【2243】 ○ マックス・H・ベイザーマン/アン・E・テンブランセル (池村千秋:訳) 『倫理の死角―なぜ人と企業は判断を誤るのか』 (2013/09 エヌティティ出版) ★★★★

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コンプライアンス取り組み推進が、逆に非倫理的な行動を助長してしまうことがあると指摘。

Blind Spots.jpg倫理の死角2.jpg   Max H. Bazerman.jpg Max H. Bazerman
倫理の死角ーなぜ人と企業は判断を誤るのか
"Blind Spots: Why We Fail to Do What's Right and What to Do About It"

大手銀行G3社で反社会的勢力との取引.jpg大手金融機関の暴力団関係者への融資.jpg 過去に企業不祥事が何度も繰り返され、その社会的反響の大きさから、こんなことは二度と繰り返すまいとその発生防止策がその都度討議されてきたにも関わらず、近年においても、大手金融機関の暴力団関係者への融資問題や、大手百貨店・有名ホテルの食材偽装・不当表示問題大手百貨店・有名ホテルの食材偽装・不当表示問題.jpgが報道されるなどして、相変わらず企業不祥事は後を絶ちません。

[上]2013.10.25 funshoku.blogspot.com「みずほ銀行やくざ融資 役員辞任」/2013.11.14 日テレNEWS24「大手銀行G3社で反社会勢力との取引判明」

[左]2013.12.15 SankeiBiz「客を選ぶ「ゆがんだおもてなし」食材偽装・高級ホテルの"裏の顔"」

IMG_3256.JPG 企業不祥事を防ぐにはどうしたらよいか、CSRが叫ばれるようになっても、人や組織はなぜ無責任で、非倫理的な行動を起こすのか――この問題を考えるに際して、「企業」の行動に焦点を当てるマクロな視点から語った本は多くありますが、ハーバード・ビジネススクールの教授(経営管理)とノートルダム大学教授(ビジネス倫理)の共著である本書(2011、原題:Blind Spots: Why We Fail to Do What's Right and What to Do About It)は、「人間」の行動に焦点を当てた「行動倫理学」という行動心理学・行動経済学的アプローチにより、いわばミクロの視点から人や組織の行動メカニズムを読み解きながら、意思決定プロセスに潜むさまざまな落とし穴を浮き彫りにしています。

 人はどうして意図せずして非倫理的に行動してしまうのか、また人はどうして、自分の倫理観どおりに常に行動せず、他人の非倫理的行動にも目をつぶってしまうのかを、著者らは、人間の意思決定プロセスをいくつかのケースを通して実証的に分析し、会社の方針を徹底しようとすることや、目標達成に対するプレッシャー、自分に対する過小評価や過大評価、身内びいき、考える時間が短いことなどが、倫理的判断を疎かにするとしています。

 人はそうした状況においてなぜ倫理的に振る舞えないのかというと、行動する前の段階では、自分の倫理的行動能力を過大評価し、倫理問題を度外視した判断(直感的行動)をしがちであり、また、行動した後の段階(回想)では、自分の判断を正当化したり、倫理性の判断基準をすり替えたりして、自己イメージを守りがちであるためだと指摘しています。

 他人の非倫理的な行動に気づかなかったりするのも、非倫理的行動を黙認する方が自分の得になるという「動機づけられた見落とし」がそこにはあるからだとし、個々の非倫理的行動が組織内で増幅するケースなどを挙げ、さらに話を広く社会のレベルまで広げ、なぜ賢明な社会改革ができないのか、ということも説いています。そして最後に、健全な企業組織や社会を構築する方法を提示しています。

 興味深かったのは、コンプライアンスの取り組みを進めても、逆にそのことがバイアスとなって、組織の暗黙の文化が非倫理的な行動を助長してしまうことがあることを指摘している点で、制度化の圧力が強まると、人は制度や目標に合わせることばかり考え、内面からの動機や自らの言葉で倫理問題について考えなくなる傾向にあるという指摘は、非常にブラインド・スポットを突いているように思いました。

 制度化を進めるだけでは非倫理的行動を防ぐという期待通り効果を生むとは限らず、一つの意思決定が組織内・外にどういった倫理的影響を与えるか、一人一人が考えることが大事であり、企業側も、形式的な取り組みではなく、自社が抱える問題を明確にし、自らの言葉で説明し、それに応える制度を作っていかない限り、経営基盤の強化にも繋がらないということなのでしょう。

 著者の一人マックス・H・ベイザーマン(Max H. Bazerman)は、『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』(マーガレット・A・ニール との共著、'97年/白桃書房)、『行動意思決定論―バイアスの罠』(ドン・A・ムーア との共著、'11年/白桃書房)などの著書があり、ハーバード・ビジネススクールの"名物教授"であるとのこと。ビジネス書と言うより、全体として教養書としても読める面が多いかも。とりわけ本書の序盤部分は、マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう―いまを生き延びるための哲学』('10年/早川書房)と重なる部分もあり、あの本が面白く読めた人には面白く読めるかもしれません。

【2772】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『企業変革の名著を読む』 (2016/12 日経文庫)

《読書MEMO》
企業変革の名著を読む.jpg● 『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)で取り上げている本
1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角』
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』

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