【2213】 ◎ 鈴木 雅一 『アメリカ企業には就業規則がない―グローバル人事「違い」のマネジメント』 (2013/09 国書刊行会) ★★★★☆

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グローバル人事におけるトラブル防止、優秀人材の有効活用等。啓蒙レベルと実務レベルの話がリンクされている。

アメリカ企業には就業規則がない.jpgアメリカ企業には就業規則がない: グローバル人事「違い」のマネジメント』(2013/09 国書刊行会)

 日系・外資系銀行、外資系IT企業で人事の仕事に携わり、現在はコンサルティング会社と社会保険労務士事務所の代表を兼務し、外資系企業や海外に進出する日系企業へのサポートやコンサルティングをしている著者による本です。

 「アメリカ企業には就業規則がない」というタイトルを見て「そんなこと知っているよ」と思う人も多いかと思いますが、このタイトルは、日本企業とアメリカ(欧米)企業の雇用契約の在り方の違いの一例として挙げたものであり、雇用契約だけでなく、採用、給与、人事考課の在り方から、セクシャル・ハラスメント、ダイバシティ・マネジメントへの対応、優秀人材の確保方法まで、アメリカを中心とする海外企業の人事労務と日本企業の人事労務の取り組みや考え方の違い、それぞれの法的背景などについて紹介および解説されています。

 さらには、外国人と日本人の労働意識の違いなども、具体例をもって分かりやすく解説されていて、読者の中には、自分自身が外国人と仕事した際に経験したり感じたりしたことを、改めて自らの中で体系的に整理・理解する助けになる人もいるのではないかと思われます。

 著者は、これからの日本企業に必要なのは、異文化を日本文化と融合させるという日本人がこれまで用いてきたプロセスではなく、日本という核はしっかりと保ちつつも、相手の文化はそのまま受け入れる「多様性への適応力」であるとしています。グローバル人事を成功させる秘訣は「違い」のマネジメントにあり、自分と相手が違うということを受け入れマネージすることが重要であるということです。

 そうしたマネジメントのポイントとして、海外の人事労務と日本型の人事労務との違いを紹介し、この「違い」の原因の一つとして、諸外国と比べて、労働基準法を始めとする日本の労働法がユニークなものであることを指摘しています。また、労務管理における日本の常識が、海外では非常識となってしまう事例を紹介し、「違い」を認識することがグローバル人事の出発点であると説いています。

 グローバル人事を担うこれから日本企業の人事部のあり方にまで踏み込んで書かれていますが、これらの考察に際して、具体的に裏付けとなるデータを掲げ、また、中国における労働法や労務管理の解説している箇所に見られるように、法律・実務に関する部分についてもきちんとフォローされています。

 グローバルビジネスの行方を見据えた啓蒙的・教養的とも言える内容でありながらも、文章的にも内容的にも、学者や法律家の本によく見られるスタイルとは異なり、あくまでも実務家のもの、実務に近いところで書かれているのがいいです。

 グローバル人事におけるトラブルを未然に防ぐだけでなく、優秀な人材を有効に活用するためにはどのような労務管理を行えばよいのかといったことも含め、自らの経験も交えながらアドバイスされており、啓蒙レベルと実務レベルの話がしっかりリンクさているので、今そうしたグローバルな人事実務に携わっている人にも、近い将来に向けて対応への心構えをしておきたいという人にも、一読をお勧めします。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 日本とアメリカの雇用契約の違い
第2章 採用、給与、人事考課に見る日本と欧米の違い
第3章 セクシャル・ハラスメント
第4章 ダイバシティ・マネジメントの考察
第5章 海外で優秀な人材を確保する方法
第6章 外国人と日本人の労働意識
第7章 英語は国際ビジネスの公用語
第8章 グローバル人材の育成と活用
第9章 日本人の海外駐在者と単身赴任者
第10章 中国の労働法
第11章 中国の労務管理
第12章 国際人事管理
第13章 ゼネラリストとスペシャリスト
第14章 日本と海外の違いの大きな原因は労働基準法にある
第15章 グローバル人事について
第16章 雇用契約書の内容
終 章 グローバルカンパニーへの道

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