【2195】 ○ 後藤 岱山 「韋駄天数右衛門 (1933/12 宝塚キネマ) ★★★☆ (△ 白井 戦太郎 (原作:白井喬二) 「柘榴一角 (1941/01 大都映画) ★★★)

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羅門光三郎の剣戟がいい「韋駄天数右衛門」。阿部九州男の二役が光る「柘榴一角」。戦前は主役級だった二人。

韋駄天数右衛門vhs3.jpg    「柘榴一角」 1941年 vhs.jpg
「韋駄天数右衛門」('33年/宝塚キネマ)主演:羅門光三郎  「柘榴一角」('41年/大都映画)主演:阿部九州男

『韋駄天数右衛門』.jpg 粗忽者の不破数右衛門(羅門光三郎)はある日、仇討ちの兄妹を救う。だが、肝心の仇を取り逃がしてしまい、その仇そっくりの武士を誤って斬ってしまう。しかも、斬った相手が浅野家の悪評高い家老・大野九郎兵衛(矢野伊之助)の息子であることが判明。愕然とし死を覚悟する数右衛門だったが、大殿・浅野内匠頭(阪東太郎)は、自ら手打ちにすると公言しながらも、秘密裡に数右衛門を生かして逃がす。月日は流れ三年後、赤穂城下を離れていた数右衛門はお家の大事を知り、質草になっていた鎧櫃(よろいびつ)を強引に取り戻して、韋駄天走りで赤穂を目指す―。

羅門光三郎(上・下)

澤登翠2.jpg韋駄天数右衛門1.jpg 1933(昭和8)年公開の後藤岱山監督による人情話あり、仇討ありの痛快講談調時代劇で、活弁トーキー版ビデオで鑑賞(弁士は澤登翠(さわみどり)氏。90年代に録音されたものか)。赤穂四十七士のうち、堀部安兵衛や赤垣源蔵(赤埴源蔵)と並んで人気の高い不破数右衛門を主人公にした作品で、「不破数右衛門」というタイトルの映画だけでこの作品の前に7作作られています(但し、何れもフィルムが現存せず)。赤穂浪士の中でも討ち入りで大活躍したとされていますが、その一方で、お人好しで粗忽者だったというイメージも、既に定着済みだったかも。

中島 らも 2.jpg 主演は当時の大衆映画のスター羅門光三郎(1901- 没年不詳、1963年まで活動)で、作家・中島らものペンネームの由来である俳優としても知られますが、その芸名の苗字「羅門」は1925年版「ベン・ハー」主演のラモン・ナヴァロに由来するそうです。この「韋駄天数右衛門」の中では、大石内蔵助と不破数右衛門の1人2役を演じていますが、大石内蔵助としての登場は僅かで、当然のことながら不破数右衛門としての登場が中心で、さらに浪人前と浪人後ががらっと雰囲気が変わるため、個人的にはそちらの数右衛門同士の違いの方で「1人2役」っぽい印象もありました。

 前半の人情派ぶりも悪くないですが、剣戟が颯爽としていて、更に、終盤の赤穂へひた走る中(酒で喉を潤しつつ!)、かつて数右衛が仇討ちに加勢したせいで命を落とした武士・相良久八郎の道場仲間らに行く手を阻まれ、橋の上でで繰り広げられる剣戟は前半の剣戟の上を行く躍動ぶり―と思ったらそこで映画が終わって、こういうの、○○の巻~みたいな講談的な終わり方だなあと思いました。

 赤穂に向かうということは、討ち入りに加わり、本懐を遂げた後は切腹を命じられるという流れに繋がっていくわけで、つまり彼は「死」に向かって走っているわけですが、それがカッコいい。その前に、赤穂に向かおうとする彼を周囲は止めるわけですが、女房のお國は行かせてやってくれと言います(お國を演じるのはその後一時期羅門夫人であった原駒子)。この辺りに満州事変以降の世相の反映が見られるとの見方もあるみたいですが、むしろ、武士の妻としては当然の振舞いと言えるのではないかと思います(別のパターンでは、お國が夫の勇気を増すがために自害し、後顧の憂いを断つため子供も殺してしまうというのもある)。「立派にお手柄を」というお國の台詞は当時の価値観からみて自然であり、「あなた行かないで」と言わせてしまったら現代劇になってしまいます。

