【2244】 ○ 井上 雅彦/江村 弘志 『退職給付債務の算定方法の選択とインパクト (2013/07 中央経済社) ★★★★

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「期間帰属方法」と「割引率」に的を絞った実務書。テーマがフォーカスされている点で効率がいい。

退職給付債務の算定方法の選択とインパクト.jpg退職給付債務の算定方法の選択とインパクト』(2013/07 中央経済社)

『退職給付債務の算定方法の選択とインパクト』.JPG 2012年5月に、日本における新しい退職給付会計基準が公表され、「貸借対照表での未認識債務の即時認識」「退職給付債務の計算方法の変更」「退職給付制度運営に関する開示の充実」などの改正がなされました。本書は、これらの改正項目のうち、「退職給付債務計算」に関わる項目を取り扱っており、その中でも特に企業財務や実務への影響が大きいと思われる「期間帰属方法の取扱い」と「割引率の見直し」を中心に解説しています。

 このように、解説する対象を「期間帰属方法」と「割引率」という2つのテーマを絞り込んでいるため、この項目に対しての知識的ニーズがある人にとっては、ある意味"効率のいい"解説書となっています。テーマを絞り込んでいる分、簡潔ながらも実務レベルにまで踏み込んで解説されており、数値例や図表を多用して視覚的理解を促すとともに、ケース別のシミュレーションを行うなどして、具体的に実務に供するものとなっています。

 とりわけ、「期間帰属方法の選択」において、「下に凸カーブ」「S字カーブ」など給付カーブのさまざまなパターンを設例し、それぞれのパターンにおいて、「期間定額基準」「給付算定式基準」(均等補正を行わない場合と行う場合)のいずれの期間帰属方法を選択するかによってどのような影響の違いが生じるかを検証し、著者なりに考察して一定の結論を導き出している点は、たいへん丁寧であり、また、分かりやすかったように思います。

 「入門書」的要素もありますが、全体としては、退職給付会計についてある程度の予備知識がある人に向けて、今回の改正に沿って諸々の判断を行う際のポイントを示した「実務書」であると言えます。こうした類の本の中では、比較的手に取りやすく、また、読みやすいものであると思います。

 但し、初学者の場合は、退職給付会計の仕組みや実務全般について書かれた「入門書」を先に読まれることをお勧めします。今回の退職給付会計の改正に伴って、これまで出されていた解説書が改訂されたり、また新たな解説書が刊行されたりしています。

 退職給付会計の実務全般を扱った本にしても、今回の改正点に的を絞って解説した本にしても、それぞれ解説の切り口や項目ごとのウェイトのかけ方が微妙に異なるため、自分の知識的ニーズに合ったものに出会うには、何冊かの本を試読してみる必要があるかもしれません。

 また、企業によっては、「退職給付会計」というテーマ自体が、「理解できる人には理解できるが、理解できない人には理解できない」的なものになっているきらいもあるように思います。

 タイトルに「インパクト」とありますが、実際、退職給付会計基準の変更は企業財務に少なからず影響を及ぼすものであり、人事部門や財務部門が、社内勉強会などの相互研鑽を通して、このテーマに関する知識や問題意識を共有化していくことも、大切なことではないかと考えます。

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