「●採用・人材確保」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2677】 武井 繁/米田 光宏 『時代を勝ち抜く人材採用』
就活後ろ倒しの影響を企業の対応までを含めて概観するのにいい。
『こう変わる! 新卒採用の実務 (労政時報選書)』(2014/12 労務行政)
先に取り上げた『新卒採用の実務』(2014/11 日経文庫)のところでも触れた1冊。 2016年新卒採用(2015年度の大学4年生)から、採用広報の開始が3月1日(従来は12月1日)、採用選考の開始が8月1日(同4月1日)に、それぞれ広報が3ヵ月、選考が4ヵ月後ろ倒しされることを受け、予想される影響やそのことへの企業の対応にフォーカスして編集されています。
「総論解説」「各論解説」「最新調査にみる採用の現状とこれから展望」「企業事例」「採用関連実務Q&A」の5部構成で、「総論解説」はスケジュール変更の影響についてHRプロ㈱の寺澤康介氏が、新卒採用の今後の在り方についてリクルートワークス研究所の大久保幸夫氏が寄稿しています。
個人的には寺澤氏が、経団連の「指針」は縛りが緩いルールであって、8月1日「解禁」前に6割以上の企業が選考を始めるだろうとし、インターンシップを採用に繋げる企業が増えるだろうとしているのが関心を引きました。
こうした見通しは既に類書などでも言われていますが、自社のアンケートでもって、「指針」が守られると思っている企業が4割以下なのに対し、「指針」が守られないと思っている企業が6割近くあると示しているのは説得力があるように思われました(「どちらとも言えない」と答えた企業の中にも「今も守られていない」という声があったとのこと)。
「各論解説」ではインターンシップやリクルーター制度、内定者フォロー、キャリアセンターとの連携などについて各分野の専門家や実務家が解説し、「最新調査」としては調査会社による調査結に加え、労務行政研究所オリジナルで企業の動向や人事担当者のホンネを探る調査を載せています。ここでも「早めに広報活動や学生の接触、選考を行う」32.2%、「指針に示された時期にとらわれず、独自のスケジュールで活動する」27.6%と、両方を合わせると約6割になるという結果が出ています。
先進の「企業事例」としてはネスレ日本、タカラトミー、ワークスアプリケーションズなど5社の採用の実情を紹介しています。ワークスアプリケーションズの「入社パス」などはすっかり有名になったように思いますが、その他にも各社さまざまな工夫をしていることが窺えます。
「実務Q&A」では、「インターンシップの学生に報酬を払えば労働者とみなされるか」など5つのQ&Aが付されています。
今回の「就活後ろ倒し」は、インターンシップが選考の場と化すなど、採用活動のアンダーグランド化を招く恐れがあるとして評判はあまりよくないようですが、そうは言っても、大学および学生、並びに企業は、も対応をしなければならないのが現実でしょう。本書はやや総花的な印象もありますが、就活後ろ倒しの影響だけでなく、企業の対応までを含めて概観するのにはちょうど良く、「調査結果」と併せて解説することでより説得力のあるものになっていると思いました。
先に挙げた寺澤氏は、8月1日の「解禁」までのんびり構えて、出遅れる学生が増えると警告する一方、企業に対し、自社のスタンスを決めて採用戦略を立て柔軟に動ける準備をするようアドバイスしていますが、尤もだと思いました。