【2259】 ○ 曽和 利光 『就活「後ろ倒し」の衝撃 (2014/09 東洋経済新報社) ★★★☆

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起きる事態は「リクルーターの復活」と「採用選考の場と化すインターンシップ」。

就活「後ろ倒し」の衝撃.jpg就活「後ろ倒し」の衝撃: 「リクナビ」登場以来、最大の変化が始まった

 リクルート社で約20年にわたり新卒採用に関わってきた著者が、「就活2016年問題」で何が変わるか、学生や企業は何をすべきかを解説したものです。「就活2016年問題」とは周知の通り、2015年度の大学4年生(2016年採用)から、採用広報の開始が3月1日(従来は12月1日)、採用選考の開始が8月1日(同4月1日)に、それぞれ従来より広報が3ヵ月、選考が4ヵ月後ろ倒しされることを指しています。

 著者は、これは単なるスケジュール変更にとどまらず、企業の採用活動、および学生の就職活動に大きな影響を与えるものであり、かつての「リクナビ」登場に匹敵する衝撃を与えることが予想されるとしています。

 PART1では、就活後ろ倒しが生む2つの大きな変化として、「リクルーターの復活」と「採用選考の場と化すインターンシップ」を挙げていますが、前者は「リクナビ」離れを意味し、後者は採用活動のアンダーグランド化を指すように思いました(「リクルーターの復活」はすでに傾向として見られるのではないか)。

 PART2では、就活後ろ倒しが学生に何をもたらすかを分析し、就活エリートの一人勝ちがますます進行し、普通の学生のチャンスが激減するとしています。

 PART3では、就活後ろ倒しによって企業の新卒採用はどうなるかを分析し、大企業の採用コストは激増し、中堅・中小企業の採用は困難を極め、結局笑うのは、外資系企業、ベンチャー企業、それに所謂「ブラック企業」であるとしています。

 口上には「本書は、いわゆる『就活本』ではありませんし、採用のノウハウ本でもありません。就活後ろ倒しという、学生・企業双方に大きな影響を与える構造変化で何が起こるか、そしてそれにどう対処すべきかを解説します」とありますが、学生向けの箇所では、OB訪問のやり方やインターンシップの選び方などについて書かれているし、企業向けの箇所では、リクルーターによる採用の進め方や狙い目の学生層などについて書かれています。

 PART4では、就活後ろ倒しの目的とはいったい何だったのか、学業は却って疎かになり、適職を見つけることは困難になると、就活後ろ倒しへの疑問を呈しています。

 あとがきでも就活後ろ倒しの問題点を指摘しつつ、ステークホルダーが協働して理想の就職活動・採用活動を探していこうと訴えています。或いはまた、本文中でも、「私自身、もともと学生の本分は学業であると考える」としながらも、就活後ろ倒しが決まってしまった以上、学業に向けるパワーの一部を就活にあてるべきだ、「仕方がない」と割り切って行動すべきであるとしています。

 まあ、現に就職を控えた学生や、採用競争を勝ち抜かなければならない企業の立場に立てばそういうことになるのでしょう。本書ではデータが一切示されていませんが、HR総研などの企業アンケート調査によれば、6割以上の企業が8月1日の「解禁」前に選考を始めると答えているし、新たに設けられた「採用広報の開始は3月、採用選考の開始は8月」というのはあくまで経団連が示した「指針」に過ぎないのであって、楽天やユニクロなど就活時期後ろ倒しの指針に賛同しないことを表明している企業もあるくらいですから、「採用選考の場と化すインターンシップ」(採用活動のアンダーグランド化)状況が起きるのは想像に難くないように思います。

 そのことを前提に、学生や企業に対して対処策を示しているのが本書であって、これは所謂「就活本」であり、企業向けの「採用マニュアル」の一種でもあるということになるのでないでしょうか。そうした実務的な目線で見れば、本書は星4つ評価くらいでしょうか。分かりやすく書かれています。

 但し、自ら就活本ではないと言い、最後に就職活動・採用活動のあるべき論を振りかざしながら、タイトルでは「衝撃」と煽ったりしていて、版元の編集サイドで付けたタイトルであるとの大方の想像はつくにしても、マッチポンプ的で立ち位置がはっきりしないという(リクルート系または「元リク」にありがちだが)、この点が個人的には気になって、星半個マイナスにしました(完全に個人的な好みみたいなものだが)。「就活本」「採用本」と割り切ってみれば悪くない本です。

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This page contains a single entry by wada published on 2015年1月11日 23:03.

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