【2167】 ○ 徳永 圭 『その名もエスペランサ (2014/03 新潮社) ★★★☆

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女性版「池井戸潤」? 主人公が「派遣社員」であることがポイントか。

その名もエスペランサ 徳永.jpgその名もエスペランサ』(2014/03 新潮社)

 本郷苑子29歳。生マジメ、独り暮らし、日課は通い猫のエサやり、目指すは「派遣のプロ」。前の職場で受難、3カ月ぶりの新たな派遣先は、英文事務のはずが、作業服を着せられ部品係とトラブル処理班も兼務、しかもチャラ男に仙人、いびりの鬼がいた。今度の職場もハズレなのかと思った矢先に、社内初の海外プロジェクトの一員に。こんなエンジン工場から新製品エンジン「希望(エスペランサ)」は生まれるのか?

 女性版「池井戸潤」みたいな感じでしょうか。すらすら読めるし、読後感もいい「お仕事小説」でした。終盤の畳み掛け感などは、エンタテイメント性を感じます。取材がしっかりされていることが窺え(ホンダなどが主な取材先か)、それでいて、専門的な話をある程度噛み砕いて、読み物としての面白さ、ピッチを損なわないようにしているように思いました。

 一方で、「ビジネス小説」にありがちですが、主人公を巡る登場人物のキャラクターがやや画一的であるような気がしました。同じく「工場」を舞台にした池井戸潤氏の直木賞受賞作『下町ロケット』('10年/講談社)などと比べると、キャラクター造型の幅や深さに関しては物足りないという印象です。

 ストーリーもおそらく予定調和であろうことが予想され、主人公の恋の予感なども定番。落とし所は大方見えていて、最後に軽いドンデン返しというか逆転劇がありましたが、これすらも予測がついてしまうといった感じでした。但し、だからと言ってカタルシスが全く削がれてしまうというものでもなく、その辺りは、一定の力量レベルにある作者だと思います(しっかりした取材が下支えになっているということもある)。

 この物語はテーマ的には『下町ロケット』と同じく町工場のイノベーションというのがありますが、最大の特徴またはポイントは、主人公が「派遣社員」であるということでしょう。世の中で正規社員と非正規社員の処遇格差がずっと言われ続ける中、この主人公は図らずも仕事にドップリ浸かっていくことによって、派遣社員であるという身分の問題はもう殆ど関係なくなっているといった感じです。

 そのことによって正規社員・非正規社員間の格差問題を韜晦させているということではなく、そうした主人公の変化を通して「仕事って何」みたいなところに踏み込んでいるのがいいです。星3つ半はやや辛目の評価かもしれませんが、今後に更なる期待したいと思います。

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This page contains a single entry by wada published on 2014年8月12日 00:05.

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