【2218】 ◎ 浅井 隆 『Q&A 管理職のための労働法の使い方 (2013/03 日経文庫) ★★★★☆

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地味め(?)だが意外と"優れもの"。職場管理者だけでなく人事パーソンも一読を。

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Q&A 管理職のための労働法の使い方(日経文庫)』(2013/03 日経文庫)

 職場で起きる労務問題について、管理職としてどう対応したらよいかを、Q&A形式で具体的にまとめたものです。労働時間・残業管理、休暇の管理等について、労働法の知識を頭から順番に教科書的に解説するのではなく、現実に起こり得る問題を具体的に想定して、どのタイミングで何をすればいいのかを、実践的な観点から解説しています。

 法律の解説部分は、人事パーソンにとっては"おさらい"的なレベルでしょう。しかしながら、人事部とどう連携するかという視点から解説されているため、職場の管理職が単独であるいは人事部と連携して対応していくそのやり方が分かるだけでなく、それを引き取った人事部が、引き続き職場の管理職と連携して、どのような形で問題への対応に当たるのが望ましいのかを知る上でも、多くの示唆が含まれているように思いました。

 例えば、「労働時間・残業の管理」について解説した第1章には、朝、勝手に早い時間に出社し、早出残業をつけている社員がいて、そのやめさせ方をどうすればよいかという問いに対し、「始業時間までは勤務に入らず、始業時刻になったらただちに勤務=仕事に取りかかれるように、それ以上はしないように、と指示すればよい」としていますが、こうした問題などはまさに、法律問題というより、その職場に合ったルールづくりの在り方の問題なのでしょう。

 「さぼる社員、言うことを聞かない社員をどうただすか」を解説した第3章では、社外の人への態度が悪く、評判の悪い社員に対して、その態度を改めさせるためにどうすればよいかという問いに対し、業務指示として将来の行動規範を具体的に示すことで、改善指導の対象・目的を明確にするのがよいとし、更に、「なぜ、私だけにそういう指示をするのか」といった社員の反撃に対する対処の仕方も具体的に書かれています。

 無断欠勤が続いている社員を解雇せざるを得ない場合、長期無断欠勤が自然退職事由になっておらず普通解雇事由になっている場合は、解雇の意思表示が本人に到達しなければなりませんが、配達証明付内容証明郵便で解雇通知を発送して本人が受け取り拒否した場合は"未到達"になるため、解雇の効力が発生せず、このような場合においては、内容証明郵便ではなく普通郵便で発送するようにする―といった具体的な方法論についても触れられており、この辺りはむしろ人事部マターとしての基礎知識と言えるかと思います。

 以下、病気の社員、問題行動のある社員への対応、セクハラ・パワハラの防止、有期労働者の管理、派遣労働者の管理、請負労働者の管理、トラブル発生への予防と対応、外部の労働組合への対応など幅広い問題について、ともすると職場の管理者だけでなく人事パーソンでさえ判断を誤りがちなケースを設問形式で取り上げ、最新の改正法を踏まえつつ、予防や事後のフォローなども含め丁寧に解説しています。

 日経文庫という地味め(?)のレーベルの一冊である上に、タイトルに「管理職のための」とあるため、人事パーソンはついスルーしてしまいがちな本かもしれませんが、(職場管理者を啓発していく上では勿論のこと)人事パーソン自身が職場の管理者とともに労務問題への対処の在り方を考えていくうえで、改めて気づかされる点、考えさせる点が少なからずある本でした。

 ということで、意外と"優れもの"だったという印象。新書版という手軽さ、労働法の関係する実務に直接は携わっていない現場の管理者向けに平易に書かれているということもあり、ふだん労働法関連の本をあまり読まない人は(人事パーソンの中にもいるかもしれないけれど)一読されることをお勧めします(設問に対して、自分だったらこう対処する―とまず回答を想定してから、その後に解説に読み進むといい)。

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