 因みに、1人2役については、伊丹万作監督の「赤西蠣太」('36年)で片岡千恵蔵が赤西蠣太を演じる傍ら原田甲斐も演じていたり、白井戦太郎監督の「柘榴一角」('41年)阿部九州男(1910-1965/享年55)が柘榴一角こと佐久間京七郎とその父・権太夫の両方を演じていたりと、結構こうした"遊び"は当時の映画作りにおいて見られたようです。

近衛十四郎/阿部九州男
「柘榴一角」 1941年 vhs裏.jpg柘榴一角 2.JPG その「柘榴一角」のストーリーは―、
年老いた浪人・柘榴権太夫(阿部九州男)は実は公儀の隠密。彼は江戸市中に蔓延する贋金を作っている播磨萬心(大瀬恵三郎)とその黒幕(後に青山壱岐守(大乗寺八郎)と判明)を追っていた。自分の近衛十四郎「柘榴一角」.jpg身の危険を悟った権太夫は息子の一角(阿部九州男、二役)に初めて正体を打ち明けて仕事を手伝わせるが、権太夫を仇と狙う若侍・宇家田輝雪(近衛十四郎、俳優・松方弘樹の父)が現れて―。

 一角が父を仇と思う輝雪の誤解を解く前に、父・権太夫は何者かによって殺害され、贋金作り一味の絶滅を父に誓った一角に、今度は輝雪が協力する―そう、輝雪は、長年仇と思っていた柘榴権太夫とその息子・一角が、実際に会ってみたらいい人だったということで、すでに仇討ちの気分ではなくなっていたわけかあ。加えて、一角の妹・お鴇(琴糸路)と良い仲に(最後、一角は二人の結婚を快く許す)。

柘榴一角 41/1.jpg かなり現代風な話の作りになっているように思え、しかも、一角が偶然知り合った輝雪と別れ、輝雪が入っていった家に何だか見覚えがあるかと思ったら「何だ、わしのウチか」と言うところのなどは喜劇風であるし(輝雪は何と仇先に居候していた)、贋金作りの一味の矢尻師・旦庵(横山文彦)を一角は成敗するも、その娘・早苗(小町美千代)は一角に惹かれているというところなどは悲恋物語風と、何でもありのてんこ盛り。播磨萬心を斬って父の仇討ちを果たし、贋金作り一味を暴いた功績からお家再興となった25歳独身の一角は、輝雪から妻を娶る必要があろうと示唆されますが、さすがに早苗と一緒になるところまでは描かれていません。但し、この2人の微妙なやり取りが大ラスにきます。もし、一角が早苗と結ばれれば、輝雪、一角とも仇の娘と結ばれることになるので、ストーリー的には収まりいいのですが、話が出来過ぎか?

 父・柘榴権太夫、息子・一角の親子の対面シーンが結構多く、2役の阿部九州男が大活躍。仕舞には2人で槍や柔術の稽古試合をしたり、一角が父に変装して敵をおびき寄せ返り討ちする場面などもあって、結構遊んでいる感じでした(合成は一切無しというのが興味深い。そのため柔術をしている2人の顔が同時に映ることはない)。B級映画専門だった「大都映画」にしては大作ですが、音声が聴き取りにくい部分があるのがやや難か。VHSの途中で部分的に字幕が入ったりもするが、入れるなら全部に入れて欲しかった気もします(とりあえず評価は△だが、仮にその部分が補正されていれば評価は○だったかも)。

