【2212】 ◎ 木谷 宏 『社会的人事論―年功制、成果主義に続く第3のマネジメントへ』 (2013/03 労働調査会) ★★★★★

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これからの人事の在り方、企業の枠組みを超えた働く理論の再構築に一石を投じた、啓発される要素の多い本。

社会的人事論.JPG社会的人事論2.jpg  木谷宏氏.jpg 木谷 宏 氏(麗澤大学教授)
社会的人事論 (年功制、成果主義に続く第3のマネジメントへ)』(2013/03 労働調査会)

 本書では、企業の利益追求を目的とする経営戦略が行き詰まりを見せ、社会環境の変化に対応した企業・人材・働き方が求められている今日では、人事管理の枠組みも、従来の経済的合理性から社会的合理性へとそのフレームワークを変えていく必要があるとして、年功制、成果主義に続く第3のマネジメントとして、「社会的人事論」という考え方を提唱しています。

 「社会的人事論」とは、第1に、社会的存在としての企業の枠組みを変えていくことであり、そのためにはすべての企業がCSR(企業の社会的責任)を果たすべく、経済・社会・環境のトリプル・ボトム・ラインによる企業経営を行うことが不可欠になるとしています。第2には、個々の働く人のすべてがプロフェッショナルへと変身することであり、エリートやスター社員を育成・選抜するための人事管理ではなく、パートタイマーやアルバイト、若年者や高齢者、そして男性も女性も全員が活躍できる企業風土、処遇、育成が不可欠なるとしています。第3は、多様な働き方の実現であり、それは、企業が預かっていた人々の24時間を個人に返還する試みであるといってもよいとしています。

 本書全体は5つの章から構成されており、第1章で人事管理の系譜と行く末を概観し、以下の章で、新たな人事の枠組みを企業、人材、働き方の3つのアプローチから考察しています。第2章では企業のこれからの姿をCSRの視点から考え、第3章ではあるべき人材の姿についてプロフェッショナル論を展開し、第4章では働き方の未来をワーク・ライフ・バランスとダイバーシティ・マネジメントの観点から考察し、最終の第5章では、新たな時代の人事管理のトピックを幾つかとり上げています。

 著者は大学教授であり、本書は人事管理のこれまでと今後の在り方について説いたテキストとしても読めますが、一方で、大手企業での長年の勤務の間、米国現地法人でCOOを務めたり、人事部で成果主義の導入、ポジティブ・アクションの実現をはじめ様々な人事改革に携わったりした実績の後にアカデミズムの世界に転身した人でもあり、幅広いテーマを扱いながらも、各章において、「現場」「実務」への落とし込みがなされているため、その提案に空疎感はなく、まさに、これからの人事の在り方、さらにいえば、企業の枠組みを超えた働く理論の再構築に一石を投じた、啓発される要素の多い本だと思います。

 個人的には、「小さなプロフェッショナル」という提案が非常に興味深く、その他にも、「時間とは第3の報酬である」という考え方や、ダイバーシティにおける個人の内なる多様性、根源的(個人的)ダイバーシティに着眼し、その重要性を説いている点などに大いに啓発されました。

 本文の冒頭には「多様な人材をマネジメントする20の問い」というリストがあり、「Q4 日本における成果主義はなぜ失敗したか?」「Q8 能力は正しく定義されているか?」「Q16 短時間正社員とは何か?」といった問いが並んでいますが、本書のすべてのページの右上ハシラに内容に対応する「問い」が示されており、学生や初学者は「20の問い」を先に見た方が本書の内容が概観しやすいかもしれません。

木谷先生.png 関心がある「問い」に対応している節から読み始めても読めてしまうという"優れもの"。ベテラン、中堅、初学者を問わず、人事パーソンにお奨めです。


ヒューマン21 EC-Net 第25回研究会
「多様な人材のマネジメント ー企業アドバイザリーのスタンスとはー」
日 時:2012年11月3日(土) 10:00-17:00
講 師:木谷 宏教授(麗澤大学経済学部)
開催場所:日本青年館ホテル「504」会議室(新宿区霞ヶ丘町)

《読書MEMO》
●目次
はじめに~「社会的人事論」とは何か?
第1章 人事管理の過去、現在、未来
 1 企業は人材をどのように管理してきたのか?
 2 今日の人事管理の問題は何か?
 3 日本における成果主義はなぜ失敗したのか?
 コラム① 聖職としての人事
 コラム② 経営者を蝕む5つの病
第2章 社会的存在としての企業
 1 企業とはいったい何か?
 2 企業の社会的責任(CSR)と人事はどのように関係するのか?
 3 東日本大震災が人事に与えた影響とは何か?
 コラム③ 柏の研究室にて
 コラム④ 企業経営におけるボランティア活動の意義
第3章 小さなプロフェッショナルの育成
 1 能力は正しく定義されているか?
 2 日本企業は本当に人材開発に熱心だったのか?
 3 小さなプロフェッショナルとは何か?
4 これからの採用はどのように変わっていくのか?
 コラム⑤ 小さなプロフェッショナルに惹かれて
 コラム⑥ 自己啓発はすでに脇役ではない
第4章 多様な働き方の実現
 1 ワーク・ライフ・バランスの本質とは何か?
 2 ポジティブ・アクションを機能させるにはどうすればよいか?
 3 ダイバーシティ・マネジメントは正しく理解されているのか?
4 組織や人はなぜ多様性を拒むのか?
 コラム⑦ シアトルのオフィスにて
 コラム⑧ 第3の報酬としての時間
第5章 新たな時代の人事管理
 1 短時間正社員とは何か?
 2 目標管理制度は本当に企業業績に結びつくのか?
 3 なぜ働く人々のモチベーションは上がらないのか?
 4 本当に成功した人事改革は存在するのか?
 コラム⑨ 明日の人事を読み解く名著
       ・デイビッド・ウルリッチ『MBAの人材戦略』
       ・エドワード・ラジアー『人事と組織の経済学』
       ・高橋俊介『成果主義』
       ・桑田耕太郎・田尾雅夫『組織論 補訂版』
       ・三品和広『経営戦略を問いなおす』
       ・エドガー・シャイン『キャリア・ダイナミクス』
       ・金井壽宏『働く人のためのキャリア・デザイン』  
さいごに ~ 新たな社会のために個人、企業、国がなすべきことは何か?

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