【2269】 △ 細井 智彦 『会社が正論すぎて、働きたくなくなる―心折れた会社と一緒に潰れるな』 (2014/06 講談社+α新書) ★★★

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多すぎる「正論」が社員の働く気力を削ぐという切り口は興味深かったが...。

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会社が正論すぎて、働きたくなくなる 心折れた会社と一緒に潰れるな (講談社+α新書)』['14年]

細井 智彦 使える人材」を見抜く 採用面接.jpg 『「使える人材」を見抜く 採用面接 』('13年/高橋書店)などの著書のある大手人材支援会社(リクルート系)に属する面接コンサルタントによる本書は、前半部分で、効果・効率を追求するあまりに「正論」がはびこる会社の現状と、それに追い詰められることによって、働く人ばかりでなく会社自体が"うつ化"しやすくなっていることを訴えています。そして、後半部分では、働く人が「心が折れるような状態」から脱するための対処法を示しています。
「使える人材」を見抜く 採用面接』['13年]

 著者がここで言う「正論」とは、「ポジティブ思考」「効果・効率」「イノベーション」「コンプライアンス」といったものであり、そうした「正論」に取り囲まれているゆえに、まともに抵抗すると個人の心が折れてしまい、働く気力を削がれ、疲弊感が再生産されて、それが、会社自体の"うつ化"に繋がっているということです。

 会社の"うつ化"のサインとして、「上司の態度が変わりパワハラが増えた」「会社が現場を無視し生の声を聞かなくなった」「以前にも増してマニュアル支配が強まった」「不正防止が強化され罰則が目立つようになった」等々が挙げられています。逆に"うつ化"しにくい企業の特徴は、「会社が目指したい将来像や姿勢、こだわりを明文化したものがあり、実際に事業の判断で活かされている」「数字や効率だけでなく、人の気持ちを大切にし、それを最大限活かすために金銭以外で社員にやりがいを与えることができている」――つまり、「ビジョン」が示され「働きがい」があるということになるようです。

 組織を論じるにあたって"うつ化"という言葉を使用することの是非はあるかと思いますが(著者は"比喩"だと断っているが)、「閉塞感」として捉えれば、それほど抵抗はなく読めるかと思います。「ノベーション」「グローバル」「チャレンジ」といった抽象的な言葉が、ホームページや会社のパンフレットに矢鱈に多く使われている企業は要注意であるという指摘などは興味深いものでした。

 一方で"うつ化"しにくい企業の事例は幾つか挙げられているものの、その中にも「燃え尽き症候群」を引き起こしそうなものもあり、実際には多くの企業が、多かれ少なかれ "うつ化"しやすい要素としにくい要素の両面を持っているようも思いました。

 働く個人が"うつ化"しやすい組織にいる場合のアドバイスとしては、自分のこだわりを大事にし、息抜きの時間を作ったりするなど、会社から距離を置く客観的姿勢も有効だとしていますが、処方箋としてはやや弱いかなという印象も。最後に「6ヵ月後に転職すると決める」というのがきているのは、それも一手だと思う一方で、著者の仕事柄からくる意見ともとれます。

 著者としては、これまでの「採用本」から一皮剥けたというか、新境地の著書といった感じ? 全体としてさらっと読めましたが、分析部分はまあまあなのに対し、提言部分のインパクトが弱いのは、リクルート系の著者らに共通することなのでしょうか。一応、部下を持つ上司や企業側に対しても提言をしていますが...。

 企業側に対しては、経験値を持つベテランを評価し、人の非効率を評価する余地を残し、「社内外のコミュニュケーションを改善する」「否定的な意見を含めて多様な意見を出しやすくする」などして"働きがいを最大化する社風"を築くことを提言してはいますが、多分に示唆的ではあるものの、それらの提言自体がさほど具体性をもって述べられていないため、どうしても読後にもの足りなさを覚えざるを得ませんでした。多すぎる「正論」が社員の働く気力を削ぐという切り口は興味深かっただけに、分析部分に比べて提言部分のインパクトが弱いのがやはり残念です。

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