【2280】 ○ 今野 浩一郎 『高齢社員の人事管理―戦力化のための仕事・評価・賃金 (2014/08 中央経済社) ★★★★

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「福祉雇用型」から「仕事ベース短期決済型」へ。理論的な枠組み、方向性を示す。

高齢社員の人事管理 今野浩一郎.jpg高齢社員の人事管理』(2014/08 中央経済社)

 「70歳まで働ける企業」基盤作り推進委員会(高齢・障害者雇用支援機構)の座長なども歴任した著者が、労働者の5人に1人は高齢者であるという世界の先進国の中でも未曾有の高齢化を迎えた日本における今後の「高齢社員の人事管理」の在り方を考察・示唆した本です。

 著者によれば、これまでも多くの実務家が制度や施策を提案しているし、研究者も解決策を提案しているが、実務家の提案は「いま役に立つ」を重視するあまり人事管理の基本となる理論的な枠組みの部分が弱く、一方、研究者は現状分析や課題の捉え方には優れるが、制度を具体的に構築する手掛かりにはなりにくい―本書は実務家と研究者の両者を繋ぐべく、研究者の成果を踏まえて実務家たちが人事管理の制度構築を行ううえにおいて灯台の役割を果たす考え方、視点、進むべき方向を提示する狙いで書かれたものであるとのことです。

 第1章「人事管理のとらえ方」で、人事管理の構造を体系的に整理し、高齢社員の人事管理を考えるうえで「ことの重要性」「全体の中の一部」「戦略と戦術を区分する」という3つの視点を提示しています。さらに、経営ニーズの変化による人事管理の再編の方向性として、社員が意欲をもって新しい働き方に取り組むことを支援する人事管理、また、それを担う人材を確保・育成するための人事管理を構築することが求められるとしています。

 第2章「社員の多様化と人事管理」では、会社の指示があればどこへでも転勤し長時間労働も厭わない「無制約社員」と働く場所や時間に何らかの制約がある「制約社員」を区分して管理するこれまでの伝統的な「1国2制度型」は、基幹社員が無制約社員から制約社員化する中でその基盤が崩壊しつつあり、基幹社員の中にも制約社員がいることを前提にした多元的人事管理の方が経営パフォーマンス上優れているとし、また、交渉ベースの雇用管理、仕事基準の報酬管理というものがこれからの主流になるであろうとの見通しのもと、賃金制度はどのように変わっていくか、また、その際にどういった配慮をしなければならないかを、「リスクプレミアム手当」といった概念を用いて解説しています。

 第3章「高齢化からみる労働市場の現状と将来」では、「ことの重要性」の観点から。高齢化が人事管理にとってどの程度重要な課題であるのか、労働市場や人口構成に関するデータから、その重要性を確認し、高齢者の活用に企業も高齢者も「本気になること」が解決の出発点であるとしています。

 第4章「高齢社員の伝統的人事管理の特徴」では、企業がこれまで高年齢者の雇用確保措置をどのように行ってきたかを確認し、これまでの「1国2制度型」の人事管理の実情を検証するとともに、単に高齢者に雇用機会を提供するだけの「福祉雇用型」の人事管理には限界があり、高齢者を戦力化することに「本気になること」が必要であるとしています。

 第5章「人事改革の視点」では、高齢者を戦力化する新たに構築される戦略人事管理を「S型人事管理」と略称し、それは高齢社員の制約社員化を踏まえて作られる必要があり、また、「いまの働き対していま払う」短期決済型であるべきだとして、人事改革の基本施策、賃金の基本的な視点と制度の基本的方向を示しています。

 第6章「高齢社員を活かす賃金」では、「S型人事管理」における現役社員の賃金との関連性の視点の必要性を説いたうえで、現役社員と高齢社員の賃金制度の組み合わせ類型において、「年功的長期決済型+福祉雇用型」《P1型》→「年功的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P2型》→「成果主義的長期決済型+仕事ベース短期決済型」《P3型》といった賃金プロファイルの改革のベクトルを示すとともに(最終段階は「1国1制度」《P4型》)、定年を契機に賃金が低下するという問題への対応策を示唆しています。

 第7章「高齢社員に求められること」では、今後は高齢者の側も働き続ける覚悟が求められ、「働くことは稼ぐこと」であって、高齢者それぞれに「どのように貢献するか」という視点が求められているとしています。また、高齢者が職場の戦力となるキャリアを実現するために、企業側も、キャリア転換を促進し支援する仕組みやマッチングのための施策を講じていく必要があり、その際に「マッチングの市場化」(社内労働市場)の仕組み作りなども必要になってくるとしています。

正社員消滅時代の人事改革.jpg 本書は、著者の前著『正社員消滅時代の人事改革-制約社員を戦力化する仕組みづくり』('12年/日本経済新聞出版社)の「高齢社員の人事管理」に的を絞った続編ともとれますが、著者自身が前書きで述べているように、これからの人事管理の「進むべき方向を確認するための灯台としての役割を果たすためのモデルとして提案」したものであり、具体的に個々の制度の詳細を解説したりすることは目的としていません。その点を踏まえておかないと、実務書として読んでしまうと物足りないものとなってしまうでしょう。

 個人的感想としては、「高齢社員の人事管理」の在り方を通してこれからの人事管理の在り方を理論的な枠組みの中できっちり示しており、実務家にとって自社制度の立ち位置や今後の方向性を探る上での理論強化に繋がる本であるように思えた一方で、出された結論はそれほど斬新なものでもなく、大方の実務者が今後はこうならざるを得ないだろうと予想していたものに近いと言えるのではないかと思った次第です。

 ただ、現状がどうかという問題は当然のことながらあると思われ、平成25年施行の改正高年者齢雇用安定法に対する各企業の対応が、「福祉雇用型」的な対応でばたばたっと決着して一息ついたようになっている現況において、次のステップに移行するための示唆と動機づけを与えてくれる本ではあると思います(実務書と言うより啓蒙書・啓発書に近いか)。

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