【2235】 ○ 松下 幸之助 『社員稼業―仕事のコツ・人生の味』 (2014/09 PHPビジネス新書 松下幸之助ライブラリー) 《1974/10 PHP研究所》 ★★★★

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若い人に向けて分かり易く語っている。古さを感じさせないのはスゴイことかも。

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社員稼業 仕事のコツ・人生の味 PHPビジネス新書 松下幸之助ライブラリー』『[新装版]社員稼業』『社員稼業―仕事のコツ人生の味 (PHPブックス)』['74年]

 松下幸之助(1894-1989/享年94)が社内外で行った講話を5話収めており、第一話「生きがいをどうつかむか」が昭和45年に朝日ゼミナールとして行われたものである以外は、第二話「熱意が人を動かす」が昭和34年の松下電器大卒定期採用者壮行会、第三話「心意気を持とう」が松下電器寮生大会、第四話「何に精魂を打ち込むのか」が昭和38年の大阪府技能大会、第5話「若き人びとに望む」が同じく昭和38年の郵政省近畿管内長期訓練生研修会での話と、何れも昭和30年代のもとなっています(松下幸之助は昭和36年に社長を退き、会長に就任しているが、会長職を退いたのは昭和48年、80歳の時だった)。

 本書を読むと、若い人に向けて分かり易く話すのが上手だったのだなあという気がしますが(元々そうした話をするのが好きだった?)、当時の若い人たちは、すでに「経営の神様」と呼ばれていた松下幸之助の話をどのような思いで聴いたのでしょうか。

自分自身、PHPから単行本で出されている松下幸之助の講話集はこれまでそれほどじっくり読んだことはなかったのですが(本書も昭和49年10月PHP研究書刊の単行本がオリジナル)、新書になったのを機に読んでみると、意外と今に通じる普遍性があって古さを感じさせず、さすが松下幸之助という感じです。

 とりわけ本書は「社員稼業」という言葉が特徴的で、松下幸之助の説く「社員稼業」とは、「たとえ会社で働く一社員の立場であっても、社員という稼業、つまり一つの独立した経営体の経営者であるという、一段高い意識、視点を持ってみずからの仕事に当たる」という生き方を指します。

 今風に言えば、プロフェッショナルとか、アントレプレナーとか、インディペンダント・コントラクターとか、いろんなものがこの概念に当てはまるのではないでしょうか。松下幸之助が自社の社員に向けてこうした話をするというのは、そのことが社員の独立を促して辞める社員が続出しそうな気もしますが(松下幸之助自身が企業を辞めて独立して会社を起こしたわけだが)、当時は「終身雇用」が守られていて、ましてや松下電器という大企業(既に数万人の従業員がいた)に就職したということでつい安心感に浸ってしまいがちで、こうした話をしないと、自らは何もせず指示待ちの、雇われ根性の社員ばかりになってしまうという危惧が松下幸之助にあったのではないかと思われます。

 結果として、今現在にも通じる話になっているわけですが、この外にも、今風に言えば「ワーク・ライフ・バランス」(松下は昭和40年、日本の大手企業で最初に完全週休2日制を導入している)、「CSR」(どの講話にも「松下電器は社会の公器である」といった話が出てくる)、「フォロワー・シップ」(本書の中で「上司を使う人間になれ」と言っている)に該当する話が出てきて、そうした意味でも古さを感じさせないのはスゴイことかもしれません。

 個人的には、織田信長の長所や、信長対する明智光秀と豊臣秀吉の態度の違いについて述べているところなどが興味深かったですが、非常に日本人の感性に訴えるような話し方をするなあという印象があります。

 リーダーシップの泰斗ジョン・コッタ―が、それまで松下幸之助について全く知らなかったのが、ハーバード・ビジネス・スクールで自分の担当する講座が松下幸之助記念講座(松下による寄付講座)であったこと契機に、幸之助について調べてみると、自分がこれから大学で教えようとしていることを既に幸之助が繰り返し述べていることに驚き、『幸之助論』を著すに至ったというのは有名な話です。

 日本の場合、マネジメントとかリーダーシップとかの「理論」の部分は殆ど「輸入品」だと思うのですが、それゆえに日本人の感性に合わない部分もあるように思え、しかしながら、例えば松下幸之助のこうした話などによって、同じような考えが働く人に浸透していったという経緯はあるのかもしれません。今回初めて松下幸之助の講話本を読んだのですが、単に「経営の神様」による訓話ということだけでなく、「輸入品」である「理論」を、日本的な観点から見直すという意味での効用もあるように思いました。

【1974年単行本[PHP研究所]/1991年文庫化[PHP文庫]/2009年新装版[PHP研究所]/2014年新書化[PHPビジネス新書 松下幸之助ライブラリー]】

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