映画論叢 21号特集・羅門光三郎.JPG 羅門光三郎は、戦後は脇役に回り、「狐の呉れた赤ん坊」('45年)や「殴られたお殿様」('46年)、「国定忠治」('46年)、「雨月物語」('53年)など数多くの作品に出演しています。一方の阿部九州男も、戦後は専ら脇役となり、同じく「狐の呉れた赤ん坊」に出演したほ「生きる」阿部九洲男.jpgか、「生きる」('52年)、「十三人の刺客」('63年)などにも出演しています。2人とも出演作品本数は多いのですが、主役から脇に回ったというのは、共に所属していた映画会社「宝塚キネマ」が潰れたり、いろいろ映画会社の統廃合があったことも多少関係しているのではないでしょうか。

阿部九洲男 in「生きる」
映画論叢 21 松林宗恵・左幸子・青山通春・三輪彰・羅門光三郎

 この2作、1人2役ということで共通しますが、片や「赤穂浪士」に先駆けて浪人になった赤穂武士を、片や浪人でありながら公儀の隠密であるという武士をと、やや変わった武士浪人を扱っている点で重なる部分があるのも興味深いです。因みに、羅門光三郎と阿部九州男の両方が出演していて、今DVDで観ることが出来る作品としては、「狐の呉れた赤ん坊」のほかに、「虚無僧系図」('55年/東映)(羅門光三郎主演)などがあります。VHSならば先に挙げた「殴られたお殿様」('46年/大映京都)も、羅門光三郎は準主役級で、阿部九州男が脇役(殿様役)で出ています。

 羅門光三郎、阿部九州男とも、戦前は嵐寛寿郎や大河内伝次郎に次ぐ主役級または準主役級の役者であったことが窺える、この2作品です。

日本映画傑作全集「剣光桜吹雪」(嵐寛寿郎)・「柘榴一角」(阿部九洲男)・「鞍馬天狗黄金地獄」(嵐寛寿郎)・「尊王攘夷」(大河内伝次郎)・「韋駄天数右衛門」(羅門光三郎)
日本映画傑作全集 剣光桜吹雪 hoka.jpg韋駄天数右衛門ド.jpg「韋駄天数右衛門」●制作年:1933年●監督:後藤岱山●脚本・原作:波多野理一●撮影:小柳京之助●時間:57分●出演:羅門光三郎/静田二三夫/阪東太郎/矢野伊之助/市川竜男/金子文次郎/市川花紅/加藤義夫/豊島竜平/菊地双三郎/鳴戸史郎/原駒子/三原珠子●公開:1933/12●配給:宝塚キネマ(評価:★★★☆)

近衛十四郎(宇家田輝雪(うけだてるゆき))in「柘榴一角」

柘榴一角 近藤.gif「柘榴一角」●制作年:1941年●監督:白井戦太郎●脚本:湊邦三●撮影:広川朝次郎●音楽:杉田良造●原作:白井喬二●時間:111分●出演:阿部九州男近衛十四郎 柘榴一角.jpg近衛十四郎/琴糸路/大乗寺八郎/水原洋一/大瀬恵二郎/遠山龍之助/雲井三郎/泉春子/久野あかね/小町美千代/谷定子/橘喜>久子/小柳みどり/大山デブ子/春野美葉子/水川八重子●公開:1941/01●配給:大都映画(評価:★★★)

近衛十四郎/琴糸路 in「柘榴一角」
 
「柘榴一角」v.jpg 

羅門光三郎 松田定次監督「河童大将」(1944年)左から羅門光三郎、嵐寛寿郎/松田定次監督「乞食大将」(1945年製作・1952年公開)左から羅門光三郎、市川右太衛門/丸根賛太郎監督「殴られたお殿様」(1946年)左から羅門光三郎、市川右太衛門)
河童大将(1944年)2.jpg 乞食大将(1945年)2.jpg 殴られたお殿様(1946年) .jpg                 
  
近衛十四郎
近衛十四郎 01.jpg 近衛十四郎(父) 松方弘樹 月影兵庫.jpg 松方弘樹(子)

韋駄天数右衛門vhs1.jpg 「柘榴一角」 1941年 vhs - コピー.jpg

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This page contains a single entry by wada published on 2014年11月 8日 23:07.

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