【2248】 ○ ラム・チャラン/ビル・コナティ (児島 修:訳) 『人材管理のすすめ (2014/03 辰巳出版) ★★★☆

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ラム・チャラン)

「人材最優先企業」(タレントマスター)は、その根底に、リーダーを選定し育成するという考え方が根づいている。

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人材管理のすすめ』(2014/03 辰巳出版)

 原著タイトルは"The Talent Masters: Why Smart Leaders Put People Before Numbers"(2010)。著者の一人ラム・チャラン(Ram Charan)はアメリカでは人材育成コンサルタントとして知られた人物であり、『経営は「実行」―明日から結果を出す鉄則』('03年/日本経済新聞社、改訂新版:'10年/日本経済新聞出版社)などの邦訳されている著書があります。もう一人の著者ビル・コナティは、ゼネラル・エレクトリック社(GE)で長い間人事部門の責任者を務め、GEを世界に名だたる人材輩出企業に押し上げたとされる人物です。

 本書では、人材管理に際立って優れた企業を「人材最優先企業」(タレントマスター)と呼び、その実際を探求して読者に伝えることを狙いとしています。本書で言う「人材管理」は「リーダー育成」と捉えてよいかと思われ、「タレントマスター」は、「リーダー育成において優れている企業または人」と捉えてよいかと思います。

 第1部では、GEの人材管理システムを通してタレントマスターは何をしているのかを事例で具体的に解説し(その筆頭にくるのがあのジャック・ウェルチ)、第2部では、P&Gなど、ユニークな手法で効果を上げているタレントマスター企業を紹介しています。さらに第3部においても4社の事例を挙げて、タレントマスター企業になるための戦略を紹介しており、このように豊富な事例から帰納法的(実証的)に「タレントマスターの原則」を導き出している点は、アメリカのビジネス書らしいかと思われます。

『人材管理のすすめ』.JPG そのようにして導き出されたタレンントマスターの原則とは、①CEOを頂点とした優秀なリーダーシップ、②実績を重視した能力主義、③企業の価値観の明確な定義、④率直さと信頼、⑤人材評価/育成システム(厳格さと規則性)、⑥人事責任者(CEOのビジネスパートナーとしての機能)、⑦継続的な学習と改善、の7つに纏められています。

 それらの原則の前提として掲げている「人事考課の"システム化"」などは、日本企業においても劣るものではないと思われますが、常にその根底に、リーダーを選定し育成するという考え方が根づいている点が、本書で紹介されているタレントマスター企業の特徴でしょうか。本書では、人材を深く理解し、定期的にレビューをすることで、組織は中間管理職からCEOに至る、あらゆるレベルのリーダーを輩出し続けられるようになるとしています。

 90年代から00年代にかけて、それまで従業員の存在を無視して、事業売買やダウンサイジングなど競争に勝つための戦略にばかり気をとられてきたアメリカ企業が、人材重視の経営へと大きく方針転換した、その流れを汲む本と見てもいいのではないでしょうか。

 著者の1人がGE出身ということもありますが、「CEOを頂点とした優秀なリーダーシップ」がタレントマスター企業の原則の筆頭にきて、CEOの継承者を見つけ育てることが人事の大きな役割とされているという点に、アメリカ企業の人事の特色を感じます。

 経営書と言うよりは、人事パーソンのための啓蒙書と言えるかと思います。事例のオンパレードで、もう少し体系的に纏めてほしかった気もしますが、その分、読み物を読むように読めるのは確かです。賃金制度の改定や評価制度の策定・見直しなど、ともすると制度づくりそのものが目的化しがちな日常において、人事は何のためにあるのか、これからどういった方向を目指していくべきかを考える上で、"啓蒙"される要素はある本かと思います。
 
《読書MEMO》
【主な内容】
●タレントマスターの秘密を解き明かす
GE、P&G、ヒンドゥスタン・ユニリーバなどの一流企業は、どのように人材の見極めと育成のためのシステムを構築し、それによって目覚しい成果をあげていったのか。
●徹底的に人材を理解する
人材を深く理解し、定期的にレビューをすることで、組織は中間管理職からCEOに至る、あらゆるレベルのリーダーを輩出し続けられるようになる。
●人材に永続的な価値がある
業績、市場シェア、ブランド、製品には寿命がある。唯一、永続的なもの、それは、人材と、人材を育てる仕組みのみである。人材は人財なり。
●実践的なアドバイス
タレントマスター「ツールキット」が、あなたの企業をタレントマスターにするための具体的な方法を提供。

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This page contains a single entry by wada published on 2014年12月20日 23:30.

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