【2225】 ○ 秋山 進 『「一体感」が会社を潰す―異質と一流を排除する〈子ども病〉の正体』 (2014/03 PHPビジネス新書) ★★★☆

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「守・破・離」という従来の概念に、マネジャー、スペシャリストという概念をクロスオーバーさせたもの?

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「一体感」が会社を潰す 異質と一流を排除する<子ども病>の正体 (PHPビジネス新書)

 バブル崩壊までの高度経済成長期においては、社員は社長や上司の号令のもと、一致団結して同じ行動をとることが組織の勝利の方程式であり、そのため、組織において「一体感」や「仲間意識」を高めることが、非常に良いこととされてきた―しかし、これまでの社会情勢に合わせて発達してきたこの「一体感」や「仲間意識」が、ここに来て、たくさんの組織、会社の成長をかえって妨げているのではないか。そして、変化に適応できていない人や組織が、かつての成功モデルにしがみつき、かつて合理的であった、仲間ウチの「一体感」を高めるべく、子どもっぽい思考や行動、そして組織のあり方を続けているのではないか―。

 25年以上にわたり、30社以上の組織に経営改革のための助言をしてきた組織コンサルタントであるという著者(この人の本はあ『インディペンデント・コントラクター―社員でも起業でもない「第3の働き方」』を読んだことがある)は、こうした状況を「組織の<子ども病>」と呼び、本書前半部分(第1章~第3章)では、個人、組織文化、マネジメントの3つの観点から「コドモ組織」の以下の15のパターンを、事例でもって分かり易く示しています。著者が本書をエッセイ風に書いたブログで述べている通り、この部分は楽しく読めました。

「個人がコドモ」
 パターン1:誰が当事者?批評家ばかりの組織
  パターン2:「空気」に支配されている人たちの組織
  パターン3:「稼ぐ」ことを忘れた人たちの組織
 パターン4:仲間としか仕事をしない人たちの組織
 パターン5:忠誠心の表明を要求する上司がいる組織
「組織文化がコドモ」
 パターン6:全体最適より個別最適を優先する組織
 パターン7:必要以上に摩擦を回避する組織
  パターン8:よその部署の情報が流れてこない組織
 パターン9:例外対応ができていない組織
 パターン10:議論のための議論で満足する組織
「マネジメントがコドモ」
 パターン11:実現不可能な目標が設定される組織
 パターン12:権限と責任が不釣り合いな組織
 パターン13:優先順位がつけられない組織
 パターン14:反省しない、学習能力の低い組織
  パターン15:一流が排除される組織

 そして、続く第4章で、コドモ組織と大人組織の違いを「標準化力と同質性/専門技術力と異質性」といったように対比的に示し、コドモ組織が大人組織に変わるための3つのポイントとして、1.個人の「自立」と「自律」、2 .目的合理的な思考行動パターン、3.マネジメントのプロ化、を掲げ、それぞれ解説しています。

 この中ではまず、個人の「自立」と「自律」を具体的に考えるために、両要素を縦横の軸としたマトリクスを示しています。そして、目指すべき究極は「プロフェッショナル」乃至は「超一流」であるとの前提のもと、「丁稚」→「一人前」→「自律」というプロセスを経て次に「統合的役割」に至るのが通常だが、「自律」での研鑽が足りないために、次段階の「プロフェッショナル」に至る前に厚い壁があるとし、また、「一人前」段階で「一流」を目指すにしても、「一人前」から「自律」を経ないでそこへ行こうとするから、やはりそこには厚い壁があるとしています。つまり、「プロフェッショナル」への道と同様、「一人前」から「自律」へ行き、そこで研鑽を積むことで初めて「一流」「超一流」への道が開けるというものです。

 そして、コドモの組織から大人の組織になるためには、「目的合理的な思考行動パターン」が求められ、それは例えば、自分の仕事にこだわりを持ち、自分がやるべき仕事を深く理解して、自分のやりたい仕事ができる組織で働くことができることが目的合理的ということになると。そこで摩擦が起こるのは当たり前であり、それを回避するのではなく、摩擦が発展の糧となると考えるべきだとしています。

 更に、「マネジメントのプロ化」とは、専門家の持つ多様性を束ねて機能的に統合し、共通の目標を実現させるようにすることであり、一流から一目置かれる「眼力」と「質問力」を有するのがマネジメントのプロであり、また、大人の組織はルールではなくプリンシプルで動き、プロセス制御ではなく結果制御であるとしています。

そして、最後の第5章では、組織がコドモの組織である状況で、大人になるための戦略を、「一流の仕事人」の日常を通して解説し、一流の技術者、プロフェッショナルとして大切にしたい要素として、1.自助努力、2.連携、3.正直かつ率直、4.ポジティブ、5.基準を高くもつ、の5つを挙げています。

 全体を通して啓発的であるだけでなく理論構成もしっかりしていて、書かれていることは異を唱えるものではありませんが、考え方は、本書の中にも出てくる「守・破・離」という従来の概念と、マネジャー、スペシャリストという概念をクロスオーバーさせたものであるように思われました。

 但し、現代ビジネスに求められる高度の専門性や、常に変革が求められる時代環境に即した、新たなマネジャー、スペシャリスト像を示しているという点では評価できると思います(「一体感」を批判していると言うより、「自律」段階にある人を異質なもの、または脅威として潰してしまう組織体質を批判している本だと思った)。

 一方で、「一流」「超一流」という言葉を使っていることにやや引っ掛かりました。スポーツにおけるスター選手などと違ってビジネスの現場では、「一流」の仕事をしている人って意外と自分が「一流」だという意識は無かったりするのではないかなあ。まだ「丁稚」段階にある人に向かって、あんまり「一流」ということを言いすぎると、逆に「守・破・離」の「破」をすっ飛ばして「離」に行こうとして、著者が意図したものと逆の結果を生むことに繋がる気もするのですが、杞憂に過ぎないものでしょうか。 自己啓発書的要素もあり、読む人によって相性の違いはある本だと思います。

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