【2216】 ◎ 安西 愈 『雇用法改正―人事・労務はこう変わる』 (2013/02 日経文庫) ★★★★☆

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実務に役立てながら、法改正の意義と問題点をも知ることができる入門書。「無期転換」関連は読み処多し。

1雇用法改正.png雇用法改正 安西.jpg雇用法改正 人事・労務はこう変わる (日経文庫)

 平成24年に改正された、人事・労務に大きな影響を及ぼす3つの労働関係の法律について、それらの改正によって企業の人事労務はどう変わるのか、人材活用や雇用のリスク管理はどうすべきであるかという観点から、それぞれの法改正の背景やその具体的内容、実務対応の在り方を解説した本です。

 第一は、労働契約法の改正であり、有機労働契約を5年を超えて継続更新した場合における、無期雇用転換申込制度を定めました。第2は、労働者派遣法の改正であり、日雇い派遣の禁止、派遣先の1年以内の離職労働者の派遣禁止などが定められました。第3は、高年齢者雇用安定法の改正で、老齢厚生年金の支給年齢の引き上げに伴い、「65歳までの高年齢者雇用確保措置」が義務化され、継続雇用の対象者を労使協定による基準で定める制度が廃止されました。

 同じ日経新書に『人事の法律常識』(2013年、第9版)などの著書もある、第一人者の弁護士による解説書ですが、新書でありながらも詳しい解説がされていて、とりわけ改正労働契約法については、無期雇用転換のほかに、有期労働雇止め法理、期間労働者への不合理な労働条件の禁止のそれぞれについても単独で1章を割き、丁寧な解説がされています。

例えば、「無期転換申込みの手続」について、「無期転換申込みは契約期間満了前1ヵ月前までに行わなければならな い」といった手続の制限を設けることは、使用者が雇止めする場合の予告期間として定められている「少なくとも30日前」とのパラレルな関係からみて、「合理的であろうと解します」と書かれています。

 また、「更新5年の期間満了をもって、雇用契約は終了する」との定めが有効であるかについては、労働契約は使用者と労働者の合意によって成立するものであるから、このような労働契約は有効であるとし、ただし、当初からこの契約の趣旨に従い、例えば契約期間が1年毎であるなら、その都度更新について労働者と労使間で協議して、きちんと有期労働契約を締結し、「更新5年まで」ということを明白にしておく必要があるとのこと。労働者に対し、最長更新の限度を超える合理的期待を発生させるような言動をしたり、さらに5年を超えて更新したりすると、「5年の期間限定」の効力は全くなくなるとしています。

 それでは、現在の有期雇用者に「5年まで」の更新制限をつけられるか―この問題については、「更新日から5年を超える期間の更新は行わず、最終更新日の満了を以って終了する」旨の新たな契約条項に合意した場合は。この契約は有効となり、合意しなかった場合は、使用者としては、雇用の終了(雇止め)という方法をとるか、法的リスクを避けるため、一応は更新して、今後5年間の間に本人と協議を続け、最終更新日までに合意を得るという方法もあるとしています。

 以下、有期労働雇い止め法理がどのような場合に適用されるかといったことから、期間労働者への不合理な労働条件の禁止における「不合理な労働条件」とは何か、さらに、労働者派遣法の改正によって派遣先で必要となる対応や、高年齢者雇用安定法の改正に対する対応まで、実務に沿ってかなり突っ込んだ解説がされています。

 今回の労働契約法の改正は「雇用体系を混乱させる法改正」であるとし、期間労働者への不合理な労働条件の禁止における「不合理と認められるものであってはならない」という規定について、この規定の効力が争われた場合、いったい裁判所はどんな判決を下すべきか全く不明であるとするなど、著者らしい批判精神が織り込まれている点でも、入門書の枠を超えています。

 それでも形態上は新書であるため、手元に置いて実務の参考にするのに便利であり、実務に役立てながら、法改正の意義と問題点をも知ることができる本―といったところでしょうか。

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