました。

【2014年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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