【2241】 ◎ スティーブン・P・ロビンズ (清川幸美:訳) 『マネジメントとは何か (2013/03 ソフトバンククリエイティブ) ★★★★☆

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マネジメント、組織行動理論を、一般向け噛み砕いて書き直したような感じ。読みやすい!

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マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」』['02年]『【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ』['09年]Stephen P. Robbins
マネジメントとは何か』['13年]

 著者のスティーブン・P・ロビンズ(Stephen P. Robbins)は、アメリカ国内の多くの大学で採用され今も使われている組織行動論に関する教科書の著者として知られる人で、日本でも2009年に『組織行動のマネジメント―入門から実践へ』(ダイヤモンド社)としてその要約版が12年ぶりに邦訳されています。新訳版は原著の第8版をベースに翻訳していますが、原著は2013年現在で第12版まで刊行されていて、累計売上げは200万冊を超え、マネジメントと組織行動学の分野における世界一のベストセラー教科書とされています。

 本書は、同著者の"The Truth About Managing People"(『マネジメントの正体―組織マネジメントを成功させる63の「人の活かし方」』('02年/ソフトバンククリエイティブ))の第3版の翻訳で(原著は2014年に第4版が刊行された)、帯に「世界でいちばんわかりやすいマネジメントの教科書」とありますが、MBAなどでテキストとして使われている『組織行動のマネジメント』(これはこれで、これ一冊で組織行動論を概観できる優れもの)がやや硬派な"教科書"であるのに対し、こちらは「現にマネジャーである人々」「人を管理する職に就きたいと考えるすべての人たち」を対象として、マネジメントの真髄を分かり易く噛み砕いて書いた "啓発書"であると言えるのではないでしょうか。

 マネジャーが直面する、人間の行動に関する主要な分野ごとに全9部59章で構成されていて、その分野とは、採用、モチベーション、リーダーシップ、コミュニケーション、チーム作り、業績評価、変化への対応などであり、殆ど「人事マネジメント」に関するトピックを扱っていると言ってもいいのではないと思います。
 新たな版のために16のトピックを書き下ろし、それ以外の部分も最新の状況を加味して書き直したとのことで、今回書き加えられたのは、倫理的なリーダーシップ、バーチャルなリーダーシップ、カリスマの負の側面、年齢に関する固定観念、組織政治、職場でのデジタル雑音などの今日的なトピックです。

 59のケースはそれぞれが一章となっていて、好きな順に読めますが、個人的には、今回書き直された部分が多かったリーダーシップに関する箇所がとりわけ興味深く読めました。
 「カリスマ性は身に着けつけられる」としながらも、「カリスマ性は毒にもなる」としてその負の側面も指摘しており、また、「優れたリーダーは政治に秀でている」として、政治は組織で生きていくために欠かせないとし、ポリティックスを肯定的に捉えています。一方、倫理に欠けるリーダーは、自分のカリスマ性を利用して、自己利益のためにフォロワーを支配しようとするとしています。
 また、今日のマネジャーは、コンピュータやスマートフォンなどで書かれた言葉を通して支援やリーダーシップを伝える能力が求められるとしています。

 更に、文化の違いについて、殆どのリーダーシップ理論はアメリカで、アメリカ人によって、アメリカ人を研究対象として展開されてきたため、アメリカの影響を強く受けているとしています。こうした理論ではフォロワーの権利より責任を重視し、義務を果たす決意や利他的な動機づけよりも、快楽の欲求によって動機づけされる立場を取っていて、精神的なものよりも合理性が強調されると。但し、これらの前提条件は世界各国で同じように適用されるものではないとしています。

 その他では、採用の部でも、「第一印象は正しいか」「性格は無視しよう、肝心なのは行動だ!」など啓発されるフレーズがありましたが、「判断に迷ったら『頭のよい人』に賭けよう」として、仕事をさせるうえでの知能の重要性を説き、また「実績につながるのは、冷静さより誠実さ」であると言っているのが興味深かったです。

 モチベーションの部の「プロは集中する楽しさを知っている」の章で、ランニング、スキー、ダンス、小説など何かに没頭して、他のことはどうでもよくなるような状態を「フロー」と呼び、こうしたフローは、テレビを見る、リラックスするなど気楽に過ごす時間には起きず、フローが一番起きやすいのは仕事中であるとしているのには、そうかもしれないなあと。

 コミュニケーションに関する部では、「男と女のコミュニケーションは違う」という章が面白く読め、男性と女性が互いにうまくコミュニケーションできないのは、男性は自分の地位を強調するために話をしがちだが、女性は繋がりを作るために会話をするからであって、結果として、男性は、女性がだらだらと自分の悩みを話すと非難し、女性は、男性が話を訊かないと文句を言う―といったことになるのだそうです。

『マネジメントとは何か』 .jpg 全体で230ページ弱で、その中にはこうしたエッセイに書かれている箇所も多く、全体を通して読み易いです。個人的には、あまり自己啓発書的なものは読まない方ですが、本書はどちらかというと、著者の専門であるマネジメント、組織行動理論を、一般向けの読み物風に書き直したような感じであり、平易な表現の裏に確固たるバックボーンがあるのが感じられます。
 著者自身、部下の管理についての真理を学ぶのに、人事や組織行動学の詳しい教科書を読み通す必要はないとの思いからこの本を書いたとまえがきに述べています。その意図がよく生かされた本だと思います。すべてのマネジャーはもちろんのこと、人事で仕事する人も読んで啓発される部分が多々あるのではないかと思われます。

 故スティーブ・ジョブズにまつわる話や「ヘリコプター(モンスター)・ペアレント」の話など、「現代の古典」ともなりつつあった本を、著者自身による最新のトピックを交えた新版で読めるのも有難いことです。因みに著者は、個人短距離走で11度の世界タイトルに輝き、米国と世界の年齢別記録を何度も塗り替え、米国マスターズ陸上の殿堂入りを果たしている人でもあるそうです。スゴイね。

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