【2246】 ○ 博報堂大学 『「自分ごと」だと人は育つ―博報堂で実践している新入社員OJT 1年間でトレーナーが考えること』 (2014/01 日本経済新聞出版社) ★★★★

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「企画書のスタイルで書かれた"啓発書"」との印象だが、気づきを促す意味で読むには悪くない。

博報堂大学 『「自分ごと」だと人は育つ』.jpg「自分ごと」だと人は育つ 「任せて・見る」「任せ・きる」の新入社員OJT

 博報堂の「社内大学」の編による本書は、「日本の人事部」主催の「HRアワード2014」の書籍部門で最優秀賞を受賞した本でもありますが、同社の新入社員OJT(On the Job Training)の新しい考え方とその取り組みを紹介した本であり、新入社員の育成トレーナー(先輩社員)や、新入社員の人材育成担当者を読者層として想定しています。

 第1章で新入社員OJTの今日的環境について概説し、第2章で本書のOJTの考え方の全体像を紹介しています。さらに、具体的な実践についての考え方と方法論について第3章(OJT前半)、第4章(OJT後半)で解説し、第5章で新人の育成時点での課題、第6章でフィードバックの実践について解説、最後に第7章で、OJT期間で大切な5つの要素をと1年間の育成ストーリーを紹介しています。

 かつて日本企業における人材育成の主要施策とされてきたOJTが、近年は"効かなくなっている"と言われるその理由として、職場で起こっている変化、新人=若者の価値観や学習姿勢の変化、新種類の仕事が全社員に同時に降りかかってくる変化を挙げています。そして、そうした変化へ対応するために、今の時代には「自分ごと」意識に着目したOJTがフィットするとしています。

 「自分ごと」とはどのような意識や状態かというと、仕事のオーナーシップを持ったうえでのアウトプット、未経験の仕事でも「やり遂げてみせる」という姿勢、仕事に自分なりの意味を持って取り組む状態を指し、それらは所属チームに対する安心感や信頼感が前提となるとしています。

 そして、「自分ごと」意識を育て、定着させるためには、「任せて・育てる」ことが効果的であるとし、1年間のOJTの前半においては「任せて・見る」、OJTの後半においては「任せ・きる」という2つの任せ方を通じて、そうした意識は育つとして、さらに、それぞれの方法論や留意点を解説しています。

 全体として、「新しい」OJTの在り方の、"テクニック"というよりはその"コンセプト"を詳(つまび)らかにしたものであり、個人的には、半ば「企画書のスタイルで書かれた"啓発書"」との印象も受けました。コンセプト・ワークが重要な位置を占める広告会社らしいスタイルであり、また、読者へのその伝え方も洗練されていて、分かりやすいと思います(「自分ごと」といったキーワードを編み出すところは、「博報堂生活総研」みたいだなあ)。

 提案されている内容そのものは、リーダーシップ理論等において従来から言われているエンパワーメント(権限委譲)やSL理論(ライフサイクル理論)の応用であったりもするように思いましたが、1年間のOJTの中にそれを落とし込み、懇切丁寧に解説されている点が特徴的であると言えるでしょうか。

 ただ、広告会社の場合、その仕事がやりたくて会社に入ってくる新人がほとんどであり、また、仕事における現場の裁量も大きいため、本書で言うところの「自分ごと」意識は、これまでも自ずと醸成され易かったのではないかと思われます。その広告会社が、人材育成コンセプトを4年がかりで再構築し、新入社員の育成トレーナーに対して啓発を行っているということの方が、むしろ注目すべきことなのかもしれません。

 新入社員の人材育成担当者、とりわけ、ナレッジ・ワーカーが主体の職場の人事パーソンや育成トレーナーは、自らの気づきを促すという意味で、一読されるのも良いかと思います。

《読書MEMO》
●目次
■第1章 「人が育ちにくい時代」の認識から始める
1 OJTが効かなくなっている? 
2 新しいOJTが求められる理由〈論点①〉──職場で起こっている変化への対応
3 新しいOJTが求められる理由〈論点②〉──新人=若者の価値観や学習姿勢の変化への対応
4 新しいOJTが求められる理由〈論点③〉──新種類の仕事が全社員に同時に降りかかってくる変化への対応
5 「自分ごと」意識に着目したOJTが、今の時代にフィットする
■第2章 育成・指導者と新入社員が同じゴールを持つ――今の時代に合った新しいOJTの考え方
1 「自分ごと」とはどのような意識か 
2 2つの任せ方を通じて「自分ごと」の意識は育ち、定着する 
3 1年間のOJTの基本となる考え方 
4 「任せて・育成する」ことの効用 
5 「任せて・見る」「任せ・きる」のOJTが、なぜ新しい考え方なのか? 
6 1年間のOJTでトレーナーが実際にすること
■第3章 「任せて・見る」――「自分ごと」を習慣化する
1 OJTをスタートする前に考えてほしい点 ──新人の気持ちと前期OJT終了時の理想イメージ
2 「任せて・見る」育成・指導のキーワード
3 「任せて・見る」育成・指導で、仕事をどう選ぶか(選定の視点) 
4 「任せて・見る」仕事を通じての新人の学びとは──実例で考える 
5 「任せて・見る」仕事を通じて何を経験して何を学ぶのか
6 「任せて・見る」指導面で求められる見守りのスタンス 
7 次の育成ステップを考えるための観察 
■第4章 「任せ・きる」――「自分ごと」をマスターする
1 OJT折り返し時点の新入社員について考える 
2 「任せ・きる」とはどのようなことか 
3 「任せ・きる」に進むための前提条件 
4 「任せ・きる」育成・指導上の5つのキーワード
5 「任せ・きる」仕事を選定する5つの視点
6 「自分ごと」を本人が体感するために支援者として考えること 
7 成否のカギを握るのは実はトレーナー側
■第5章 「任せて・見る」と「任せ・きる」の合間に考えるべきこと
1 最年少の若手メンバーとしての存在感を確立する
2 担当する仕事の本質を理解したうえでの実行力 
3 新人の成長課題とトレーナーの育成課題 
■第6章 フィードバックの効用と具体的な方法
1 経験から学びを促すフィードバックの方法
2 フィードバックを継続すると気づきが変わる
3 フィードバックの持つ2つの大きな意味 
4 2つの任せ方とフィードバックの関係性
■第7章 OJTの1年間でトレーナーが考えること――5つの軸と1年間のストーリー
1 OJTを進めるうえでの大切な要素と前提となる考え方 
2 「育成の5つの軸」の意味とポイントを考える 
3 「5つの軸」を1年間のOJTのストーリーに沿って考えてみる 
博報堂の新入社員OJTの概要 
あとがき
解説──人材開発部門発、「新たなOJT」創造の「旅」......中原 淳

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