【2294】 ◎ 遠藤 公嗣 『これからの賃金 (2014/10 旬報社) ★★★★☆

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非正規社員を含めた自社の賃金制度の将来的な在り方を考えていくうえでの指標になるか。

『これからの賃金』.JPG遠藤公嗣『これからの賃金』.jpgこれからの賃金』(2014/10 旬報社)

 これからの日本の賃金には、日本で働くすべての労働者の均等処遇をめざす賃金制度が必要であり、その賃金制度は「範囲レート職務給」が中心になるはずであって、それに必要な職務評価は「同一価値労働同一賃金」の考え方で実施すべきであるというのが本書の主張です。

 著者の言う「日本で働くすべての労働者」とは、正規労働者だけでなく非正規労働者も、男性労働者だけでなく女性労働者も、日本人労働者だけでなく外国人労働者も含むことを意図しています。

 第1章「日本企業における賃金の動向」では、そのことを象徴するように、非正規労働者の賃金制度から考察を始めています。また、この第1章では、正規のホワイトカラーの労働者の賃金改革の歩みを振り返るに際して、「成果主義」と「コンピテンシー」の2つを"言説"として捉え、その実態はどうであったかを述べるとともに、「役割給」が普及した経緯を分析し、その特徴として「ミッション」の概念を重視していることを指摘している点は、実務者にとってもたいへん興味あるものではないでしょうか

 第2章「賃金形態の分類を考える」では、最近の賃金制度改革の方向性を議論するための前提として、賃金形態を理論的に分類していますが、雇用慣行並びにそれに対応する賃金形態を「属人基準」と「職務基準」に大別し、さらに「属人基準賃金」を「年功給」と「職能給」に(「職能給」を「職務基準」ではなく「属人基準」としている点に注目)、「職務基準賃金」を「職務価値給」(職務給、職務価値給の労働協約賃金、時間単位給)と「職務成果給」(個人歩合給・個人出来高給、集団能率給、時間割増給)に分類したうえで、現在の日本の賃金は、全体として、「職務価値給」の1つである「範囲レート職務給」に移行しつつあるとしています。

 この第2章では、「成果主義賃金」「コンピテンシー」の流行が終わったと捉え、正規ホワイトカラー労働者については「役割給」が主流となったとしていますが、その「役割給」というものを「範囲レート職務給」に近いとしながらも、「ミッション」概念が付与されているという意味で、「範囲レート職務給」まがいのものであるとしているのが興味深かったです。

 第3章「賃金制度改革の背景」では、賃金制度改革が主張される背景として、「日本的雇用慣行」と「男性稼ぎ主型家族」の組み合わせた従来型の社会システムである「1960年代型日本システム」が崩壊しつつあることを指摘しています。そうした旧来のシステムが崩壊したことの原因と労働者への影響を探る中で、正規も非正規も階層化が進んでいることを指摘している点が興味深かったです。

これからの賃金6.JPG 第4章は本書の結論部分であり、1960年代型日本システムに代わる新しい社会システムが「職務基準雇用慣行」と「多様な家族構造」の組み合わせであること、冒頭に述べたとおり、そこで適用されるべき賃金制度は「範囲レート職務給」であり、その社会的規制は「同一価値労働同一賃金」の考え方の職務評価であることを主張しています。

 ホワイトカラーエグゼンプションや地域限定正社員、有期雇用社員の無期転換など、多様な働き方の推進が議論されている昨今、また、「日本的雇用慣行」と「男性稼ぎ主型家族」の組み合わせである「1960年代型日本システム」の崩壊が進む中で、著者が提唱する「同一価値労働同一賃金」に基づく職務評価をベースとした職務基準賃金という方向性は、現状における正社員と有期非正規社員の賃金形態や賃金水準の大きなギャップを埋めていく上でも、概念的な示唆を含むものと思われ、非正規社員を含めた自社の賃金制度の将来的な在り方を考えていくうえでも一つの指標になるかもしれません。お薦めです。

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