【2226】 ◎ ベルリッツ・ジャパン 『グローバル人材の新しい教科書―カルチュラル・コンピテンスを伸ばせ!』 (2013/04 日本経済新聞出版社) ★★★★☆

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コミュニティや個々の文化の違いによる問題の解決法、文化差を積極的に活用するスキルを解説。事例がいい。
グローバル人材の新しい教科書23.jpgグローバル人材の新しい教科書―カルチュラル・コンピテンスを伸ばせ

グローバル人材の新しい教科書 image.jpg 外国語教授や留学等、語学に関わるサービスを提供しているベルリッツ・ジャパンによる本であり、本書にある「カルチュラル・コンピテンス」を伸ばす手法は、ベルリッツの子会社であるTMC(Training Management Corporation)が開発したものであり、世界各国の組織や個人によって実務に適用されているとのこと(ベルリッツ・ジャパンも「カルチュラル・コンピテンス」を使った研修を2010年から実施している)。今回の刊行は、この研修の受講者からの、日本語で「カルチュラル・コンピテンス」を復習したいとの要望に応えてのものだそうです。

 ベルリッツによれば、多くの日本企業がグローバル化を目指し、グローバル人材の育成に注力している中、「英語力はそれなりにあるはずなのにうまくいかない」との悩みが多く聞かれるとのこと。本書では、この問題は語学力ではなく、文化の衝突や対立に対処できない「カルチュラル・コンピテンス」の不足から生じているとしています。「カルチュラル・コンピテンス」とは、こうした文化の違いを活用する力のことで、英語に不自由しない人でも、不断の努力をして身につけるものであるとのことです。

 本書によれば、通常の異文化研修は、いわば「知識」を得るための研修であり、カルチュラル・コンピテンスの一部ではあるが、本書が説いているのは「知識」(カルチュラル・ナレッジ)の重要性や必要性だけではなく、文化を生かして積極的に活用するための具体的なスキル(カルチュラル・スキル)も含めてであるとのこと。

 例えば、メールを送る際に、社会的慣例や言葉遣いを気にする人と、端的でカジュアルなメールを送る人とでは、「文化」が違うと言え、社会的慣例を重んじる人が、カジュアルなメールをもらった場合、「常識がない」と思い、不愉快に感じるかもしれず、一方、逆の場合は、勿体ぶった書き方が無駄で不愉快に感じるかもしれないと。「常識がない」ととるか「文化の違い」と捉えるかで、仕事関係に大きく影響し、但し、「文化」の違いを認識するだけでは何も解決せず、本書ではこの違いをどのように解決し、活用していけばいいのか具体的なスキルを紹介しています。

 第1部~第2部の第4章までは、「カルチュラル・コンピテンス」がどういうものかを詳しく説明しています。第2部の第5章からは、「森山豊」という、M&Aに伴う懸案で、中年にして初めてチームリーダーとして海外に派遣されることになった架空の人物「森山豊」の経験を通し、日本人が海外でビジネスを行っていく上でどのように「文化」を理解し、対応していったのかというケース・ストーリーとなっています。第3部では、ベルリッツが実際に行った研修の事例を紹介しており、会社が抱える「文化」の問題がより具体的に記されています。

 「グローバル人材」について書かれた本は、著者自身の経験に基づくものが多く、それはそれで参考になったりもしますが、日系企業から多国籍企業の経営トップに転身した人(その逆のケースもあるが)や、証券マンから国際金融アナリストに転身したといった人などが書いたりしたものが多く、その人のキャリアの華々しさに、読む側としてはちょっと引いてしまうことが少なからずあり、また、そこで語られる内容も、著者個人の経験や価値観が色濃く反映されたりもしているように思います(勿論、良書もあるが、コンサルタントとして独立したことに伴う名刺代わりの本だったりする側面もあったりする)。

 それらの本を場当たり的に読んでいくのも悪いとは言いませんが、やや非効率かも。その点、本書は、「教科書」と謳うだけあって、「カルチュラル・コンピテンス」の概念がよく整理されており、但し、概念整理だけだと読んでもそれほど頭に残らないということからか、「森山豊」という人物の"奮闘記"とも言える事例が挿入されていて、これが実に活き活きしていて、小説を読むように楽しく読め、また、そのケース・ストーリーを通して、個対集団、個対個の関係においてどのような形でリーダーシップを発揮していくかを示すとともに、最初に述べた理論をおさらいするような形になっていて、とても分かり良いもののように思えました。

 国による文化の違いだけでなく、日本人であろうと外国人であろうと、同国人であってもその中で個人差があることに着眼しており、また、相手の価値観や文化に合わせるだけでなく、自国の文化や自分自身の価値観を主張し、相手に理解させることの重要さを(これもストーリー仕立てで)説いている点もいいです(まえがきに「日本人同士の仕事であっても仕事の進め方に悩んでいる方には有益であろう」とあるが、まさにその通りかも知れない)。

 自社の研修テキストをオープンにしているという点では、(これもまた自社ビジネスの一環であるにしても)好感が持てます。日本は所謂モノカルチャー社会と言われており、異質な文化と接する機会が少なかったと言えますが、今後、グローバル社会へと進んでいくにあたり、ビジネス文化の異なる人たちとの問題解決の一助になればと考えての刊行とのことで、また、M&Aで生じる会社間の文化の違いや、各コミュニティや個々人の、文化の違いから発生する問題など、日常に潜む「文化」の違いを発見してみる一助にもなるかも知れません。

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