【2214】 ○ 渡部 昭彦 『日本の人事は社風で決まる―出世と左遷を決める暗黙知の正体』 (2014/02 ダイヤモンド社) ★★★★

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人事部長は「社風」の代理人。人事がリアルタイムでは回避している視点を突いている点で示唆に富む。

日本の人事は社風で決まる.jpg日本の人事は社風で決まる---出世と左遷を決める暗黙知の正体』(2014/02 ダイヤモンド社)

 著者は、大手銀行、セブン‐イレブン、楽天で人事部長などを歴任した人であり、現在は、様々な人材サービスを行っている企業グループの持ち株会社の社長を務めています。本書ではまず、出世した人は、その会社の社風が自分に合っていた人であるとしています。そして、社風とは言葉にはできない「暗黙知」であり、それを決めるのは、①ビジネスモデルを規定する顧客との距離、②資本形態、③会社の歴史の3つであるとしています。

 第1章から第3章までの前半部分では、そうした観点から、業界による社風の違いや、同じ業界内における企業間の社風の違いとそういsた違いがどうして生まれたのかを、幾つもの具体的事例を挙げて解説しており、この部分は読み物として興味深く読めるとともに、社風を決める要素は何かということの裏付けにもなっています。

 著者によれば、社風は会社を支配していて、会議の結論を決めるのも社風であるならば、飲み会・接待にも社風の違いがみえるとのことです。そして、その支配者である社風が最も力を発揮するのが人事分野であり、人事部長は「社風」の代理人であるとしています。従って、人事部長に期待される役割は、目から鼻に抜けるような先進的な人事制度を作ることでも、また、高邁な人事理念を浸透させることでもなく、まずは社内に吹く風、声なき社内世論を適切に読み取ることになるとしています。

 第4章では、社風と人事制度の関係について述べていますが、結論としては、社風に合致した人を偉くする仕組みが日本の人事制度であるとしています。従って「コンピタンシー」評価は「好き・嫌い」に近い感覚的評価となり、「成果主義」も結局は定着しておらず、伝統的な概念である「人物主義」が脈々と生き残っているとし、さらに、「目標管理制度」も、本来は絶対評価であるべきものを「相対評価で運用する」という建前と本音の使い分けが行われているとしています。

 第5章では、社風と採用の関係について述べていますが、人事部は採用のリスクを少なくするために「社風に合致した人」を感覚的に選び、この点においては採用も出世も同じであるとしています。その上で、どうやって企業を選べばいいのかを指南し、また、第6章では、入社してから社風とどう向き合えばよいのかを新人や中堅社員に向けてアドバイスしています。

 著者は、社風というものを必ずしも否定的には捉えておらず、むしろビジネスパーソン個々の立場としては、社風との間の「距離感」をコントロールすることが大事であるとしています。また、「日本的雇用」の終わりが説かれる今日においても、社風がコア人材を通じて会社を支配していく構造自体は変わらないだろうとしています。

 人事のベテラン・プロによる本であり、全体を通して説得力があるように思いました。人事パーソンとしての読みどころは第4章、第5章でしょうか。人事パーソンは概ね本書に書かれているようなことは何となく「肌で感じて」いながらも、人事制度や採用のあり方を一つの完成された中立的なシステムとして見なし(或いはそのことを指向して)、その何となく肌で感じているはずの部分は、リアルタイムでは意図的に頭の隅へ追いやる傾向にあるのではないでしょうか。本書は、社風が人事に直接的な影響を与えていることを解き明かしている点で、人事というものに対するリアル且つ独自の視座を提供しており、示唆的な内容かと思います。

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