【2264】 ◎ マイケル・ビアー/B・スペクター/P・R・ローレンス/D・Q・ミルズ/R・E・ウォルトン (梅津祐良/水谷栄二:訳) 『ハーバードで教える人材戦略―ハーバード・ビジネススクールテキスト』 (1990/09 日本生産性本部) ★★★★☆

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【701】 日下 公人 『人事破壊

マネジャーの視点から人材戦略を追ったテキスト。時を経た今も全く色褪せていない。

ハーバードで教える人材戦略.bmpハーバードで教える人材戦略6.JPG
ハーバードで教える人材戦略―ハーバード・ビジネススクールテキスト』['90年]

 本書(原著タイトル"Managing Human Assets")は、1981年にハーバード・ビジネススクールで初めてMBAの必修科目として「HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)」が開設された際に作られた教科書を原典としています。それまでは同校には、「人事労務関係」「生産オペレーション管理」「組織行動」の3科目はあったものの、ゼネラル・マネジャーの視点から人材戦略を追う科目は無かったとのことです。本書が多くの理論書と異なる点は、HRMを単なる人事・労務の専門マネジメントとしてではなく、あくまで「経営」の中で最も重要な資源として戦略の中心に置き、組織行動、組織開発、労務管理、人事管理などの理論を統合しながらも、ゼネラル・マネジャーの視点から纏められている点にあります。

 第1章「ヒューマン・リソース・マネジメントとは何か」において、HRMのアプローチにおいて本書で取り組む諸領域として、HRMを、①従業員のもたらす影響、②ヒューマン・リソース・フロー、③報償システム、④職務システムの4つの領域に分け、三角形を描き、それぞれの頂点にヒューマン・リソース・フロー、報償システム、職務システムを置き、その三角形の中心に従業員からの影響を据えた概念図を描いています。つまり、本書は、経営における中心的な役割を果たすのは従業員であるとの考え方に立っているわけです。

 第2章「HRMの概念的枠組み」では、ゼネラル・マネジャーとして、その企業にどのようなHRM制度を導入すべきかを決定する際には、諸制度の妥当性や効果性を評価する方法が必要であるとし、企業、社会、従業員の福祉の実現を、ゼネラル・マネジャーがその企業のHRM諸制度の効果性を測る際の長期的基準として用いるべきであるとし、①従業員のコミットメント、②能力、③コスト効果性、④整合性の4つのCがその指標となるとしています。

『ハーバードで教える人材戦略』.JPG 第3章「従業員からの影響」では、どのように従業員の影響行使・参加のための仕組みを作りだすか、労組・経営間の協調を可能とするかを解き明かしつつ、その成功のためには、マネジャーの技量や能力が欠かせないとしています。

 第4章「ヒューマン・リソース・フローをマネジする」では、インフロー(採用)、内部フロー(昇進・異動・能力開発)、アウトフロー(退職)といった人材フローをどう構築し管理していくかを説き、企業の現在および将来の労働力に対する要求と、従業員のキャリア開発のニーズの両方に応えていくことが肝要であるとしています。従業員のキャリア・ディベロップメントのための方法に重点を置いて書かれており、ゼネラル・マネジャーは、個々の従業員の抱く考え方、彼らにとってキャリア・ディベロップメントと満足感が何を意味するのかをしっかり理解していくべきであるとしています。また、ヒューマン・リソース・フローの3つのタイプとして、①終身雇用システム、②昇進もしくは退社というシステム、③不安定なイン・アウトのシステムがあり、第4のタイプとしてそれらの混合型があるとしています。

 第5章「報償システム」では、どのような報償システムによってHRM制度の変化を支えていくかを解き明かしています。報償は、外的(金銭的)・内的(非金銭的)なものを問わず、企業としてどのような組織を作って維持し、また従業員にどのような行動、態度をとって欲しいか明確な期待を与えるものであるが、内的報償への不満が外的報償への不満となって表れることがあるなど、ゼネラル・マネジャーにとってHRMの中でも難しい分野であるとしています。この章では、給与とメンバーシップ、モチベーションとの関係などを通して、そうした報酬システムのジレンマを解明し、報酬の組み合わせた厚生制度(カフェテリアプランなど)や公平性を保つためのシステム(職務評価、技能本位評価など)、業績給システムとそのジレンマなど具体的な課題にまで言及されています。一方で、章末においては、報償システム制度はほとんどの場合、他のヒューマン・リソース制度を導くものではなく、後づけすべきものであるとしています。

 第6章「職務システム」では、マネジャーは職務を定義し、設計することで組織をまとめていく必要があり、では、どのような職務システムが従業員の能力、コミットメントを高めるかを様々な角度から分析し、包括的な職務システムの再設計を提唱しています。

 最後の第7章「HRM制度の統合」において、数多くのHRM諸制度と運用法を、その企業のビジネスの他の分野としっかり関連づける形で、総体としてまとめていくという、マネジャーにとって最も難しい責任についての検討を行っています。ここでは、HRM制度を統合していく方法として、①官僚主義的、②市場的、③協調的、の3つのアプローチを示しています。

 所謂「日本的経営」が米国企業にとって1つの研究・参照例とされていた当時のケーススタディなども出てきますが、教科書としては30年以上経った今も全く色褪せていないのは、それだけ分析やセオリーがしっかりしているからでしょう。「経営」におけるHRMとはなにかを考えてみる上で良書であると思います。また、本書が主にライン・マネジャーに向けて書かれたものであるという点で、アメリカらしさを感じました(アメリカのライン・マネジャーは日本の人事部の仕事に相当することをかなりやっているし、それだけの権限を与えられている)。意識の高いマネジャーにも薦めたい本ですが、その前に、とりあえず人事パーソンには是非とも読んで欲しい本です。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1