【2200】 ◎ 東野 圭吾 『祈りの幕が下りる時 (2013/09 講談社) ★★★★☆

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謎解きの面白さと人間の情(業)を描いた部分の重さが適度に均衡。松本清張っぽい?

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祈りの幕が下りる時2018年映画化(監督:福澤克雄/出演:阿部寛、松嶋菜々子)『祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)

 2014(平成26)年・第48 回「吉川英治文学賞」受賞作。2013年「週刊文春ミステリーベスト10」第2位。2014年「このミステリーがすごい!」第10位。

 小菅のアパートで滋賀県在住の40代女性・押谷道子の腐乱遺体が発見され、アパートの住人の越川睦夫という男性は消息を絶っていた。捜査一課の松宮は殺害時期や現場が近い新小岩での河川敷で発生したホームレス焼死事件との関連を感じながらも、道子の住む滋賀県での捜査で道子が中学の同級生で演出家の浅居博美を訪ね上京したことを突き止める。しかも博美は松宮の従兄で日本橋署の刑事・加賀の知り合いだった。松宮から博美についての意見を求められ、初めは管轄違いということもあり助言する程度だった加賀だったが、アパートで見つかった日本橋にある橋の名前を月毎に書き込んだカレンダーの存在が、この事件を思わぬ形で加賀の中で燻っていた失踪した母に関する謎と直結させることとなる―。

 "加賀恭一郎シリーズ"の『赤い指』『新参者』『麒麟の翼』に続く作品で、このシリーズの第10作となる書き下ろし作品。そっか、もう第10作になるのかあという感じで、"ガリレオシリーズ"('14年時点で8作)より多いのが意外に感じるのは、個人的には『赤い指』より前の作品を読んでいないせいかも。TVドラマ化などで注目を集めたのも阿部寛主演の「新参者」以降ではないかなあ。

 今回は面白かったです。『新参者』のような連作でもその持ち味を発揮している作者ですが、やはりこうしたストレートな長編はハマれば面白い。本作は、書き下ろしということもあってか、その"ハマった"例でしょう。謎解きの面白さと人間の情を描いた部分の重さが適度に均衡していて、特に「情」の部分は人間の「業」を描いた部分であるとも言え、社会性のある背景なども相俟って、松本清張の作品などを想起させられました。

 実際、評論家の川本三郎氏は本作を「犯罪の背後に犯人の経済的苦境が浮かび上がる松本清張の世界を思わせる古典的ミステリー」と評し、『砂の器』との類似を指摘しているほか、書評家の岡崎武志氏も「東野版『砂の器』ともいえる」と評しているとのことで、同じような印象を抱いた人は結構いるようです(『ゼロの焦点』を連想させる部分もある)。

 そうした「昭和的」雰囲気を醸しながらも、原発作業員など今日的テーマに繋がるモチーフを織り込んでいて、それがそう不自然でないのが旨いと思いました。日本橋川に架かる12の橋をモチーフに用いているところがやや凝り過ぎの印象もありますが、まあ、下町の地理や文化を作品に織り込むのは"加賀恭一郎シリーズ"のお約束事と見るべきでしょうか。

 やはりプロットがよく出来ているというのが一番だと思います。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』('12年/角川書店)で「中央公論文芸賞」、『夢幻花(むげんばな)』('13年/PHP研究所)で「柴田錬三郎賞」受賞、そして本作で「吉川英治文学賞」と、既にミステリ界の第一人者でありながら、何だかここにきて更に"賞"づいている感じですが、本作の吉川賞の受賞は個人的には納得できました。

【2016年文庫化[講談社文庫]】

祈りの幕が下りる時ド.jpg祈りの幕が下りる時 ド.jpg2018年映画化「祈りの幕が下りる時」(東宝)監督:福澤克雄
出演:阿部寛、松嶋菜々子、溝端淳平、田中麗奈、烏丸せつこ、春風亭昇太、及川光博、伊藤蘭、小日向文世、山﨑努

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