【2223】 ○ 溝上 憲文 『辞めたくても、辞められない!―一度入ったら抜けられないブラック企業の手口』 (2014/02 廣済堂新書) ★★★☆

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従業員を辞めさせない「新ブラック企業」の実態について、企業だけでなく、働く側の心理、社会的・経済的背景にまで言及。

辞めたくても、辞められない!.jpg辞めたくても、辞められない! (廣済堂新書)』(2014/02 廣済堂新書)

 一般的に「ブラック企業=従業員を辞めさせる(辞めさせたい)」という構図があると思われますが、本書では、それとは真逆の、最近増えてきていると思われる「従業員を辞めさせない」企業(「新ブラック企業」とでも呼べばいいか)の実態を取り上げています。

 「従業員を辞めさせない」企業の実例を紹介し、その遣り口をタイプ別に分類した上で、本書では「従業員を辞めさせない」企業の特徴として、その背景に、独裁的経営者の下での「低賃金・重労働・人手不足」という3つの要素があるとしており、本質的には「辞めさせない企業」は「使い捨て企業」と表裏一体であると看破しています。

 更にそうした背景とは別に(或いはあたかもそれに呼応するように)、働く若者の側に、会社の「言いなり」になる心理構造がみられ、「素直で誠実」「自罰的傾向(自分が悪いと考える傾向)」「社会性の希薄」「働くルールの基礎知識の欠如」などがみられるとのことです。

 「従業員を辞めさせない」企業というのも詰まる所ブラック企業であり、本書では最後にブラック経営者から身を守るにはどうすればよいかを指南していますが、個人的にはそんな会社はとっとと辞めればいいのにと思ってしまうものの、実際には、従業員を巧妙に辞めさせない会社、辞められないという心理に陥ってしまう労働者、今のところ法的措置は考えていない政府、といった構造的な問題があり、そう簡単に解決が図れることでもないようです。著者は、働く者は身を守るために「武装」する必要があると言っています。

 労働問題・労働経済分野において多くの著書、ルポルタージュがある著者による本であり、本書は新書で200ページ弱のさらっと読める内容ですが、その限られた紙数の中で、単にこうした「従業員を辞めさせない企業」=「新ブラック企業」の実態を暴くだけに止まらず、その背景にあるものを、ブラック経営者の思惑だけでなく、労働者個人の心理から社会的・経済的背景にまで言及・分析している点はさすがかと思います。

 一方で、さらっと読める分、そうした企業があることをある程度実態として知っている人にとっては、こうしたことへの「言及」は状況の再確認になるものの、「分析」そのものは特段ユニークと思われるものは無かったかも(オーソドックスな「新ブラック企業」入門という感じ)。
 とは言え、景気回復基調に浮かれるアベノミックスの裏で、労働者は疲弊し、職場自体も病んでいる―そうした実態を改めて知らしめる1冊ではありました。

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