【2252】 ◎ 林 明文 『企業の人事力―人事から企業を変革させる』 (2014/03 ダイヤモンド社) ★★★★☆

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企業並びに人事パーソンにとって警鐘を鳴らす書。啓発される要素を多く含む。

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  林 明文.jpg 林 明文 氏(トランストラクチャ代表取締役)
企業の人事力---人事から企業を変革させる

 再就職支援会社の設立に参画して同社のトップを務めた後、人事コンサルティング会社を起こし企業に人事コンサルティングサービスを提供してきた著者が、これまでホームページなどに掲載した人事管理のあり方についての新たな見解や問題提起などのコラムを、1冊の"読み物"としてまとめた本です。

 第1章で、「人事は遅れた分野」になっているとしています。日本企業の人事管理は変革を迫られているにもかかわらず、その多くは過去の延長で行われているとし、企業成長に必要な人事を考えた場合、むしろ、これまでの常識は通用しないと認識すべきだとしています。また、ここでは、多くの企業に流通している"次世代リーダー育成"や"選抜型教育"という概念に疑念を呈するとともに、ワークライフバランスについても、それは、今まで以上に生産性を上げることが要求されるものであるとしています。

 第2章では、「あるべき人事」について述べています。建前で語る人事は意味がないとし、ポートフォリオとパフォーマンスの観点から人事組織を再編せよとしています。日本企業には正社員が多すぎるとして、肥満化した企業のリスクを指摘し、日本企業で"成果主義"が受け入れられにくい理由を考察するとともに、生温いマイナス成長気運を実力主義で吹き飛ばす必要があるとしています。また、人事管理には長期継続性が求められ、短期的な人事は企業を滅ぼすとしています。

 第3章では、日本企業が存在感を取り戻すために、今こそ経営改革の絶好のタイミングであり、そのためには「経営者こそ変革すべき」であるとしています。そのためには取締役の選抜・処遇のあり方から改革せねばならず、経営陣こそ教育が必要だとしています。そして、人事は多くの社員の中から、"真の経営者"を検索・育成しなければならないとしています。

 第4章では、「今後の人事課題とソリューション」について述べています。まず、人事管理として検討すべきことについて、ギャップの代表的なパターンとその解決策を述べた上で、人事制度改革のあり方を、社員の能力と処遇についてのソリューション、少子高齢化への対応、早急に改善が求められる評価、の3つのポイントから解説し、さらに、雇用管理の時代的変化にどう対応すべきかを考察しています。また、人事改革は早ければ早いほどよいとし、あるべき人事管理構築のために、人事はより経営に近くなることを求められるとしています。

 本書のベースがウェブで一般に公開されているコラムであるということもあって、現在の人事管理の問題点や今後の人事管理を考える上での視点などが、平易かつコンパクトにまとめられていますが、その分、密度は濃いように思われました。

 最近では、景況感が改善した上に、東京での2020年オリンピック開催が決定したことで、景気上昇に対する期待は高まっていますが、著者は、そのことが高齢化の進行に対応するダイナミックな人事管理の改革を遅らせてしまい、人件費高騰などの問題が悪化の一途を辿る可能性があると警告しています。

 企業並びに人事パーソンに対して警鐘を鳴らす書であり、啓発される要素を多く含んでいますが、単に漠然とした抽象的な啓発に止まらず、高齢化を見据えた「50歳管理職登用」「人事評価に体力測定を導入する」といったユニークな施策への落とし込みもみられ、今後の人事のあり方を考える上でお薦めできる本です。

《読書MEMO》
●目次
第1章 人事は遅れた分野(経営管理の中での人事--人事管理の重要性は認識されているか、間違っている人事施策--人事管理は過去の延長で行なわれている ほか)
第2章 あるべき人事管理とは(経営戦略と人事管理--建前で語る人事に意味はない、ポートフォリオとパフォーマンス--人事組織を再編せよ ほか)
第3章 経営者こそ変革すべき(日本企業は優秀か--平時の経営が企業の行く末を左右する、経営者の人事常識を疑う--慣習的な戦術から脱却せよ ほか)
第4章 今後の人事課題とソリューション(人事課題と改革のスタンス--人事管理として検討しなくてはいけないこと、人事制度改革のポイント(1)--社員の能力と処遇についてのソリューション ほか)

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