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「問題社員」レベルを遥かに超絶した「モンスター社員」の事例が"強烈"。
社会保険労務士による本ですが、全6章構成の第1章「本当にあったモンスター社員事件簿」に出てくる、"ファイルNO.1 見事な演技力で同僚をセクハラ加害者に仕立て上げた清楚な女性社員"をはじめとする5つの事例がどれも"強烈"で、著者の言う「モンスター社員」というのが、一般的に「問題社員」と呼ばれるもののレベルを遥かに超絶した、企業や職場にとって極めてやっかいな存在であることを再認識させられます。この5つの事例だけで本書の前半部分を割いていますが、それだけの意義はあるように思いました。
著者によると、モンスター社員の特徴は、「社会人としてのモラルが低く、ルールも無視、注意を受けると逆切れする」「対人関係や精神状態が不安定で、常に周囲とトラブルを引き起こす」「平気で嘘をつき、良心や倫理観が欠如している」「自己愛が異常に強く、虚言や自慢話で周囲を振り回す」というようなもので、このような特異な存在を類型化できるのかという気もしますが、第2章「タイプ別モンスター社員の特徴とその対処法」で、「A.親、配偶者がモンスター化している社員」「B.演技力で周囲を掻き回す社員」「タイプC.モラル低下型社員」「タイプD.職場環境を悪化させるハラスメント社員」「タイプE.常に注目を浴びたい自己愛型モンスター社員」に分類し、それぞれについての対処法を述べています。
第3章「職場のモンスターの仮面の下」で、ほとんどのモンスターは第一印象がいいが、実は仮面の下に、歪んだ自己愛や自身の無さ、コンプレックス、嫉妬、不満・怒り、傷つきやすさ、依存心などがその心理としてあり、それが会社を批判したり、部下や同僚をいじめたり、自分の事を自慢したりする行動にどう結びついていくのかを解説しています。
第4章「モンスターの見分け方」で、こうしたモンスター社員であってもクビにするのはそう簡単ではないため、それではどうしたら採用の際に見抜けるかをアドバイスし、第5章「モンスター社員への対処方法」では、それでも実際に入ってしまったからモンスターだと分かった際の対処法を示していますが、この辺りはまあオーソドックスな解説と言えるでしょうか。
やはり、第1章の事例編が"強烈"であり、こんな人格障害そのもののような相手に対して普通の対処法で解決できるのかなあという気もしました。実際、事例の中にも、対処策を講じきれないうちに、時間が何となく解決してしまったような例もあったかと思います(注:著者が事の発端から最後まで関与していた事例ばかりとは限らない)。
一方で、その中には、パワハラをした社員を辞めさせるのに金銭的解決を持ちかけ、「金を払って」辞めてもらった例もあり、従来の発想だと、経営者は「どうしてそんなヤツに金を払わなければならないんだ」「周りに示しがつかない」的な発想になりがちですが、モンスター社員のことで経営者や管理者が費やす時間と労力の無駄を考えると、こうした対象方法も場合によってはありかなと思いました(後の方の事例で、一度金を払ったがためにその後も金を請求されるという事例も出てくるように、1回でケリをつけることが肝要か)。
こうしたモンスター社員は、経営者や管理者が頭を悩ますだけでなく、どの職場に行っても周囲の人たちが大いに疲弊させられ、そのことの損失もこれまた大きいように思います。病気ならば治る可能性はありますが、人格障害的なものはそう簡単には変わらないため、やはり早期に対応し、周囲が迷惑を受ける期間を出来るだけ圧縮することが望ましいかと思います。
第6章「モンスターを生まない会社へ」にあるように、会社に共有ビジョンが無かったり、コンプライアンス意識が欠けていることによって、普通の社員がモンスター化していくことも確かにあるでしょうが、むしろ、元々潜在的に"モンスター資質"を持った人が、そうした環境の中でその"資質"部分を触発され、自己アピールの場として職場に固執したり、自分の居場所として会社に居ついてしまうといったこともあったりするのではないでしょうか。
その分、退職を勧奨したり、異動を命じたりすることは難しかったりしますが(本書は、社会保険労務士による本であるため、必要に応じて法的な留意点についても触れられている)、但し、放置しておくと職場のモラールに影響し、最悪の場合は「割れ窓の論理」で同じような話があちこちで起きてくる可能性もあるように思います。そうした意味では、「モンスター社員」問題は、個人の人格の問題に近い要素と、組織の問題との複合問題でもあるように思いました。